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君想う故に私在り (:D)  作者: 連星霊
ギター狂想曲~夜明~
3/7

第3話【フリーダムロッカー】

「───あっ…」

「───あら?」



 乙女が辺りを見渡そうとしたところで、すぐ右側にいた金髪碧眼のお嬢様『花葉はなば金糸雀かなりあ』と目が合った。


 珍しく、彼女はその長い金髪を縛っており、編んだ上でサイドアップにしている。


「……意外です。暁乃あけのさん。まさか、こんなところでお会いするだなんて思いませんでした」


 彼女は本当に意外そうな表情で、けれどもどこか納得したような顔もして、話し始める。


「…私も意外でした。…あの花葉はなばさんが、SKYSHIPSをお好きだったなんて」

「…何故SKYSHIPSが目当てだと?」

「…先日、お昼にザハラさんと話していらしたので」

「あら。聞かれていましたのね」

「席がそう遠くありませんので」

「少し恥ずかしいですわね」

「何がですか?」

「知人に趣味がバレるということが」

「……良いんじゃないでしょうか。クラスのお嬢様の趣味がロックでも。そのギャップが良いと言いますか」

「ええ。…けれど、少し訂正。ロックが好きなのは、わたくしよりも日花ひかほうですのよ」

「そうなんですね」

「ええ」


 よく見ると、彼女の右側には白銀髪の女の子、クラスメイトのザハラ日花ひかがいた。


「どうも」

「はい、どうも…」

 日花に関しては、乙女はどう接していいのか分からず、とりあえず「どうも」と返しておいた。淡々と話す子のため感情が他の人より一層分かりづらい。


「あ、暁乃あけのさん」

「はい?」

「髪。縛った方がいいです」

「髪?」


 日花は金糸雀の巨峰の前から、乙女の長い黒髪を指さす。


「その長さだと、動いた時に人の迷惑になってしまう可能性が高いです」


 確かに、少し歩いただけでもこの髪はふわりと風に乗るし、少し後ろを通る人に引っかかったりしたら迷惑になる可能性は否定できない。

 飛んだり跳ねたりして騒ぐ気は無いのだが、それでも一応縛っておいた方がいいか。


「ああ、なるほど。ご指摘ありがとうございます」


 ……とは言ったものの、乙女はヘアゴムもシュシュも持ち歩いていない。


「………」

「…暁乃さん?もしかしてヘアゴムをお持ちでない?」

「あ……はい。お恥ずかしながら。縛るのは好みではなくて……」

「でしたら、わたくしのをお使いになって」


 そう言って、金糸雀はバッグの中から可愛らしいポーチを取り出す。


「縛るのは好みでは無いと仰いましたが、自分で縛った経験は……あまりありませんわよね。わたくしって差し上げますわ」

「ァえ、ありがとうございます───」


 ───乙女のほっぺたを、金糸雀の手が掠める。


 乙女が思っていたより大きな手をしている。そして、少し硬い指先が、乙女の黒髪を纏めていく。


「………っ」

「横を向いたまま……でいいですわ」


 彼女の透き通るような声が、耳に心地よく浸透した。


「は、はい……」


 急激に体温が上がった。鼓動が、心拍数が、体温と共に上がっていく。


「あ……あの…」

「はい。なんでしょう」

「のっ…飲み物を飲んでも大丈夫でしょうか」

「お構いなく。頭を振らないようにお気をつけて」

「はっ…はい」


 何が起こっているのかさっぱりわからなかった。

 ただ、いつもの自分じゃないということだけが分かった。変な声で、変な返事をしているという確かな自覚がある。


 乙女はできるだけ顔を動かさないように気をつけながら、冷たいウーロン茶を身体に流し込んで体温を下げる。


「……よし。できましたわよ」

「あ、ありがとうございます……」


 簡単に編んだだけの即興のサイドアップだが、これなら人の邪魔になることは無いだろう。


「良くお似合いですわ」

「───」


 ——ドクンと心臓が跳ねた。それは単に金糸雀の優しい声だけでなく、改めて見た彼女の姿が綺麗だったことと、自分と鏡写しのように、左右対称の髪型をしていたことも理由として挙げられるかもしれない。


「あっ……ぁりがとうございます…」

「ええ」


 ───丁度その時。照明が落とされた。


「間に合って良かったですわ」

「ん」


 フロアは暗くなり、ステージが青いライトで照らされている。


「きゃ~~~~っ!!!」

「おおおぉぉぉぉ~~~~ッ!!!!」


 黄色い悲鳴と野太い歓声が入り交じる。幸いにも前にいるのは女性であり、中学1年生の私たちでも肩と頭の隙間からステージが見える。

 4人。続けてステージへと姿を現す。


「紫音さ~~~んっ!!!」

 乙女の右隣のさらに隣から黄色い悲鳴が上がった。日花ひかはどうやらあの曇紫音のファンらしい。いつも無表情で淡々と話している彼女の様子からは考えられない一面だと思った。

「………!」

 乙女も物販コーナーで少し話した、くもり紫音しおん。ワイドパンツにオーバーサイズのTシャツと、ボーイッシュな雰囲気の彼女がドラムス。

 朱色の髪のボブカットで服装も大人しいワンピースで、優しそうな子がキーボード。

 桜色の長い髪で、もこもこの上着を萌え袖にしている可愛い子がベース。


「おぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

「きゃぁぁああああ~~~っ!!!」

「結衣さぁぁあん!!!!」


 ───そして、黒髪のロングヘアに、ギラギラと光を反射する赤紫の瞳、若さを感じるカジュアルなワンピースを纏う、ギター&ボーカル。ステージ上のスタンドに置かれた白色のレスポールを拾い上げ、ストラップを肩にかけて髪を払う。彼女は左手をスタンドのマイクに添え、握り、そして息を吸う。


「───ッ!行くぞ下北ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ~~~~~~ッッ!!!!!」

「Yeahあああぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!!!!」


 前の方は本当に凄い熱気。男も女も。


 ——掻き鳴らされるギターとベース、打ちまくられるドラムとキーボードの爆音。


 SKYSHIPSのギターボーカルの女の子は、このフロア全員を指で指して叫ぶ。


「皆さん今日は!歴代最高のSKYSHIPSをお見せします!!どうか全力でぶつかって来てくださ~~~いッ!!!」


 シンバルの4カウントから、恐ろしく強い上に速い、4つ打ちが始まる。何ビートなんだこれは。BPMの概念は?そんな、明らかに普通じゃない、『ドラムソロ』に、3人の楽器の音色が重ねられていく。


「………!」

 しかし、4人全員、楽器を弾く動きは違えど、体の動きがシンクロしている。要所要所で来る強めの1発で、体を揺らしている。

 ボーカルの少女も、女子高生とは到底思えないバケモノじみた歌唱力。


「────」


 ——いや、めちゃくちゃな演奏のようで、体はこのリズムに乗っていける。

 ドラムの両手の動きが凶悪過ぎて気がついていなかったが、バスドラとスラップ厨のベースのリズムは一切狂いがない。バッキングも。そして、キーボードの音色も然り。確実なタイミングでメロディを付けている。

 凶悪なのはドラムだけじゃない。全部だ。


「みんな全力で遊ぶぞ~~~~ッ!!!!」


 ——遊びたい。私も。


 手に持っているドリンクが邪魔だ。全部一気飲みして空っぽにする。


 ——こんなつもりじゃなかったのに。


 バンドのサウンドは死ぬ程やかましく暴れ散らかしているが、確かなグルーヴが根幹にある。みんな乗せられ、そしてさらに他の人もそれに乗せられているく。連鎖的に、どんどんこの場にいる人間を巻き込んで、次々に『オーディエンス』にしていく。

 手を上げ、ステージにいる4人に向かって掲げる。

 熱が。熱が溢れていく。

「Hey!Came on!!下北!!」

「────!!」

 叫んで、乗って。騒いだ。

 そして何曲か続けて、その音が終わる。


「ありがとうっ!それじゃぁ……最後。この前披露したばかりの新曲。今、私たちが1番カッコイイと思ってる曲をやって、今日は終わりにします。その脳みそに刻んでいってください!!───『フリーダムロッカー』!!!」


 ─────!!!


 ────あぁ、ヤバい。


 最初の1秒でもうヤバいと思った。それ以上の言葉が見当たらない。


「───自由に遊べ~~~~ッ!!!!」


「───!!!」


 リフト。そしてダイブが始まった。


 いや、おかしい。フロアには100人も居なかったはずだ。このキャパシティ300人弱のフロアで、1人が3人分以上のスペースを使っていたはずなんだ。

「……!!」

 見渡す。気が付けば、フロアは殆どが人で埋まっていた。


 ───嘘でしょ……?


 スタート前にはこんなにいなかった。つまりスタート後にこのフロアに来た人というのは、アクト1番目のSKYSHIPSが目当てではない、その後の出演バンドを見に来た人ということでまず間違いない。それなのにも関わらず、前は言わずもがなだが、今乙女がいる中央はかつての後ろ。そして後ろは、このバンドの事などフルで見る気はなかった人だ。にも関わらず。ここまでのテンションにさせてしまう。

 ───そう頭で思いながらも、乙女の体は正直だった。自分の体が、本能が、その答えを教えてくれている。

 元々乙女は中央にはいなかった。むしろ、かなり後ろの方のスペースにいたはずだった。

 けれど、無意識のうちに、グルーヴを感じあのリズムに乗せられ、サウンドに惹かれ、乙女の脳は彼女たちの演奏と、曲や歌唱の合間合間に適度に挟まる煽りに乗らされ、前へ前へと、どんどん進んでいった。

 それと同じように、この箱に入ってきた皆が、連鎖的に飲み込まれていった。


 ────こういうバンドが、上に上がっていくんだ。


 ——あんなふうに。私もなりたい。

 ギターボーカルの、たった2歳年上の少女が繰り広げる、間奏の情熱的なギターソロと、圧倒的な声量で投げつけられる自由をくれる歌詞、その裏でリズムを取るバッキングのサウンド。


 ───カッコいいなぁ……!!!


 これだけの人を夢中にさせる。乙女のようなドライな人間さえも、そして、私の右隣にいる『お嬢様 』さえも。

 誰もを虜にしていく、劇薬。


 私も絶対あんなふうにライブがしたい。絶対してやる。私のギターで、絶対─────。



 ────。




◇◇◇




「───すの?──ですの?────暁乃あけのさん!大丈夫ですの!?」


 温かい感触がある。

 一体私は何を………


「!!」

 目を覚ました乙女は、状況を把握しようと周りを見る。

 乙女は金髪碧眼の美少女に抱きしめられていた。


「ぁあぇ!?」


 乙女はビックリして数歩下がる。


「お…起きましたのね……大丈夫ですの?SKYSHIPSの出番が終わった直後に、貴女突然倒れましたのよ」

「ぇ……?あっ…!」


 目眩がする。乙女はふらつく体をなんとか立たせながら、自分の身に起きたことを理解する。

 乙女は金糸雀に抱きしめられていた訳ではなく、金糸雀に支えてもらっていたのだ。


「酸欠………です。多分」

「……。……そうでしたか。かく言うわたくしも、少し酸欠気味ですわ。…まさか、SKYSHIPSがここまでだとは思いませんでした」

「私も……」


 乙女もまさか1組目でこれとは思わず、そして酸欠で気絶するほど自分が盛り上がってしまうとは全く思っていなかった。よくよく見れば、金糸雀も日花も、肩で息をしている。ステージに夢中で真横を見ていなかったが、彼女たちも手を振って跳んでとかなり動いていたと見える。


「───あ、乙女おとめ!どうだった?SKYSHIPSのライブ!」

「あ…」


 SKYSHIPSのドラムス、紫音だ。


「はい。…凄かったです。とても言葉で言い表せないくらい」

「嬉しい!ありがとう。…あ!お前は見たことある!待って今思い出す!ヒカさんだよな!?前に始めて来てくれて…2ヶ月前のワーサイで合ってるか?」

「はい合ってます!凄い、覚えててくれて嬉しいです!」

「ファンはみんな覚えてるぜ。SKYSHIPSを大きくしてくれるのは、ライブに来てくれる皆がいるからだからな。…っと、あんたは初めてだよな?」

「あっ、はい。花葉はなば金糸雀かなりあと申します。日花ひかの幼馴染で、誘われて」

「へぇ~幼馴染か。良いなそういうの。私はそういうの無いからな。こんなんだから結構嫌われててさ」

「意外ですわ、こんなに明るいお人なのに」

「いや全然。私のは明るいじゃなくて、謙遜とか配慮とかが無いだけなんだよ。…あ、ってかなに、お前ら3人で友達だったりする?」

「あ、いえ…」

「ただのクラスメイトです」

「たまたまお会いしまして」

「へぇ、なんか運命的だな。せっかくだし仲良くしたら良いんじゃねぇか?」

「仲良く……」

「大丈夫、心配すんなって!ロック好きな奴にまともな奴はいねぇよっ!」

「え…………」

「んじゃぁな、物販コーナーにいっから、余裕あったらでいいから何か買ってくれ。中学生だろ?無理にとは言わねぇよ」

「あいえ、高校生です……ですがお金ないのは本当です」

「ああ、悪い。ヒカさん前来た時中学生だったからな」

「と言っても3月なので」

「じゃあまあ、今もだいたい中学生だな」

「当日もだいたい高校生ってことでは……」

「──こら紫音~!ファンサは物販コーナーで!!」

「あいよ!…じゃな」

「………」


 紫音を見送って、薄っぺらい財布の中身を見る。お札は無し。小銭はだいたい700円。


「……もはや小学生じゃないの……」


 その後、乙女はこのなけなしのお金で300円のステッカーを購入した。




◇◇◇




 2組目のバンドもかなり盛り上がっていたのだが、乙女はSKYSHIPSというJKガールズバンドの凄まじさが忘れられず、また、酸欠で少し体力的にキツかったこともあり、2組目3組目のバンドのライブは当初の予定通り、大人しく鑑賞した。


 そして、ライブ終わり。

 ライブハウスの階段を上がって地上に出れば、当たり前だが夜になっていた。

 フロアの冷房で冷えきった乙女の細い体は、外の気温をとても心地よく感じた。


「………」


 頭痛と目眩は多少マシにはなったが、それでも体は少しふらつく。


「…さてと。これからどういたしましょう?」


 金糸雀がそんなことを言い出した。


「え……どうって、帰るしかないと思いますが…」

「そうですの?日花は?」

「私も帰るしかないと思うけど」

「…寂しいですわね……」


 その寂しそうな表情は乙女の視線を惹きつけたが、しかしだからと言って解散以外の選択肢は思い浮かばなかった。


「……まあ…分からなくもないですが。でも、そのようなことを言っても、何も変わりはしません。また明日、教室で、会えばいいじゃないですか」

「……そうですわね。…では、駅へ向かうといたしましょう」

「うん」

「はい」




……To be continued

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