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明治時代に転生したら秘密結社だらけだった件 〜ブラック企業出身の俺、10歳にして暗殺組織の幹部(笑)に担ぎ上げられる〜  作者: 斉宮 柴野


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第十話 十一番・朝比奈加里、鞭を握る

今回は、静岡・清水港に到着した朗人たちと、十一番・朝比奈加里のお話です。

気弱で人見知りな彼女ですが、どうやら鞭を握ると少し様子が変わるようです。

青い空と白い雲、そして停泊する大小様々な船。

本来なら、長旅を終えて清々しい気分で大地を踏みしめるところだろう。


しかし、俺、拝原朗人の現状は、そんな爽やかなものとは程遠かった。


「……うっぷ」


俺は、船から降りるなり、顔面を完全な土気色にして、石畳の地面に両手をついて突っ伏していた。


胃液が喉元までせり上がってくるのを必死に堪える。

その横で、我が担当連絡員である連絡子(通称:連子)は、ケロッとした顔で潮風を浴び、深呼吸なんかしている。


俺と連子は、ついに目的地の静岡・清水港に無事到着していた。……船旅? ああ……控えめに言って最悪だった。


ただでさえ揺れる船で、俺の十歳の三半規管は悲鳴を上げ、船酔いが酷かったってのに。

それに加えて、あの悪夢のような出来事が、俺の寿命をマッハで縮めたのだ。


――回想カットイン:深夜の船上――


波の音だけが聞こえる、深夜の静かな甲板。

そこに、静寂を切り裂くような甲高い笑い声が響き渡った。


「あはははは! はいはーい! 絡子でーす!」


顔を真っ赤にした連子が、どこからか手に入れてきた一升瓶を片手に、甲板の中央で大暴れしていたのだ。


「暑いですねえ! ぬっぎまーす!!」


連子はそう叫ぶと、上着のボタンに手をかけ始めた。


「やめろ!! このスカポンタン!!」


船酔いでゲーゲー吐きそうになっていた俺は、最後の気力を振り絞って立ち上がり、連子に向かって叫んだ。

衆人環視(夜中とはいえ、甲板には涼んでいる船乗りたちが数人いる)の甲板で脱ぎ始めるなんて、狂気の沙汰だ。


「……すかぽんたん?」


「スカポンタンってなんですか!?」


「え? それは……」


前世の記憶、昭和のアニメで三悪の女ボスがよく使っていた悪口だ。


「ふふん! よくも知らない言葉を使うなんて、ませた僕ちゃんですね〜!」


連子は、俺の沈黙を「知らない言葉を背伸びして使った」と勘違いし、酔っ払い特有のウザ絡みを始めた。


「ねー! みんなー!! この子、知ったかぶりしてますよー!」


連子が甲板にいる船乗りたちに向かって手を振ると、酒の入った海の男たちは「おーーー!」と面白がって囃し立てた。


「この……! 酔っ払いが!! 絡むな!」


「はい! 気を取り直して脱ぎまーす!!」


連子は俺の怒りなど意に介さず、再び脱衣を再開した。


「だからやめろっての!!!!」


………結局、俺は必死に彼女の服を押さえようとしたんだが、いつの間にか一糸まとわぬ姿になって夜の甲板を走り回る連子を、全力で追いかける羽目になった。


しかも、その動きが異常に素早い。


「あははは! 朗人さんはまだまだですね〜」


全裸の連子は、俺を軽々と躱し、マストに向かって走り出した。


「特務部隊なら、もっと俊敏に動けるはずですよ? ほいっ!」


連子は、信じられない跳躍力で船の帆のロープに飛び移り、そこから軽々と飛び降りた。

そのまま甲板の端(手すり)に指一本でぶら下がり、そこを支点にして大車輪の如く大回転!

見事な空中姿勢から、俺の背後に音もなく着地した。


「あ? 普通の人間は船の帆から飛び降りて甲板の端に指をかけて大回転とかできねえんだよ!! サーカス団かお前は!!」


なんだこいつ、連絡員のくせに無駄にポテンシャル高いぞ!

ていうか。


「てかお前、裸見られて恥ずかしくないのか!? はしたない!!」


――回想終わり――










「お前……昨日の夜のこと、覚えてるか?」


「え? 何言ってるんですか〜私が人前で裸になんてなるわけないじゃないですか……。記憶にございません」


連子は、全く心当たりがないというように、政治家のような見事なすっとぼけを披露した。


「もしかして、私の裸が見たいんですか? 助平ですねえ。十歳のくせに。ませてますね〜」


「……………」


……………見たくないというのは嘘になる…


こいつの体は、確かにめちゃくちゃ綺麗だったしな。スレンダーボディもイケるクチの俺(前世のオッサン)が言うんだ、間違いない。うっすら腹筋が浮かんだ、芸術品みたいな無駄のないいい体だった……。あの大回転も、筋肉の付き方が良かったからできたんだろう。


俺がそんな不純な(しかし正直な)思考に耽っていると、連子が急に慌てだした。


「え? なんで黙るんですか!?」


「そ、そんなに魅力ないんですか?! 私の色気がないって言うんですか! そんなにペチャパイだと思いましたか! ………うるうる」


連子の大きな目に、見る見るうちに涙が溜まり始めた。


「なんでそこでお前が泣きそうになるんだよ!!」


どっちに転んでも面倒くさい女だ!


ただし、中身がバカなことを除けばな……。神様、こいつにもう少し常識という名の進歩を与えてやってくれ……。


静岡での任務は、まだ始まってすらいないというのに。











◇◇












清水港の活気ある波止場から少し離れた、人通りの少ない物陰。

そこに、身を隠すようにして蹲っている人物がいた。


十一番・朝比奈加里である。


「うう………また渡せなかった」


加里は、手にした分厚い茶封筒(横浜の宿で船代として払い損ね、結局自分で持ってきた経費)を見つめながら、蚊の鳴くような声でブツブツと呟いていた。


「この船代、どうしよ………。朗人さん、怒るとすぐ女の人を殴るし(※新橋駅での完全な勘違い)……怖いよぉ……。私、絶対殺される……」


横浜の宿でも、俺の部屋の隣の特上部屋にチェックインしたものの、結局怖くて接触できず、こっそり同じ船に乗ってここまでついてきてしまったのだ。


そんな彼女に、通りすがりの親切な船乗りの男が声をかけた。


「おい姉ちゃん!」


「ひっ!!」


背後からの突然の声に、加里はビクゥッ! と肩を跳ねさせ、悲鳴を上げた。

対人恐怖症の彼女にとって、見知らぬ男からの声かけは恐怖でしかない。


「女一人で船旅かい? 威勢がいいのはいいが……そんな目立つ格好してたら危ないぞ?」


船乗りは、加里の服装をジロジロと見ながら、心配そうに忠告した。


それもそのはずである。

加里はなぜか、丈の短いセーラー服を着ていたのだ。


しかも、ただのセーラー服ではない。見事なへそ出し&超ミニスカートという、明治時代はおろか現代でもかなり攻めた「過激なコスプレ」状態である。

布面積が圧倒的に少ない。


「え……?」


加里は、怯えながらも不思議そうに自分の服を見下ろした。


「あの、神原のおじいちゃん(時守の古参メンバー)が、若いおなごは船に乗る時、イギリス海軍に倣ってこの格好をするのが今の日本の常識だって……」


「?? そんな常識、港町でも見たことも聞いたこともねえがな……」


「男を誘ってる夜の女にしか見えないから、変な連中に絡まれる前に着替えた方がいいぜ」


夜の女。

男を誘っている。

変な連中に絡まれる。


「えっ!?」


加里の顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。

自分の着ている服が、とんでもなく恥ずかしいものだということに、ようやく気がついたのだ。


「そ、そんな! 私……私……恥ずかしい!!」


「い…いやー!!!!!」


彼女は顔を両手で覆い隠し、叫び声を上げながら、猛ダッシュで路地裏へと逃げ込んでいった。


「うう………神原のじいちゃんの嘘つき………」


「騙されたあ……! エロじじい!! 絶対許さない!!」


純情な彼女は、組織の古参メンバーの悪ふざけ(セクハラ)の犠牲になっていたのだった。






◇◇







「早くいつもの服に着替えないと……」


加里は、半泣きになりながら、背負っていた風呂敷包み(いつものダボダボの作業着が入っているのだろう)を地面に置き、急いでセーラー服の襟元に手をかけた。


しかし。


「おいおい」


路地裏のさらに奥、木箱の陰から、ニタニタと下品な笑いを浮かべた男たちの声が響いた。


いかにも地元のゴロツキといった風体の男たちだ。

船乗りが警告した「変な連中」が、ドンピシャのタイミングで現れてしまったのだ。


「こんな裏路地で白昼堂々裸になるなんて……俺たちを誘ってんのかぁ? 姉ちゃん」


「たまんねえな、その格好! 俺たちがたっぷり可愛がってやるよ!」


下卑た笑い声を上げながら、じりじりと距離を詰めてくる。


現在、加里はセーラー服の上の部分を半分脱ぎかけた、非常に扇情的な半裸状態である。

華奢な肩や、引き締まったお腹が、薄暗い路地裏の光に生々しく照らし出されている。


「ひぃっ!?」


「こ…来ないでください! 誘ってないです!」


彼女は服を胸元でかき合わせ、必死に拒絶の意思を示す。

しかし、そんな小動物のような怯え方は、ゴロツキたちをさらに喜ばせるだけだった。


「い…いや、さすがに俺たちの目の前で服脱いで、その格好で『誘っていない』というのは無理があるぜ? 素直になれよ」


完全に自分たちに都合の良い解釈をして、ニヤニヤと笑いながら手を伸ばしてきた。


「さあ、こっち来いよ!」


男の汚い手が、加里の震える肩に触れようとした、その瞬間。


「……これ以上近づいたら………痛くしちゃいます……」


加里の口から、今までとは全く違う、氷のように冷たい声が漏れた。

長い前髪の奥で、彼女の目が妖しく、そして危険な光を放つ。


彼女は、着替えの入った風呂敷の横に置いてあった細長い荷物から、一本の鞭を静かに取り出した。


漆黒の革で編み込まれ、柄の部分には不気味な装飾が施された、特務部隊『時の番人』の武器――『軌刻鞭きこくべん』だ。


「ああん? 痛くはしないぞ。むしろ気持ちよくしてやるから……って、なんだそれ?」


しかし、次の瞬間。

鞭をしっかりと握った加里の全身から放たれる空気が、劇的に変貌した。


先ほどまでの「怯えた小動物」のオーラは完全に消え失せ、代わりに、周囲の空気を凍りつかせるような「絶対零度の女王」の覇気が、路地裏を満たしたのだ。


「そう……」


加里の唇の端が歪み、冷酷で、そしてサディスティックな微笑みが浮かび上がる。


「じゃあ、あなたたちから先に泣きなさい」


「え? 鞭?? なんで? 痛っ!? うぎゃああああ!!」


ピシャンッ!!


空気を切り裂くような甲高い破裂音と共に、黒い閃光が走った。

『軌刻鞭』が、顔面を容赦なく、そして鮮やかに打ち据えたのだ。








◇◇







数分後。

先ほどまで卑猥な笑い声が響いていた路地裏は、全く別の異様な空間へと変貌していた。


「ふ…ふふ……あはははは!」


甲高い、そして恍惚とした笑い声が響き渡る。

声の主は、もちろん加里だ。


「ねえ? 痛い? それとも気持ちいい??」


先ほどまでガタガタと震えていた気弱な少女はどこへやら。


現在の加里は、地面に倒れ伏すゴロツキの顔面を、裸足でグリグリと情赦なく踏みつけながら、完全にイッてしまった表情で笑い転げていた。


「や…やめて!! すいませんでしたァ!!」


ゴロツキは、顔を真っ赤に腫れ上がらせ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら命乞いをする。

しかし、女王様状態の加里には、そんな哀願は全く通じない。


バチッ! バチッ!!


無慈悲な鞭の音が、再び路地裏に響く。


「私の裸はねえ、特級の有料なのよ」


「代金は……あなたのその悲鳴で払ってもらおうかしら!! ほら、もっと鳴きなさい!」


バチッ! バチッ!!!


「ぐううう!」


ゴロツキも、全身にミミズ腫れを作りながら、地面をのたうち回っている。

しかし、その声には、単なる苦痛とは違う響きが混じっていた。


「な、なんだこれ……痛いのに……なんか別の世界が見えてきやがった……!」


ゴロツキは、苦痛に顔を歪めながらも、なぜか恍惚とした表情を浮かべ始めている。


加里の容赦ないムチ打ちが、彼らの奥底に眠っていた何か(絶対に目覚めさせてはいけない性癖)を開花させてしまったのだ。


「いい声……ねえ? 私の足…綺麗でしょ?」


加里は、ゴロツキの顔面から足を離し、自分のスレンダーな素足を見せつけるように突き出した。


「もっとよく見なさい。……舐めてもいいのよ?」


「は…はいい! 加里様!! 舐めさせていただきます!!」


ゴロツキたちは、完全に女王様に調教された豚と化し、我先にと加里の足元に這い寄った。


「フフッ、従順な豚ね」


加里は、満足げに微笑んだ。

しかし、その直後、彼女の視線が、男たちの股間へと冷たく、そして鋭く向けられた。


「でも……あんたたち……」


加里の声が、一段と低くドスを効かせる。


「こんな粗末なものを私に入れるつもりだったの??」


男たちは、ピタリと動きを止め、恐怖に顔を引きつらせた。


「こんな小さなチャチなもの、私の役には立たないわ。この三倍の大きさにしてから出直しなさいな!! 役に立たないものは……こうよ!!」


バチィィッ!!!


加里の鞭が、寸分の狂いもなく、男たちの股間を正確に捉え、弾き飛ばした。


「きゃあああああ!!!」


「俺の…俺の息子があああ!!!」


しかし、彼らの顔は、もはや単なる苦痛ではなく、究極の痛みを経て到達した、新しい喜びに目覚めたような、完全にイッてしまった表情をしていた。


悲鳴を上げているが、彼ら的にはこれが「ご褒美」なのだ。

哀れなゴロツキたちは、運悪く(あるいは運良く?)新しい扉を完全に開いてしまったのである。


チャリン。


路地裏の石畳に、冷たい金属音が響いた。

加里の手から、『軌刻鞭』が滑り落ちた音だ。


その瞬間。

加里の顔から、あの絶対零度の女王の表情がスッと消え失せた。


「ハッ!?」


加里は、自分の足元で悶え(喜んで)いる男たちを見て、ハッと息を呑んだ。

元の極度の対人恐怖症で気弱な少女の人格が戻ってきたのだ。


「ひっ!? ご、ごめんなさい!! ううう………」


「懲りたらもう悪いことは辞めてくださいね! さよならあ!!」


加里は、半泣きになりながら、脱ぎ散らかしていた服と風呂敷包みを慌てて抱え込み、全速力で路地裏から逃げ去っていった。

後には、快楽と痛みに身をよじる二人の男たちだけが残された。









◇◇











その頃、帝都の時守本部。


「蒔田様!」


傍らに立つ部下が、手にした報告書を見ながら、冷や汗を流して尋ねた。


「あの……朝比奈様(加里)は、あのような気弱な感じで、本当に特務部隊として暗殺なんてできるんでしょうか? 私は甚だ不安なのですが……」


部下の疑問はもっともだ。

普段の加里は、男が一歩近づいただけで悲鳴を上げて逃げ出すような小動物だ。

あんな状態で、任務を遂行できるとは到底思えない。


「ああ……心配はいらん」


「加里はあの『鞭』を持つと、別の人格……極度のサディストに変わるんでな」


「はあ……」


部下は、理解が追いつかないというように間の抜けた返事をした。


「一度スイッチが入ると、標的が死ぬか、彼女が満足するまで絶対に鞭を打つのを止めない」


「敵を物理的にも精神的にも、完膚なきまでに破壊する……。しかも、その過程で標的を新たな快楽の底なし沼へと引きずり込む。ある意味で、時の番人の中でも二番目にタチが悪い存在だ」


「…………二番目、ですか」


部下は、蒔田の言葉に引っかかりを覚えた。


「その凄惨な戦い方をする朝比奈様より、もっと悪い(タチが悪い)のが組織にいるんですね」


「ああ」


蒔田は、窓の外の帝都の空を眺めながら、重々しく頷いた。


「世の中には、理不尽という言葉が服を着て歩いているような化物がいるものだ……。四番がそいつに出会わないことを祈るよ」


(へっくしゅん!)


遠く離れた静岡・清水港の空の下で。

船酔いと連子の奇行で心身ともにボロボロになっていた俺は、唐突に大きなくしゃみをした。


誰か噂してるのか?

それとも、また新たなトラブルの予兆か?

俺は、キリキリと痛む胃を押さえながら、重い足取りで静岡の山奥へと向かって歩き出すのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

今回は十一番・朝比奈加里の一面が明らかになる回でした。

普段の加里と、鞭を持った時の加里のギャップについて感想をいただけると嬉しいです。

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