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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第一章 魔法少女戦争のはじまり
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4 リリスのバトルフィールド

 俺は戦闘しなくていいのかと聞くと、リリスは何もしなくていいと答えた。

 自分は強いから、主は戦う必要ない、と。


「授業、面白かったね!」

「ほとんど寝てたくせに」

「数学は好きなの。でも、料理は苦手で、今、勉強中なの。美味しいケーキを焼くのが夢かな。私、火加減が得意じゃないから」

 リリスは見えないことをいいことに、空中に布団を出して寝ながら授業を見ていた。

 羨ましくなるくらい自由だ。


「わぁああああああ! こんなに本があるの? こっちにも? こっちにも?」

「静かにできないのかよ」

「だって、私の声は聞こえないもん」


 リリスが図書室に着くと、飛び跳ねて本棚に走っていった。


「はい、返却ですね」

「お願いします」

 

「カイト、見て! こっちの本棚全部ファンタジーなんだって。こっちの棚は科学分野の本ばかり!」


 図書委員が出してきたカードに名前を記載する。


「新たに本を借りていきますか?」

「そうですね」

「では、カードはこのままで」


「この棚は料理の本ばかり、こっちの世界は料理がおいしいんだよね。これ、ミートローフのレシピが載ってる! お菓子の本も・・・すごいすごいなぁ」


 カードを持って、ため息をつく。

 リリスが本を目の前にすると驚くほどうるさい。

 借りる本はじっくり選びたかったけど、早く決めて帰るしかなさそうだな。


「リリス、借りられる本は1冊までな。俺も1冊借りたいから」

「はーい! どれにしようかな?」 

 蒼い瞳を輝かせて、本の表紙をなぞっていた。


「カイト」

「あ、花音か。久しぶりだな」

 成瀬花音は幼稚園からの幼馴染だ。

 中学で難関私立中学に入って以来、疎遠になっていたが、高校で同じクラスになってからたまに話すようになった。

 長い黒髪を2つに結び、身長は低く、まだ小さいの頃の面影が残っていた。


「花音?」

 リリスが隣から顔を出す。


「久しぶりって・・・その子、魔法少女でしょ。まさか、カイト、魔法少女と契約したの?」

「花音も?」

「ううん・・・私は・・・・」


「違うよ」

 花音の後ろから、12歳くらいの少年が現れた。

 緑の髪に白い服を着た、不思議な少年だった。


「あー、俺? 俺は名もなき神だ。ナナキって言われてる。花音の祖父の代から呼ばれて、家を守りながら、魔法少女になる子が出てくるのを待ってる感じかな」

「神のほうから人間について回るとはね。ナナキ、日本に来てたの?」


「へぇ、君はまだ現役の魔法少女だったんだ?」

 ナナキがリリスに近づく。


「その子を魔法少女にしたら?」

 リリスが花音を指す。


「魔法少女になれば、結構上位まで戦えるように見えるけど? 契約したほうが神としても都合がいいんでしょ?」

「興味ない。ロンの槍なんか誰が持ったって同じだ」

 ナナキがすっと飛んで、近くの机に座る。

 

「いいの? 魔法少女戦争は始まってるのに」

「今回はパスするつもりだ。こうやって傍観者として、魔法少女の戦いを見ているのも、なかなか興味深いからね。三賢のリリス」

「三賢?」

 リリスに聞き返したが、何も言わなかった。


「一方的な情報開示は不正よ」

「魔法少女同士はね。俺は神だ」


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 リリスとナナキが無言で睨み合っている。


「・・・どちらにしろ、魔法少女になんてならないほうがいいわ。人間じゃなくなっちゃうんだから。普通の女の子として生きるほうが、どんな魔法を使えるよりも幸せよ」

「リリス・・・」

 リリスが自分の指先に青い炎を灯しながら話していた。

 リリスはどんな契約で魔法少女になったのか、まだ聞いていなかったな。


「でも、私は魔法少女になりたいの」

 花音が小さな声で言う。


「え・・・?」

 リリスと俺が拍子抜けしたような声を出す。

 ナナキが顔をしかめた。


「魔法少女は神との契約、魔法少女になり神の遣いになる代わりに、願いを叶えてもらえるんでしょ?」

「だから、そうゆうしょうもない願いは・・・」

「しょうもなくない!」


「花音、声が大きいって」

 慌てて口に手を当てる。

 近くで本を読んでいた生徒数人がちらっとこちらを見ていた。


「外で話そう」

「うん」

「カイト、私の本は?」

 リリスがケーキ作りのレシピ本を持っていた。


「後でな」

「はーい。誰かに借りられちゃったらどうしよう」

 名残惜しそうに、棚に戻す。

 花音が転びそうになりながら自分の鞄を取りにいって、空いたファスナーから本を突っ込んでいった。

 



「えっ!?」

 思わず声を出してしまった。

 花音が校舎裏のベンチで制服のリボンを触りながら言う。


「マジで言ってるの?」

「うん。私、Vtuberになって有名な配信者になりたいの」

「・・・・・・・」

 ナナキが頭を搔いていた。


「1年半、Vtuberとして活動してるんだけど、なかなかバズれなくて」

「やってるの? 初耳なんだけど」

「うん。あ、花音せりかって名前なの。登録してね」

 花音がキラキラ装飾されたスマホの画面を見せてきた。

 白い猫耳のついたロリータ系のアバターが映っている。

 

「登録者3人・・・って、1年半やってたんだろ?」

「カイトが登録してくれれば4人になるよ」

 花音が明るく言う。

 たぶん、全く才能が無いんだろう。


 容姿端麗、成績優秀でかすんでいたが、花音って昔から夢見がちだったな。

 ファンタジー魔法研究部とか、怪しげなクラブにも入っていたし。


「俺はそのVtuberだなんとかって知らないけど、あまりしょうもない理由で魔法少女にしないようにしてるんだ」

「私は真剣だよ! ナナキ!」

「なんでいきなりVtuberになりたくなったんだ?」

「それはね・・・」




 ズズズズ・・・・


「!」

 リリスが首からぶら下げていた鍵を出す。

 埋め込まれた宝石が、エメラルドのように輝いていた。


「魔法少女ね。多いのかな?」

 リリスが鍵を回すと校舎や木々は無くなり、バトルフィールドが展開されていた。


「森?」


「そう、電子空間にもいろんな場所があるでしょ? 私は夜の森が得意だから。バトルフィールドは、先に展開した魔法少女の鍵に寄るの」

 いつの間にか杖を出して地面に魔法陣を展開していた。


「花音と俺は見学者だ。手出しできないからな」

「別にいらないもの」


 ジジジジ


「そのシールドは私が離れても威力は持続するようにしてあるから安心して」

「リリス・・・」

「魔法少女を炙り出してくる」

 リリスが俺の前にシールドを出して、大きな岩を飛び越えていった。

 木々の間からは月が見える、遠くで鳥が鳴いていた。


 木に寄りかかる。

 湿った草の匂いがした。ここが電子世界だなんて思えなかった。

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― 新着の感想 ―
最新話まで読ませていただきました! リリスとても強いですね~ それでいて、マイペースな性格なのも良かったです! 花音の魔法少女になりたい理由が、有名Vtuberになりたいというのは、つい笑ってしまいま…
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