65 300年ぶりの結婚式②
「永遠の愛か・・・」
美憂がセレーヌ城の門を歩きながら呟く。
久しぶりに、パーカーを羽織った美憂を見た気がした。
「憧れるなぁ、純白のドレスと永遠を誓う2人・・・」
うっとりとしながら言う。
「好きな奴でもいるのか?」
「いたらおにいは寂しがるでしょ? 意外とシスコンだもんね」
美憂がいたずらっぽく笑った。
「別に寂しくはないって。つか、俺がシスコンってどこの情報だよ」
「本当に?」
首を傾げてみせる。
「本当だ。好きな人がいたら付き合ったりすればいいし・・・ただし、変な男は連れてくるなよ」
「変な男ってどうゆう?」
「まず、チャラい奴は駄目だな。あと、二股かけるような奴、金銭は稼げるくらいの頭脳が無いと駄目だ。とにかく優し奴にしておけ、美憂の言うことをなんでも聞いてくれる奴だな。それと、極端に年齢の離れてる奴も避けてほしいが・・・」
「ストップ! ストップ! そんなに一度に言われたら、選べなくなっちゃうって」
「まぁ・・・そうだな」
美憂は昔からモテるが、好きな人の話は聞いたことなかった。
「おにいが認めてくれる男なんているのかなぁ・・・もう、おにいが私の好きな人決めてよ」
冗談っぽく言いながら、城下町への橋を渡っていた。
「あ」
「素敵な音楽」
突然、風に乗って音楽が聞こえてくる。
ケルト民謡のような、どこか懐かしさを感じる曲調だった。
音楽に合わせて、周りの大人や子供が踊りだしているのが見えた。
赤子から、老人まで幅広い年齢層の者がいた。
「いいなぁ、冒険って感じでワクワクするね」
「あぁ、城下町はゲームやってるみたいだな。あの、一番大きな建物はギルドにあたるんだろうな」
「うんうん!」
美憂が体を弾ませて、きょろきょろしていた。
城下町にいるのは、大体500人程度だろうか。
これから増える可能性もあるけどな。
泉の女神エリンの祭りを思い出していた。
カマエルがこの場にいれば、煩く言ってくるだろう。
「セレーヌ城下町名物のパンも作り立てだよ。いらっしゃい、いらっしゃい!」
「ひとつくださーい」
「はい、まいどあり」
おばさんがパンを袋に詰めていた。
「ここは最高の道具が置いてあるよ。開店セール中だ」
「武器屋だよ。寄っておいで、戦闘の前には装備品チェックだ」
呼び込みの声がそこら中から聞こえてくる。
城下町は活気づいていた。
ゲームの中とはいえ、誰もいなかった城下町に人が入ると全然違うな。
「パンのいい香り。ねぇ、おにい。お土産に買っていこうよ」
「ねぇ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
小さな子供が俺と美憂の服を引っ張った。
「セレーヌ城から出てきたの?」
「そうだよ」
「じゃあ、魔法少女様?」
魔法少女様?
美憂と目が合った。
「こら、モモ。はぐれちゃうでしょ。すみません。あ・・・」
おばさんが子供の手を引いて顔を上げた。
「貴方様は、セレーヌ城の王、カイト様ですか?」
「え? あ・・・あぁ」
「カイト様!?」
周りの者たちが一斉にこちらを見る。
音楽がぴたりと止まった。
「カイト様がこのセレーヌ王国をお守りしていると聞いております。直々にこうして城下町に来てくださったとは・・・」
「あ・・・・あぁ」
勢いに押されて一歩下がる。
ぼさっとしていた美憂を後ろにやった。
「今後ともセレーヌ王国をよろしくお願いします」
「俺たち、この平穏なセレーヌ城に来れて幸せです。カイト様の王権が末永く続きますように!」
オオオォォオオオ
歓声が上がる。
いつの間にか、俺たちの周りに人だかりができていた。
「・・・・・・」
身構えた。
ゲームの仕様上、俺はこの者たちに王と呼ばれる設定になっているらしい。
敵ではない・・・とみなしていいのだろうか?
確認してみるか。
「ありがとう。正直、セレーヌ王国に来てくれた者たちに、王として受け入れてもらえるか心配だったんだ。王と呼んでくれて嬉しいよ」
軽く咳払いをして、大げさに演技をする。
「とんでもございません」
「お、おにい?」
「セレーヌ城にいる魔法少女のことは認識している、であってるかな?」
道具屋の店長らしき恰幅のいい男に声をかける。
「もちろん。セレーヌ城にいる魔法少女様、戦士様たちのことも存じております。彼らのおかげで、今の俺たちが平和に過ごせているのですから」
「ここにいる者で、魔法少女様のこと知らない者はいないよ!」
道具屋からオーバーオールを着た少女が出てくる。
黒縁眼鏡をかけて、帽子を被っていた。
大体、美憂と同い年くらいか。
「エメ。薬草の調合は終わったのか?」
「完璧だよ。あとはお父さんが確認して。1ミリの調合ミスも無いから! お父さんと違ってね」
「はぁ・・・相変わらず、気の強い娘だ」
エメが言うと、周りの大人たちが笑っていた。
何年も前からの付き合いのように振舞っている。
ずっと前からここに居たんじゃないかと、錯覚しそうになるな。
「・・・・・」
美憂がエメと男のやり取りを見て、視線を逸らしていた。
「あー、そうそう。セレーヌ城にいる魔法少女の1人が結婚するんだ。明日、式を上げることになっている」
「なんと!?」
「めでたい話だなぁ。魔法少女様が結婚とは」
パチパチ パチパチパチパチ
どこからともなく拍手が沸き起こる。
「せっかくだからセレーヌ城下町にいる者たちにも盛り上げてもらいたいんだ。結婚式は愛する者たちを祝福する門出の儀式。見守ってくれる者は多いほうがいいだろう」
「おにい!」
「無理にとは言わないよ。どうかな?」
美憂を制止するように、ほほ笑みながら言う。
「王様自ら我々に声をかけてくださるなんて・・・」
「もちろんです。是非、参加させてほしいと思います」
「私も! ケーキ作りなら任せてください。とびきり美味しいものを振舞います!」
エプロンをしたおばさんが声高らかに言う。
「城下町を上げて盛り上げよう! いいな!」
オォオオオオオ
道具屋の店長が呼びかけると、皆、盛大に声を上げていた。
祭りの前日のような雰囲気が広がる。
「楽器隊は僕らに任せてくださいね」
「バイオリンだけじゃなく、ピアノやオルガンも弾けるので」
「上質な式に、音楽は付き物ですから」
さっきまで音楽を奏でていた者たちがこちらに駆け寄ってくる。
「あぁ、2人も喜ぶよ。あ、美憂」
「っ・・・・・」
美憂が無言のまま、すたすたとセレーヌ城のほうへ歩いていく。
「細かい指示は後で。みんなの協力、感謝するよ」
早口で言って、美憂の後をついていった。
「待てって、美憂」
美憂がセレーヌ城門前の橋の途中でくるっと振り返った。
「ひどい! ルーシィとガルムの結婚式を利用しようとしてるんでしょ? 2人の結婚式を挙げるっていうのも、全部、城下町の住人を試すためだったの?」
「美憂・・・」
「そんなのおにいらしくない!」
目を潤ませていた。
「・・・どうしちゃったの? おにい、昔は人を利用することなんかなかったでしょ?」
「美憂、お前が俺のことをどう思っているかわからないが、これは戦争だ。城下町にいる奴らが本当に味方なのか調べなきゃいけない」
「だけど・・・!!!」
「俺には七陣魔導団ゲヘナの魔法少女を守る義務がある」
低い声で言う。
美憂が口をつぐんだ。
「安全を確保し、目的を達成するためなら、どんな手でも使う」
「・・・・・・」
美憂は魔法少女戦争ではリリスやファナと同等の実力を持つ魔法少女だ。
潜在能力は一番かもしれない。
でも、優しすぎる。
美憂には魔法少女戦争の記憶がない。
優しいがゆえに、今まで何度魔法少女戦争に参加しても勝ち残れなかった。
「何度も言ってるが、これは、ゲームじゃないんだ」
「・・・わかってる・・・・。私に覚悟がないって言いたいんでしょ? 確かに、感情的になったのはごめんだけど・・・」
視線を逸らしながら口をもごもごさせる。
美憂の頭に手を置いた。
「悪いな。理想の兄になれなくて」
「そ、そんなこと・・・・」
「でも、美憂は必ず守るよ。どんなに嫌われてもな」
美憂の声を聞く前に地面を蹴った。
マントを後ろにやる。
靴の裏に浮遊魔法を展開して、セレーヌ城のバルコニーのほうへ飛んでいった。




