13話
黒刀を抜いた事で双眸は紅く染まっている。だが、以前の様に黒く染まる事も怨嗟の念に悩まされることはない。ただ力が湧きあがってくる感覚に笑みを浮かべる。
「いくぞ」
一言告げその表情はいつもの無表情。殺気を敵に向け、駆ける。
(借りは返させてもらう)
少なからず光たちの事を気にしている彼がいつも以上に力を出すのは当然の事であった。
【威圧・極】
寒気が敵を襲い、心臓を鷲掴みする様な迫力。肌をチリチリと焼くほどの痛い殺気。
少女と少年は動けない。
だが、その二人の様子に躊躇せず、むしろ好都合とばかりに速度を上げ眼前に迫る。
闇夜に溶け込む両手の漆黒の武器。天然のステルスが敵の眼を眩まし、彼の攻撃の軌道を隠す。攻撃速度もいつにも増して早い。
そのまま斬られるほど敵も弱くはなくギリギリで自分を殴り硬直を解くと、拳で刀を受け流す。もう一人は再び雷の剣を創り鎌を正面から受け止める。しかし、勢いに乗った攻撃を完全に受け止めきれずに吹き飛ばされる。
「他愛もない」
そう呟く彼の横顔は月明かりに照らされているが悲哀に満ちていて、自分の実力に拮抗出来る者がいない事を嘆いているかのよう。
残る少年に照準を定め、大鎌を真上に投げ、黒刀を両手で持ち、手数の多い相手の戦闘スタイルに合わせる。
刀と拳が合わさる。黒刀の自力で拳を切り裂く事は出来なかった。何か対策が施されているのだろう。
「固いな」
『王よ、油断するな。足元を掬われるぞ』
斬る事の出来なかった事実に少なからず驚いていると、黒刀の精神体である黒御霊から諌められる。
「油断してはいないさ。本気を出してはいなかったがな」
ニヤッと笑うと会話をやめる。目の前の少年が怒涛の勢いで迫ってきたからだ。
「何をぶつぶつと喋ってんだぁ!!」
少年は低い体勢から、右の拳を引く。次の瞬間には右拳を放った。
だが、彼はそれをいとも簡単に躱す。ラッシュにでるが、既に【見切り】を発動させている彼の前で児戯に等しく舞うように躱されていく。躱す事に飽きると、その勢いを利用し、柄を鳩尾に当てる。そして、刀で斬るために距離を作る。
ここで完全に間合いが彼の物となった。先程までの距離は言うなれば、超接近戦闘。拳の少年に分があるため、その間合いで敢えて彼は少年と闘っていたのだが、ちょっかいを出すようなつもりで鳩尾に攻撃を入れたのだが、拍子抜けするほど簡単に距離が作れてしまったため、落胆を隠せずにいた。今の間合いでは彼が攻勢に出やすく、彼は相手を試すように連撃を加える。
左下から振り上げるとすぐに片手に突きだして、無詠唱で魔法を顔面に放つ。目くらましの様な一撃を放つと、刀を振るう速度を上げて前にでる。刀を振り下ろすとすぐに手首を返して斬り上げる。そこから流れるように横に一閃。斬ると蹴りを繰り出し側頭部に当てる。たたらを踏んだ所に追い打ちをかけるように刀の乱舞を加えた。
しかし、少年は少なくない量の血を流しながらもギリギリのところで受け切っているがもう限界が近い。息はすでに絶え絶えになり、大量の汗が流れ出ている。
「ク、ソッ」
徐々に力の抜けて行く少年に対し、彼はさらに攻撃速度を上げる。そうして防御のための腕を掴むと投げ飛ばした。
すでに地面に落ちている鎌を拾うと少年に投げつける。かろうじて少年はそれを弾くが、もうそこまでである。
彼は再び【威圧・極】を使い少年を硬直させる。隙が出来た瞬間、【魔強化】をし、さらに段違いに速さを上げ、斬り裂く。
「ガアァァッ」
長ランを切り裂き下の肉も斬る。しかし、まだ彼の攻撃の手は止まらない。
刀で切り裂いた反動でそのまま回りながら魔法で鎌を手繰り寄せ、その鎌を振り下ろす。敵の左肩に抉るように深く刺さる。迷いなく窯から手放し、刀を両手で持ち、敵のど真ん中。腹部に向け、トドメを刺すように刀を突き立てる。少年の背からは黒い刀が見え、その顔は苦痛と血で歪んでいる。
「終わりだ」
無詠唱の闇属性魔法をゼロ距離で放つ。小さな球体が現れたかと思うと一気に膨らみ爆発。少年を少女の方に吹き飛ばした。
もう虫の息の少年を抱える少女は驚愕に目を見開き怒りに肩を震わせていた。
「許さない、許さないっ!!!」
雷神のごとく荒れ狂う者へと姿を変えると激情に身を任せて彼に突進する。だが、そんな真っすぐで単調な攻撃が彼に届くはずもない。
彼は鎌をわざと大きく振り躱させると、避けるであろうと読んでいた方向に即座に距離を詰め、黒刀で一閃。
少女は膝から崩れ落ち、胴に横一文字に入った傷から大量の血が噴き出した。
動けなくなった二人をしり目に彼は最後の仕上げへと取りかかる。
【闇よ、すべての者に等しく死を。これから死にゆく者へせめてもの手向けを与えん】
詠唱が終わると辺り一面が闇に覆われ、彼がかざした手の前には黒い立方体が出現する。それが彼らを包むまで横に広がると、その中で地面が揺れるほどの爆音が起こった。
彼が魔力の供給を止めるとその立方体は形を為さなくなり、消え去った。そこにあったはずの草花は先程の立方体に沿って綺麗に丈が同じになり、切り口は刃物で切ったかのように鋭い。
「元の世界の奴が出てきて楽しめるかと思っていたが、やはりつまらないな……」
闇の中で一人彼は呟く。その胸中は誰にも推し測ることは出来ない。なぜなら彼自身も分からないのだから。




