魔女再び
達也は一週間後に再び、庁舎を訪れた。
カンタイは政府や行政が絡んでいる仕事でもあるので、人事の三枝が書き上げる書類が膨大らしい。
その書類が承認され、認可が下るのが最速で一週間だとのことだった。
達也は庁舎の応接室で三枝からIDを手渡された。
所属が環境安全対策部門。
右側には、引きつった笑顔の達也の写真が貼られている(うまく笑えなかった)。
「これを見せれば、管理担当官であることの証明になるから……じゃあゴミ人間やごみっ娘をどう分別するかだけど――」
女の子のゴミ人間のことをごみっ娘と呼ぶらしい。
とある団体から女性蔑視のクレームが届いたとかで女性や女の子限定でそのような名称が使われる。
「すいません」
達也は三枝の言葉を切った。
「俺はゴミ人間が一体こっちに来てどうなってるかとか、どう過ごしてるかとかも知らないんですが」
「そっか。それもそうよね。普通に住んでたらわからないしね。じゃあそこから説明するから。結論から言うと、ゴミ人間は政府や行政のお金で普通に暮らしてる。
昔、ゴミが降ってきた当時は戦争だったり、侵略されたりなんかが叫ばれたりで結構大変だったの。そのときから既にゴミ人間は降ってきてたんだけど、実はスパイじゃないかとか色々勘ぐられてたの。でも、そんな素振りを全く見せないから、戦争の引き金にならないように丁重にゴミ人間をもてなしてた。それから異世界とコンタクトが何も取れないことを知ると、ゴミ人間たちをどうするかってことになった」
「そこでカンタイの管理担当官が出てきたんですか?」
「その通りよ。ゴミ人間の分別をして、社会に有用なゴミ人間を見つけるということ。丁重に扱っていた頃からの名残でゴミ人間には無償でかなりの金額のお金が与えられていたの。だから、少しでも異世界の人間の活路を見いだそうとしたわけ」
「でも、アジリスタから捨てられた人間だった」
「残念ながらね。どういう状況か見た方がわかりやすいかもね。ついでに見たときに遠藤くんの担当を決めましょう」
四階建ての庁舎から出て、二人は市内にある賃貸マンションに赴いた。
このマンションのフロアを行政が借り入れているらしい。
他にも市内にはゴミ人間が住んでいるマンションが沢山存在するようだ。
中でも、今回のマンションは女の子が多いフロアらしい。
「結構いいマンションですね……」
内装や塗装も比較的新しく家賃も高そうだった。
「結構なお金がかかってるのよ。家賃や生活費も全部行政や政府が出してるんだから。丁重に扱ってた時代からその料金の改定が行われていないの」
三枝は履歴書のようなものをぱらぱらとめくりながら、扉のインターホンを押した。
しかし何も返答はなかった。
「次に行きましょうか」
さっさと諦めて次々と扉のインターホンを押すが、住人はいっこうに出てくる気配がない。
「誰も出てきませんね」
「ま、わかってたことだけどね。多分、引きこもってるんでしょう。ちなみに、今会おうとしていたごみっ娘たちは全員、『粗大ゴミ不燃』という分類がされているから」
「粗大ゴミ不燃?」
「そう。簡単に言うと、社会に有用ではなく、何の能力もない。そして、やる気もないし、頑張ろうともしない人たちのこと。不燃って言うのはやる気が燃えない的な意味ね」
粗大ゴミ不燃……大型のゴミで燃えづらい……つまり、扱いが厄介という意味もあるのか。
「ゴミ人間は今この街に一万人いるけど、九割五分はこの分別がされてるわね」
「まさか……能力もやる気もない人が九割以上も?」
「ゴミ人間は捨てられたのよ? 能力だけじゃなくて精神にもよっぽど問題がないと捨てられるまでしないわよ。厳しい言い方にはなってるけど、現状は正しく理解した方が良い」
「そうなんですか……なら担当官が有能なゴミ人間を見つけるのって無理じゃないですか?」
「そうね、かなり難しい。だから、見つけるだけじゃなくて、育てる必要もある」
三枝は意地の悪い笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。育てる方は話していなかったわね」
この人……わざと話さなかったんだ。
良いことだけを話す……まさにブラックじゃないか。
「例えばね、ゴミ人間が捨てられて来たとすると、最初に担当官の誰かが分別をする。そのときに『資源ゴミ』……社会的に有用な能力がある人ね……それなら良し。定期的に家などを訪問したりして、報告書を書く。でも、粗大ゴミ不燃のようなら、話は変わってくる。たいていはやる気も能力もなくて、政府のお金で遊んでるんだけど、担当官がやる気にさせ、自立支援し、社会に有用な人材に育てる」
管理担当官は分別して有用な人材を見つけるだけではなく、育てる必要もある。
その育てる過程のなかで優れた能力が見つかるという可能性も考えられているのだろう。
「すっごいやることがあるじゃないですか……」
「一人で色々なことをやらないといけないから大変な分、やりがいも多いはずよ」
物は言い様だった。やることがありすぎて大変だからやめる人も多いのだろう。
だから人手が足りないに違いない。
「今からバイトやめられますか?」
「いいえ、却下します」
臭いを消す方法が見つかるなら、大変なのは我慢するしかない。
そもそも達也には選べる選択肢はない。
三枝は次のインターホンを押したときだった。
「入って良いのだ」
初めて返事が返ってきた。引きこもってはいないようだった。
「あーこのごみっ娘はあなたが連れてきた子ね。名前はリーシャで前歴は魔女。縁もあることだし、この子の担当官をやってもらおうかしら。ま、ひとまず会って話でもしたら?」
目線で先に行くように促される。
達也は若干緊張しながら扉に手を掛けた。
リーシャはアジリスタの人間で魔女だった。
達也の頭のなかで魔女のイメージがいくつも浮かぶ。
黒いローブ。怪しげな魔法の道具。火や水を操ったり、人を呪ったり。
達也が部屋に上がった瞬間、まず気付いたのは異臭だった。
廊下に備え付けの流し台にはコンビニで買ったであろう弁当のカラが積み上げられている。
「なんだこれ……」
ゴミの山。
黒い衣服が部屋の周りに脱ぎ散らかされ、異臭を放っていた。
その中央には横に寝転がりながら、何らかの作業に没頭するリーシャの姿があった。
親父のように服に手を突っ込み尻を掻きながら、リーシャは振り返った。
見知った顔に驚いたようだった。




