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ゴミ人間襲撃事件2


 みつりに連絡を取り、アデルと会えるようにセッティングしてもらうことにした。


 達也はリーシャに会っている時も、みつりがアデルと話すことができるように何度も家に一緒に訪れていた。


 そして根気が認められたのか、少し前にアデルと普通に会話ができるところまで進んでいた。


 達也も何度もアデルと会話をしたことがあった。


「その人がリーシャさんですか」


 アデルのアパートの前で達也とリーシャを待っていたみつり。


 まるで見定めるようにリーシャをじっと見つめる。


 その視線に対してリーシャは胸を張った。


「わたしは魔女なのだ」

「ただし、魔法は使えない」

「本気を出せば使えるのだ!」


 二人して言い争っていると、物言いたげな視線でみつりは達也を絡め取る。


「な、なんだよ」

「仲……良さそう」


 羨ましそうに呟いてみつりはアデルの一室に向かった。


 みつりが呼びかけると棘が減り柔らかみの増した声でアデルが現れる。


 以前と比べても表情の荒々しさが減った。


「なんだい、遠藤も一緒か」

「実は今日は聞きたいことがあって来たんです。アデルさん……その、襲われたとか」


 あぁ、そのことかとぶっきらぼうにアデルは頭を掻いた。


「別に心配はねぇよ。殴られてもないし、何も盗られてない」

「何か原因になるようなことは?」

「ねぇな。そもそもこっちに来てからは担当官以外とは接触もない」

「だったら、アジリスタのときには?」

「その頃から管理の仕事はずっと一人だ。だから酒も飲み放題だったわけだな」


 ならアデルを襲う理由が全くないことになる。


 誰とも接点を持っていないなら、原因となる理由は存在しない。


「白峰に聞いたんだが、前に襲われた二人のことも知らねぇぞ。何だかゴミ屋敷みたいにアジリスタのゴミに囲まれて生活してた奴らだったそうだが」


 捨てられたショックやアジリスタへの恋しさから、唯一の異世界の物であるゴミに囲まれて生活するゴミ人間たちは多い。


 アデルは襲われた二人のことは知らないと言う。


 しかし連続して襲われたのなら犯人が狙う共通点があるはずだった。


 その共通点がわかれば犯人を捕まえる糸口になる。


「犯人は見ていないんですか?」


 眉間にしわを寄せ、思い出そうとするがアデルは首を横に振る。


「それがよ、思い出せねぇんだ。まるで頭に靄がかかったみたいでよ」


 その言葉でリーシャが切迫した表情に変わるのを達也は見逃さなかった。


「くっそだめだ。思い出せねぇ。なんか棒とか杖みたいなものを持っていたような気もするんだが」


 側頭部を抑えながら悔しげに言葉を吐いた。


 決定的な証拠がアデルからは出てこなかった。


 そもそも犯人の顔を見ていれば、捕まえることも容易だったはずだろう。


 達也とリーシャはマンションへ帰ることにする。


「なかなか犯人を捕まえる糸口が見つからないな……まず何も被害者の共通点がなくて無差別っぽいのがな」


 事件には必ず理由がある。


 連続でゴミ人間を襲撃しているなら共通点があるはずだが見つからない。


 まるで警察のまねごとのようなことをしているが、これも担当官の仕事でもある。


「やっぱり、もう一度被害者の人に――」

「タツヤ、わたしが一人でやる」


 真剣みの籠もった言葉に咄嗟に言葉を返せなかった。


「自分でやるから」


 その言葉は担当官として最も求めていた言葉だった。


 それは自立を意味する言葉だから。


 達也も散々色々なことを自分でやれと言ってきたから。


「……そうか」


 リーシャの成長を喜ぶべきだった。


 しかし達也は心の戸惑いを感じていた。


 リーシャは達也に背を向けてさっさと行ってしまった。


 その背には普段には感じない違和感があった。


 アデルの言葉を聞いてから妙にリーシャは大人しくなった。


 何故か、唐突に思い出した。


 アデルが言っていた棒や杖のようなもの。


 リーシャの部屋にも同じ物が存在していた。


――――――――――――――――――――――――


 達也は結局襲撃事件から一旦手を引いた。


 リーシャの面倒を見る必要もなくなったことから、別の案件に取りかかることにする。


 ゴミ人間にまつわる問題は日々増えるばかりで担当官だけでは対処しきれていない。


 しかし、一つずつ解決していく必要がある。


 達也は庁舎に隣接しているゴミ集積場を訪れた。


 庁舎の十倍はあろうかという敷地面積には異世界のゴミを回収し、処分する施設が並んでいる。


 達也は担当官であることを示し、工場長に話を聞くことにした。


「最近、ゴミ収集車が燃やされる事件があるとか聞いたのですが」

「あぁ、ようやく担当官が来てくれたのか。待ちくたびれたよ」


 工場長は青色のツナギを着用しながら、煙草をふかした。


「すいません……」

「いや、責めてないよ。担当官が大変なのは知ってるしな」


 剛胆に笑いながら達也の背をバンバンと叩いた。


 気の良い人のようだった。


「それで……どういう状況なんですか?」

「んーそれが俺らも良くわかってないんだよなぁ。この街にはここ以外にも各小集積場が幾つもある。街で回収された異世界のゴミはこの小集積場のどこかに一度回収される。そして一ヶ月に一回全ての異世界からのゴミがここに集められ、各ゴミは検査された後に適切な処理方法で処分されるんだよ」


 ゴミ集積場は異世界の暮らしぶりや特徴を知る施設も兼ねている。


 物珍しい物などは研究施設で研究対象となると聞いたことがある。


「じゃあその月に一回のゴミ回収車が襲われている、と」

「そういうこった。運転手によれば、黒いフードを被った奴が車の前に立ちはだかったらしい。運転手はその後逃げちまったから知らないらしいが、別の人間が現場に駆けつけると回収車がぼんっと燃えてたらしいんだよ」

「人を襲うことが目的ではなかったということですか?」

「だろうな。ひとまず出た結論がゴミを燃やしたかった」

「え、でも……」

「そうだよ。ゴミは施設で結局燃やされるんだ。わざわざフードの人間が燃やす必要はない」


 ゴミを燃やしたかったという安易な結論を否定する事実。


 ゴミは元から燃やされるのだから、燃やす理由は存在しない。


「さっぱりわかりませんね……」

「そりゃそうよ。俺たちも一時期は考えたんだけどさっぱりよ」


 達也は結局何も解決することができずに、庁舎の居室へと戻った。


 燃やす必要のないゴミが燃やされているという謎。


 その解決案を頭に浮かべようとするが咄嗟にリーシャの姿が思い浮かぶ。


「あれ、珍しいじゃない」


 扉を開けて入ってくる三枝。達也の脳内の思考が霧散した。


「まぁ、ちょっと」


 言葉を濁した。


「あれ、まさか……何でも屋として色々やってるとこ?」


 にやにやと三枝は笑う。


「そうですよ……本当にやることが多いんです」

「物がなくなったのを解決できた?」

「物が何かなくなったんですか?」

「え、それじゃなかったの」

「ゴミ回収車が燃やされた件をさっき聞いてきたんですよ」

「あ、あれね。誰もわからなかったのよね」

「さっぱりでしたよ、本当に。それで、物がなくなったっていう話は?」

「別にたいしたことじゃないんだけど、遠藤くん、担当官の手引き書……マニュアル知らない?」

「少し前は許可を取ってずっと使ってましたが、もう返したはずですよ?」

「それがね……なくなったのよ、許可なく。許可があるなら、誰かが持ってると思うんだけど」


 手引き書は受付の横のラックケースの中に置かれていた。


 見るだけなら担当官でもゴミ人間でも普通の市民でも可能だった。


「白峰には聞きましたか? 最近担当官として入ったのは白峰ですし」

「一応聞いたけど、持ってないって。彼女は『どうせ先輩が持っているのを忘れているに決まっています』だって」


 苦笑いを返すしかなかった。


 本当に頼りないと思われているというか、信用されていないというか。


「まぁ、確かにずっと使ってましたけど、返しましたよ」

「そっか……どうしてなくなっちゃったのかしら。あんなの取っても意味ないと思うし」

「古本屋で売っても大した値にもならないでしょうしね」


 三枝はわかんないわね、と呟きながら居室を去った。


 居室にいることで以前の出来事を思い出した。


 そう言えば、以前みつりが達也の机に手紙を置いたと言っていた。


 しかし、前に達也が確認した限りでは手紙は存在しなかった。


 手紙も手引き書と同様に盗まれたのだろうか。


 しかし、盗んでも全く意味のないように思える。


 手紙がなくなったことと、マニュアルが盗まれたことは何か関係があるのだろうか。


 何だか周囲で不可解な事件が続いているような気がする。


 リーシャの姿が脳裏に過ぎる。


「はぁ……」


 達也は大きく息を吐いた。


 いくら別の物事に没頭しようとしてもリーシャのことが頭から離れない。


 アデルから話を聞いたときのリーシャの表情は何か知っているようだった。


 リーシャのことが心配だった。


 一人で解決できるだろうか。


「違う……そうじゃない」


 自分のなかの建前を否定する。


 担当官としての心配や不安。勿論それは存在する。


 しかし、リーシャには担当官として以上に一人の人間として接して来たように思う。


 リーシャが自分の気持ちを吐露したときには担当官とごみっ娘以上の絆も感じた気がした。


 ゴミ人間の自立を促すのは担当官の仕事だ。


 でも、それ以上にリーシャが自分から離れて寂しかった。


 ここまで来たのだから、最後まで一緒にやりたかった。


 白峰がいたら、『だから先輩は』と馬鹿にされそうだった。


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