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12話

 女の肩を借りて、立ち上がろうとする男を地中から見つめる青白く輝く二つの瞳。

 

「許さない。あいつがみんなをっ……!」

 地中に作った穴の中で呪詛のように呟く。忘れることの出来ない怜悧な顔。霧が出る前に何やら呟いていた男の顔。


【雷よ、我が剣となりてすべてを斬り裂け。雷よ、我が血肉となり、すべてを超越せん!】

 

 二重に魔法をかけると手には電気で形作られた雷の剣。そして、全身に雷を纏わせたその姿は雷神の様である。

 

「殺す!!!!」



 



 爆音を轟かせ、現れるは雷神のごとき少女。その表情は憤怒を浮かべている。

 白い髪が白い耳が、その身に纏う雷によって浮かび上がる。奇襲もせずに雄たけびを上げ、正面から今だ立ち上がらない男を狙う。


「死ねええぇぇ!!」


 剣を突き出す。その剣はやすやすと男を貫いた。








 ◆◆◆


「何かしら?」

 派手な音に気付き、七海は振り向いた。

 そして、見た。雷が地を這い、此方に迫ってくる光景を。

 よく見ると、実際は15かそこらの猫人で、後ろでお団子にしている可憐な少女ではないか。戦争が無ければこのような場には決して出てくる事はなかっただろう。

 だが、それを嘆いている暇はない。

 恐ろしいまでの速度で近づいているからだ。本気の飛来にも匹敵するほどの速度。


(躱せないっ)


 光を担いでいなくとも自分では躱す事が出来ないスピードだった。


(ごめんなさい、ご主人様。私、私っ)


 諦めて目を紡ぐと、彼女は自分の体が宙に浮く感覚を覚えた。

 驚いて目を開けると、光が付き飛ばして、身を呈して彼女を守っているではないか。


「え!?」


 彼の体は雷に貫かれ、背中から剣が見えている。


(もう、助からない)


 彼女は瞬間的にそう思ってしまった。一粒のしずくが流れ落ちる。


「光さんっ!!!」


 その声に反応することなく光は崩れ落ちた。


 ◆◆◆






 少女はそれに満足することはなく、そのまま焼き切ろうと光の体に電気を流し始めた。


「はあああぁぁぁっ!」


 輝きを増すにつれ、威力も増していく。そしてついに……相手が待ち望む瞬間はいくら待ってもやってこない。不審に思い始めた時、男の表情に笑みが浮かんだ。

 

「罠かっ!!」

 

 強引に剣を引こうとしたが、抜く事が出来ない。

 

 そして、唐突に姿を変える。

 

 現れたのは人形の一枚の紙。その紙には式とだけ書かれている。

「これは式神! 陰陽師か」

 魔法を解いてその場から去ろうとするがもう遅かった。すでに何重にも【縛】の文字に囲まれている。

 動く事が出来ないため、じっと相手の出方を待っていると、すべての元凶である陰陽師の男が現れた。


「これであなたは袋の鼠ですね」

 扇子をパチンと閉じ、さも愉快そうに笑う。男の顔立ちはとても整っていて別の場所で会えば何か思うかもしれないがこの状況では苛立たせる要因にしかならない。

「貴様かぁぁぁ!!」

 男はちらりと少女を一瞥すると座り込んでいた女性に手を差し伸べる。


「おやおや、どうしたんですか、七海さん?」

「な、何でもありませんっ!」

 ムキになってかえす女性の反応に楽しそうに笑う。その態度がさらに少女の怒りに火を注いだ。


「殺す、殺す、コロスッ!!!」


 怒気をはらんだ声にやれやれと肩を竦めて自らの結界の中でもがく少女を見やる。


「全くあなたには優雅さがありませんね。それとうるさいですよ」

 銀色に輝く短刀を抜く。


 男の表情には一切の感情は浮かんでおらず、月を反射して刀は輝いていた。


 その姿は敵ではあったが少女にはひどく幻想的に見えた。






「新手ですか」

 光がそう呟くと、結界の中に囚われている少女の姿はそこになく、代わりに大きなクレーターが出来ていた。

 辺りを見渡すと月明かりに照らされて浮かび上がったのは少女を抱いてこちらを睨む一つの人影。


 少女を後ろにその人影が一歩ずつ近づく。徐々に明らかになるその風貌。黒髪にツンツン頭の青年。光は空と同じもしくはそれよりも少し幼いといった印象を受けた。そして、見慣れない服装。黒いコートの様に長く、ズボンはダボダボである。これは空たちの世界で言う学ランの不良様な物である長ランにボンタンである。耳にはピアスがいくつも付けられ体格も良い。180は優に超えるだろう。


「どうなるか分かってんだろうなぁ。ゴルァ!!」


「野蛮ですね」


 一言つぶやき一直線に迫る男に向けて魔法を放つ。


【雷よ、我が槍となり彼の者を滅ぼせ】

 

 自らの主がよく使う魔法と全く同じものを使う。そして、現れたのは12本の宙に浮かぶ雷の槍。彼は手で投げることはせず、扇子を振り下ろすだけで敵に向けて放つ。

 まず1本目を放って様子を見る。


 敵は両手に何も武器らしいものを持っていない。そのため、その拳で槍を弾く。雷で創られた槍のため、感電するかと思いきや、その様子もない。おそらく耐性もしくは魔法を弾く術を持っているのだろう。

 だが、放たれた槍の速度もさることながら、弾いた拳もそれを上回る速度で動いていた。

 光はそれを脅威とみなし自分の中の警戒レベルを上げ、さらに速度を上げ一度に放つ槍の数も増やす。

 今度は6本一気に様々な方向から放つ。

 右肩、左膝に命中し、敵の動きが一瞬止まる。


「痛っ。イッテエエナァァ!!」

 

 痛みに声を上げるが逆に火を注ぐ結果となり先ほどよりも迫る速度は上がっている。

「これだから野蛮な人は……」


 印を結び、【盾】の文字を三重に目の前に出す。そして、いつも通りに隙を作り出し、そこを短刀でカウンターしようとした。


「ウオオォォォ!!!」


 だが、敵は雄たけびを上げると壁を物ともせず突き壊し、光を殴り飛ばした。


「ガハッ」


 敵は攻撃の手を緩めない。地面に倒れた光に向けて踵落とし。瞬間光に炸裂し大きな穴を作る。

 馬乗りになった青年が次々と拳を繰り出す。


 


 一方、七海は光を助けようとした時先程の少女に足止めされ思うように近づけずにいた。

「邪魔よ、【魔強化】!!」

 体を金色に輝かせ立ち向かうが、彼女の刃は届かない。右へ、左へ躱される。

「チィッ!」

 横目で見える光の様子が気になる。見れば何の抵抗もせずに只殴られているようではないか。更に敵の一発の威力が尋常ではない。本当に人間が為せる技なのだろうかと疑いたくなるほどである。

「あっちが気になる?」

 耳元で囁く少女。ハッとして声の方向を向く前に、弾き飛ばされる。体を覆う輝きが薄くなる。そろそろ【魔強化】の効力の限界なのだろう。

「はあ、はあ」

「終わりね。あっちもすぐ終わるわ。龍也は強いから」

 あちらの青年の名前はどうやら龍也という名前らしい。

 龍也と呼ばれる青年の拳がオレンジ色に輝き辺りを明るく照らす。

「あっちが終わる見てからこっちも終わりにしようか。アンタも見てなさいよ」

 余裕の笑みを浮かべもう一つの戦闘の終わりを見る少女。悔しいかな七海は相手がそんな状態でも勝てるほどの力は持ち合わせてはいない。今だって腕を足で抑えつけられ動かすことが出来ない。七海は見ない。光から目をそむける。



 だがいつまで経っても拳が振り下ろされた時に聞こえるであろう爆音が聞こえてこない。恐る恐る見ると、この瞬間に最も頼れる男がそこにいた。反対に少女の顔は驚愕に染まっていた。





「その辺にしておけ」

 不意にそんな声が聞こえた。腕が振り上げた体勢のままビクともしない。

 次に来たのは衝撃。右頬を強烈な一撃が襲った。10mほど吹き飛ばされて止まる。そして、彼の前に何かの物体が投げつけられる。それを確認すると慌てて受け止める。

「紫穂大丈夫か?」

 少女の名は紫穂。不意を突いて現れた男の攻撃に対応できず一撃を喰らい彼の元まで投げ飛ばされた。

「テメェッ!!」

 彼は吠えるも男はどこ吹く風涼しいものである。穴から陰陽師を助け出し、地面に倒れていた女性を立ち直させた。

 そして、こちらに向き直るとニヤリと笑みを浮かべ言う。


「ここからは俺が相手だ」










 そう啖呵を切った後、光たちに飛来たちの援護に向かうように指示をする。傷ついた光たちへ下がれというのではなく、別の場所へ向かえという指示に彼の優しさが感じられた。その優しさに、そして自分たちが気遣われたという事に気づいていないふりをしてすぐに二人は去っていった。

 そして、一人残るは神谷空。

 彼は黒刀を抜き、鎌を背から下ろし、ダラリと構えている。

 そして、口元には楽しそうな笑みが浮かんでいた。


「さて、アンタらはどこまでやれるんだろうな?」


次回いよいよ真打登場で一旦終わりです。

呪文を考えるのが辛いですね。案などございましたら、是非ともお教え願います。

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