83 タツキとサクラ
「おにい」
「っと、美憂か」
椅子を回す。
研究室で魔法少女やプレイヤーの様子を映していると、美憂が入って来た。
「えっ!? 魔法少女を盗撮してるの?」
「誤解を生むような表現をするなよ。配信ランキング上位になった子を見てただけだ。フィオーレとルナリアーナ、ティナも入ってるな」
『ロストグリモワール』を巡って、ネット上が盛り上がっていた。
まぁ、すぐに飽きるんだろうけどな。
「おにい」
「なんだよ、その目」
「ねぇ、これって、魔法少女の着替えとかも、見ることができちゃうとかないよね? おにいにそんな趣味あると、妹としてかなり複雑なんだけど」
美憂が背もたれに肘をのせて、モニターを見つめる。
「するわけないだろ? 盗撮なんか、俺に何のメリットがあるんだよ」
「だって・・・・」
「当然、魔法少女のプライバシーは考慮されてる。俺が確認できるのは、魔力を使用しているとき、主に戦闘か移動のときだ」
ハーブティーに口をつける。
「なるほど。よかったー」
「マジで疑うなよ」
「最近、おにいモテてきてるから、調子に乗ってるんじゃないかって妹としては心配で心配で。おにいに、そうゆう話はまだ早いよね」
「・・・・・・」
美憂がからかうように言って、隣に座った。
ピコンッ
音が響く。
「あれ? 葛城さんから連絡?」
美憂が会議のリクエストのポップアップを見ながら聞いてきた。
「そうそう、俺の配信は『ロストグリモワール』の中の人が切り取りをSNSに流して、バズったらしいからな。俺の顔を確認しに連絡して来たんだろ」
「な、なるほど」
魔法少女たちが必死に配信しているらしく、配信ランキングを底上げしていた。
ゲームか現実がかわからないと突っ込むものもいる。
『ロストグリモワール』の配信を見ている人間が、画面推しに熱狂しているのが伝わって来た。
「美憂、ちょっと葛城さんと話すから何か言われても、適当に流しててくれよ」
「はーい」
指を動かして葛城さんのリクエストを許可した。
モニターに葛城さんが映る。
ジジジ ジジ
「ご無沙汰してま・・・」
『如月カイト、あの動画見たんだ。あれってお前だろ!?』
いきなり前のめりになって聞いてくる。
『え・・・そこにいるのは、お前の妹じゃ・・・』
「はい。如月美憂です」
美憂が髪を耳にかける。
「俺たちは今、ゲームの中にいるんですよ」
『な・・・・? まさか、俺をからかってるんじゃないだろうな。ゲームの中にいるって・・・お前が言ってた『ロストグリモワール』っゲームか? 『RAID6』から移行したという・・・』
「そうです。だから、しばらくそっちには戻れないんです。残作業は無いので、特に引き継ぎもありません」
『・・・・・・・』
葛城さんが頭を搔いて、煙草を一本取りだした。
『・・・・魔法とか、薬草とか、そうゆうファンタジーは信じない主義だし、悪ふざけと思いたいが、んなことしてカイトに何かメリットがあるとも思えないしな。最近のSNSといい、配信者といい、ネットやSNSがどこかおかしい気がしてるよ』
煙草に火をつけた。
『AIが生成したゲームに探りを入れてきていたのは、このことだったのか』
「そうですね。おかげさまで、うまくいきましたよ」
『やるねぇ・・・俺も上手く転がされていたってことか。さすが・・・・つか、高校生のガキのできることじゃねぇだろ』
笑い交じりに言う。
美憂が緊張していた。
落ち着かせるよう手を二回突く。
「でも、葛城さん、魔法少女戦争に関わっていますよね?」
『・・・・・・』
「誰か探してたんですか? それとも、誰かと組んでるんですか?」
睨みつけた。
葛城さんの表情が変わる。
「色々ハッキングさせてもらいました。『RAID6』から『ロストグリモワール』を作ったときの電子データから、葛城さんの事務所からのアクセスログを検出しました。暗号化されてましたが、キーは生成できたので」
腕を組んで、画面越しに葛城さんの目を見る。
「葛城さんが魔法少女戦争に興味を持つのは意外でしたが。現実主義なので、魔法なんか信じないでしょう」
『俺が現実主義なのは、非現実を否定したいからだ』
口角を上げて、煙草を置いた。
『俺がまだ小学生だった頃、魔法を使える少女に会ったことがある』
「ま、魔法少女!?」
「美優、落ち着け。それはあり得ませんよ。前回の魔法少女戦争が終わったのは70年以上前の話ですから。魔法少女戦争が終わると、魔法少女はいなくなります」
冷たく言う。
『いや、確かに会った。魔法少女ではないらしいけどな。お前らの母親、サクラだよ』
「は・・・?」
「え・・・・?」
俺と美憂が同時に声を出した。
『サクラは呪いのかかった魔法少女だと話していた。神から呪いと祝福を受けたと。タツキとサクラはなぜか歳を取らなかったんだ。俺が小学生だったときから、16歳くらいだった。サクラが死んでから、タツキはゆっくりと年相応に老けてきたけどな』
「なんで・・・・・」
『俺はサクラに一目ぼれしたんだ。初恋だったな・・・よく似てるよ、お前ら二人とも。特に目が、サクラにそっくりだ』
「・・・・!?」
『お前のずる賢さは、父親譲りかもしれないけどな』
葛城さんの予想外の言葉に、固まってしまった。
「お、お母さんは・・・」
美憂が声を絞り出す。
「何か魔法を使ったんですか? お母さんはどんな人だったんですか?」
『サクラは戦闘向きの魔法は習得していなかったと聞いている。魔法戦争にはほとんど参加せず、傷ついた戦士たちを癒していたらしい』
深いため息をつきながら言う。
「どうして・・・」
『俺が小学1年生の時、トラックに突き飛ばされたところを、助けてくれた。治癒魔法と衝撃を吸収する魔法を使ったらしい。あまり覚えていないが、魔法が温かかった記憶だけはある』
袖をまくって、腕の傷を見つめていた。
『最初サクラを見たときは、天使か女神が来てくれたんじゃないかって思った』
「・・・・・・・」
『でも、話してみると天使でも女神でもなかったな。ほわほわしてて危なっかしいし、魔法を隠さないし、誰彼構わず助けようとするし、如月タツキが駆け回って火消しをしていたよ。子供心に、ありゃ、大変だと思って見てたな』
笑いながら言う。
頬杖をついて、長い瞬きをしていた。
『まさか、そのガキが、魔法少女戦争に関わるとは。カイトの想定通り、俺はお前らを探っていた。まさかって思いながらね。魔法少女戦争なんか存在しないと思いたかった』
「お母さん・・・・お母さんは私にそんな話してくれなかった」
美憂が頬を赤くしていた。
『魔法になんか興味を持ってほしくなかったんだろ。詳しくは聞いてないが、サクラもタツキも呪いと祝福を受けたと言っていた』
「私も聞きたかったなぁ・・・お母さんとお父さんから・・・」
瞬きすると、大きな瞳から涙が溢れていた。
「・・・・如月タツキのこと知ってるんですか?」
『昔のことは知ってるよ。今は知らない・・・会ってないしな』
葛城さんが言葉を濁していた。
「そうですか。わかりました。では・・・・」
「おにい、私お母さんのこと、まだ聞きたいよ。お父さんのことも!」
「美憂・・・」
「まだちょっとだけ。お願い!」
美憂が必死に止めてきた。
『はは、またいつでも話してやる。今、仕事の連絡が入った。悪いが、また今度な』
葛城さんがモニターを消そうとして、ふと止まる。
『カイト、如月タツキは悪い奴じゃない。ただ・・・』
「いいですよ、あんなの父親だと思ってないんで。では、また連絡しますね。しばらく、仕事手伝えなくて済みません。じゃ」
ブツンッ
「あ・・・・」
美憂の声を無視して、一方的に接続を切った。
「おにい・・・」
「美憂、あまり両親について重く考えるな。親が何者であろうと、俺はお前の兄であることには変わりない」
「うん」
美憂が寂しそうに頷いて、椅子に座り直していた。
膝を抱えて、頭を下げる。
「おにい、私が泣いたこと絶対言わないで」
「はいはい」
モニターを切り替える。
魔法少女とプレイヤーが接触している姿が映っていた。




