74 カプリニクスのダンジョン① ~ ノアと
「ふわぁ・・・大きい」
「あの時の木にそっくりだな」
『そうだね』
大地の神カプリニクスの大木に近づくほど、昔を鮮明に思い出す。
このゲームを創った奴は、沈む前の大陸を知っているようだな。
「そこにあるのはプレイヤーのセーブポイントかしら」
ファナが黄色に光る魔法陣を指した。
「そうかもな。似たようなものが、森の中にもあった」
「壊したいけど、カイト、どうにかならない?」
「コードが複雑だ。暗号キーに魔法が使われているありえないパターンだからすぐには難しいな」
モニターを出して、コードを映しながら話す。
「うーん、魔法少女の匂いがするねぇ」
『ラインハルト、エリンちゃんには手を出すなよ』
「もちろん。リリスとエリンを除いた魔法少女は吸い尽くすつもりだ。ふふふ」
ラインハルトが不気味に笑っていた。
ロストグリモワールに書かれていた言葉を思い出す。
― 魔法少女戦争を終わらせるには
初めて聖杯の水を飲み、魔法を授かった者と、主がロンの槍の持ち主になり、
魔法の無い世界を望む必要がある ―
― でも、ロンの槍は魔法少女戦争の終結を望まない ―
あの言葉は、メイリアが終わらない魔法少女戦争を悲観していたものだったのかもな。
「カイト、早くダンジョン入ろうよ」
『そうだよ。愛しのエリンちゃんが俺を待ってるんだから』
「もしかして、カイトも意外と怖がりだったり?」
アクアが木の根の近くにあるダンジョンへの入り口の前に立って言う。
「僕が最初に入ってあげるよ」
「こんなガチャガチャしてるメンバーで怖いも何もあるかよ」
「はい、こうゆう感じでいいかな?」
ファナが手のひらに光の玉を出して、浮かべる。
「おぉ・・・」
「さ、いきましょ」
5人と、魔神1柱でダンジョンの中へ入っていく。
「ラインハルト、一人で突っ走るなよ」
「あははは、高ぶる気持ちが抑えきれず」
ラインハルトがマントを後ろにやって振り返った。
「ダンジョンはそこそこ仕掛けがある。バラバラになったら面倒だろ。地図はさすがに配布されていないか」
『大地の神カプリニクスの木とそっくりだったけど、中は全然違うね。ナニコレ、レプリカ?』
「あまり触るな。動き出すぞ」
『へぇ・・・2,4,6・・・18体か』
カマエルが両脇にある戦士の像を数えながら言う。
「うんうん。僕はゲームでダンジョンをプレイして来たからわかってるよ。何かボタンがあって、押しちゃったりするんだ」
「初耳だな」
「カイト程はやりこんでないけどね。そこそこ強いと思うよ」
アクアがファナの出した光の玉を少し大きくして、自慢げに話していた。
「私はゲームわからないからなぁ。ねぇ、作戦立ててから進もうよ。フォーメーションとか」
ノアが台座に座る。
カチッ
「え・・・・」
空気が止まった。
ノアの手が魔法石が埋め込まれた出っ張りを押していた。
「やっちゃった・・・・かな」
ゴゴゴゴ ゴゴゴゴ
「きゃっ」
「ノア!」
ノアの座っていた台座が回転して、壁の中に入っていく。
ギリギリ掴もうとして、ノアに手を伸ばしたときだった。
「っ・・・!」
体勢を崩して、俺の体も壁の中に吸い込まれていった。
「カイト!!」
ファナとアクアが同時に叫ぶ。
ガタンッ
壁が閉じて全く向こうの物音が聞こえなくなった。
ルートから外れたっぽいな。
モニターを出そうとしたが、急に全く反応しなくなってしまった。
「モニターも表示されないな。電子の感触はあるんだが・・・」
大地の神カプリニクスの力が強いからか?
― 光―
「ごめんね」
ノアが光の玉を出して、台座から降りた。
「カイト、大丈夫?」
「いや、いい。ダンジョンに入る前に配置を考えておくべきだった」
壁に手を置く。
完全に罠にはまったな。
「まぁ、向こうにはファナもカマエルもいる。問題ないだろう」
「うん」
「俺たちは俺たちでダンジョンの最下層を目指す。こっちも行き止まりではなさそうだし、このまま進んでみよう」
ノアの出した光の玉がダンジョン内を照らす。
壁一面岩に囲まれている。岩の台座の裏側に階段があった。
「あの階段から・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴ
「!?」
壁際にあった岩の四本の柱が勝手に動き出した。
ノアが服をつまんでくる。
「ゲームのダンジョンって感じだな」
「ゲームって初めてだからわからないこと多いかもしれないけど」
ノアが大剣を出した。
「あの動いてる岩、砕いちゃえば問題ないよね? そこの階段で降りたいんだから」
「いや、そうゆう問題じゃ・・・」
シュンッ
「へ?」
床の底が抜けた。
「きゃー」
ノアを抱える。
「っ!?」
ダンジョンでは魔力の使い方が異なる。
浮遊魔法が上手く練れなかった。
下は水か!?
バッシャーン
「ふは」
顔を出す。
ノアの出した光の玉がふよふよしながら部屋を照らしていた。
木の根に囲まれたぬるま湯の中に入っているようだった。
「ノア、無事か?」
「大丈夫・・・・ダンジョンわからなすぎるよ。か、カイト、私泳げるから」
「あ、あぁ・・・」
ノアがぱっと離れて、泳ぎながら木の根に上がっていた。
スカートの水を軽く絞っている。
「ダンジョンには様々なトリガーがあるんだよ。今はノアの大剣の魔力とダンジョンの魔力が反応して、トリガーを蹴ったんだ」
水は綺麗だったが、服が重くて泳ぎにくかった。
「はぁ・・・・」
「災難だね。まだ入ったばかりなのに、服びしょびしょで・・・って」
「・・・・・・・・・」
魔法少女の服が透けて、ほぼ全身が見えていた。
ノアの顔がみるみる赤くなっていく。
「だ、男女が2人、で、そそそそそ、そうゆうことになったら駄目だからね!」
「ならないって」
「でも、今じっと見てた。わ、私の乳首が立ってるって気づいたでしょ? さ、さっき胸が当たったときにそうなっちゃって・・・あと、ほんの少しだけ感じちゃったのも、気づいた?」
「知らないって。つか、自分で解説するなよ」
「・・・・・だって・・・・」
ノアが顔を真っ赤にして、胸を押さえていた。
「ノア、服は魔法で乾かそう。このままじゃ風邪ひくからな」
透けた服の首元に1129の文字が見えた。
ノアが髪で首を隠す。
「・・・カイト、今、エロい目でこっち見てたよ。絶対見てた」
「見てないって。ほら乾かすぞ」
「ひゃっ」
― 疾風竜巻 ―
サアアァァアアア
「おぉ・・・すごい」
乾いた風が竜巻のように俺たちを包んで、衣服の水滴を蒸発させていった。
ノアが拍手をする。
「乾いてる・・・カイトって本当に色んな魔法使えるね」
「この魔法を使ったのなんて大昔だ」
リリスが泉で溺れたときだったな。
俺が木に登って本を読んていると、リリスがよく追いかけてこようとして勝手に溺れていた。
今はリリスも覚えているかわからないけどな。
「カイトって謎が多い・・・この魔法もロストグリモワールに書いてあったの?」
「謎もないし、これはロストグリモワールに載っていた魔法でもない」
後ろに手をついて足を伸ばす。
懐かしい木々の匂いがした。
「それに謎が多いのはお互いだろ」
「っ・・・・・」
ノアが視線を逸らす。
「別に聞き出そうとしてるわけじゃない。どこの何者が敵であろうと、ロンの槍を手に入れるのはリリスと俺だ」
「そうだね・・・」
立ち上がろうとすると、ノアが膝を抱えて座り直した。
「ねぇ・・・カイトは今回の魔法少女戦争勝てると思う?」
「なんだよ、今更」
「不安じゃないの? 私みたいな・・・異質な魔法少女とか、AIの魔法少女とか、プレイヤーとか、色んなことが今までと違うんでしょ? 私は・・・自信ないよ・・・」
消え入りそうな声だった。
「今も、仲間の誰か死ぬんじゃないかって怖くて仕方ない。私、優秀だから魔法少女になったはずだったんだけど、本当は欠陥品だったのかな」
自虐交じりにほほ笑む。
「・・・・・・・・」
魔法少女実験被験者No0005と会ったのもあるのだろう。
あれから、ノアはなんとなく俺たちから距離を置いているように見えた。
「ロンの槍を手にするのは俺だ。七陣魔導団ゲヘナだ。リリスを見つけて、必ず魔法少女戦争に勝利する」
語気を強めた。
大きな木の根に手を置いて、自分に言い聞かせるように話していた。
「・・・私、役に立てると思う?」
「当然だ。グダグダ悩むなよ、行くぞ」
ノアの手を引いて、立ち上がらせた。
「うん」
水がぴちゃんと音を立てて、波紋を広げていた。




