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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第一章 魔法少女戦争のはじまり
3/21

1 契約

「あれ、如月じゃね? 相変わらず一人だよ」

「暗さがにじみ出てる。どんなに頭良くたってあれじゃ彼女できないよな」

「はははは、言えてる」


「・・・・・・」

 通りすがりにしゃべっているのは、中学生時代に一緒の学年の生徒だった奴らだ。


 名前は覚えていない。

 高校になって離れたにもかかわらず、すれ違うと罵声を浴びせてくる。

 無視して信号を渡っても、嫌みな笑い声がまだ聞こえていた。


 人は共通の敵を作るのが好きらしい。



 ガチャ


「あ、おにい。おかえり」

 帰ってくると、3歳年下の妹の美憂がリビングから顔を出した。


「ただいま」

「今日はハンバーグ食べたいな」

「了解。仕事終わったら作ってやる」

 階段を上っていく。


「やったぁ」

 物心ついたころから父親はいない。

 母親は5年前に病気で亡くなってから、妹の美憂と二人で住んでいた。



 鞄を置いて、2台のパソコンを起動する。

 ゲームのテストの外注を請け負って、アルバイト程度の収入を得ていた。

 俺は頭がいいらしく、すぐに納品することができる。


 画面にデバッグ中のゲームを映そうとした時だった。

 ビリっと人差し指に電流が走る。


「?」


 画面が幻想的な草原と森の風景に切り替わった。

 見たことのない映像だ。何か操作ミスしたか?


 片方のパソコンのキーボードを叩いて、ゲームの仕様書を確認しようとしていた。


『こんにちは』

 急に画面から声が聞こえる。


「は?」

『やっほー、ん?』

 パソコンに肩までの茶色い髪を持つ、美しい少女が映っている。

 黒いローブを羽織り、大きな蒼い瞳でこちらを見つめていた。


 やっと、見つけた。


 このゲームが本当に・・・。

 

『聞こえる? 聞こえるよね。でも、やっぱりそっちに行かなきゃいけないのかな。そっちの魔力は十分みたいね』

 少女が少し離れて、月のような形の杖を出した。

 埋め込まれた黄色い石に触れる。


 ジジジジ ジジジジジジ


 電子音が鳴り響く。

 次の瞬間、画面の中にいた少女は、自分の椅子の横に立っていた。


「うわっ」

 

 ドサッ


 思わず椅子から転げ落ちる。

 これは・・・ゲームの機能なわけがない。


 でも、画面の中から出てきた・・・?

 魔法か?


「はじめまして、如月カイト。私は魔法少女のリリス=ミュフォーゼ。急だけど契約しに・・・わわ・・・」

 慌てて捲れたスカートを直していた。

 白いパンツだった。


「・・・見た?」

 こっちを睨みつけてくる。


「見てない」

「嘘! 見た!」

「み、見てないって!」


 リリスが顔を真っ赤にして、むきになって怒っていた。


 バタン


 突然、ドアが開く。


「おにい、うるさいんだけど!」

 美憂が部屋に入ってくる。


「だって、こいつが勝手に・・・」

「え?」

 リリスを指す。

 美憂が腕を組んで怪訝な顔をしていた。


「こいつがって・・・誰もいないじゃない。何言ってるの? 忙しくて疲れちゃった?」

「・・・・・・・いや・・・」

 リリスが両手をあげて、にこっと笑っていた。


 美憂には目の前にいるリリスの姿が見えていないのか?


「大丈夫だ」

「本当に大丈夫? 病院行く?」


「・・・何でもない。少し疲れてたみたいだから」

「全くもう、無理しなくていいのに。今日の夕食は私が作るからおにいは休んでて。いい。お仕事はいいから、ゆっくり休むこと!」

「はいはい」

 美憂に心配かけないように平静を装って立ち上がった。


 椅子を直して座り直す。

 美憂が部屋から出て行って、しばらく経った頃、もう一度リリスのほうを振り返った。


「私、魔法少女戦争に関わる存在にしか見えなくなってるの」

「魔法少女戦争・・・・?」

 深く息を吐く。

 横を向くとリリスの金色のピアスが光った。


「そう、君のお父さんはね、強大な魔力を持っていながら、魔法少女戦争に参加しなかった。姿を消したの。でも、彼の子供の君には参加してもらう。これは古くに交わした契約だから」

 蒼い瞳を真っすぐにこちらに向ける。

 透き通るような白い肌は、雪のようだった。


「・・・・・・!」

 少女が杖を下に向けると、一瞬で床に魔法陣が展開された。


「君にはロンの槍の持ち主を選ぶ戦いに参加してもらう。負けたら終わり。契約した魔法少女は消える」

「ロンの槍?」

「お父さんから何も聞いていないの?」


「・・・親父のことなんか知らない。俺はロンの槍なんてどうでもいいし、関わるつもりは無い。他をあたってくれ」

 ひらひらと手を振る。


「ふうん。もし、貴方が拒絶するなら・・・」

 リリスがふわっと飛んで、魔法陣から離れる。


「妹と契約しかないかな」


「それは・・・・」

「彼女も君と同じように強大な魔力を持ってるから、妹でもいいの」

 リリスの前に立つ。


「駄目だ。あいつを巻き込むな!」

「よかった。少しは、魔法少女戦争のこと知ってるみたいね」

「・・・・・」

 サファイヤのような瞳をこちらに向ける。


「じゃあ、私と契約して、私の主となってね。安心して、貴方にもメリットはある。契約後に、ロンの槍について、魔法少女について説明するから」

「・・・・わかったよ・・・」

 頷くしかなかった。


 俺はこの世界を知っている。


 ロスト・グリモワール


 あの本に書かれていたことが始まろうとしていた。

 見たところ、リリスは知らないようだな。


「では、契約を進めるよ」

 金色の指輪を人差し指にはめられる。

 一瞬だけ風が吹き抜けたような感覚があった。 


「ん? 随分と冷静ね?」

「始めるんだろ?」

「そうね。目を閉じてて」


 リリスは人間ではない、ゲームの登場人物でも、AIでもない。

 どこか懐かしい雰囲気を持つ、実体のある少女に見えた。

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