79 静かな怒り
「ずっと、ハーブティー飲みたかったんだ」
「よかったな」
「また石化する前に、やりたいことやっておかなきゃ」
メイリアはこの魔法には期限があることがわかっていた。
「悪いな。次は、確実な魔法を見つけてくるよ」
「・・・・あれば、いいんだけどね」
無理して笑顔を作っていた。
俺に石化解除の魔法を教えた少女は、電子世界が再構築で一時的に混濁しているときのみ効果があるだろうと予測していた。
聖杯の目を欺くことはできない。
一時的なものだった。
「ねぇ、ファナって子、裏切るかもよ?」
「なんだよ、突然」
メイリアがハーブティーを淹れて、椅子に座った。
カモミールの香りが広がる。
「ミハイルと契約してた魔法少女だって、知ってて契約したの? 無理やり契約させられてるように見えたけど?」
「全部見えてるのかよ」
「そう。石化して、ただ動けなかっただけだから。あ、美味しい。さすがリリス」
ハーブティーを飲みながら言う。
「ファナとミハイルは切れてる。何か企みがあるわけじゃない。リリスのことは憎いかもしれないけどな」
「・・・そう。じゃあ、サマエルを信じるよ。リリスのことよろしくね」
窓に映る自分を見つめていた。
「ユウミ・・・・美憂には私のこと、言わないでね。余計な心配かけたくないの」
「・・・わかった」
「リリスとマリアにも会いたかったけど、マリアは私のこと覚えていないし、リリスは情緒が安定してないんでしょ?」
「・・・・・・」
リリスは連れてこれなかった。
セレーヌ城に戻ってから、ずっと部屋に引きこもっている。
狂ったように、魔導書を読み漁っていた。
七陣魔導団ゲヘナの魔法少女の誰とも、会話しようとしない。
「ほら、リリスの心配ばかり。もう行かなきゃいけないんでしょ?」
メイリアが複数の魔法陣を展開する。
「メイリア」
「私だって三賢の一人なんだから、リリスとマリアと同じくらい魔法を使えるわ。石化しても、ロストグリモワールを書く魔力はある。持っていって」
魔法陣の中から、一冊の本を取り出した。
水のような波紋が広がっている。
「今度は燃えて消えたりしないから」
「んなことできるのか?」
「サマエルの魔力のみをキーとしてる。サマエルが読むときだけ、字が浮かぶようになっている」
本を受け取ると、ひんやりとした魔力が走った。
「ずっと考えてた・・・・石化が解けてやっと見つかった」
メイリアが長い瞬きをする。
「もうすぐ呪いが戻る。私が動いてたって、リリスにはバレないようにしておかなきゃね。サマエル・・・・じゃなくてカイトだね」
両手で手を包んできた。
「別にどっちでもいいよ。メイリアにカイトって呼ばれるのも慣れないしな」
「世界はカイトと三賢の味方をしない。今は電子世界だから思う通りに進んでるかもしれないけど時間の問題。私は99%、リリスとカイトは負けると思ってる。でも・・・」
目を潤ませながらこちらを見上げる。
手に力が入っていた。
「勝って」
「当然だ」
「・・・・」
メイリアがふっと笑う。
転移魔方陣が発動して、俺は時空間に浮かぶ部屋から出ていた。
空はオレンジ色に染まっている。
セレーヌ城の指令室に戻ると、真っ先にルナリアーナが駆け寄ってきた。
「カイト様! バ、バ、バアル様が・・・」
『ねぇ、色欲の名を持つ、私と契約してる魔法少女なのに処女なの!? そんなエロい体してるのに!?』
「きゃあ」
バアルがルナリアーナの後ろに回って胸を揉む。
バアルは露出の多い服を着た、女の魔神だ。
いつも魔法少女たちの欲望を焚きつけて、楽しんでいる。
「や、やめてください!」
『駄目よ。私と契約できるってことは、それなりにエロいところあるんでしょ? ん? サマエルのことが好きなの? じゃあ、こうして・・・っと』
「あっ・・・・」
バアルが煽るようににやけた。
「ひゃぁ・・・ルナリアーナ・・・え、エロい」
ルナリアーナが顔を真っ赤にしてもがいていた。
一番近くにいたノアが手で頬を隠した。
バアルの腕を掴む。
「魔法少女で遊ぶなって言ってるだろ?」
『だってぇ、色欲のバアルの名に恥じない魔法少女にしてあげようと思っただけだもん』
「ルナリアーナ、こいつはいつもこうなんだ。適当にあしらってくれ」
「え、えぇっ・・・」
ルナリアーナが服を整えて座り直す。
『もう・・・』
バアルが手を振りほどいて、ふわっと浮いた。
『それなら、醜悪のベルフェゴール、僕と契約しているアクアも、もう少し醜態を晒してもいいのですよ』
「ぼ、ぼ、僕?」
『そう、君だよ。君、優等生し過ぎだ。もっと、開放的にならないと』
「開放!?」
『何もかも晒していいんだ。人間は自由なのだから』
ベルフェゴールが青い髪をかき上げながら言う。
アクアが目で助けてと訴えてきた。
「ったく、お前らが魔法少女と関わると面倒だな。こいつらは未成年なんだから、そう扱えよ」
頭を搔いた。
『私たちに年齢は関係ないもん、ねぇ』
『そうだ。自分の中にある醜さを晒してこそ人間』
『サマエルはわからないのよ』
『うんうん』
バアルとベルフェゴールがぶつぶつ言いながら、互いに納得しあっていた。
「はぁ・・・・ここにいるのはバアルとベルフェゴールだけか?」
『あ、ベルゼブブも』
バアルの視線の先で、怠惰のベルゼブブが床でごろごろ転がっている。
ティナが踏みそうになって慌てて避けていた。
こいつら、自由過ぎて一つの場所に集めたくないんだよな。
魔界の感覚が抜けていない。
『カイト様、ログイン中のプレイヤー、および魔法少女への接続を確認しました。準備は整っています』
シロナがモニターを操作しながら話す。
「・・・ファナ、リリスはまだ部屋にいるのか?」
「どうして私に聞くのよ」
「気にしてくれてるだろ?」
笑いながら言う。
ファナが腕を組んで、睨みつけてくる。
「私は全然許してないし、今でも憎んでるから」
「そうか」
セレーヌ城に戻ってから、ファナが一番リリスのことを気にしていた。
「さっき、美憂と一緒に図書室に入っていったわ。たまたますれ違っただけだから」
「了解。ありがとな」
「べ、別に」
ほっと胸を撫でおろす。
「カイト、配信するんだよね?」
「本当に大丈夫なの?」
ティナとフィオーレがモニターを見ながら話しかけてきた。
「挨拶くらい、しておかなきゃな。シロナ」
シロナの隣に座る。
「接続してくれ」
『かしこまりました』
ジジジ ジジジジジジ
シロナがコードを打ち込んでいくと、モニターに俺の姿が映し出された。
「カイト・・・」
小さく声が聞こえた。
ティナとフィオーレとリルムが、緊張しながら一つのモニターを覗き込んでいる。
「俺は如月カイト、魔法少女戦争の参加者だ。突然だが、『RAID6』は俺が上書きした」
手を組んで、モニターに向かって話をする。
「これを見ることのできているプレイヤーやリスナー、『RAID6』、魔法少女戦争に関わる全ての者たちに話している。AIポロは消滅した」
モニターの向こうにいる者たちの顔は見えない。
でも、『RAID6』と魔法少女戦争がSNSの検索ワードのランキングに載っていた。
人々が反応しているのが伝わってくる。
「『RAID6』で説明されていたような魔法少女とプレイヤーの仕組み、ダンジョンは全て消去した。ルールこっちで決めさせてもらう」
指を動かす。
「このゲームは俺たちが創った『ロストグリモワール』というゲームになった。プレイヤーのセーブポイントも消えているはずだ。ゲーム内で死んだら強制退場、二度と『ロストグリモワール』には入れない」
ゆっくりと冷静に話していく。
「生半可な気持ちで、魔法少女戦争に参加することは許さない。魔法少女は命を捧げて戦ってるんだ。画面越しのキャラじゃない。間違えるなよ」
怒りを込めながら言う。
指令室内が静まり返り、俺の声だけが響いていた。




