81 魔法少女の成れの果て
「な、なんなの? これ・・・・」
「ファナは手を出すなよ」
ノアが持っていた大剣の刃が赤く変化していく。
体中ををコードのような魔法陣が取り巻いていた。
『ん・・・切り替えがうまくいったのね。NO1129から引っ込んじゃうとは思わなかったけど。逃げってところかな?』
突然、ノアが話し出す。
― 剣―
剣を出して、魔力を溜めていく。
目の前にいる赤髪のノアからは、確実に殺気が感じられた。
『それにしても、機械人形ってひどいなぁ。人形は君の方だよ。こっちが本体って契約したじゃない。でも、さすがNO1129だね。いい仕事をしてくれたよ、予想以上の収穫だから赦す』
ノアが自分の手を見ながら話す。
片目だけ、ガラス玉のように蒼く光っていた。
『前回魔法少女戦争の勝者、口伝のみ伝えられてきた三賢のリリス、純潔の血を求めるヴァーシル家の魔法少女まで・・・本当、七陣魔導団ゲヘナに入れてよかったよ』
「誰だ? お前は・・・」
『私? 私は魔法少女研究機関のノアだよ。一応、"魔女"でもあるって説明したほうがいい?』
不敵な笑みを浮かべる。
「!!」
俺とファナに緊張感が走った。
『でも、魔法少女の慣れ果てだとは思ってない。魔法少女戦争についての文献を集めている機関にいるごく普通の研究者。ついでに言うと、NO1129よりは強いかな』
ノアの声で、ノアの体で、誰かが話していた。
『この電子世界・・・新たなゲーム『ロストグリモワール』を創ったのは君で間違いないね? 如月カイトって名前だったよね?』
「ノアに何をした?」
『NO1129のこと? ノアは私だよ。ノアはNO1129を名乗りにくいから、私の名前を使ったんだ』
ノアが大剣を振る。
『すごいね、ゲームを構築しちゃうなんて。君の戦い方は見てきた。一筋縄ではいかないけど、情が移ったNO1129は使い物にならないし、七陣魔導団ゲヘナは潰すよ』
「は?」
『NO1129は私に交代することを拒んでたんだよね。潜入もうまくいって、優秀な魔法少女になれたのに、自我が強くなっちゃって。だから、研究所は私と交換するように判断した。NO1129は戻らない』
ザッ
会話の途中で急に加速して、大剣を振り下ろしてきた。
ぶわっ
剣を止めた。
砂埃が勢いよく舞う。
目に砂が入った。
『ここで七陣魔導団ゲヘナを消滅させて、私は魔法少女研究室に戻るよ。この体は調査してからまだ使える。流していない記録もあるかもしれないしね』
ズズ・・・・
闇属性付与のコードを埋め込んだ剣が、ノアの大剣の力に押されていた。
魔力を使い、剣のコードを組み替えていく。
属性、闇。攻撃力、MAX。防御力、MAX・・・・。
クリティカルヒットを90%の確率で出せるように調整。
「カイト!!」
「ファナ、命令だ。手は出すな」
「でも・・・このまま見てるなんてできない。戦わせて! せめてシールドだけでも」
「魔女は伝染する!」
「っ・・・・・」
「だから、手は出すな」
ファナが魔法陣を張ろうとして、手を止めていた。
『じゃあ・・・はじめるよ』
― XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXX ―
ノアが聞いたことのない言葉で詠唱始める。
空に巨大な岩が現れた。
炎が吹き出して、燃え盛っている。
隕石のように降らせようとしているのか?
岩を幾つかに砕いて、セレーヌ城を覆った。
「アレが落ちてきたら、七陣魔導団ゲヘナの魔法少女が死ぬわ!」
ファナが焦りながら声を大きくする。
「ノア! 出て来い! いるんだろ!?」
『!?』
今のノアの中に、微かにノアの魂を感じた。
ノアが胸に手を当てて、目を見開く。
『・・・・ノアは私の名前だよ。君はNO1129でしょ。勘違いしないで』
赤い髪をがふわっと揺れると同時に、地面に魔法陣が展開された。
人差し指をこちらに向ける。
『今、極大魔法陣を展開してるんだから、黙っててくれないかな?』
「んなこと言って、黙るわけないだろ?」
『あはは、それもそっか』
目つきを鋭くしていた。
― 蒼稲妻雷雷 ―
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
― 闇盾 ―
剣を上に向けて、シールドを張った。
聖属性の稲妻が、這うようにシールドを侵食していた。
ジジッ・・・・
シールドが崩れると同時に、蒼い稲妻が地上に逃げていった。
ゴオオォオオオ
「きゃっ」
「っ・・・・」
地面に亀裂が入る。
軽く飛んで、亀裂を避けた。
『カイトってこんなに弱かった?』
「は・・・・?」
『あはは、やっぱりノアには本気になれないってことね。共に戦ってきた仲間だもんね。だからNO1129が忠告してたのに』
ノアが大剣の魔法石を、ルビーに変更していた。
『まぁ、如月カイトは残ってもいいか。『ロストグリモワール』の創作者だから殺すの難しそうだし。 でも、七陣魔導団ゲヘナは潰すよ。魔法少女研究機関のために』
「カイト、魔法使っていいよね? 許可して!」
「駄目だ」
剣を吹っ飛ばす。
宙を舞って、地面に突き刺さった。
『戦闘放棄?』
ノアが首を傾げる。
「んなわけねぇだろ」
セレーヌ城の空に向かって、手をかざす。
しゅうぅうううううう
頭上にあった巨大な岩が消えていく。
地面を蹴って、ノアの魔法を全て無効化した。
『っ・・・・今のは何? 詠唱無しで極大魔法が消滅した・・・? 私のバフもデバフも戻ってる』
ノアが飛び上がって、大剣を持ち直す。
『どうして・・・・・・? あり得ない。まだ隠し持っていた手があったのか?』
「ノアを返せ」
ジジジジ ジジジジジ
体が燃えるように熱くなっていく。
「・・・カイト・・・魔神サマエルなの・・・?」
ファナが呟いた。
魔神としての力と人間としての力が絡み合って、自分の力を押し上げていた。
歩くたびに、電子音が鈍い音を立てる。
『力ずくでいこうとしているの? この体はNO1129のものだよ。ノアを殺せば、君らといたノアも消える』
ノアはまだ完全に消えたわけじゃない。
魂がここにあるのがわかった。
「・・・ノア、早く出て来い」
呼びかけながら近づいていく。
偽物のノアが次の詠唱を始めようとしていた。
魂を無理やり引き剥がせばいい話だ。
魔神の力を使おうと、構わない。
俺は堕ちた身なのだから・・・・。
シュッ
リリスが素早く横切った。
― XXXXXXXXXXXX XXXXX XXXXXXXXXXXXX
XXXXXXXXXX XXXXXXXXX XXXXXXXXX ―
詠唱しながらノアに迫る。
ガッ
『あ・・・・』
ノアが動くよりも早く、ノアの額を押さえた。
― 安寧の眠り(コールドスリープ)―
『っ・・・・!? 三賢の・・・・』
ノアの全身を魔法陣のコードのようなものが取り巻いた。
リリスが息を吐くと、ノアの額にあった模様が消えて、その場に倒れそうになった。
「ふぅ・・・そ、私は三賢のリリス・・・って言っても、もう聞こえないかな」
リリスが浮遊魔法で、ノアを浮かせる。
ゆっくりとこちらに移動させていた。
「ノア」
ノアを抱える。
髪の色は元に戻り、寝息を立てていた。
「ねぇ、リリス。ノアに何の魔法をかけたの?」
「ノアの中にいたもう一つの人格を抑え込んだ。彼女がどこにいるかまではわからなかったけど」
リリスがノアの額を真剣に見つめていた。
「契約した神は誰だったんだろうね・・・・」
「リリス・・・」
「あ! カイト、あまり魔神の力に頼っちゃ駄目だよ。今は、人間の如月カイトでしょ?」
きつい口調で詰め寄ってきた。
「わ、わかってるよ・・・」
「じゃあいいけど。魔法を複雑にしたから、しばらくはノアのもう一つの人格が戻って来ることは無いと思う。でも、永久に封じたわけじゃないから、医務室で安静にしておくように」
リリスが背を向ける。
「私、先に戻ってるね。今あったことはティナたちなら気づいたかもしれないけど、適当に誤魔化しておくから安心して」
「あぁ・・・頼む。ノアのことは」
「言わないから安心して。私とカイトとファナだけの秘密ね」
こちらを向いて、口に指を当てた。
無理してほほ笑んでいるようにも見える。
「また後で」
リリスが地面を蹴った。
ファナが何か言おうとしていたが、リリスは杖をしまって飛んでいってしまった。
「カイト・・・・」
「また、俺はリリスに助けられたのかよ。変わってないじゃないか・・・これじゃ・・・」
自虐的に笑いながら、セレーヌ城に向かって歩いていった。




