6 伯爵の槍(グレンスター)
「いい加減泣き止んだら?」
「だって・・・・」
「うーん、如月カイト、どうにかしてくれ」
「俺に丸投げするなよ」
バトルフィールドから戻って来ても、花音はしばらく泣いていた。
リリスが首から下げていた鍵を服の中に入れる。
「じゃ、本借りに行こう」
「あの本なら、たぶん美憂が持ってるよ。表紙にケーキが載っていたやつだろ?」
「そうなの? 早く帰らなきゃ」
「切り替え早すぎだろ。つか、学校行って戦闘ってマジで息つく暇も無いな」
頭を搔く。
リリスが手を引っ張ってきた。
「私、カイトについていく」
「えっ!?」
ナナキと俺が同時に言った。
「カイトとリリスを見て、それでも魔法少女になりたいと思ったら、魔法少女になってもいいんでしょ?」
「・・・それは・・・」
ナナキが困惑したような表情を浮かべていた。
「それもダメなら、お供えにクッキーあげないから。一生」
「げっ・・・・一生!? それはキツい・・・」
「決まりね」
花音が目を擦って、ほほ笑んだ。
「クッキーが好きってことは西洋のほうの神? ナナキは真名じゃないのね」
リリスが首を傾げた。
「詮索禁止だ」
「もしかして真名を忘れた神?」
「ノーコメントだ」
「えー」
ナナキが視線を逸らした。
「ねぇ、友達になろう。リリス」
「と・・・友達?」
花音が柔らかくほほ笑んで、リリスの両手を掴んだ。
リリスがびくっとする。
「怖くないの? 私のこと・・・・」
「戦ってるリリスは怖かった。でも、リリスは悪い魔法少女に見えない」
「・・・・・?」
リリスが目を丸くして、硬直していた。
「じゃ、俺は帰るぞ」
「あ、カイト待って」
「私も行く。ナナキも、ほら・・・」
リリスと花音が走ってついてきた。
「花音が行くってことは、俺も行くのか。面倒くさいな」
ナナキがぶつぶつ言いながら飛んでくる。
ズン・・・・
「!?」
「ん? どうしたの?」
「嫌な予感がする。リリス、スマホに入っててもらえるか?」
「魔法少女? 私強いから大丈夫だよ!」
「命令だ!」
強い口調で言う。
「う・・・主の言うことは絶対・・・わかった。何かあったら、すぐに呼んでね」
リリスがぱっと光を散らして、スマホの中に入っていった。
ナナキが隣に並ぶ。
「君の勘、当たってそうだよ。よく気づいたね。まるで・・・・」
「説明してる時間は無い」
「あ、待ってってば」
走って校門を出ていった。
花音が慌ててついてくる。中学のときの奴らが花音といることをなんか言ってきたが、何も聞こえなかった。
一刻も早く家に・・・。
ガチャッ
「美憂!!!」
部屋は暗く赤い光が走り、壁には美憂が磔にされていた。
蔦のようなもので縛られている。
地面がドロドロした黒い魔力が水のように流れている。
「お・・・おにい・・・」
美憂の前にはおかっぱ頭の白い服を着た男と、黒いシスターのような服を着た魔法少女が立っていた。
魔法陣の中からは何かが出てこようとして、頭が出てきている。
「っ・・・・七陣魔導団ゲヘナ」
ナナキがぼそっと呟く。
「カイト!!」
ポケットに入れたスマホから、リリスの声が聞こえる。
今、リリスを出すのはまずい。
「ヒーヒヒヒヒ、貴方が如月カイトですか」
おかっぱ頭の男が目を見開いて高笑いをする。
「妹に何をしている!?」
金の指輪に触れながら、詠唱をする。
― 斬炎剣 ―
「カイト?」
「今すぐ妹から離れろ!」
ザッ
「かっこいい・・・カイト様」
魔法少女が剣を出して、俺の剣を止める。
短いくるんとした髪が揺れた。
西洋の人形と見間違えるくらい、美しい顔をしている。
「彼女には魔神と契約し、魔法少女となってもらう」
「駄目だ。美憂に関わるな!!」
「妹想いのお兄ちゃん。ますますかっこいいです。惚れてしまいます」
剣をまとっていた、炎の魔力が塞がれていく。
こいつ、戦闘慣れしているな?
「そこのぉ、ぼうっとしてる奴らも魔法少女ですか? 邪魔ですねぇ」
ドドドドッドドッドドドド
おかっぱ頭の男が両手を広げて、弾丸のようなものを撃った。
ナナキが緑の髪を揺らして、巨大なシールドを張った。
しゅうぅうううう
「馬鹿が。俺は神だ」
腕を組んで花音の前に出た。
「こいつは魔法少女じゃない。見学者だ」
「・・・・・」
花音が硬直して動けないでいた。
「なるほどなるほどぉ・・・じゃ、仕方ないか。契約ですからね。その魔力、魔法少女になれば解放されるものを」
「アモデウス様、どうしますか?」
キィン キィン キィン・・・
美憂を縛った草が、鉄のように襲い掛かって来た。
剣で弾くので精いっぱいだ。
まだ、魔力を上手く練られない。こいつらが来る時期が早すぎる。
「クソッ・・・・」
美憂に近づけなかった。
「美憂! 聞こえるか!? 美憂!!」
美憂は気を失っていた。
あの蔦に力を奪われているのか。
この魔法少女を殺せば・・・。
ガッ
「!!」
急に体が引き寄せられて、魔法少女の前に行く。
「彼、もう魔法少女と契約しているようです」
「離せ・・・・」
「残念です。私だけ、私だけが彼と契約したかったのに。私と契約しませんか? 私は契約者を探してる魔法少女、七陣魔導団ゲヘナの一人、ルナリアーナです。次の満月までに主を探さなければいけません。貴方の魔力なら二重契約も許されるでしょう?」
体が動かない。
ひんやりとした手で頬を撫でられる。
「冗談じゃない!」
吐き捨てるように言う。
「ナナキ! 私を魔法少女にして! カイトを助けたいの!」
「駄目だ。それに、カイトは元々助けなんかいらない」
「へ?」
後ろのほうで花音とナナキの声が聞こえた。
「神が現れぬな。やはりここで魔力が足りないのか?」
「あ! アモデウス様。彼とエッチなことしてもいいですか? 欲望が高まれば、魔神も姿を現すはず!」
ルナリアーナが興奮気味に言う。
「ね、ね、カイト様」
「するかよ!」
「ルナリアーナ・・・」
「駄目!!!!」
花音が叫ぶ。
「や、や、やめて!」
「へぇ・・・あの子、君の恋人ですか? カイト様のことがずっと好きだったのですね。愛と欲望の鼓動が聞こえます」
「っ・・・・」
花音の頬が真っ赤になっていた。
「でも、愛に時間は関係ないと思います。ね、カイト様」
「・・・やめろ。お前に興味はない」
「嫌って言われると、もっと奪いたくなっちゃう。私、清純に見えて、結構大胆なんですよ」
唇を重ねようとした瞬間、ぴたっと止まる。
「後でやれ。色欲のルナリアーナ。それより、降りるぞ」
「はーい。じゃ、後でね。行きましょう、カイト様」
魔法陣を展開した。
「カイト、今すぐリ・・・」
「これを・・・頼む」
指で言うなと合図をする。
力を振り絞って、ポケットからスマホを出して廊下を滑らせた。
ナナキが受け取る。
シュンッ
「カイト!!!!!」
花音の叫ぶ声が聞こえる。
身体が浮くようにして、真っ暗などこかへ落ちていった。




