3話
空からサバイバルナイフをもらってご機嫌な七海を先頭に王都の店という店を回っていた。
武器屋に防具屋、雑貨屋、さらには空に似合う服飾を選ぶと言って強引に買い物に付き合わされている。
空も光も美形のためこのような以前に経験があるだろう、七海のなすがままに身を任せている。
二人とも口数少なく、ニコリともしない。いつも笑顔の絶えない光はこのような表情をするのは珍しい。
「こちらも着てみてください」
店内に入るとすぐに空に似合いそうな黒い服を何着か、持ってくる。だが、空が気に入ったのはネクタイとセットのワイシャツ。ネクタイとは左胸の辺りと鎖でつながれたピンでとめられている。それにコートを羽織るように着こなし、前の部分に落ちないようにチェーンでとめてある。ボタンには赤い宝石が埋め込まれ輝きを放っている。黒の服装なのであまり目立たないが、黒い宝石も細かく砕かれ織り込まれており、魔法や刀に強力な防御力を誇る。
しかし、問題は値段である。これは防御力のほかに、汚れ防止や自動修復の魔法もかけられているため、これを買うと賞金首や修行の際に倒した魔物の素材を売って、手にした金もほとんどなくなってしまうのだ。
(なかなか良い物のようだ。それにまた稼げばいいか)
即決だった。あとで手持ちの金がなくなってしまったことを七海が聞き、自分が勧めたものとはいえ、謝罪に謝罪を重ねたのだが、ウザいと一蹴され終わった。
そして、買った衣服を身に着けた空はまだ合流するには時間が早いため、王都に貼り出されていた指名手配の者たちの顔を覚え、手っ取り早く稼ぐことを決めたのであった。しかし、以前のように賊も一定の場所に留まることはなく、発見が難しいため魔物を狩って、その素材売って稼ぐ方針に変える。
ここで一つ問題が浮上する。魔物を狩ろうにも目ぼしい狩場がないのだ。それもそのはず、四方を四大都市と呼ばれる都に囲まれ、その都一つずつ強力な戦力を有しているため、比較的王都周辺は安全である。
これらの情報を七海が集め、それらを整理し、理解したうえで空は重々しく口を開く。
「さて、どうする?」
2人は黙って考え込む。七海はいい案が浮かばないようだ。光は何かを閃いた様な表情をし、提案する。
「この王都にある転移装置を使って、ほかの都市に移り、そこで新たな狩場を見つけるのは如何でしょう?」
「出来るのか?」
「お任せを!」
光は勝ち誇ったように七海に笑みを向けた。
光の案内により王城の門の前にたどり着く。城の周りには堀が掘られ、水が張ってある。見張り台が、10メートル間隔で建てられ、侵入者を見張っているようだ。そして、西洋風の大きな純白の城の天辺にこの国の国旗である帽子をかぶり、ブーツを履き、剣を真上に掲げる猫の姿があった。その城を中心に四大都市の方角に対応した大きな塔が建てられている。北にはイヴェール・フォレのイメージカラーで包まれている青く染められている。空にはどの都市と対応しているのかは分からなかったが、他にも赤、緑、黄と色とりどりな塔が存在している。
そして、次に感じたのは巨大な魔力の存在。
「あの塔が転移装置か?」
横の光に聞く。それに光は笑顔で恭しく答える。
「はい、そうでございます。あれを使っていざという時に軍隊を各地に送っているのです。あ、でもこのことは他言無用でお願いします。この国の機密ですから」
その機密をなぜ光が知っているのかという疑問が浮かんだが、まずは自分に関係のあることを聞く。
「それは俺に言ってよかったのか?」
口に笑みを含んでいう。この笑みはもし、この機密を言い触らしたお前はどうなるのだろうな、というからかっているときの笑みだ。
「問題ありません。なんといっても我が王ですから。それに王ならば私が言う前から存じている様子だったので。知るのが遅いかはやかの問題ですよ」
「ほう、ではなぜ俺があの塔のことを知っているのと思った?」
「それはもちろん。先ほど王自ら確認なさったので」
(確かに塔については遅いか早いかだな)
「ただ、俺は膨大な魔力を感じたからもしやと思っただけだ」
「は!?」
光は驚きで口を開いている。空は何をそんなに驚くことがあるのだろうと不思議に思う。
「では、お聞きしますが、塔から魔力を感じたとそういうのようなわけで推測したのですか?」
「ああ、さっきからそう言っているだろう」
分かり切っていることを聞くなという感じで若干の苛立ちを含めて答えた。
「流石は我が王です。いやはやここまでとは思っておりませんでした」
「どういう意味だ?」
何がそんなに嬉しいのだろうか? 光は喜色満面で答える。
「本来塔からは魔力を感じ取ることが出来ないように幾重にも結界が張られているのです。それなのに……素晴らしいです」
「そうか」
光のテンションの高さについていけずに軽くあしらう。
「まあいい、それよりもあそこは国家の機密なのだろう俺たちが立ち入れるのか?」
「問題ありません」
光は自信満々で答えた。
それから奇妙なことが続いた。
見回りの兵士が通りがかっても不審に思われることもなく、何か話しかけられるでもなく塔の前までたどり着いた。
さすがにこの奇妙さには七海も不審に思ったようだ。
「これは一体……?」
光は笑顔で七海のつぶやきを無視する。どうやら答えるつもりはないようだ。今度は空が聞く。すると、簡単に答えが返ってくる。どうやら空の疑問にならば答える気があるようだ。
「これはどういう事だ?」
言葉のたらない空の疑問を理解し、知りたいであろうことを的確に光は答える。
「説明もせず、驚かせてしまい申し訳ありません。私は和の国の生まれの者なのです。そして、この結界を張ったのは我が一族。それと私が着ているこの服は位高い物しか着ることが出来ないためこの国でも一定の信用を頂いております」
「そういうことか」
(確かに黒は位の高い色だったという記憶がある)
空は納得するが、七海は理解できていないようで首をひねったりしている。
この後無事、転移することが出来た。空はこんなことで権力を使って良い物なのだろうかと思った。
「では勝手に東の大都市メスィ・アスピダに決めさせていただきましたが、よろしかったでしょうか?」
「ああ、問題ない。ここなら砂漠で狩れる」
「それは良かった。しかし、すでに砂漠に行ったことがあるのですか?」
「ああ、七海と砂漠で修業したことがある」
その言葉に反応し、どうだと言わんばかりに胸を張る。負けじと光も言い返す。
「そうでしたか。さぞ、七海さんはお役にたったのでしょね」
「まあまあだな」
嘘もお世辞も含まれていない空の言葉に満足そうに頷く。
「ですが今度は私もいます。どうぞ期待してください」
顔は空の方を向いているが、言葉は七海に向けて言われたようなものだった。七海との間に火花が散っているようにも見える。
「行くぞ」
二人に声をかけ、走り出す。後ろの二人が付いて来れるのかという配慮は全くない全力の速度である。
狩場に着いた時には二人は汗をかき肩で息をしている。それでも座り込まないのは流石である。
「やるぞ」
短い休憩の後に再び走り出す。彼のスタミナには底がないのだろうか?
「しばしお待ちを」
まだ呼吸の整っていない光が声をかける。
「何だ?」
「移動せずとも魔物をおびき寄せて見せます」
いうとすぐに術式を展開する。地面には【集】という文字を中心に青白い幾何学模様が浮かび上がりその範囲はだんだんと広がっていき、次第に薄れ消える。
「これで少し待てば魔物が寄ってくるでしょう」
「何をしたの?」
不思議そうに見ていた七海が問う。
「あなたですか、まあいいでしょう。この術は魔物が好む魔力を放って誘き出すという簡単な術式です」
簡単という部分を強調し答えた。これでは二人の仲が良くなるわけがなかった。もっとも、そのようなものを気にする空ではなかったが。
「……」
空は肌がピリピリとする程の殺気を放つ。すると二人の表情が変わり、七海はサバイバルナイフを、光は短剣と扇子を取り出す。
そして、地中からのワームの奇襲で戦闘が始まった。




