2話
砂山村では飛来以上の人材を見つけることは出来ないだろうと早々と見切りをつけ、一行は王都に向かって歩を進めている。王都に続く道は舗装されていて、従って進行速度も速い。
では、なぜ王都に向かっているのかというと、このような会話があったからである。
「飛来、アンタはこの人数で砦一つを落とせると思うか?」
空は酒場を出る際に問いかけた。
「どうだろうな? 俺と騎士殿がいくら強くてもこの人数だと厳しいものがあるな。それに、戦なんて数が多い方が勝つのが普通だしな」
そう言って、飛来は自分の仲間である20人そこらの屈強な戦士たちを見る。皆、士気も高く飛来に注がれる視線には信頼が浮かんでいる。一介の傭兵の頭領がこの人数を率いていることは珍しく、そこから彼の能力の高さは窺えるが、それでも人数は足りない。
彼も数が足りないことは分かり切っていたのだろう、表情一つ変えずに続ける。
「だとしたら、どこに人がいる」
その言葉を受け、思い返すように宙を見上げる。
「この国にか? やっぱ王都じゃねえか?」
その意見に七海も同意する。
「私もそう思います。王都なら傭兵宿舎もありますし、ご主人様のお求めになられるような人材も多くいるかと」
「そうか、なら行くか」
二人の意見に淡白な声音で返し、そそくさと歩き出した。それに続いて七海、飛来、その仲間たちの順で出て行った。
そして、街道をひた走っていた。空はいつもの通り修行の一環で王都まで休みなしに走り切ろうと考えていたが、空の速度についていける者は飛来くらいしかおらず、日が暮れてきたこともあり、やむを得ず四大都市の一つで東に位置するメスィ・アスピダで宿を取り、休息を取った。
そして、次の日再び凄まじい勢いで走る一行の姿があった。
一時休息を取った時、七海は前から思っていたことを口にした。
「あなたたちはどこの民の人ですか?」
その質問に最初は渋っていた飛来達であったが、七海の純粋な好奇心を拒むことが出来ず、しぶしぶ答えた。
「俺たちは皆、鷹の民だよ」
彼には分からない。なぜ、それを答えるのに渋ったのか? その理由は後々知ることとなる。
だが、一度話したことでつかえが取れたかのように、自らの種族のことを語りだした。
「鷹の民は皆俊敏で遠視に優れているんだ」
彼は内心、納得する。飛来の異常なまでの速度を。その一方で、いずれその速度さえも自分は越えるだろうと確信に近い予感を抱いてはいたが。
「空は飛べるのか?」
見たところ背に羽は付いていないため、疑問に思った事を口にした。今は見えないだけで、いざとなれば使うのかもしれない。仲間の能力を知っておくのは上に立つ者として、必要な事だ。
「いや、飛ぶ事は出来ない。ただ、経験と知識を積み、熟練度を高めればできるようになるらしいが、いくら探してもそれが出来る奴を探し出すことは出来なかった」
飛来ほどの実力者が見つける事が出来なかったという事は使える者がいないか、もしくは使える人数が極端に少ないのだろう。
「そうか」
必死に探していた頃を思い出したのか、悔しそうに顔をゆがめる飛来を横目に空は淡々と受け答えた。
このように少しずつコミュニケーションとお互いの情報を交換しつつ、王都まで移動した。
予定では宿で一日休んだ後に早朝から仲間を集めることとなった。王都で空たちは幹部として使えそうな強さと人望を持つ者、飛来たちは一般兵を数多くそろえることが目的とし、行動する。今まで築いてきた信頼関係と連携のし易さを鑑み、目的を達成するために空と七海、飛来とその仲間たちの二手に分かれた。ちなみに、この方針を口に出して取り決めたのは飛来である。空が反対の態度を示さなかったため、この提案が採用されこととなった。
そして夜が明けるとすぐに行動し始める。と言うのも、飛来たちから空が求めそうな人材が早朝の訓練場に現れるという情報を得ていたためである。というより王都では噂になっている者らしい。
曰く、その者は万夫不当の猛者である、と。
曰く、眉目秀麗な美青年だ、と。
曰く、何処の国の王族の様に気品あふれる者だ、と。
噂は噂として受け止め、多少の期待を持ちつつ目的の場所へと向かう。
しかし流石、王都である。まだ早朝であるのに、商人たちは露店の準備をしだし活気に満ちあふれている。更に、王都に作られた道はコンクリートを使ったかのように不自然なほど平たく整っている。空はこの不自然な点と自分の五感が感じ取った感覚を頼りにある結論を呟く。
「魔法で造られたのか?」
その呟きは独り言のようなものだったが、幸い七海が知っている知識であったため、当然のごとく反応する。
「あ、はい。昔の大魔導士、土御門光様が設計し、作られたと伝えられています。それに、道路を良く見てみて下さい。細かく、小さいですが、キラキラと光るものが見えませんか?」
そう道路を見ながら言う。確かにキラキラと光っているのが確認できる。朝日を反射し、人がいなければ、さぞ綺麗な景色だろうと空は思う。そして、彼女は沈黙を了承と受け取り、続ける。
「これらは砕かれた魔石です。この大量の魔石を使う事で、道全体に金属性の魔法をかけ、現在までその効果が保たれています。このため、王都の道路はいくら人が通り、雨が降っても崩れることなく作られた当時の綺麗な外観を保ち続けています」
「ふむ」
彼は顎に手を当て、感心した。
「造られたのはどのくらい前だ?」
「約100年前になります」
その年月を経てもなお効果を持つ魔法をかけた人物に彼は大いに興味を持ったようだった。
「土御門とはどういう人物だ?」
「土属性の魔法を得意とし、土属性の魔法を使わせたら右に出る者はいないと評された人物でした」
「ほう」
彼の瞳には好戦的な色が宿る。普段は自分の才能を嫌っているくせにその上に立つ者がいるとなると対抗心を燃やすらしかった。
「今、そいつはどこに?」
その為、そのような人物がいるのなら戦ってみたいと思うのは自明の理であった。
「いえ、帝国との戦争で亡くなったとされています」
されている、という七海の言い方に疑問を覚える。
「どういう意味だ?」
「ええとですね。実際に亡骸をを見た者が誰もいないのと、残っている記録が確かではないんです」
「そうか」
がっくりと肩を落とした。いや、傍から見ればいつもの無表情ではあるが内心はとても落ち込んでいた。そして冷静になって気づく。
(まあ、戦いで死んでなくとも、100年も前だと寿命で死んでるか)
いつもの自分らしからぬ、冷静さを欠いた思考に自嘲気味に笑った。
あれこれと考えているいる内に目的の訓練場に到着する。
中を見ると1人の青年が周りに群がる男たちを相手に一人で戦っている。その格好は神職に就く者が着るような黒袍を着て、白奴袴を穿いている。ここまで聞くと、位の高そうな神主といったところだが、その青年には普通の神主とは明らかに違う点があった。地面に着くほど長く、それでいて一切の汚れもついておらず、透き通るように薄い青色の打掛を羽織っていた。その姿はまるで舞っているかのように優雅に戦っている。
青年は腰の小太刀を抜く。小太刀の柄には白い龍が描かれ、ところどころに金箔が散りばめられていることから、美術品としての価値はかなり高そうだ。そして、刀身は光を反射するほど輝き、その銀色が美しい。その所有者の力がこもっているのだろうか、刀身からは帯電しているかのごとく、自ら発光している。
縦横無尽にかけ、斬り倒す様はから武器としても有能であることが分かる。
最後の一人を切り伏せると懐から懐紙を取り出し、血糊を拭き、清めるとすぐさま倒れている者たちの傍に寄り、今度はこれまた龍の装飾が施された扇子を取り出し、何やら一言二言呪文を唱える。すると、見る見るうちに傷が塞がっていく。完全に傷が塞がると、戦士たちは起き上がり、青年に礼を言い、立ち去って行った。
「見事だ」
戦闘が終わったばかりにもかかわらず、息一つ乱れていない青年に後ろから話しかける。
「!?」
驚いたように、振り返り小太刀を抜き、身構える。
「落ち着け」
だが、彼の動きはさらに速い。青年が振り向く間に再び背後に回る。
「どなたですか?」
声には警戒心を滲ませ、ゆっくりと空と向き合う。
「これは……」
青年は空の完成された美に言葉を失う。鋭利な輪郭に射抜くような鋭い漆黒の眼。次に目が行くのは不釣り合いな大きさの禍禍しい大鎌。見惚れているとドンッと巨大な殺気が青年を襲う。空の口元には笑みが浮かんでいる。洒落にならないほどが恐怖心を煽るが、悪戯のつもりなのだろう。
「……」
しばらくして駆け寄ってきた七海は二人を見て言葉を失う。似ているのだ、姿かたちが。身長は同じくらい。さらに顔つきは空の眼が鋭くなければ見分けがつかないほど似ていた。いうなれば、青年は表情が豊かで笑顔あふれる優しそうな青年、それに対し空は不愛想でやたら目つきが鋭く、そこに居るだけで周囲の者に四六時中プレッシャーを与えそうな雰囲気を持つ青年といったところか。
そして、空は気も早い。
「なかなか強そうだ。準備はいいか?」
再び空気が痛く感じるほど痛い殺気を放つ空。
「少々お待ちを。そもそも私達が争う必要などあるのですか?」
青年は穏やかにそれでいてにこやかに問う。
「さっきの奴らと戦っていただろ」
空にそう言われ一人納得したように頷く。
「ああ、あの方たちの事ですか。あれは稽古をつけてくれと頼まれたから行っていたにすぎません。それに私は戦う事が嫌いなのです」
その返答を聞き口元には深い笑みが浮かぶ。
「くく、ならちょうどいい。稽古をつけてくれ」
「な!?」
口を開けて唖然としている。だが、待てども空からの殺気は強まるばかりで、弱くなりはしない。やれやれと首を振り身構える。
「やっとやる気になったか」
「手加減は?」
青年は空の気を逆撫でする様な一言を敢えて言う。
「必要ない。七海、そこにいると邪魔だ。下がれ」
「はい」
見るからに不機嫌にそして思わぬところに飛び火したようだ。青年は心の中で七海と呼ばれた女性に謝り、相手を見据え距離をとる。
「逃げる気か?」
挑発する様に笑みを浮かべて言うが、青年には全くきいていないようだ。
「いえ、剣術だと勝てそうもないので出来るだけ勝ち目のある土俵で闘おうかと」
「そうか」
空もまた気を引き締め、油断、いや最初からそんなものは存在していなかったが、喜び、興奮、一切の感情を沈め支配し中距離での最適な戦闘に適応させる。つまり、魔力を使い、魔法を放つ。
【闇よ、我が槍となり彼の者を滅ぼせ】
以前雷で槍の魔法を使ったように鋭い投躑用の槍が彼の掌に現れる。これで、前から彼が考えていた最初の言葉を変え、イメージさえ出来れば応用は利くと言う彼の仮説は証明された。
「これは闇の元素を使った闇の魔法ですか。珍しい、そして練度、精度ともに素晴らしいですね。よほど修行を積んだと見えますね」
「いや、違うな」
頭上に疑問符を浮かべるように首を傾げる。
「この術は今初めて使った」
「ご冗談を……、まさか本当の事ですか?」
まじまじと彼の表情を見て、真偽を確かめようとするがそこから得られ物は一つとしてないほど無表情である。そして、彼はそれに悠長に答える気も待つ気もなかった。
「いくぞ」
放たれる槍は空気を切り裂き、青年に到達する。
しかし、それを懐から取り出した扇子を前に出し受け止める。
「クッ」
青年は元いた場所からじりじりと押されていた。青年には魔法に関しては多少の自信があった。それを今日使ったばかりの術に負けるわけにはいかない。空の放った魔法のあまりの威力に表情には驚きと戸惑いが浮かんだが、気合を入れ、一気に押し返す。
「ハッ」
「やるな」
必死の思いで押し返すと前には両手に先程槍を持って悠然と立つ空の姿があった。体中から黒い魔力のオーラが漏れ出し、背の大鎌と相まってさながら死神のように見える。
「次はどうかな」
両手がかすむほどの速度で放たれる槍。先程は手を抜いていたと言わんばかりに徐々に威力が上がっていく。
(なるほど、今日初めて使ったのはあながち嘘ではないのだろう。今使いながら調整しているのか? だとしたら、これが本物か……)
驚きを隠す事が出来なくなっていたが、それがかえって落ち着きを取り戻させた。
(真正面から受けては駄目だ。受け流すっ!)
扇子を少し傾け最小限の魔力と力で受け流す。
「ほう」
空はニヤッと笑うが、青年にとっては不気味なものに見える。
受け流したり、躱したりとその繰り返しで凌いで逆転の機会を窺い、術式を唱え、魔力を充実させる。
そして、ついにその時はやって来た槍の猛攻が途切れたのだ。
(魔力切れだ!)
【縛】
一言彼に向けて唱える。次の瞬間には空の四方に縛の言葉が文字となり宙に浮き、たがいに鎖で繋ぎ止め、動きを封じる。否、しようとした。しかし、寸でのところで彼に気づかれ、躱されてしまう。だが、これで終わりではない。
【疾】
今度は青年の足元に疾の文字が浮かび上がるや否や、その姿はそこから消失する。
瞬時に彼との距離を詰める。
【剛】
両手甲、両足甲に剛が浮かび、接近戦にもつれ込む。
手に持っていた扇子を上に投げ、人ならざる力で拳や足を繰り出す。
だが、それでやられるほど彼も甘くはない。緩急をつけ、身体強化をする事で相手のリズムを崩し、うまく受け流していた。
そして、業を煮やしたのか青年は無理やり距離をとる。だが、それを彼の前で行うのは明らかに隙が出来る。その隙を逃すわけもなく、即座に距離を詰め、鎌を振るう。
ここで、青年のもう一つの術が発動する。
【斬】
先程中に投げた扇子の先が魔力で鋭利なものとなり、空を襲う。
「チッ」
不自然な後退の意図にギリギリで気づき、これまた間一髪で躱す。そして、青年は避けられたと見るや次の術を唱えた。
無理な体勢で躱した体勢のままの空に近づき、扇子を掌に戻しつつ、掌底を放つ。呪文とともに。
【破】
瞬間、青年の魔力が圧縮、爆発した。
「「痛っ」」
その声は同時だった。だが、その時の対処がこの勝負の明暗を分けた。
空は青年の攻撃を回避が不可能と見ると、臆することなく爆発する攻撃に手を伸ばし、残りの魔力を全開放する事で最小限にとどめた。
一方、青年は血に塗れた手で自分の腕を尋常ならざる力で固定されたことによる悲鳴だった。
ここでどうなるかはもう分かるだろう。青年はチャンスがピンチに、空にとってはピンチがチャンスに変わったのだ。彼がそのチャンスをいかさないはずがなかった。鎌から手を離し、素手の最速の攻撃で青年の意識を刈り取った。
◆◆◆
青年が目を覚ますと先ほどと同じく黒衣の男と侍女が見える。
「起きたか」
男がこちらのように気づくと声をかけてきた。誰のせいでこのように横たわることになったんだ、と多少の不満を隠しつつ問う。
「ええ。なぜこのようなことをしたかお聞かせ願えますか? まさか、ただ戦いたかったという安直な理由で向かってきたわけではないでしょう?」
腹いせに私は皮肉っぽく言った。
「まあな。だが、その前にアンタの名前は?」
「人に名前を聞くならまず自分からと親から習いませんでしたか?」
目を離すことなく平然と嫌味を言う。
「名乗る気はない。さっさと言え。アンタ、さっき俺に負けただろう」
勝負のことを言われると言い返すことが出来ない。本気ではないにしろ負けは負けだ。だが、名乗ることが出来ない理由があるのだろうか、と考える。
「私は源光。それでは要件の方をお聞きしましょうか?」
目の前の黒衣の男は私の名前を聞いて、何やら考え込んでいる。何か思い当たる節があるのだろうか?
「そうだな。まずはこれを見ろ」
そう言ってこの国の王印が刻まれた勅書を取り出した。なかなか、重要な事のようだ。
丁寧に包みを開け、中の手紙を見る。そこにはこの国の排他性を考えると驚くべきことが書いてあった。
「これは……、つまり私に黒騎士という方に仕えろと言いたいのですね」
私は確認のため聞き直す。頷いて答える。だが、そういえば目の前の男もまた黒衣を羽織っている。まさか、
「あなたが件の黒騎士ですか?」
すると、男は満足そうに頷いた。
「冷静で頭もまわるようだ。そうだ、俺が黒騎士と呼ばれている者だ」
となると黒騎士は直接私を雇用しに来たという事か? わざわざ、たかだか一人のために?
「あなたの目的は何ですか?」
分かってはいても聞かずにはいられなかった。実際王がこのようなところに一介の兵士のために来るだろうか? 試練だとしてもほかの部下に命じればいいだけなのに。
「分かっているんだろ。俺の目に映るのは最初からアンタだけだ」
「な!?」
あまりにもまっすぐな瞳に全ての者をひれ伏させるような威圧感。心臓を鷲掴みにされたようだった。決まった。これよりこの方を主とする。
「分かりました。喜んでお受けいたします。黒騎士様。これより誠心誠意仕えさせて頂きます」
「そうか」
返答は素っ気ないものだったが、先ほどの魅惑的なまでの力の前ではそのような瑣事はどうでもいい。今までずっと探してきた生涯をかけて仕えるべき者が見つかったのだから良しとしよう。
◆◆◆
源光を引き入れることに成功した彼は飛来達との合流時間まで都を見て回っていた。
「ご主人様。こちらの店は如何ですか?」
「いや、七海殿。我が王にはこちらの方がよいだろう。こちらは如何ですか?」
どの店に入るかで二人の側近?が揉めていた。彼にとっては七海だけでも厄介だというのに。気苦労は増えるばかりである。
「どちらでもいい。さっさと行くぞ」
『はっ』
容姿端麗な男女がそろって礼をするのだから目立って仕方なかった。彼は溜息を吐いて、店に入る。
「いらっしゃいませ。あれ!? 源の旦那。今日はどのような御用で、って、これまた美形の方ばかり。羨ましい限りですな」
光はいつものように店主の元気さに笑って返す。七海は美形という言葉に反応して照れて俯いている。空は相変わらず店主の言葉を無視して店内の武器を見ている。
「また変わった方といらしているんですね」
その変わった方というのは言わずもがなではあるが、光は立場が変わったため軽口に棘のある言い方で返した。
「店主よ、あの方は私が主と決めたお方なのだ。貶めるような言い方をするのであれば……」
そこまで言うと光の目は冷たく暗いものになり、扇子を自分の首の前でにこやかに横に切る。
「は、はい。申し訳ありません」
店主は青ざめて謝る。
「いや、分かればいいのだ」
再びにこやかに返す。いつもの光である。
そうこうしている内に店の奥から空が戻ってくる。
「何かお目当てのものは見つかりましたか?」
自分が紹介した店という事もあり真っ先に光が問う。
「いやないな」
「そうですか」
自分の紹介した店でないと言われ落ち込む光。反対にざまあみろと言わんばかりに七海は勝ち誇っている。
だが、当の店主にはっきりと断言されたことにより商人魂に火がついた。
「お待ちください。何をお求めですか? 当店は品ぞろえと質には自信があります!」
言い切った後ではっとなり青ざめる。熱くなったことで光からの忠告を忘れていたのだ。恐る恐る光の方を見る。だが、その表情はいつもと同じだ。それが逆に恐ろしく感じられた。
だが、その心中を察すこともなく自らの希望を伝える。背から大鎌を下ろし言う。
「これと同等、もしくはこれ以上の力のあるものを頼む」
店主は本能でわかる。この鎌はやばい、と。触れてはならない。そう思えるほど禍禍しく恐ろしい。
「こ、こちらと、ですか」
頭の中が真っ白になるがこれほどの鎌を使う方だ少々危険があっても構わないだろうという条件の中で探し、見つける。
「こちらのナイフなどは如何でしょう?」
そういって差し出されたのは全長24cmのサバイバルナイフだった。刃の片側はギザギザで鋸状になっている全体的に茶色っぽい。
「これは土の魔法がかけられていて、切断する以外にも様々な用途で使うことが出来ます」
ナイフの刀身を眺めつつ言う。
「切れ味は?」
「損所そこいらの刀剣では1合とて、もたないでしょう。先ほども言ったようにこれは戦闘以外にも様々な用途で使うことが出来るのが利点でございます」
少し考える。
「なかなか良さそうだな。だが、俺には必要ないな。七海、アンタにやる。店主いくらだ」
「え!? あ、ありがとうございます!」
七海は飛び上がるように礼を言い受け取る。
「こちらでございます」
店主は紙に書いて教える。確かに人目を憚るほど高価なもののようだ。それを一括でぽんと代金を渡す。
「確かに」
彼は振り返ることなく店を出て行った。
それに七海は駆けるようについて行った。光は振り返り店主に一言。
「店主よ、あなたの証人としての心意気大変素晴らしく思います。しかし、もう少し口のきき方を考えた方がいいですよ。王が気を害しているようでしたら今頃あなたの首と胴は繋がっていなかったでしょう」
にこやかに告げる光の姿に店主は背筋を震わせ3人を見送った。




