39 魔法少女サイト④
「いや・・・・」
「そ・・・そんな・・・全く動けない。みんなは?」
「駄目、どう動いてもモニターも出せない・・・」
「私も・・・」
「え・・・・・・・」
さっきまで、リルムを嘲笑っていた魔法少女たちが声を震わせる。
5人の魔法少女たちは安寧の手に捕えられたまま身動きが取れなくなっていた。
モニターを出せなきゃ、助けも呼べないようだ。
「ミルムを殺したのはお前ら3人だな?」
「っ・・・・」
モニターを出して、名前を確認する。
魔法少女サイトで5人の顔を検索すると、名前と自己紹介文が出てきた。
ヒマリ、ノノ、マユミというらしい。
簡単な魔法を使うモーションまで紹介されている。
完全にキャラ扱いだな。
「ふうん・・・・反吐が出るな」
コメント欄は、ピュリアとナオが亡くなった悲しみが広がっていた。
俺たちに対する敵意のあるコメントも流れてくる。
今出てきている5人のことは気づいていないのか、全く触れなかった。
魔法少女育成ゲーム。
様々なフロアに分かれていて、推しの魔法少女を追っていく仕組みになっているらしい。
『自分好みの魔法少女にする』というのがコンセプトだ。
「・・・私たちを・・・どうする気・・・?」
「そんなの、言わなくてもわかってるだろ」
「・・・・・」
ヒマリが無言のまま顔を赤くしていた。
安寧の手はどうやっても解けないことに気づいたのか、絶望した顔で硬直していた。
「・・・貴方はリルムの主・・・?」
「いや、俺はファナの主だ。リルムの主は別の者だ」
「カイト!!」
ファナに抑えられながら、リルムが声を張り上げる。
「そこの3人は私が殺す! よくも姉を、ミルムを殺してくれたな!」
「リルム、怒りに任せちゃ危ないの。特に、魔神と契約した魔法少女は・・・」
「関係ない!」
リルムの声が掠れていた。
「ご・・・・ごめん、ごめんなさい」
「は?」
さっきまでリルムを罵倒していたヒマリが、急に謝りだした。
「・・・何・・・・言ってるの・・・?」
「私・・・本当はずっと、リルムとミルムが羨ましかった」
ヒマリが泣きながら言う。
「2人でいればいつも楽しそうで、ずっと羨ましかった。私の家庭はそんなに居心地よくなかったから。羨ましくてしょうがなくて。そんなときに魔法少女になったから、ミルムを・・・」
声を詰まらせる。
「ミルムを殺しちゃったの。本当は仲良くしたかったのに、あの時だけ、いつも幸せそうな2人が許せなくなった。衝動的に壊したくなっちゃったの」
「急に・・・何を言うの?」
「いつも敵意を持っていたわけじゃないって知ってほしくて・・・」
リルムが突っ立ったまま、剣を降ろした。
「本心だよ。本当に思ってるの」
「私もヒマリと同じだよ。だって、いつも遊んでたじゃない。私たち、幼馴染でしょ?」
ノノがすがるように言う。
「今更、何言ってるんだ? お前ら・・・」
モニターに手を伸ばしたまま固まった。
魔法少女サイトには、急にいなくなった5人を心配するコメントが流れてきている。
「仲良かったときはあって、楽しかったって・・・思い出して・・・」
「私・・・何が正しくて、何が間違ってるのかわからなくなったの」
マユミが2人に続いた。
「ミルムのこと、本当にごめんなさい。許してもらえないと思う。でも・・・・5人で、学校帰り、近くの公園に集まっていろんな話したよね? 魔法は使えなかったけど、未来の想像するの、すごく楽しかった・・・」
「・・・・・田舎だったからね。なかなか友達ができなかった私とミルムを、マユミは誘ってくれた・・・」
リルムが呟く。
「そう、そうだよ! 大きくなったら一緒に、好きなアーティストのライブ行こうって約束したじゃない」
アユミが汗をかきながら、必死に言う。
「魔法少女戦争なんか辞めて、みんなで故郷に帰ろうよ!」
「え・・・?」
後ろにいた2人の魔法少女が目を丸くする。
「ちょ、ちょっと、3人とも急にどうしたの? 魔法少女サイトのみんなは?」
「私、あの子の友達だから」
「友達って・・・・」
さっきまでリルムとミルムを馬鹿にしていた奴らが、嘘のように泣きついていた。
「・・・・・・・・」
リルムが目に涙を浮かべているのが分かった。
ファナがリルムから離れる。
「ずるいよ! 今更そんなこと言うなんて!」
震えながら叫ぶ。
「ミルムは・・・私の大切な人はもう戻らないんだよ・・・謝ったってミルムが戻ってこないんだよ。ミルムを返してよ・・・」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
「ミルムを殺して、こんなこと言うの間違ってるってわかって・・・」
― 衝突―
「!?」
ファナが安寧の手を乗っ取った。
「煩い」
パチンッ
手を叩くと、5人の魔法少女が全員一斉に消えていった。
悲鳴を上げる間もなかった。
剣の刃からコードが薄くなっていく。
「ファナ、んなことできるのかよ」
軽く飛んで、地上に降りていく。
「どうして早く殺さなかったの!?」
ファナがこちらを睨みつけてきた。
「あのまま話を聞いていても、リルムが苦しむだけじゃない。まさか同情したの?」
「いや・・・・」
「うぅっ・・・・・うわーん」
リルムがその場に崩れ落ちて、大声を出して泣いていた。
「リルム・・・」
「あたし、あたしもミルムも、3人のこと本当はすごくすごく大好きだったの! 楽しい思い出もたくさんあった。あれが全部嘘だったなんて思いたくなくて・・・でも、ミルムは死んじゃったし、あたしがあたしが殺さなきゃって・・・」
「ごめん、悪かったよ」
リルムの傍にしゃがむ。
「あの魔法少女たちが契約した神の真名を聞き出そうとしたんだ」
「真名?」
「あいつらと契約した神が知りたかった」
遠くを見つめる。
周囲はお菓子の街のような明るい雰囲気を漂わせて、深い闇のようなものを感じた。
「どんな神なのか・・・・な」
リボンのついたケーキのオブジェを見ながら言う。
甘い匂いは徐々に思考能力を奪っていくようだ。
「神の許可なしに真名を明かしたら、魔法少女は死ぬ・・・じゃあ、カイトは・・・」
「拷問するつもりは無かったけど、答えなかったら手荒に聞き出すつもりだった。まぁ、俺の好奇心で引き延ばしただけだ。付き合わせて悪かった」
魔法少女が消えると、後には何も残らない。
お菓子の甘い匂いが漂っているだけだ。
「マユミとノノとヒマリ・・・名前を聞くのも嫌。でも、殺してもミルムは戻ってこない・・・」
「リルム・・・・」
ファナがリルムの頭を撫でる。
泣きじゃくるリルムを連れていけない。
心身ともに弱って、とても戦える状態ではなかった。
「ファナ、リルムを頼む」
「わかった。カイトは?」
「一人で行くよ」
剣を持ち直して立ち上がる。
「それは・・・駄目だよ。カイトは七陣魔導団ゲヘナの王なんだから・・・」
リルムが涙を擦りながら言う。
「七陣魔導団ゲヘナの司祭が聞いたら発狂するよ」
「死ぬ気はない。ファナならわかるだろ? 俺が簡単に死なないことくらい」
マントに着いた砂埃を払う。
「ま、そうね」
「ファナ」
「カイトは大丈夫だよ。んーっと、理由は言えないけど、とにかく大丈夫」
ファナが誤魔化しながら、自信満々に話していた。
モニターにエリアマップを映しながら、一人で街を歩いていた。
噴水の近くに、オパールのような輝きを持つ聖堂があった。
ここに来るまで、一切の魔法少女の気配がない。
さっきまでの活気が嘘のようだった。
モニターの画像を切り替える。
魔法少女サイトには、なぜかアクセスできなくなっていた。
街の色に似つかわしくない。
不気味なくらい静かだった。
キィッ・・・
聖堂の扉を開ける。
「!」
広々とした聖堂内の脇には、骸骨が積まれていた。
祭壇の傍には何本もの蝋燭が並んでいる。
風で大きく揺らいでいた。
「やっと来た」
祭壇の上に座っている、骸骨の頭を持った女が声をかけてくる。
顔は青白く、腰までつくほどの長い黒髪を持っていた。
「・・・・」
詰まれた骸骨を見ながら、赤いカーペットの上を歩いていく。




