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15話

 彼らは約束通りに王都を訪れていた。いまだ戦闘の影響の色濃い彼らは街中で異様な雰囲気を放っていた。

 街行く人が見慣れない二本の剣が描かれた黒い旗を見て、次に先頭にいる空を見る。

 誰もがその美貌に見惚れているが、当の本人は全く気にしていない。逆にその視線が煩わしくなると【威圧・極】を発動して強制的にその視線を外させる。勿論、それで気を失う者までいるほどだ。手は決して抜かない。その圧倒的な力が人々の奥底に刻み込まれた。

 






 彼はこの国の王に会うというにも関わらずそのままの服装で行こうとしたのでせめて身なりを整えた方がいいとの光からの提案があり、準備のため宿に戻ってきていた。彼らの雰囲気がすでに王都で話題に上がり、宿屋の前には人だかりができていたため交代で門番のようなものを配置していた。

「さて行くか」

 そう言って二階から降りてきた彼はいつも通り黒服にコートを羽織っていた。

『はい!』

 意気揚揚に皆が返事をする。

 それもそのはず彼らは少なくない戦果を挙げている。そのため、恩賞がもらえると予想するのは仕方ないことだろう。

 彼らを咎める事はせずに外にいる群衆たちをひと睨みして黙らせる。


「邪魔だ」


 そして、開けた道を通って彼らは王城へと向かった。













 城門の前まで来るとこの国の紋章であるブーツに長帽子をかぶった猫が描かれた旗がよく目立った。

 その紋章付きの兵士が応対に近づいてくる。

「お前たちは新しく設立された部隊という奴か?」

「ああ、最近できた、いや正確にはこれからできるな。試練とやらは達成した。この国の王に会わせてもらおうか」

「暫し待て」

 そう言うと兵士は中の者に言伝を頼んだ。順々に伝播していき、ついに上層部の者に伝わったのだろう。着飾った白い服を着た男が現れた。両肩の金色で装飾された猫の模様が特徴的である。

「どうぞ、こちらへ。それとここからはお付きの方たちは3名までと限らせていただきます」

 そう優雅に場内に案内する男。指示に従い空は七海、飛来、光を選んだ。


(こんな簡単に背を見せていいのか? 俺が敵だったらどうするつもりだ?)


 そんな彼の不穏な空気を感じ発ったのか、男はこんな補足情報を言う。

「私達は失礼ではありますがこの数日間あなた方を見張るように間諜を放っておりました」

 彼はその心を読んだような一言に笑みを浮かべる。その一言は言外にいつでもお前の命など奪うことは出来るのだぞ、と言われているような気がして心の奥底が冷える。だが、それはスリルだ。彼が恐怖を感じることはない。

「だからこれほどまでに対応が早かったのか。俺たちが来ることも報告されてたんだな?」

「ええ、その通りです。では王座の間です。くれぐれも王に失礼のないように」

「ふっ、それは保証できないな」

 彼は不敵な笑みを浮かべると部下を引き連れ入って行った。







「ふう、面白い方だ。願わくば、あのような方には是非とも味方になってもらいたいものだ。実力も報告に上がっているものを見るとかなりのものですしね」

 男は長い廊下で独白した。その顔に浮かぶ笑みを隠そうともせずに。









 


 王座の間に入ると豪華絢爛な装飾に目を奪われた。

 宙に浮かぶ巨大なシャンデリア。青く綺麗な絨毯に、歴代の王たちの肖像画が壁に飾られている。見ると、お札に描かれた初代の姿もある。

 そして、王の座る王座は猫の形に掘られた肘掛けに、所狭しと宝石が散りばめられている。そして玉座のある場所は他とは高い位置にある。

 まず、空たちのいる位置。ここが一番低い。次に一段、段差をあがると両脇に家臣たちが並ぶ場所。すでにここには座席分の家臣たちが居る。そして、それよりも更に二段ほど上にあるのが玉座である。こういった造りの中にも随所に王の位の高さがうかがえる設計になっていた。

「ふんっ」

 彼は何が気に入らないのか鼻を鳴らして辺りを睥睨へいげいした。

 そうこうしている内に時間が流れ、シャランシャランと音を鳴らし、顔を隠した一団が入場してきた。

 そして、その中の一人が大声を張り上げる。


「王のおな~り~!!」


 その声に合わせて家臣たちが椅子から立ち上がりその場に跪いた。それに続いて七海たちも跪いているが彼だけは決して頭を下げることはなかった。


 彼は一人見た王と呼ばれるものが入ってくる姿を。見れば少年と呼んでもおかしくない出で立ちをした猫人である。

 王は金色の髪に青い瞳を持ち、あどけなさが残った顔だちをしている。だが、彼を特徴づけるのはその背丈だろう。他のものと比べてべらぼうに高い。といってもそれは人の域を出ることはなく190㎝位である。


 音がやむと、皆顔を上げるがそのような礼儀作法を知らない彼は一人立っている。その姿に家臣たちは皆顔をしかめた。だが、決して声を荒げることはない。それはやはり王の前というのが大きいだろう。

「顔を上げよ。と言っても既に上げている者もいるがな」

 家臣たちとは反対に王は楽しそうに空の出方を見ている。

「立っている者よ、そちに問う。なぜ立っていたのだ?」

「俺はそんな礼儀は知らない。それに跪くべき相手かどうか判断するも出来ないのにすると思うのか?」

 その無礼な言い方に家臣たちが一瞬ざわめき腰の刀に手をかけた者までいるが王自らが視線と手で抑えた。

「面白いことを言う。その方名は何という? そちが件の黒騎士であろう? 報告書にも書かれていなかったのでな、我は知らんのだ」

「言わなければダメか?」

「もちろん、それと引き換えに新しく部隊が出来るかどうか決まるといっても過言ではないな」

 楽しそうに笑う王の姿を見て、冗談で言っているのが分かるが、無言でいても話が進まないと諦める。

「分かった。だが、先に筋を通させてもらう」

 すると、王に背を向け、七海たちと向き合う。七海たちも予想が出来なかったのか口を開いて驚いている。

 その姿に家臣の一人がついに怒り出した。

「王に何たる不敬。その態度を正せっ!」 

 そう声を荒げるのは若い将である。いつもなら楽しそうに自体を楽しむ空だが、今日は違った。


「黙れ」

 

 その声は低く、静かに辺りに響く。表情は相変わらず無表情だが、その瞳からは明らかに怒りが見える。

 

「俺はアンタに話しかけるつもりはない」

 横目で背筋が凍るような冷たい視線を将に向ける。その視線には【威圧】と殺気が籠っていた。

 それに気圧されて、声を荒げ多少はよろよろと後ずさり、呆けたように椅子に座りこんでしまった。

「静かになったな。王よ、悪いな」

 背を向けたまま声をかける。

「ハハハ、気にするな。良いぞ続けろ」

 気にした様子もなく高笑いをして、続きを促す。


「お前ら、立て」


『は?』

 

 3人の声が重なる。それもそうだろう。ここは仮にも王の前で、この場ではいくら彼にでも命令することは出来ないだろうと思っていたからだ。


「聞こえなかったのか? 早くしろ」

 

 イラついたように足を鳴らす。靴の音が部屋に響いた。

 その高い音と【威圧】込の命令に慌てて立ち上がる。


「よく聞け、一度しか言わない。俺の名は


 ――神谷 空だ」


 

 はじめて彼らに明かされる彼の名前。そのことは彼らの感動を与えた。取るに足らない事ではあるが、名を聞こうとして手痛い目にあった彼らにとっては感動もひとしおである。


 用件が終わると再び王と向き合う。


「待たせたな。改めて言う。神谷空だ」


「うむ、よろしく頼む。我は王猫国3代目国王、徳臣幸成とくとみゆきなりだ」


「そうか。アンタ面白いな。ククク」


「そうかの、そちほどではないぞ。ハハハ」


 二人は互いの顔を見て笑う。一人は豪快に、一人は笑いを押し殺したように。

「アンタならいいかもな。……協力してやる」

 そのあまりに上からの物言いに辺りは静寂に包まれる。まるで嵐の前の静けさのようだ。


「フフフ、ハハハ! いいぞお前。おい、あれを持ってこい」

 幸成は顔つきを笑顔から真剣なものへと変え、周りにいる部下に命じる。そして、部下の一人が何やら黒い筒を持ってきた。

 その筒を受け取るとそれにされていた蓋を取る。その中には丸められた紙が入っていた。

 それを広げ幸成は読み始めた。


「大猫国3代目国王徳臣幸成の名において、神谷空を長とした、徳臣王家独立部隊【零】を設立を宣言する! その方の示した実力、戦果は申し分のない物であった。大義であった。褒めて遣わす」


 それを読み上げ終わるととその紙を再び部下に渡し、人伝に空に手渡した。


「これで俺は【零】の部隊長か。面白い」

「うむ、しっかりとその役目を果たせよ。期待しておる。さて、堅苦しい話はここまでじゃ。そちに聞きたいことがあるのだが、よいかの?」

「ああ、答えられる範囲ならな」

 幸成は満足げにうなずくと、目を輝かせてその口を開く。

「そちの力が知りたい。我に見せてくれぬか?」

「見せるのは吝かではないが、どうする?」

「うむ、簡単じゃ。明音あかね、空の能力を調べるのじゃ」

「畏まりました」

 そう言って家臣団の名から一歩前に出て首を垂れる白い髪の神官風の女性。白い髪といってもこちらは八生とは違い、体の凹凸が成熟したそれであり、気品も兼ね揃えた美しい女性である。

「私、一ノ瀬明音でございます。以後お見知りおきを」

 彼女はそう言って頭を下げた。彼女が動くたびに仄かにリンゴのような香りが辺りに漂った。

「調べるならさっさとしてくれ。それとも戦うのか?」

 途端に好戦的な笑みを浮かべ、品定めするように見る。

「いえ、我が主、幸成様はそのような事を仰られてはおりません。神谷様はそこにただ立っているだけで構いません」

「そうか、なら早く始めろ」

 興味をなくしたように、そっぽを向いた。

「では行きます」


【光よ、彼の者の真の姿を示せ】


 詠唱が終わると彼の体は細い光の線に覆われる。それに包まれること数十秒。光の輝きが次第に薄くなり消えた。

「どうじゃ?」

 待ちきれなかったかのように光が消えると幸成はすぐに問う。

「今示しますので、お待ちください。この方かなり強いですよ、幸成様」

 そう言う彼女も心なしかいつもより目が見開かれている。その様子を見た幸成は王座の上で足をじたばたさせた。

「そうかそうか、それは楽しみじゃな!」

 玉座の上ではしゃぐ幸成を微笑ましそうに彼女は見ると、宙に光で何やら文字を描く。そして、映し出されたのは見覚えのある能力値だった。


 神谷空 二十歳 鬼神 熟練度、二百五十二 生命力、千八百一 精神力、二千五 魔力、千九百八十四

 【毒耐性】【身体強化術・極】【神刀術強化】【生与術】【魔強化】【成長促進】【人刀一体】【刺突】【剣舞】【二連斬】【一閃】【刀技強化】【威圧・極】【黒魔道無唱可】【見切り】【邪耐性】【魅了】


 この能力を見て、誰もが驚いていた。もちろん、空自身も少なからず驚いていた。

 そして、ポツリとつぶやいた。

「職業が変わっているな」

「圧巻じゃの」

「そうですね」

 強すぎる能力に二人とも苦笑いを浮かべている。

「まあよい、やはり強いの」

 幸成は気を取り直して満面の笑みを浮かべている。

「王家直属の騎士にしたいくらいと強いの」

「ふん、それは断る。だが、アンタは面白い奴だ。協力位ならしてやる」

「ハハハ! それはいい。ぜひ協力してほしいの、色々とな」

「ああ、してやるさ。その前にすべきことがあるがなっ」

 彼は言うと同時に、幸成に向かってふわりと跳躍して見せた。

 その姿を見ると、笑うどころか眉間にしわを寄せた。いまだ宙にいる空に向かって言う。

「馬鹿者! ここには結界が張っておる。不用意に近づくな!」

 その怒声をものともせず涼しい顔で腰の刀に手をかける。

「分かってるさ。これが俺たちの間には邪魔なんだよ。俺とアンタにこんな壁は必要ないな」

 そこまで言うと目を閉じて、集中する。地に降りるわずかな間に彼は神経を研ぎ澄ませる。


【魔強化】【神刀術】【一閃】


 彼の体が黒い魔力で包まれたかと思うと次に彼の腕が霞んだ。


 一瞬のうちに抜き放たれた黒刀はバリバリと派手な音を立てて結界を切り裂いた。


「さてと、片付いたな」

 そういって、刀を鞘に戻しながら柔らかな笑みを浮かべた。

 幸成からは笑みが消え、家臣たちも腰を浮かせて驚愕の表情を浮かべている。それほどの強度を誇る結界のだろう。事実彼の腕は内出血が激しい。だが、話して、鞘に戻している内にもどんどん治ってはいるが。

「これで俺たちは対等だ。よろしく頼む」

「あ、ああ」

 今だ呆けた表情でいる幸成に笑顔を向けると、七海たちの傍まで歩いていく。 

「じゃあ、今日の話はこれで終わりだな。なら、これで帰らせてもらう。またな」

 そう言って後ろも振り返らずに王座の間を出て行こうと扉を開けたとき、幸成が声を上げた。

「今日は愉快じゃった。また来い。それと一言言っておくがそちは笑顔の方がその仏頂面より数倍良いぞ」

「ふっ」

 彼は軽く笑うと片手をあげて応えた。

 彼の表情はいつもより柔らかく、力に満ち溢れていた。

 おそらくそれは幸成という理解者? いや違う。よき友人が出来たことが大きいだろう。


「ああ、そういえばこいつらはとっくの昔にそうだったな」


 そして、気づく。ここまで付いて来てくれた七海たちに。自分は決して一人ではないのだという暖かな気持ちを彼は感じていた。


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