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11話

「放て!!」


 飛来は叫ぶ。次の瞬間に辺りは爆音に包まれ、炎によって昼間のように辺りは明るい。


「なかなか敵さんも強いみたいだな」

 その言葉通りすぐに水属性の魔法で消火され、反撃の雷属性魔法が放たれる。その威力は大気を貫かんばかりである。

「土属性の魔法で防御だ」

 さすがに国境近くの砦だけあって、人員も多く配置され、質も高い。


(質はともかく、数が多い。減らさないと勝ち目はないな)


 仲間が創りだした土の壁に身を隠しながら次の一手を考える。


「小太郎、俺に付いて来い。準、ここは頼むぞ!」


 指揮の技能を持つ、準に任せ前傾姿勢をとった。


「はっ」

 後ろに小太郎の気配を感じると、身体強化術により、強化された自らの体で敵に迫る。


 なぜ、武者姿の小太郎を選んだのかというとひとえに身体強化術の使い方の上手さに着目したからである。熟練度の割には卓越した精神力。これを見るとそう思ってしまう。

 小太郎は二振りの太刀を腰に差し、居合が出来る姿勢で走っている。それでも飛来のスピードについて言っている速力。飛来は思う、やはり、筋力や速力は熟練度の高さによって決まるものではないと。影響が出るのは生命力だけだと。その顕著な例が小太郎であり、空である。もっとも空の場合は熟練度も高いため手が付けられないような状況ではあるが。


「行くぞ!」


 彼もまた抜刀し、神速の突きを見せる。


「俺は黒騎士が大将の第零部隊の飛来だ。俺の首がとりたい奴はかかってこい」


 啖呵をきると、二人は人込みの中に消えて行った。









 飛来を見送ると拳を覆うように作られた小手に刀身が付けられたようなパタと呼ばれる剣を掲げた。

「さて、飛来殿に我々はこの場を任され、黒騎士様より信頼を託された。ここまでされて、負けがゆるされるだろうか。それに答えるのが我々の役目ではないだろうか! 皆の者武器をとり、声を上げろ! 我らに負けはない!」


 自らにそして仲間たちに気合を入れると準は【指揮】の力を使って、指示を出した。


「來未は広範囲殲滅魔法の準備。翔は來未の警護。あとは、隊を半分に分けて両側から挟み込むように中央寄せるぞ。右手にはいくものは俺に付いて来い。残りは左手の方から攻めろ! 行くぞ!」


 扱いの難しいパタはうまく使えば威力の強い剣である。さらに言えば準は魔法剣士。その剣も魔法剣であり、彼の魔力に反応し青く輝く。

 彼も伊達に熟練度、百一というわけではなくそのスピード、狼族特有の力をいかんなく発揮し、剣を振るうたびに敵の盾が壊れ、一つまた一つと命を奪っていく。


【水よ、汝の業を示せ】


 大瀑布の勢いと量を持った水流が敵に向かって放たれる。


【雷よ、我の祈りに応えよ】


 手を上に掲げ魔力を放つと、時間差で空から雷が敵のいる場所に落ちる。

 これが剣を振るい、近くの敵を殲滅しながら行うのだから敵にとっては恐怖の対象でしかない。


『退け! 耐えるのだ。敵の数は少ない時間をかけ、消耗を狙え!』


 敵の指揮官と思われる猫人は部下たちに指示を出す。正しい敵よりも数で上回るため取れる戦術ではある。だが、その動きを相手が読んでいて、それを狙っているのだとしたら。


 準は隊を分ける際、自分のいないもう一方に中級職を集中させたため、あちらもうまく誘導、もしくはその場に留めることに成功しているようだ。敵は思惑通り合流する様に移動してくれている。

 そして、來未の準備が整ったことを知らせる火弾が打ち上げられるとすぐにその場から離れる。自分たちに被害が及ばないようにだ。


 数十秒後、辺りが彼女から放たれた扇形に広がる青白い炎に包まれた。


 悲鳴を上げる暇もなく声帯を焼かれ、音もなく崩れ去っていった。あとには辛うじて人だったと思われる黒く残る物体。

 第一陣の全滅を確認すると準は仲間たちと合流すべく動いた。








 背後で何かが焦げたような嫌な臭いをかぎながら、飛来と小太郎は互いに背を預けながら動くものすべてに向けて斬りつづけていた。斬る。ただひたすらに。だが、斬っても斬っても湧き出るように敵が現れ続ける。さすがの二人に疲れが見え始めていた。

 身体強化も必要最低限しか使わない。精神力が尽きると強烈な眠気に襲われ、倒れてしまうのが分かっているから精密にコントロールしつつ扱う。だが、それでも数値にならない集中力が二人から失われていった。


「チッ。【硬化術】」


 一瞬、目を離した隙に迫っていた攻撃を当たる部分だけ硬化し受け流す。


「切りがねえな」

 トドメをさしながら、後ろの小太郎に話しかける。


「そうですのう。いささか疲れて参りましたな」

 汗で滑り落ちそうになる刀を握りなおす。


「そうでござるが、如何ほどにも泣き言を言っておる場合ではないでござるからのう。やるしかないでござろう」


「そりゃあそうだ。もうちょっとすりゃあ、準の奴が来るだろうし、光たちも上手くやってくれるだろうよ。騎士殿はどこにいるかわからんがな」


「はっはっは。確かに我らが殿は掴みどころが無い様でござるからな。そう思うのも無理はござらん。なれど、信じようではないか我らが殿を」


 笑いあった。そして、重なる二人の声。


【神刀術】


 血糊を払い、切れ味の上がった愛刀で斬りこんでいく。


【生与術】


 闇の中から聞きなれた無感情の声を聞いた。


「気を抜くなよ」


 そういうと声の主の気配は急速に薄れていった。


「今のは殿の声では?」

「ああ、だろうな。それに身体も軽い。今までどこほっつき歩いてたか、知らんが助かった」

 口調は荒いものの感謝が含まれていた。


「小太郎、騎士殿に手助けしてもらったんだ。負けるわけにはいかねぇな」

「何を言っているでござるか。元よりそのつもりっ!」

 英気を取り戻した彼らは神速の剣を振るう。


(あとは大丈夫そうだな。ここからが本番だ。行くぞ、御魂、黒葉。)

 ニヤリと笑う彼の目は真っ赤に染まり、闇の衣を纏い、両手に黒刀と大鎌を持ち、敵本陣に向かった。








 眩い閃光の後、一瞬にして火の海と化した仲間の様子を見て、砦の兵士たちは喧騒に包まれていた。


「おい、報告はまだか?! 早く情報を集めろ!」


 指揮官が声を張り上げて指示しているが、パニック状態に陥っている兵士を纏めるには至らない。その様子を見て、ますます苛立ちを募らせた。


「クソッ! こんな事をしている場合ではないというのが分からんのか、愚か者ども!」


 そこに忍び寄る二つの影。

 彼は影に気付く事なく、心臓を一突きされ息絶えた。




「お上手ですね。貴方はこういう戦い方の方が向いてるかもしれませんね」


 パチパチと手を叩きながら、七海の手際を賞賛する。


「ご主人様の為になるならば、これ位の事など当然です」

「貴方はまだまだ弱いですが、その忠誠心には目を見張るものがありますね。これからもその志を忘れないようにしてくださいね」


 不機嫌そうな表情で答える。


「言われるまでもないです。それよりもさっさと終わらせませんか?」


「そうですね。では貴方は私の後ろに下がっていてください。強力な術を使います」


 彼女が何か言う前に光は術を使うべく体内の魔力を練り上げていたため、黙って後ろに下がった。


【雷よ、彼の者を正義の名のもとに裁け。霧氷よ、罪ある者たちに罰を、眠りに誘え】


 魔力が極限まで高めた後、最後の詠唱が終わると辺り一帯白い濃霧に覆われ何処かで轟音が鳴った。霧が晴れると地面がえぐられ地形が変わっていた。

 光は右腕が凍りつき、片膝をついていた。


「これは……源さん、何かやったのですか?」

「ええ、まあ。この術はまだ不完全ではありますが、私の中で最強の術です。魔力を半分使い、霧氷を発生させ、凍りつき動けなくなった敵に雷を落とすという術です。おそらくこれで砦に残っている者はいないかと」


 苦しそうに座り込む光の姿を見て、溜息をつく。


「はぁ、その術使わなくてもこの位の敵だったら殲滅できたのでは?」

「そうかもしれませんね。しかし、私とて人間です。初めて我が王の役に立てるという事で舞い上がっていたのですよ。だから少々派手な術を使わせていただきました」

「まあいいですけどね」


 いつも嫌味を言われているお返しにと小言の一つでも言ってやろうと思っていた彼女は屈託のない笑みを浮かべて、正直に吐露した光に言葉に詰まってしまった。


「申し訳ありません。すぐに腕を治しますから、そうしたら飛来さんのところに行って加勢しましょう」

「そうですね」

 彼女は光に対し呆れながらも柔らかな笑みを浮かべていた。




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