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ゴミ人間襲撃事件3


 翌日の放課後。

「だから、先輩はダメダメだと言うんです」


 みつりに話すと開口一番ダメだしされた。


「まぁ、そうだけどさ……」

「先輩が寂しがってどうするんですか」

「でも、なんだか寂しいんだよ……」

「それを自覚してみつりに相談するのも……何だか嫌です」


 唇を少しだけ尖らせるみつり。


「やっぱりそうだよな……」


 後輩に相談している時点でどうかとも思う。


「……でも、そういう担当官としてのやり方も先輩なりでありなんじゃないですか」

「何か、励ましてくれてありがとな」


 感謝の気持ちを振り払うようにみつりは首を何度も横に振った。


「……別に励ましてませんっ。客観的なことを言っただけで……」


 戸惑うみつりに笑顔を返す。


「じゃあ、ちょっと放課後リーシャを探してみるよ」


 リーシャはマンションの自室にはいなかった。


 何かあったのかと心配で鍵を開けて中を窺うが部屋のなかには電子工作の部品や衣服が散乱しているだけで何も変わりはなかった。


 しかし物干し竿になっている杖がなくなっていたことに気付いた。


 リーシャを探し回っていると、三時間ほどでようやく見つけることができた。


 アデルのアパートの一室が朧気に見える曲がり角。


 リーシャは緊張した雰囲気を醸しだしながら見張っているようだった。


 リーシャの背後から肩を掴む。


「うひゃぁぁ! 見張っていないのだ! わたしはただの通りすがりの魔女なのだ!」


 パニクっているリーシャを落ち着かせる。


「俺だよ、俺……」

「あ、タツヤ……か」


 一瞬安堵した表情を見せたが、直ぐ様達也に背中を向ける。


「……ほっとくのだ」


 突き放そうとするリーシャ。


 あのときと全く同じだった。


 何て言って良いかわからないから結局達也は自分の気持ちをぶつける。


「俺は寂しいんだよ! 今まで一緒にやって来たのによ! 俺が情けないからか? 俺が頼りないからか?」


 振り向いたリーシャの表情は呆れかえっていた。


「なんか……情けないというか、女々しいな、タツヤは……」

「う、うるせぇよ。寂しいから寂しいって言っただけだよ」


 逆ギレしてみたものの、何だか本当に自分は何を言っているんだという気持ちになる。


 表情を緩めようとしたリーシャが唇に力を込める。


「違うのだ……タツヤが情けないからじゃないのだ。タツヤが……くさいからじゃないのだ」

「ちょっと待て。臭いが関係しているとは俺も思ってない」

「タツヤが頼りないからじゃないのだ。タツヤがわたしと比べて頼りがいがありすぎるのだ。頼ってしまいそうになる……楽なことに逃げるわたしは直ぐ頼ってしまう」


 ぽつりぽつりと感情を吐露していくリーシャ。


 ローブを両手で握りしめ力を込める。


「タツヤに見せたかったのだ……一人でも頑張れるところを……自分で何かできるところを」


 逃げようとする自分を必死に押さえつけるように、声は僅かに震えていた。


「そう、だったのか……」


 達也は早とちりしていた。


 自分が情けないからリーシャは離れてしまったのかと思っていた。


 しかしリーシャも自分を変えようと努力していたのだ。頑張ろうとしていたのだ。


「でも、ダメなのだ……自分だと何をしていいかもわからない。どうすればいいのかわからない。わたしはダメダメなのだ……粗大ゴミ不燃なのだ。今まで適当に生きてきたせいで何もできないのだ。だから……タツヤ……」


 弱音に近い感情の本流にリーシャは歯止めを掛ける。


 頼ってはいけないという心が最後にリーシャを押しとどめた。


 最後の引き金を達也は引いてやった。


「任せろ……リーシャ。一緒にやろう」


 リーシャの驚きを含んだ瞳が達也に向いた。


「俺も力になれるかわからないけど、協力する。協力すれば、きっと解決できる」

「そう、だな……ありがとう、タツヤ」


 社会問題の解決は担当官が多少関与していても前例からゴミ人間への評価は落ちないことがわかっている。


 この襲撃事件を解決出来れば、リーシャはこの世界にまだ留まることができる。

「そうだ、やっぱりリーシャは何か心当たりがあるのか? アデルさんの話のときにおかしかったが」

「アデルは頭に靄が掛かったようだと言った。実はその症状は第二系統樹の魔法の影響だろう。それに、杖を持っていたという証言……犯人はわたしの知り合いなのだ」


―――――――――――――――――――――――


 週末にもリーシャのマンションに上がり込んだ。


 みつりは何か怪しげな匂いがしますと訝しんでいただが、きっちりと否定しておいた。


「その知り合いは……どんな奴なんだ?」


 リーシャは落ち着かなげに手元の半田ごてをいじっている。


「名前も風貌も知らない。実際に面識はないのだ。二月の湖に顔を出さなかったからな」

「二月の湖ってことはエスタ関連か。会ったことないのにどうして知ってるんだ?」

「噂なのだ。後、エスタ様の門下に属する学徒同士の話だったりだな。そいつはエスタ様の門を叩いたらしい。どうも魔女の一団がいた皇国リーデンより東方の国から来たと聞いた。東方からの来客というのは珍しいから話題になった」

「何しに来たんだろうな……俺には異世界過ぎて想像できない」

「アジリスタではリーデンもそうだが、人口増加に伴う土地の少なさが問題になっている。そもそも人口が増加したのも領土拡張の戦争への緊張が高まったからだ。兵力増強の意味もあり、国民に子を沢山産ませるように推奨したのだ。だが、結局平和条約の締結で戦争こそ回避されたが、残ったのは大量の国民と食料問題、それにゴミの問題だけだった」


 だからアジリスタは異世界のゴミ捨て場を作り、ゴミや使えない、役に立たない人間を捨て始めたのだった。


「多分、東方の国も解決策を探していたのだと思う。そいつは世界に名を轟かせているエスタ様に弟子入りして神秘を求めようとしたのだと思う」

「アデルさんは杖を持っていたと言ってたが、どうしてそいつだとわかるんだ?」

「一つに、杖というのは簡単に言えば魔精との交信を取りやすくするものとして使われてる。しかし、細長い棒というものは一般的に月に届くという人の傲慢な意思を象徴するから、魔精には好まれない。だけど、細長い棒……杖が神秘を帯びていれば問題ない。霊樹メルドールの杖は魔精に嫌われない唯一無二の杖だと言える」


 達也は神妙に頷きながら感心する。


「ん? どうしたのだ?」

「いや、リーシャってほんとに魔女だったんだなって」

「失礼な! わたしは立派な魔女だ!」


 半田ごてを振り上げながらリーシャは声を上げる。


「こほん、だから杖を使っているだけでエスタ様の学徒であるとほとんど決めつけることができる。それにそいつは優秀で第二座としてエスタ様の補佐をしていた。大樹から魔法を見いだしたときに、エスタ様はそいつをこの世界に送り込んだと聞く」

「一方通行なんだろ? 捨てられたのか?」

「その真偽は定かではない。そこは噂でしかない。捨てられたのかもしれないし、送り込まれたのかもしれない。弟子である学徒には推測しかできないのだ」


 こちらに来ているのであれば、ゴミ人間として普通に生活している可能性もある。


「しかもアデルにかけられていた魔法はエスタ様が得意としてた第二系統樹のものだ。記憶の錯乱や操作と言ったところか。第二系統樹の魔精はとにかく気むずかしい奴らばっかりなのだ。そいつはエスタ様に教わり習得したのだろう。誰でも見いだせる魔法ではないのだ。わたしも惜しくも逃した」

「本当に惜しいのかよ……」


 まず最も基本的っぽい火とかを出せるようになれよと思う。


「でも結局どうしてゴミ人間を襲っているかがわからないよな……」


 ひとまず犯人はアジリスタからこちらに来た人間。


 しかし、何故ゴミ人間を襲うのか。


「恨みや怨恨、か……」


 リーシャは難しい顔をしてぽつりと言った。


「それは違うんじゃないか。恨みとかなら、暴行とか加えるだろうが、この事件には何も暴力性はない。しかも話を聞くところによると、犯人はアデルさんとかと接点はない気がする。

むしろ良く知らないが、RPG的に言えば記憶操作で記憶を消しているなら、知られたくないことを聞いたりしていたんじゃないか。聞き終わったら、そのあたりの記憶を消したとか」

「タツヤ……魔女と同じくらい頭が良いな」


 感心しているが、少し考えれば誰でもわかりそうな気もする。


「何を聞いていたのか。どうしてあのゴミ人間だったのか。それらに答えはでないけどな」


 結局、どうしてあの人たちだったのか。


 その共通項が見いだせないとわからない。


「う~わからないのだ。こんなに頭を働かせたのは電子工作キットを選ぶとき以来なのだ」


 それが本気なのかどうかも良くわからない。


 結局二人して考えてもなかなか答えが見つからなかった。


 二人は素人なのだから当然だった。


 夕闇に包まれる街を窓から眺めていると、ふとレイラのことを思い出した。


 自分はリーシャだけを担当しているわけではない。


 優等生ではあるがレイラの担当官でもあるのだった。


「ちょっとレイラさんに電話してもいいか?」

「あぁ……レイラか。タツヤがストーカーをしている女の子だな」

「馬鹿っ、ちがうよ! ただ、バイトの時間にウェイトレス姿を見に行ったり、手を握ってもらうために小銭を多く渡したりする程度だ!」

「すまん、変態だったな」


 達也はレイラの携帯電話に連絡を入れた。


 リーシャは持っていないが、レイラはバイトの都合上携帯電話を持っている。


「はい、レイラです」


 久しぶりに聞く声にほっと安堵する。


「もしもし、遠藤です。最近はちょっと訪問できていませんが、どうですか? 何か生活の上で不便なことや困ったことはないですか?」

「えっとそれが……」


 口ごもるレイラ。


 達也は先を促す。


「何でも言ってもらって結構です」

「えっとそれじゃあ……最近、誰かに見られている気がするんです」


 胸を突かれたような感覚。


 脳裏には疑問の言葉が次々と浮かんだ。


 誰かに見られている? 


 あれは達也がじっと見ていたからじゃなかったのか? 


 達也が見ていたから視線を感じていたんじゃないのか? 


 もう達也はレイラを見に行くようなことはやめていた。


 達也ではない人間。


 レイラを監視、観察している人間が……もう一人いる?


「直ぐ行きます! そこを動かないでください!」


 手にじっとりと汗を掻いた。


 レイラはバイト帰りで自宅への帰路に着いているところだった。


 レイラから場所を聞き取り、直ぐ様玄関に向かった。


「レイラさんが危ない!」


 驚きを表情に止めたままリーシャは立ち上がった。


 達也が靴を履き、扉に手を掛けるとあたふたとリーシャは靴を履こうとしていた。


「靴なんか別にいいだろ!」

「タツヤが前に履けと言ったのだ!」

「あれそうだっけ」

「そうなのだ!」


 靴を履き終わったリーシャを連れて達也はレイラの元へ向かった。



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