バイト
人生最高のテンションが一瞬で谷間まで落ち込んだ。
よりにもよって、面接に臨むときにゴミを浴びることになろうとは。
達也が落ち込んでいると、ゴミの山が蠢いていた。
黒衣を纏った一人の少女がゴミの山から顔を出した。
「ここは……どこなのだ?」
「ここはゴミ捨て場だよ……キミは捨てられたんだ」
異世界からのゴミに混じって捨てられてくる人間。
通称、ゴミ人間。
異世界で使えない人間や役に立たない人間がこちらに捨てられてくる。
「わたしはリーシャ・リーファルオン……魔女なのだ」
黒衣に杖という出で立ち。物語に登場する魔女のイメージを見事に体現していた。
魔法で火をおこしたり、呪いや大釜を使うイメージが瞬時に浮かぶ。
「魔女か……どうして捨てられたんだろうな」
ゴミが降ってくるのを達也は良く目撃するために、今まで何度もゴミ人間と出会っていた。
達也が考え始めると、魔女リーシャも腕を組み、頭を悩ませ始める。
「やっぱり、わたしは捨てられたのか」
「原因が思いつかないのか」
達也が今まで会ったゴミ人間は捨てられた瞬間から、色々と原因を挙げたものだ。
リーシャは原因を挙げ始める。
「二度寝でよく遅刻するとか?」
「まぁなくはないか」
「……忘れ物を良くするとかか?」
「どうだろうか」
魔女は腕組みして眉間にしわを寄せる。本人的にはもう原因が出尽くしたのだろう。
「魔法が使えない、はないだろうしな……」
「それだよそれ! 真っ先に思いつくものだろそれ!」
「え……それだけで?」
「俺にとってはどんだけだよ……」
リーシャの驚愕の表情に、あきれ顔を返した。
「希代最強の魔女と呼ばれているぞ」
「それ、皮肉られてるから」
希代最強の魔女が魔法を使えないわけがない。
魔法が使えない魔女リーシャ。
今日もこの街に新しいゴミ人間がやって来た。
――――――――――――――――――――――
面接は勿論落ちた。
達也は魔女を引き取ってもらおうと、環境安全対策部門に連絡を入れたが、連れてきて欲しいと頼まれた。いつも連絡一つで職員が駆けつけてくれるのだが。
環境安全対策部門――通称、カンタイの庁舎に連れて行くことにする。
カンタイが設立されたのは異世界アジリスタからゴミが降ってきた辺りだと聞く。
政府が高見市を含む行政に作らせたのがカンタイで、異世界のゴミ問題は全てその部門に回されているらしい。
「わたしはこれからどうなるのだ? まさか捕虜になって……」
異世界アジリスタの人間は初めは全員同じことを言っていた気がする。
戦争が現代の日本より一般的なせいか、他国に来たと認識しているゴミ人間たちはそのような心配をする。
「大丈夫だよ。普通に生活できるらしいし」
達也もカンタイのことは詳しくないから説明はできないが、異世界からのゴミ人間は普通に生活を送れているらしい。
魔法が使えない魔女を庁舎に連れて行くと、受付から応接室で待って欲しいと言われた。
何故かリーシャは別の人間に連れられていった。達也は一人居心地の悪い部屋に取り残された。
「ごめんね。待たせちゃって」
一人のオフィススーツの女性が扉から現れた。
簡単にお互いが自己紹介した。
相手は企画人事部所属で三枝桃花と言う名前らしい。
「君が良くゴミ人間……いえ、ごみっ娘たちをカンタイに連れてきてくる子ね」
ごみっ娘? 随分と親しみやすい名称だった。カンタイではそう呼ばれているのか。
「君は有名よ? ゴミ人間と出会ったと良く連絡くれるって」
にっこりと微笑する。そして見定めるようにじろじろと三枝は達也に視線を浴びせる。
美人であるために初めこそ、どぎまぎしたものの、直ぐに達也は思い至る。自分の臭い。
「遠藤くん……臭い」
ほら来た。
「童貞臭い」
思ったのと違った。
「結構好みかも」
「か、からかわないでください」
軽いウィンクされる。ちょっと良いかもなんて……思っていない。
……それにしても一体、この人は何をしにここに来たのだろうか。
「俺の臭い、気にならないんですか?」
「童貞の?」
「いえ、体臭の方です」
「別にちょっとアジリスタのゴミの臭いがするなって思ったくらいよ。だって、ここはカンタイよ? 臭いなんてしょっちゅうよ」
そこまで言ってから三枝は達也に向き直った。
「ねぇ……遠藤くん、うちでバイトしない?」
願ってもみない誘いだった。
だがゴミ関係だったらやりたくない。
仕事内容が気になった。
「バイトはどんなことやるんですか? ゴミ関係の仕事なんですよね? 余計臭いが。アジリスタのゴミに触れて以来、身体から臭いが消えないんです」
「ごめんごめん急に誘って、まず軽く説明するわね。遠藤くんが働くことになれば、まず管理担当官になるわ。担当官の仕事は、主にゴミ人間を『分別』すること」
「分別って何ですか?」
「文字通り、種類ごとに分けること。ゴミ人間をね。担当官の仕事は、ゴミ人間を分別して、有用なゴミ人間を見つけること」
ゴミ人間を分別する……有用なゴミ人間を見つける……。
全く新しい仕事だった。
「有用なゴミ人間自体が既に矛盾してるけどね。だって、アジリスタのいらない人間がこっちに捨てられてるんだから、有用なゴミ人間なんてほとんどいるわけないもの」
魔法が使えない魔女が何故か頭に浮かんだ。
「でもそれを見つけるのが担当官の仕事。どうやって、見つけるかやどう分別するかはまた教えるけど、どうやってみない? 実は最近ゴミ人間の数に対して担当官の数が足りないのよ」
「本当に仕事はそれだけなんですか?」
達也の質問に言葉を詰まらせる三枝。
「す、鋭いわね。メインの仕事はさっき話した通り。でも担当官には街中を走り回っゴミ人間に関する問題の解決も手伝ってもらってるわね。ゴミの回収とかもやってもらったり」
メインは分別ではあるが、言って見れば雑用係も兼任しているのだろう。
人手が足りないのは何でも屋的なせいで、忙しくブラックな面もあるからか。
達也はバイトの経験からカンタイのブラックさを悟った。
「ね? ね? バイトしましょ?」
執拗に懇願する辺りブラック臭が漂う。
人事としては人手を集めたいのか。
達也としてはブラックなのが原因ではなく、臭いがつきそうな仕事はやりたくないのだ。
「遠藤くんだったら、絶対上手くやれると思うわ。そうだ。ここで面接しちゃいましょう」
達也は強引に座らされ、三枝は面接官となった。よほど人が欲しいらしい。
「えっと名前は知ってるから、志望動機をお願いします」
「誘われただけです。全くやる気はありません」
「採用!」
三枝は立ち上がり、
「久々に良い志望動機だったわ。感動しちゃった」
この人体裁だけ整える気だ!
「じゃあ後日改めて履歴書を――」
「ちょっと待ってください!」
瞬く間に採用されていく過程に待ったをかける。
「お願い。一緒に働きましょ? 笑顔が絶えないアットホームな職場だから」
ブラックの常套句だった。
「ま、人がいないからそもそも笑顔なのは私くらいだけど」
「いやでも……ですね」
「アジリスタと関わるカンタイにいたらきっと臭いを解消する方法も見つかるはずよ」
「ぜひここで働かせてください。お願いします」
臭いを消す方法がわかるなんて、なんてすばらしい職場なんだ!
確かにアジリスタのことを調べるにつれて、臭いを落とす方法を見つけられるかもしれない。
今まで異世界のアジリスタのことを避けていたが、逆に踏み込むことで解決法を探すのだ。
バイト代も入ることだし、言うことはないではないか。ブラックそうなのは置いといて……。
「よし、決まりね! じゃあ、一週間後にまた庁舎に来て。そのときから働いてもらうから」




