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強制退去

 

 ホールというのはゴミを送りつけてくる穴のことだ。


「ですが、ホールが開いているときにこちらから何かを送っても、アジリスタには到達しないんじゃ?」


 達也の疑問に三枝は答える。


「そうよ。そうした実験は以前から行われてるけど、こちらから送ってもアジリスタには届かない。どこか別の空間や世界にでも繋がっているのかもね。未知数なところはあるけど、それでも政府行政側はこれ以上無駄な支出を抑えるべく、ゴミ人間を減らそうとしてるわ。強制的にね」


 そんな法案が決定していたとは達也も知らなかった。


 呆然とした表情で魔女は半田ごてを床に落とした。


「あなたには申し訳ないんだけど、退去の候補にあなたも含まれてる」


 床が焼ける臭いが部屋に満ちる。


 リーシャは白目でとことこと万年床に倒れて布団を被った。


「これはユメに違いないのだ……朝起きたら何事もなく、半田ごてを握れる毎日が……」


 リーシャは現実逃避を始めてしまった。


「こんな楽園から去りたくない……どうしてわたしがこんな目に……」


 ぶつぶつと布団から世界を恨む声が聞こえてくる。


 最低な生活をしてはいるが、捨てられて直ぐこちらからも捨てられるのは可哀相に思える。


 三枝は更に言葉を続けた。


「だけど、一つだけ方法があるの。リーシャさんが最低の粗大ゴミ不燃を脱して、別の分別をされれば良い。粗大ゴミ可燃でも資源ゴミでもね」


 そうか。確かに粗大ゴミ不燃が退去させられるのなら、それ以外の分類になれば良い。


「再分別もおこなってるんですか?」

「そりゃおこなってるわよ。最初にチェックするだけじゃその人の能力を測れないかもしれないじゃない。それもあなたの仕事よ? 社会に有用だと評価されれば粗大ゴミから資源ゴミ……最低でもやる気が評価されれば粗大ゴミ可燃にはなれる。でも、ただゴミ人間がバイトや仕事をするなりじゃあダメ。遠藤くんがしっかりとゴミ人間を評価して、その頑張りを人物素行調査票の総合項目に記す。そして審問委員会に提出して、リーシャさんの要求が通ったら見事……粗大ゴミ不燃の分別から逃れられる」


 達也は手渡された人物素行調査票を眺めた。担当官の仕事はゴミ人間を分別すること。


 もし、社会に有用であるようなことをすれば、総合項目に記し、再分別の要求を審問委員会に提出。


 要求が通れば、リーシャは強制退去を免れることになる。


「聞いてたか、リーシャ?」


 布団が吹っ飛んだ。立ち上がったリーシャは凜とした表情だった。


「仕方ない。やってやるのだ」


 先ほどの疲弊した表情は既になくなっていた。


「わたしが本気を出せば、粗大ゴミから資源ゴミになることなど余裕なのだ」


 ふんと胸を張り、威張る。


「わたしは粗大ゴミから資源ゴミになる!」


 魔法が使えない魔女。粗大ゴミ不燃のごみっ娘。


 達也はリーシャの担当官として協力することになった。


―――――――――――――――――――――――――

 達也は三枝から管理担当官の手引き書を手渡された。


 三枝はどうやら多忙のようで手引き書を見てから色々と行動してくれと達也に言う。


 こういう業務では当然先輩社員などが最初は付き添いで教え込むはずなのだが、素人の達也は放り投げられた。よほど人手が足りないらしい。


 魔法が使えない魔女を社会に有用な人材に育てないといけない。


 社会に有用かどうかは審問委員会が評価するが、確実に評価されることはバイトか仕事をすることだった。


 しかし、アジリスタの人間はこちらの環境について行けないために良く引き籠もりになる。


 初めは達也が自立支援をしつつも、リーシャに付き添った方が良いだろう。


 そして評価されるためには何らかの材料が必要だった。


「リーシャ……定期調査に行くことから始めよう」


 定期調査は、ゴミ人間たちがどのように過ごしているかを調査員たちが人物素行調査票を使って聞き取りを行うことだ。


「? なんだかわからないが任せるのだ」


 リーシャには根拠のない自信があった。


 頼もしく思える反面、不安に感じるときもある。


「つまり、この調査票を使って、調査する人が色々質問したりするってことだ。お前はそれに答えるだけで良い、はずだ」


 達也自身も経験がないから断言することはできなかった。


「もしかして……タツヤは新米の担当官か?」

「実は……な。まだあまり詳しくない」

「そうか。どうにも頼りないように見えた。まぁわたし程頼りがいのある人物も少ない。むしろわたしを頼るのだ! どんと全てをわたしに任せるのだ!」


 自分が頼りない以外突っ込みどころしかない発言だったが苦笑しながら頷いてやった。


「手始めに、わたしの弁舌で相手をいなせば良いのだろう?」

「そ、そうだな。頼むぞ」


 前の担当官が書いた人物素行調査票を捲っていると、リーシャが覗き込んでくる。


「ゴクチョウか……私生活を暴かれるようで嫌なものなのだ」


 獄中調書とアジリスタのゴミ人間からは揶揄されているらしい。


 牢獄に入れられたときのように、全てのことを調べ上げられると。


「だけど、ただで金をもらってるんだから、そこは受け入れるしか」


 単純に支出を表す暮らしぶりの項目から異世界での立場を表す前歴。


 それから一日に何をしているかの時間項目。


 そして、最も重要となる総合項目。


 総合項目が埋められていれば、調査員や審問委員会は評価をしてくれる。


 しかし、他の項目もきちんとしていれば、心証が良くなるから、今後は達也はリーシャのことを良く知り、そこを埋める必要があるだろう。


「よし、タツヤ、定期調査に行くのだ」


 リーシャは玄関の扉に手をかけるが、達也が押しとどめる。


「待て。お前はまず靴を履け。こっちでは皆履いてる」

「そうか? すまないのだ。向こうでは全裸が多かったのでな」


 こいつは向こうではどんな暮らしだったんだ……。


「後、俺が言うのもなんだけど、風呂に入った方が良いぞ」

「湯浴みのことか?」

「まぁ、そうだな」

「失礼な。わたしだってお風呂は入ってるぞ。週に一回もだ」

「そりゃくさくなるはずだよ……」


 湯浴みなどと言う時点で少し文化が異なるのかもしれない。


「毎日風呂に入った方が入った方が良い。面接でくさかったら、心証が悪いぞ……」

「ん? どうしたのだ? 悲しい顔をして?」


 自分の体臭で落ちた数々の面接を思い出していた。


「絶対に、風呂に入れ」


 達也の切実そうな表情を観てリーシャは気圧されていた。


「わ、わかったのだ」


 シャンプーやリンスをリーシャは持っていなかったので、達也は靴も一緒にしま○らで買ってきた。

 お風呂から出たリーシャは既に新しい黒衣に着替えていた。


 ここに初めて来たときから、黒衣だけは既に何着も揃えていた。


「よし、臭いもないし完璧だな。いや、女の子なら……香水も……柑橘系なら印象も……」


 達也が一人悩んでいると、不審げにリーシャが見つめ返す。


「どうしてそんなに臭いに詳しいのだ」


 達也はアジリスタのゴミの臭いが身体から取れないことを話した。


 リーシャに訊ねても原因はわからないそうで、首を傾げるだけだった。


 リーシャは自分も臭いこともあり、達也の臭いに関しては気にしていなかった。


「魔女のわたしが知らないのだから、誰も知らないだろうな」

「ま、簡単に見つかるとは思ってないよ……もう行こう、少し前に到着した方が良い」

「わたしの弁舌、とくとみるがいいのだ」


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