op01 魔法少女
青白い光に包まれた電子世界の聖堂は静寂に包まれていた。
少女たちが緊張した面持ちで、真っすぐ正面を見つめている。
中央の祭壇には3人の司祭が立っていた。
聖堂に集まった1000人以上の12歳~16歳くらいの少女たちは、魔法少女と呼ばれている。
各地の神々と契約し、特異な能力を使える少女たちのことを指していた。
ほとんどが戦闘経験のない、魔法少女になったばかりの者たちだ。
純白の服に身を包む少女、ファナが花模様に装飾された槍を両手で持って、赤いカーペットを歩いていく。
「ロンの槍の持ち主は息を引き取りました」
しゅうぅううう
ロンの槍を祭壇に置くと、茶色く錆びていった。
「ご苦労だったな」
老人の風貌をしたヴェルネス司祭がファナのほうを見る。
「・・・・・・・・」
「君から、何か皆に伝えておきたいことは?」
「私からは特にありません。もう魔法少女じゃないから」
「はは、君は相変わらずだね」
ファナが冷たく言うと、祭壇から降りて少女たちの中に入っていった。
ヴェルネス司祭が聖堂のドアが閉まっていることを確認してから、丸めていた紙を開く。
「ロンの槍の持ち主が亡くなった。ロンの槍の意志に沿って、これから始まる魔法少女戦争のルールとする」
少女たちが息を呑んでいた。
ファナは退屈そうに息をついて、フードを被り直していた。
ロンの槍は、ロンギヌスの槍ともいわれている。今から2000年以上前、神が遣わした者の死を確認するために刺された、聖槍と呼ばれているもののことだ。
ロンの槍の所有者は、世界を支配するといわれていた。
普通の人間は知らない。
知っているのはこれから始まる魔法少女戦争に関わる者だけだ。
ヴェルネス司祭がしゃがれた声で読み上げる。
・魔法少女は契約した神々の名を自らの判断で口にすることを禁ずる。
・主となる者を探し、次の満月が来るまでに契約すること。
・上記を守れなかった魔法少女は魔法少女戦争から離脱したものとし、自ら死を迎えることとなる。
・ロンの槍を巡り、主と共に戦い抜く。
・最後まで勝ち抜いた魔法少女の主を、ロンの槍の持ち主とする。
「何か質問はあるかな?」
ヴェルネス司祭が少女たちのほうを見る。
「あ、あの、この中には三賢と呼ばれる魔法使いもいるんですよね?」
前のほうにいた少女が弱々しく言う。
「それじゃ、新人の魔法使いの私とかには、不利じゃないかな? とか」
「三賢が入り込んでるとは思えないけど」
「だって三賢って世界に名を残す魔法使いでしょ? 12歳~16歳の魔法少女なわけないじゃない」
魔法少女たちがざわついている。
「・・・・・・・」
ファナが1000人以上いる少女たちを見渡す。
誰かを探しているようにも見えた。
ヴェルネス司祭がファナの視線に気づくと、黒いベールをかぶって、端のほうへ下がっていった。
「確かにそうだけど・・・・・・」
三賢は古くから歴史書に残る、3人の魔法使いを指した。
魔法少女が使える魔法は、三賢が残した魔法のほんの一部と云われている。
「我からは何も言えないな。これは魔法少女戦争のルールだ」
ヴェルネス司祭が咳払いをした。
少女たちは互いに国籍、素性、契約内容、魔法少女になった経緯は全て伏せられている。
魔法少女となった者は、神々と契約している以上、逃げることは許されない。
「っと・・・びっくりした」
小さく呟く。
三賢の一人、リリスが端のほうでフードを深々と被り直していた。
「魔法少女戦争かぁ・・・久しぶりだなぁ。気合い入れないと」
力の入った肩を降ろして、パンパンと頬を叩いていた。