異世界のゴミのせいだ
達也は恥ずかしくなり、顔を紅潮させながら席に腰を下ろした。
自分はまたあの中学の過去を思い出していたらしい。
なぜか達也が戸川に告白したことになっていることだった。
そして、戸川に振られた。告白するつもりなんかなかったのに、達也の早とちりで意味不明な返答をしてしまったからだ。次の日から、友人に散々からかわれた。
『お前戸川にふられたらしいな』。
『お前の顔では無謀だろ』。
『戸川は天使。人間が天使にふられるのは当然』。
結局、いくら誤解だと言っても理解されなかった。
中学三年が終わるまで、達也は戸川に無謀にも挑戦しふられた男というレッテルを背負って生きた。
そして戸川に言われてから自分の臭いに気付いてしまった。
あの日から間違いなく、達也の人生は変わってしまった。
冴えない人生から臭い界のスーパースターへの道を歩み出してしまった。
たまにスメルマンと呼ばれる。
達也のお風呂事情は瞬く間に別のクラスまで伝搬した。
それを聞きつけた友人の白河が休み時間ににやけ顔で達也に歩み寄った。
「よう、今日もくさそうだな」
「元気そうだなみたいに言うんじゃない」
「しず○ちゃんて呼ぼうか?」
「勘弁してくれ……」
白河はけらけらと笑った。
しかし、達也にとっては笑いごとではない。
中三の冬に気づいて以来、自分の体臭は高校二年の五月現在消えていない。
「どうした? また悪夢でも見たのか?」
白河には達也がトラウマになっている夢のことは話してある。
「悪いかよ……」
「言っちゃあ悪いが、凡人で普通な男のお前が戸川さんにコクられるとか夢を見すぎ。俺がもしされたら、逆に警戒する」
ぐぬぬと達也は言葉が詰まる。
白河の言うとおりで学年一の美少女に告白されると信じていたあのときの自分をぶん殴りたい。
「ま、告白だけならまだいいよ。そのあとの……臭いの件がな」
「あぁ……おまえの体臭、異世界アジリスタのゴミみたいだもんな」
達也の匂いは一般的な体臭というよりは、アジリスタのゴミのような匂いがする。
「多分、俺の上によくゴミが落ちてくるからその匂いがずっと付いたままなんだよ……」
達也も尽くせる手は打っていた。
毎日朝夜風呂に入り、身体を洗った。
しかし、異世界のゴミの臭いは一時はおさまるものの、完全には消えない。
制汗スプレーを毎日完備し、事あるごとに吹き付けるしかなかった。
それでも臭いはあると周りの人間は言っている。
「まぁ気にするなよ。お前がいくら臭かろうとお前はお前だよ。俺は気にしないぜ」
白河の真摯な眼差しに達也は心を動かされる。
白河だけは達也の心を思いやり、決して裏切ったりしない。
白河だけは親友だった。
「白河……」
白河の白い歯を見せた笑顔が眩しかった。
「……なら、お前はどうして俺と話すときに、そんなに距離を取るんだ?」
「お前がくさいからに決まってんだろ」
「さっきの友情はなんだったんだ!」
白河と達也の話す距離は2メートルほどはあった。
これが親友と話すときの距離なのか。
「だってお前の匂い移るんだよな。ま、いいじゃねぇか。親友でも適度な距離感って必要だし」
適当にまとめてから白河ははなしを切り替えた。
「そうだ。お前の風呂事情暴露記念に放課後どっか行こうぜ」
「悪い。今日はバイトの面接なんだ」
達也にとって体臭は友人関係以外にも、金銭面での問題も引き起こしている。
体臭を何とかするために、制汗剤やコロンを買うお金が馬鹿にならない。
まるで思春期の乙女だった。
「そっか。お前バイトクビになったんだっけ」
「そうだよ。あんなことしなけりゃなぁ……」
達也は頭を抱える。今でも店長にあんなことしたことを後悔するときがある。バイト代も悪くなかった。あれがなかったら、今でも普通にバイト代が入っていたのに……。
「じゃあまた今度遊ぼうぜ」
白河との遊びを断り、達也は放課後にバイトの面接に向かうことにする。
校内で達也を知らない人に出くわせば、常に奇異の視線にさらされる。
そして周りは避けるように達也に近づこうとはしない。まぁ、それももう慣れっこだった。
ある三人の女子生徒がひそひそ話で達也の臭いの原因について話し合っている。
「お風呂に入ってないとか?」
「身体洗ってないとか?」
「オ○ニーのしすぎ」
「「なるほど」」
勝手に憶測に推測を重ねられ、達也の評判もなかなかのものだった。
誤解を解こう近づけば、逃げられるという始末だ。もう達也は憶測も非難も受け入れるしかない。
それも全て異世界アジリスタからのゴミのせいだった。




