3 戦闘
― 戦闘は突然始まる。
魔法少女たちは首から下げた鍵を回して、異世界空間を展開する。 ―
息を呑む。
全てが、本に書いてあった通りだ。
「今は電子空間に創られたバトルフィールド。大昔で言うところの闘技場のことね。その昔は、魔法少女に厳しかったから、森の中や海の中だったの」
リリスが手袋を押さえて、冷静に説明していた。
「私から離れないで」
「っ・・・・」
さっきまで教室だった場所は誰もいないタイル張りの広々とした空間になっていた。
リリスが杖を出す。
2人の魔法少女が現れた。
朝見た少女と、オレンジの衣装を着た釣り目の少女。
眼鏡をかけた男子高生の隣にいるのは、中学時代からの同級生・・・。
「如月も魔法少女と契約してたんだな。朝見てびっくりしたよ」
「あ・・・僕・・・・」
「田中、あいつは弱いからあまりビビるな」
「ミコは準備できた?」
「うん。魔力も十分」
「焦らないで行こうね。二人なら大丈夫」
魔法少女は緊張していたが、2人で大丈夫と言い聞かせていた。
「魔法少女戦争って言われてもわからないし、とりあえずお前で慣らしてもらえそうでよかった。弱すぎて相手にならないかもしれないけどな」
加茂が巨体を揺らして笑っていた。
「あの男って、カイトにひどいことをしてたよね?」
「ん? どうして知ってるんだ?」
「こう見えて、色々知ってるのよ」
リリスが得意げになった。
戦闘が始まろうとしているのに、敵に集中していなかった。
「主様、下がっていてください」
「私たちで彼女を倒します」
一人が杖を出して、一人は槍のようなものを出していた。
― XXX XXXXXX ―
ジジジジ ジジジジ
「?」
リリスが呟くと一瞬で俺の前に透明なシールドが現れた。
「主が死んでもゲームオーバーなの」
「・・・ここにいろってことか?」
「そう。私が片付けてくるから、カイトはそこで待ってて」
― XXXXX XXXXX ―
リリスが両手を広げて、地面に巨大な魔法陣を展開した。
2人の少女は逃げる間も無く、地面から出た黒い手に足を掴まれる。
ズズズズズズ・・・・
「きゃっ・・・何これ!?」
「うっ・・・力が吸い取られていく・・・」
「ミコ!」
田中が魔法少女に近づいていこうとした。
「うわっ」
「駄目です。主がここに来たら死んでしまう!」
田中と加茂がびくっとして下がっていった。
「圧倒的すぎる・・・抜け出さなきゃ」
「そうね。私の光魔法で・・・」
長い髪を振り乱して、杖を掲げる。
― 聖なる息吹 ―
ミコが黒い手を追い払おうとしていた。
黒い手は一瞬薄くなっただけで、元の形を保っていた。
不気味な魔法だ。
リリスは平然としている。
「契約した神は・・・西洋神なのね。でも、神々との結びつきが強くなきゃ、力は発揮できないよ」
リリスがふわっと飛んで、2人に近づく。
「これは魔法少女としてのアドバイス。あと、君・・・」
中学生の頃、いじめの主犯格だった加茂に近づいていく。
リリスが加茂の胸に手を当てる。
「!?」
「主・・・様・・・・」
「寿命、最低3年くらいかな? 削ったから」
「なっ・・・・」
リリスが手を放して下がった。
田中がぶるぶる震えて、その場に座り込んでしまった。
「私の主を苦しめた3年間、主の苦しみが続けば続くほど、貴方の寿命は削られるの。心の殺人は生命の死と直結するから、当然だよね。最近は、そこのところがわからない魔法少女が多いの」
「寿命が最低3年・・・それ以上?」
加茂が心臓を押さえて、脂汗をかいている。
リリスがこちらを振り返る。
「カイト、何か質問ある? 今みたいな流れで、戦闘が始まるの」
「無いよ」
「了解」
両手で杖を持って、2人の魔法少女を見下ろした。
「こんな、けた違いの魔力・・・貴女は一体何の神と・・・」
ミコが泣きそうになりながら、リリスを見上げる。
「ここは私の勝利」
リリスが杖を地面につける。
「あ・・・」
「!!」
2人を押さえつけていた、2本の黒い手が剣に変化した。
同時に心臓を突き刺す。
「ミコ!!!」
「主様、ごめんな・・・」
しゅううぅぅぅぅぅぅ
黒い剣に刺された魔法少女2人が呆気なく消えていく。
リリスが魔法陣を解いた。
黒い手が地面の中に吸い込まれるようにして無くなっていった。
「ミコ・・・ごめん、俺何もできなくて・・・・」
「くそっ、寿命まで取られるなんて。これじゃ参加するんじゃなかった。魔法少女戦争なんて」
加茂は魔法少女の名を呼ぶことも無く、自分の胸を押さえていた。
こちらに悪態を突こうとしていたが、リリスを見て、すぐに視線を逸らした。
「おーわった」
リリスが何もなかったように近づいてきて、俺に張っていた結界を解いた。
「怖かった?」
「別に。ゲームを見てる感覚だ」
「よかった。魔法少女はね、ゲームの登場人物だと思ってくれればいいの。魔法少女になった時点で、人間じゃないから。私も、ね」
淡々と言う。
そんなこと言うな、って言いそうになって口をつぐんだ。
俺の言葉はリリスの覚悟に比べて安っぽい。
生きるか死ぬか、魔法少女になった時点で彼女たちの運命は重かった。
「・・・・・・」
「戻るよ」
リリスが鍵を回すと、加茂と田中はいなくなり、教室は休み時間の風景に戻っていった。