082.ナイトメア, 1
(ローズ)
遠くで悲鳴が聞こえた。雨の向こう、外だったと思う。女性が怪我をして痛がっているような声だった。
目を開けたが、自分がどこにいるのか覚えていないし、見えているものも意味がわからない。私の脳が目に映るものの意味を理解できるようになるには、あと数秒必要だった。鋭い痛みが一瞬脳裏に広がるが、やがて消える。変な気分だ。
地面が激しく揺れている。ワゴンのライトはすべて消えている。外が暗いので、外の雨がほとんど見えない。まるで船にでも乗っているかのように、窓から水が流れているのが見える。
怖くて立てない。
その騒々しさと揺れから、何か恐ろしいことが起きていることに気づいた。他の乗客も大声でパニックになっている。私は動けない。外を見ながらバッグをしっかり閉じるだけだ。何かが起こっている...。
外から透明な手のようなものが窓をひっかいているのが見える。まるで幽霊の大群が中に入ろうとしているかのように。
他のワゴンはとても暗くてうるさい。窓が侵入しているのが見える。突然窓が破裂し、悲鳴と嵐の混じった音に耳を塞がれる。
雨が中に流れ込む。雷が鳴り、誰もが悲鳴を上げる。パニックが始まった。私はまだ座っているベンチから動けない。
私たちがその横を通り過ぎるとき、とても大きな木が一瞬、空を覆い隠した。私はそれが傾くのを見た。電車に倒れかかっていたんだと思う。
すでに寒くてずぶ濡れだったが、なんとか少し動いた。近くの手すりをつかんだ。気をつけようと叫んだが、誰にも聞こえなかったようだ。突然、恐ろしい音が聞こえてきた。
地面が一瞬、私たちを見捨てる。いくつかのものが空中に舞い上がり、私たちの周りを取り囲む。叫び声、雷鳴、脱線する列車など、耳をつんざくような大音響が鳴り響く。遠くに火花が見える。めまいがして、立っているのか、座っているのか、投げ飛ばされているのか、よくわからない。
力強い金属音が心臓の鼓動のように繰り返される。それは、まるでどこかから破裂するかのように近づき、強く、速くなる。雷が近くの何かに落ちる。さらに悲鳴が上がる。
屋根の破片が引きちぎられ、遠くに消えていく。列車は、すべてが、そしてワゴンが着実にズタズタになっているにもかかわらず、なおも疾走する。
そして最悪の事態が起こる。雷の閃光の中、私と数人の仲間はワゴンの中に恐ろしいものを見た。まるで死そのものが私たちの中に突然現れたかのように、一瞬にして私たちを深く傷つけた。
もっと悲鳴が聞こえるが、違う。恐怖は少ないが、痛みははるかに多い。列車がようやく速度を落としているのを感じる。しかし今、私たちと一緒にいるように見えるものが、私たちの注意を集中させている。
動物の笑い声のようなうめき声が聞こえ、骨が折れる。痛みの悲鳴が強くなる。
まるで狼の猟犬が私たちと一緒にこの難破船の中にいるかのように、パニックが高まっていく。何人かが出て行こうとするのが聞こえる。追いかけることはできない。
彼らは悲鳴を上げて逃げようとする。列車は徐々に速度を落としていく。また稲妻が光り、私たちは悲鳴のしたあたりに怖いものを見た。
吊るされて負傷していたか、あるいは難破船の真ん中でかかしのように杭を打たれていた誰かだと思う。私たちの誰かが、たぶん死んだんだと思う。もし誰かが人々を怖がらせたかったのなら、それはうまくいった。
頭上の屋根の一部が足元に落ちてくる。風は去ったが、雨は私を溺れさせている。私はバッグを握りしめ、咳き込みながら脇に寄った。
何かを踏んで転んでしまう。怪我をした。何か不吉なものが通り過ぎたと思う。静かな私よりも、少し先で鳴いているグループに興味があるようだ。何かが私の真上を通り過ぎるのを感じる。私は肉厚の何かを押して、それが去った後に立ち上がった。再び雷が鳴る。後ろから男を見る。腕はズタズタ。背中に何かが突き刺さっている。悲鳴が上がる。カカシはまだ私の後ろにいるのだろうか、犯人と一緒に。私は言葉を並べているが、本当は何が起こっていて、何が垣間見えるのかわからない。まったくわからない。
心臓の鼓動はとても速いのに、とても寒い。逃げるべきか隠れるべきかわからない。私の意識は恐怖の小康状態にあり、言葉で考えることはできない。
暗闇の中で争う声と悪態が聞こえる。何人かがドアを開け、列車を降りて逃げようとしている。
犬が肉を食べ、小骨を砕くひどい音が聞こえる。私は茫然とする。
悲鳴はもう聞こえない。列車に残っているのは私だけかもしれない。でも、何かが近づいてくるのがわかる。何か大きくて、血にまみれたような臭いがする。それはゆっくりと動いている。
私は窓に近づく。ずぶ濡れになったソファの上に乗る。そのモノはうめき声をあげ、鼻を鳴らしている。さらにソファを引っ掻く。引き裂く。私はゆっくりと動く。激しく降りしきる雨の中、私はバッグを外に出し、欠けた窓をくぐる。襲ってくる。電車が揺れた。私は足を滑らせ、外に倒れこむ。
~
忘れられない夜だった。天気は鉛色で、まるで夜のようだが、まだ朝だ。腰と腕に怪我をしたが、大事には至らなかった。
バッグを見つけると、頭の上でガラガラと音がする。目の前には野原が広がり、遠くに民家が見える。しかし、人間のかかしが置かれ、まだ悲鳴をあげているのが見える。あるものは、人間からひねくれた目印を作っている...。私は振り返って、這うようにして列車の下に行った。
ちょっとした避難場所を見つけて、あたりを見回す。見えないように車輪の後ろに潜り込む。どこに行くべきか、あちこち探し回る。
雨の向こうで、何人かの男女が、言葉は悪いが、乱暴にかかしにされているのが見える。杭を打たれ、屠殺され、磔にされる。そして罪を犯した形相は畑にしゃがみ込み、もう見ることはできない。私は、物陰に何があるのか気づかないまま、列車から逃げ惑う人々を見る。
もう見ることはできない。遠くでまだ彼らの悲鳴が聞こえる。最後のうめき声を雨にまぎれて、死ぬまで叫び続ける。
怖い。嵐はすべてを覆っているけど、天気はどんどん変わっていくし、奇妙だ。ここはどこ?どこに行けばいい?
確かにそうだ。列車の反対側には森が広がり、この地平線に陽が差し込まないとさらに暗くなる。
でも悲鳴は聞こえないし、他の人たちが夢中になって森の中に入っていくのに気づいた。手をつないで入っていく人もいる。そのほうがよさそうだ。
背後には畑が広がり、今は不気味に静まり返ったままだ。私は森の脇を行く。電車の下から抜け出し、周囲を注意深く見回す。周囲に変わったものは何もない。列車の上から奇妙な動物の鳴き声が聞こえる。私は後ろも見ずに走り出す。
あと数歩で森が始まる。しかし後ろからうなり声が聞こえ、最初の木々を通り過ぎると、またしても後ろから少年の恐怖の叫び声が聞こえてきた。私は立ち止まって振り返りたかったが、怖くて森の中へ走り続けた。まだ地平線の隙間から光が入ってくるので、自分がどこへ行くかは推測できる。あちこちに、走ったり隠れたりしている人の姿が見える。近くを通ると、彼らのささやき声が聞こえるが、私は走るのをやめない。まだ止まれない。
見えない何かにつまずき、茂みに落ちるまで走り続けた。私はそれほど怪我をしていないし、おそらく今は少し隠れている。
空を見ても何も見えない。雨は私のはるか頭上の葉に降り注ぎ、私には届かない。呼吸をすると、少しの蒸気が空中を流れて消えていくのが見える。私はただ、私の田舎にある他の森と同じような森の中にいるのだ...。
私は待ち、少し休む。まだ頭がぼんやりしている。
待つんだ...。
~




