第4話【結成】
ライブを見に行ってきた次の日。
乙女が教室に入ると、やはりというべきかクラスのお嬢様はたくさんの人に囲まれていた。
「……」
乙女には、金糸雀に返したいものがある。昨日、金糸雀に髪を結ってもらった訳だが、そのあと髪を解かず帰ってしまい、ヘアゴムを借りっぱなしだったのだ。
正直、話しかけづらい。会話しているところに割り込むのは失礼というか、不快にさせてしまう気がして、乙女は踏み出せないでいた。
そんな乙女が立ち止まっていると、乙女に気付いた金糸雀は呆れたように乙女に声をかけた。
「ごきげんよう、暁乃さん」
相も変わらず、誰に対しても眩しい笑顔だった。乙女には眩しすぎる程で、目を合わせるのも気が引けるというか、単純に目を合わせられない。
「あ、どうも。おはようございます。花葉さん」
「お邪魔でしたね。言ってくださればすぐ道を開けましたのに」
「いえ…別にいいです。早く座りたいというわけでもないので」
「いいえ。貴女がよろしくても、周りから見ると、あまりよろしい風景ではありませんわ」
「…確かに。私が除け者みたいに見えるかもしれませんね」
「そういう事です」
「……あ、そうでした。こちらお返しします。昨日はお世話になりました」
乙女は借りていたヘアゴムを彼女に渡す。
「……わざわざありがとうございます。別に返す程のものでもございませんのに」
「借りパクはあまり好きではないので」
「そうですか。では、確かに受け取りました」
「ん。…それでは」
周りの友達たちの時間を奪うわけにはいかないので、さっさと席に着く。
「……花葉さん、暁乃さんと仲良かったの?」
「ヘアゴム貸すような関係だったの!?」
「いえ、そのようなことは。昨日、たまたまヘアゴムが急遽必要になって困っていた彼女を見つけてしまって、貸しただけですわ」
「………ヘアゴムが急遽必要になることってなんだろう……」
「さあ。私には分かりませんわ。余計な詮索はしないであげる方が………」
「暁乃さんいつも髪縛らないからね。そんな暁乃さんが急遽髪を縛らなきゃいけなくなった理由って何?」
「…恋人と会うからとか」
「うわ、ありそー」
「無いでしょ」
「………」
全部聞こえていますからね。と乙女は金糸雀の方をじっと見ると、彼女は「ごめんなさい」と言うように頭を下げた。
◇◇◇
昼休み。
クラスのお嬢様、花葉金糸雀は、幼馴染であるザハラ日花の元を訪れる。
しかし乙女はその様子を横目に見たところで特に何もできないことを思い出し、冷静になって目を瞑る。
───せっかくだし仲良くしたら、なんて、SKYSHIPSの紫音には言われたけれど、いったいどう仲良くすればいいのか、さっぱりわからない。
花葉金糸雀はクラスの人気者。朝や休み時間は周りにいつも人が集まり、彼女はその中心にいる。昼休みは幼馴染のザハラ日花と共に過ごす。乙女が入る隙など一切ない。
乙女は薄目を開けて彼女を見る。
昨日、彼女に髪を結ってもらった時のことは多分ずっと忘れない。今までに感じたことの無い、名前の分からない感情で胸がいっぱいになって、体温が急激に上がった。彼女と仲良く、する口実になるだろうか。
…いや、無い。そもそも、自分は髪は縛らない派だ。生まれ持ったこのストレートの黒髪は自分の自慢でもある。自分の強みを消すようなことはあまりしたくない。そもそも、よく良く考えれば金糸雀の金髪も、乙女ほどではないがストレートと言っていい髪質で、縛っているのを見たことは無い。
「…いや待ちなさい。考えるのよ暁乃乙女」
——まさか、あの花葉金糸雀ともあろうお人が、慣れない手つきで私のために髪を結ってくれたと?勘違いもいい加減にしないと、過去の自分に怒鳴られる。
……過去の、自分に。
「…………」
また、目を閉じる。
少し休もう。
昨日は酸欠で気絶もしてしまったし。それに、今日は金曜日。1週間分の疲れも溜まっているのだと思う。
「………」
静かに、自分の音を殺して、周りの音を聞いてみる。
──花葉さんの声がする………。
「───私、昨日のライブを見て、改めて思いましたの。私もやはり“バンドがやりたい”と。日花。私のために、ドラムをやって下さらない?」
「うん。ドラム、やるよ」
「本当?そうと決まれば、メンバー集めですわね!」
「────!!」
乙女はガタンと音を立てて飛び起きた。
机の下に足とお腹をぶつけた。痛い。しかし痛みなどは無視して、金糸雀と日花の話に惹かれた乙女は、2人の横まで歩いて行った。
「……暁乃さん?」
日花が乙女を見つめるが、乙女の目は花葉金糸雀ただ1人に向いていた。
「バンドって……?」
「あら。興味がおあり?」
「ギターを弾けます」
そう、乙女は即答していた。
「……そう来ると思っていましたわ。私、暁乃さんならきっと反応して下さると信じていましたの。ギターを弾けますのよね」
「え、えぇまあ。人並みには」
「私のバンドに、入って下さるのですね?」
「っはい」
「苦手な音楽ジャンルは何かありますの?」
「……うーん……変なの以外なら……」
「変なのってなに」
日花がツッコミを入れるが、乙女が見て聞いているのは金糸雀の綺麗な顔と声だけだった。
「暁乃さんは、ロックはお好きですわよね」
「はい」
「……クラシックは?」
「クラシック……あまり嗜まないジャンルですが…」
あまり聴くことは無いが、なんとなくのイメージはできる。ビルバデイ…?みたいな名前を聞いたことがある程度。ロックとは程遠い、優雅で繊細なイメージだが…。
「私、ロックとクラシックは共存できると思っていますの」
「共存………?」
「私がやりたいのは、ロックの熱さや激しさと、クラシックの持つ優雅さや華やかさを兼ね備えた、世界で1番情熱的な音楽『ロックラシック』ですわ」
ロック+クラシックで、ロックラシック。なんとも簡単なネーミングだが、少し面白そうだと思った。
「…っと。音楽ジャンルの説明も済んだところで。どうです?私のバンドに、入って下さらない?」
「入ります。花葉さんのバンドに」
乙女がそう答えると、金糸雀はぱぁっと明るい表情を見せ、乙女の手を掴んだ。
「っ………!!」
——凄くドキドキする。一体彼女の何が。…いや、これは新しいことが始まる時の、その感覚だ。
「これからよろしくお願いしますわ!私のことは是非名前で、金糸雀と呼んでくださいまし。私も貴女のことは『乙女』と呼ばせていただきますわ!」
「え、えぇ!?」
————こうして私は、クラスの人気者のお嬢様『花葉金糸雀』と、その幼馴染『ザハラ日花』が結成したバンド『DAYBREAK』に、最初のメンバーとして加入した。
……To be continued




