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君想う故に私在り (:D)  作者: 連星霊
ギター狂想曲~夜明~
5/7

第5話【核となる音】

 少女『暁乃あけの乙女おとめ』は、東京に住む、ごくごく普通の高校1年生だ。

 乙女には夢がある。それは、ライブハウスでギターを弾くこと。バンドでライブをすること。そのライブで、観客全員と大いに盛り上がること。

 そして、その夢を目指す第1歩、『バンドの結成』を、乙女は果たした。いや、少し違う。『バンドに加入』した。

 クラスの人気者のお嬢様『花葉はなば金糸雀かなりあ』と、その幼馴染『ザハラ日花ひか』が結成した、『DAYBREAK(デイブレイク)』という名前の、“ロックラシック”バンドに。


 しかし、メンバーはまだ3人。この3人では、目指す音楽はかなでられない。

「スリーピースはスリーピースでかっこいい」

 と、日花は呑気に言っていたりもしたが、乙女としては、金糸雀がやりたいという『ロックラシック』を、ぜひともやってみたいのが本音。



 ——放課後。乙女は、普段は絶対に近付けない金糸雀の近くにいた。

 各クラスメイトが部活や遊びに行ったりするのを見届け、乙女と金糸雀、そして日花はひとつの机を囲んでいた。

「…担当の確認を致しますわ。乙女おとめがギター。日花ひかがドラムス。…わたくしは作詞作曲とボーカル。これだけは譲れませんわ」

「うん」

 日花はうなずく。乙女も、それで異論はない。

花葉はなばさんはリーダーですからね」

「こら乙女。私のことは名前でと言いましたのに…」

「あ、いえ……かっ…金糸雀かなりあ……」

 声に出すと改めて可愛らしい名前だと思う。なぜか呼ぶだけでドキドキしてしまう。

「よろしいっ。…それで、わたくし、ギターとベース、両方いけますの。本当はギターの方がありがたいのですが、今はベースが不足しています。ベースが見つかるまでは、わたくしはベースボーカルをやりますわ」

「ベースボーカルかっこいい」

「すみません、私がギターを取ってしまって…」

「お気になさらず。ベースが見つかるまでの辛抱ですわ。……それで、このバンドになにより大切なものは、『ヴァイオリン』ですわ」

「ヴァイオリン……。ヴァイオリンって、使えるんですか?ライブで」

 アンプから放たれるギターの音に掻き消されそうだなと乙女が思ったところへ、金糸雀はこの反応を読んでいたかのように付け加える。

「エレキギターと同じように、ピックアップの付いた、“エレキヴァイオリン”というものが存在しますのよ」

「そうなんですね…。初めて知りました」

「なので心配はいりませんわ。…ですが、問題はその奏者ですわね。ヴァイオリンを弾けて、かつ、わたくしのバンドに加入して、共に切磋琢磨できる方を、探さなければなりませんわ」

「バンド人生で最初で最大の難所かも……。いくら学校に人数がいると言っても、ヴァイオリン弾ける人なんてそうそういないと思うし……」

「一応は居ますわよ。この学校になら」

「え、もう目星が!?」

「いいえ。そのようなものではありませんわ。ただ、この学校には『ストリングス部』がありましてよ。少なからず見つかりますわ。ヴァイオリン奏者が」

「え、そんな部活があったんですか?」

「あるよ。4月、かなと私で1度部活見学には行ってた。入りたいとは思わなかったけど。顧問がカタブツそうで」

「そんな理由で……?」

 お嬢様の幼馴染という日花も、乙女の中では勝手にお嬢様というイメージが付いていたのだが、意外と彼女は内面もロックなのかもしれないと思った。

「…と、いうことで、ですわ。行きますわよ。ストリングス部へ。殴り込みですわ!」

「えぇ!?」

 金糸雀は立ち上がると、ウキウキで教室から出ていく。

 …このお嬢様も、思っていたよりロックなのかもしれない。




◇◇◇




「ストリングスとは、弦楽器を主体とした演奏、そしてその演奏者、チームを表す言葉ですわ。弦楽器と言っても、ギターやベースは含まず、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスなど、クラシックで使われる楽器を指します」

 乙女は廊下を歩きながら、金糸雀の自信満々な説明を聞く。

 そして乙女は知らぬ間にそんな物知りな金糸雀のことを「素敵だ」と思って視線を向けている自分に気付いて、自分はいったい何を考えているんだ、と首を振る。


「…その中でも。私が欲しているのはヴァイオリンですわ。ヴァイオリンのサウンドが。わたくしの求める情熱の音が。わたくしの音楽のかくになりますわ」

「………」


 ——そこで少し、心に謎の闇のようなものが燃えたような気がした。


 ——ヴァイオリン。私のギターではなく。


「……乙女?」

「えっ……いえ、なんでもありません」

 乙女はふと我に返ると、慌てて取り繕う。

 これは対抗意識かなにかだろうか。しかし何故対抗意識なんか。


「…さて、着きましたわ」

 乙女が自分の変な内心を睨んでいるうちに辿り着いたのは、第1音楽室。第1、第2とある音楽室の中で、小さいサイズの方。ちなみに広い方の第2音楽室は吹奏楽部の部室である。

 どうやら演奏中のようで、ヴァイオリンの音色が聴こえてくる。防音性はそこそこの扉を介していることもあり籠って聴こえるが、なるほど、これがクラシックか。乙女が思っていたよりずっと激しい演奏だった。

「邪魔をするのは悪いですわね」

「終わるまで待とうか」

「そうですね」

 そう言ったのもつかの間。

 ───演奏が途中で止まる。

「……?」

 3人で顔を見合わせる。


「───もっとお淑やかに。寄辺よるべさん。貴女はこの曲が何を表現したいのか、まるで分かっていません。そして、間違えすぎです。楽譜をちゃんと見て下さい」

「……はい」

「貴女の演奏は熱が入りすぎです。熱が冷めるまでソロで練習して下さい」

「………」


 ───第1音楽室の扉が開かれ、ヴァイオリンを持った紺色の髪の少女の姿が現れた。


「………失礼」


 彼女は乙女たちの前を通り過ぎていく。上履きに入っているラインの色から、2年生だと分かった。


「………どうする?」

 日花は乙女と金糸雀に問いかける。

「お話だけでも聞いてみましょう?」

「今の先輩にですか?」

「それ以外に何があると言うのです。行きますわよ」

「はぁ……」




◇◇◇




 彼女の後を追い、3人は2年D組の教室まで辿り着く。

「───分からないよ。私は。演奏ってもっと……曲なんかより、奏者の気持ちが大切でしょ……!?」

 彼女はそう吐き捨てると、ヴァイオリンを構え、音を出す。


 ───情熱だ。


 彼女が奏でる音。熱く、情熱的。感情を、激情を外に解き放つような、ヴァイオリンとしてどうなんだと言ってしまえばそれまでだが、例えるのであれば、ロック。彼女の演奏の中にあるのは、あのライブハウスのフロアのような熱さ。


「……」


 演奏が終わる。


「……!」


 乙女たちは、彼女の演奏に拍手を送っていた。


「………誰」

「1年B組の、花葉はなば金糸雀かなりあと申します。今の演奏、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲第1楽章、アレグロ・モデラートですわよね。激しく情熱的なアレンジ。とても素晴らしい演奏でしたわ」

「………ありがとう。私のアレンジを褒めてくれたのは、貴女が初めてだよ。1年」

「とても素晴らしい演奏でしたのに…」

「…まぁね。私も、私の演奏には自信がある。けど、求められてるのはこれじゃないんだってさ。楽譜に忠実な、中身の無い演奏。求められるのはそれ。私にはそれができない。こういう曲だと特にね」

「…分かりますわ。そのお気持ち」

「……ふっ、後輩にそんな事言われてもね」

「…そうかもしれませんわね。ですが、わたくしは貴女のその演奏は、貴女の武器とお見受けしました」

「…それはどうも」

「そこで、ですわ。貴女にひとつお願いがございまして」

「……お願い?なに?」


「───わたくしの『バンド』に、入っていただけませんか?」




……To be continued

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