op02 三賢のリリス
「さぁ、もう時間だ。始めてもいいかな?」
司祭ヴェルネスの言葉に、全員がざわついた。
「ここは電子世界ですよね? どうして私たちは電子世界の聖堂に集められたのですか?」
魔法少女のファナが声を上げる。
「ここって、向こうの世界に実在していない・・・ってことですよね? 前回は地上の聖堂に集められたと聞いています・・・」
「魔法少女戦争は時代に合わせて行われる。ロンの槍の持ち主を正当に定めるために」
「わ、わかってるけど・・・」
隣の少女が冷静に話してから、顔を上げる。
「ですよね? ヴェルネス司祭」
「その通りだ。戸惑うのは無理もないが、君らは人間じゃない。魔法少女になったのだろう?」
「・・・・・・」
少女たちが静まり返る。
「運命を受け入れろ」
ヴェルネス司祭がロンの槍に手をかざした。
ガラスケースのようなものが現れて、槍を覆った。
「次のロンの槍の持ち主が誰になるのか・・・。世界の動きに沿ったやり方で決めなければ、ロンの槍が持ち主を拒絶するだろう」
「・・・・・・・」
「あとは言わなくてもわかるな? 各々の仕える神々から聞いてるだろうが。魔法少女戦争は始まっている。早めに行動したほうが勝ち目はあるぞ」
ヴェルネス司祭が鋭い目つきを少女たちに向けた。
少女たちが少し慌てながら地面に魔法陣を描いて聖堂から出ていった。
魔法少女は賢くなければいけない。
常に自分で考え、行動することを求められていた。
一人聖堂に残ったリリスが、フードを被ったままヴェルネス司祭に近づいていく。
「へぇ、もうロンの槍は原型を留められなくなったのね」
「触るなよ」
「もちろん」
リリスがニコニコしながらフードをとった。
「我はここで結界を張り、ロンの槍の所有者を待つ。用がないなら、早く他の魔法少女と同じように、出て行ってくれ」
ヴェルネス司祭が遺言書を丸めながら言う。
横にいた司祭2人は一言も発さずに、突っ立っていた。
「ベルゼ司祭、バフ司祭は魔法少女戦争に関わらないのかな?」
リリスが2人を覗き込んだ。
「三賢の一人、リリス=ミュフォーゼ」
「シーッ。私が三賢の一人ってことは秘密だよ」
リリスが口に指を当てた。
「何をいまさら」
「司祭も毎回毎回大変ね。いつも新人魔法少女たちは同じ表情をする」
白い手袋をはめながら言う。
「今回は手を抜くなよ。全く、前回の魔法少女戦争で負けたはずなのにここにいるなんて。どうやって・・・」
「はいはい、この話はおしまい」
リリスが杖を出して、くるくる回す。
「よくわからない奴だ。なぜお前だけが、数百年も前から何度も何度も魔法少女戦争に入っているのか・・・」
「司祭にだって隠し事の一つや二つあるでしょ?」
「・・・全く可愛げのない魔法少女だ」
「魔法少女に可愛げなんていらないでしょ? 主を見抜く能力と、実力のみ。だから、ここに集められてるのはほんの一部の魔法少女」
リリスの杖の宝玉が蒼く輝いた。
「本気でロンの槍を手に入れようとしている魔法少女は、もうとっくに始めてる」
「はぁ・・・・そうだな」
ヴェルネス司祭が長い溜息をついた。
「じゃ、いってきます。主を探さなきゃ。もう決まってるけど」
「あ・・・」
リリスが不敵な笑みを浮かべて、魔法陣を展開する。
次の瞬間、すっと消えていった。
「ったく・・・・ベルゼ、バフ、始めるぞ」
「承知しました」
ヴェルネス司祭がため息をついて、ロンの槍の前で詠唱を始めていた。