70 記憶の無い魔法少女とノアの不安
「エメ、どうしてお前はセレーヌ城下町の者と襲撃に来なかったんだ?」
「・・・・・・」
セレーヌ城の門の前に、オーバーオールを着た道具屋の娘、エメが立っていた。
「・・・気づいてたんだ」
「みんな結婚式に協力的だったセレーヌ城下町の奴らの中で、君だけ道具屋で仕事をしていた。誰もいないのにな」
「そっか、おかしいよね。結婚式、見たかったんだけどね。操られていると思うと動けなかった」
腕を組んで壁に寄りかかる。
「私、バグなの。元々コードが違う。だから、あの男の策略通り動かなかったんだと思う」
「へぇ、バグねぇ・・・」
「『RAID6』の城下町の住人はまた戻って来る。ゲームの進行上、この街には住人がいなきゃいけないみたいだからね。プレイヤーを案内する役割もあるんだ」
エメが淡々と言う。
「私のお父さんもあと数時間で戻って来る。もちろん、ここであった記憶はない、同じだけど新しいお父さんだよ」
そう、AIのポロが話していたらしい。
「私もここであったことは忘れなきゃね。AIはAIなりに大変なんだよ」
「七陣魔導団ゲヘナにも、ゲームから来た魔法少女がいる」
「・・・・・?」
エメが首を傾げる。
「こっちへ来るか? な、カマエル」
『まぁ、カイトがいいならいいよ』
カマエルが翼をたたんで降りてきた。
『君は頭もキレるみたいだし、薬学にも精通している。魔法少女たちとも馴染めるだろう』
「・・・ううん・・・私モブキャラだからさ」
エメが少し悩んで、首を振っていた。
「ありがとう。私にそう言ってくれただけで十分だよ。何事も無かったように、城下町で薬を作る日常に戻るだけ。そのほうが楽だからね」
「・・・・・」
カマエルと目が合った。
「・・・そうか。じゃあ、プレイヤーが来たときはよろしくな」
「その時はうちの商品も買っていってよ! どうぞ、御贔屓に」
「はいはい」
急にエメが明るくなり、商人のような口調になった。
「じゃあね」
エメが軽くほほ笑んで手を振ってきた。
たった一人で、門の前の橋を渡り、セレーヌ城下町へ戻っていく。
『カイト・・・あの子さぁ・・・』
完全にいなくなったのを確認して、カマエルが声を出した。
「魔法少女だな。記憶が無いのか?」
『嘘ついてる感じも無いしね。まぁ、なぜなのかはわからないけど、敵でない以上、深入りする必要はない』
「だな」
あくびをしながら、セレーヌ城に戻っていく。
カマエルが城下町の様子を聞いてきたが、適当に話を合わせていた。
頭が働かない。
『RAID6』に来てからほぼ休んでいなかった。
眠気が限界まで来ていた。
夜のセレーヌ城は静かだった。
ぼうっとした、夢を見ながらリリスが今何をしてるんだろうと考えていた。
俺たちは、本当にロンの槍を手に入れて、魔法少女戦争を終わらせることができるのだろうか、と。
「おはよー、カイト」
ノアの声で目を覚ます。
「珍しいな。つか、ステラ!」
「ん? なんだ? 朝っぱらから」
布団の中からもふもふの毛に包まれた尻尾をぴょんと出す。
「なんでここに寝てるんだよ。自分の部屋、あるだろうが!」
「あんな寒いところに置いて、我を殺すつもりか?」
「分厚い毛布があるだろうが」
「それでも寒いぞ。ここのほうがあったかい」
ステラが向きを変えて、布団にくるまっていた。
「カイトって、ロリコンでケモナーだったりする?」
「・・・今の会話聞いてたか?」
「・・・・この距離感は通報できる気がする」
ノアがじーっとステラのほうを見ていた。
「んなことより、俺に何か用事でもあったんじゃないのか?」
「あ・・・・」
体を伸ばしながら、ベッドから離れる。
「AIのポロが魔法少女の前に現れたの。プレイヤーのログインが始まったって」
ノアが自分の前にモニターを出す。
「話ではプレイヤーは初回アイリス王国から入って来るんだって。空軍が作って作れた地図をなぞると、ここから・・・」
「南へ山2つ越えたところにある王国だな」
「うん。よくわかったね。カイト、地図頭に入ってるの?」
「まぁ、暇なときはずっと見てたからな」
如月タツキのいる『黄金の薔薇団』の手がかりを探そうとしていたが、まだ見つかっていない。
窓を開けて、風を通す。
「プレイヤーがどんなものなのか、探りを入れないとな」
「うん!」
「こうゆう話をノアが真っ先に伝えてくれるのって珍しいな。いつもはファナかティナなのに・・・」
「私が行くって手を上げたからだよ。カイトと話したくて・・・」
ノアがベッドに座って、ステラの毛を撫でていた。
ステラがまんざらでもなさそうにお腹を向けて転がっている。
「ルナリアーナのこと、初めて知った・・・魔女の家系だったんだね」
「『自分が魔法少女研究機関出身の魔法少女だって気づかれてないか』を、俺に聞きに来たのか?」
「えっ!? カイト、私の心読めるの!?」
「勘だ、勘」
「そうゆう隠し能力があったりして・・・」
「無いって。ノアが顔に出やすいんだよ」
ノアが疑いの目をこちらに向けていた。
「まぁ、気づかれていたとしても別に大した問題じゃない」
「も・・・問題だよ! だって、純潔の魔女の家系は、私みたいな作られた魔法少女を一番嫌うんだよ! 異端だって・・・」
両手を握り締めながら言う。
ステラが尻尾を左右に振りながら眠っている。
「ううん・・・きっと、魔法少女みんな、私のこと嫌うよ」
ノアが両肘を押さえながら震えていた。
「やっぱり、ここに居るべきじゃない」
「そんなことないって言ってるだろ。ノアは必要な存在だ」
「それは・・・・リリスのため・・・?」
ノアが真剣な顔をこちらに向けてきた。
「・・・・・・・・・・・」
視線を逸らす。
ジジジジ ジジジジ
『こんにちは。AIのポロです』
「うわっ・・・」
ノアがソファーから落ちそうになった。
『驚かせて申し訳ございません』
モニターの横に、ちょこんとポロが現れる。
「妖精!?」
ステラが毛を逆立てる。
『AIです。ダンジョンが出現します。プレイヤーと協力し、攻略するのが魔法少女にとって最善でしょう。ダンジョンには『RAID6』で使用できる武器や防具が眠っており、手に入れると、魔法少女戦争を有利に進めることができます』
「ダンジョン・・・・?」
『はい。詳細はプレイヤーが知っています』
ポロが淡々と答えていた。
飛び掛かろうとするステラを、ノアが止める。
「そのダンジョンには何がいる?」
食い気味にポロに聞いた。
「魔法少女は全員移行できたのか? 移行できない魔女がいたとしたら理由は・・・」
『貴方が何を知っているかはわかりませんが、答えられません。コードの操作などで、無理やり聞こうとするなら、ペナルティが課されます』
「っ・・・・・・」
『ここは電子世界『RAID6』ですから』
ポロが冷たく言って、ノアの目線に飛んでいく。
『プレイヤーや配信について聞きたい場合は、気軽にお呼びください。では、失礼します』
シュンッ
「我はあいつが気に食わぬ。母もあいつが嫌いだった」
ステラが尻尾をぴんと伸ばしながらポロがいなくなった場所を見つめていた。
「ただ『RAID6』を案内するアンドロイドだよ。危害は加えてこない・・・たぶん・・・・」
「フン・・・・」
ノアの膝の上に戻って、丸くなっていた。
「カイトが言ってた魔法少女の話って・・・」
「まぁ、そのうち話す」
「カイト・・・」
未来を予知できるルピスの能力について、知っているのは俺とカマエルだけだ。
他には言わないように話していた。
ドアノブに手をかける。
「行くぞ。朝食があるんだろ?」
「カイト・・・私のことは・・・・」
「七陣魔導団ゲヘナに不利益を及ぼすと判断したときは殺す。他のメンバーには言わない。これでいいだろ?」
「・・・・・」
ノアが俯いたままこくんと頷いた。
「ふむ。焼きたてのパンの香りがしてきた。我も行く」
ステラがぴょんと飛び上がって隣に降りてきた。
廊下にこんがり焼いた、甘い香りがしてくる。
「調子いい奴だな」
「我は母みたいにみんなのアイドルになりたい。母もよく美味しいものを食べる配信やってた。食べ方が綺麗だって人気だったんだぞ」
「へぇ・・・腹の中から聞いてたのか?」
「そうだ。すごいだろ?」
ステラが誇らしげに言いながら廊下に出ていった。
しばらくして、ノアが駆け寄って来た。




