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ゴミ人間襲撃事件


 こうして二人はぽつんと居室に取り残された。


 少しの気まずさが二人の間に漂った。


 自分の熱が籠もった本心をリーシャに聞かれたからだった。


 そしてリーシャの本心も達也は聞いてしまった。


「リーシャ……その」

「タツヤ……」


 二人の言葉が同時に飛び出し、ぶつかり合った。


 お互いの言葉が口のなかで留まった。


 達也が先に口を開こうとすると、リーシャの真剣みの籠もった瞳が見えた。


「タツヤ……わたしから先に言わせて欲しい」


 達也は首を縦に振った。


「タツヤには本当に感謝してる。毎日わたしに付き合ってくれて、研究所のときは朝起こしてもらったり見送ってくれたり……いつも世話をしてくれて、今までの担当官とは全然違う」


 前の担当官は三枝流に言うならば、現実寄りの考えを持った人だったのかもしれない。


「わたしは……ゴミ人間で粗大ゴミ不燃だ。ようやく自分がどうしてアジリスタから捨てられたか理解した。わたしは……直ぐ逃げるし、嫌なことはしたくないし、楽観的だし、明日やれば全ていいやと思うし、本気を出せば何とでもなると思うし、好きなことだけしたいし、働きたくないし、嘘を付くし……そういったことが原因だったと気付いた。本当にどうしようもない人間なのだ。でも、タツヤが頑張っているとわたしも頑張ろうとは思うのだ。そのときだけ」

「そのときだけかよ……」

「しょうがないのだ! 直らないのだ! 性格なのだ! でもこの世界でなら、タツヤが世話をしてくれているなら、……直せそうな気がする。時間がかかるかもしれないけど、もっとちゃんとまともな人間になれる気がする。だから、まだこの世界にいたい」

「ごみっ娘がやるなら、全力で担当官は応援、支援するまでだよ」


 初めリーシャは楽をしたいからこの世界に留まり続けたいと思っていた。


 だから、粗大ゴミ不燃から資源ゴミを目指していた。


 しかし、目指していくうちに自分の性格を見直し、直したいと考えるようになったのだ。


 出会いのきっかけはバイトの仕事だったが、一人の人間としても達也はリーシャを応援したい。


 しかし、この世界に留まるには社会に有用であると判断されないといけない。


 特に資源ゴミは社会に有用であることが大きな条件となっており、ゴミ人間の性格はそれほど重視されない。


 粗大ゴミ可燃であれば、有用性というよりはゴミ人間の努力や継続性などの忍耐が高く評価される。


 リーシャのまともな人間になりたいという願いをかなえるなら、可燃を目指して性格もゆっくりと矯正する方法が良いが、性格や忍耐が絡むためにどうしても時間がかかる。


 それにリーシャは致し方なかったとは言え研究所を既にやめている。


 もう一度仕事を探して継続性をアピールしても本人の継続性に疑いが残ったままになる。


 今からでは時間が掛かるし、可燃を目指すよりは資源ゴミを目指した方が賢明だろう。


 真人間となるために、まず世界に留まることが必要になる。


「わたしは粗大ゴミ不燃から資源ゴミになる」


 達也と同等の結論に達したリーシャに感心する。


「リーシャ……成長したな。可燃だとダメだから資源を目指すと言ったんだろ?」

「そ、そうだな。わたしも成長した」


 リーシャの瞳が泳いだ。


「知ったかぶりをしてないか?」

「ぐっ……ほんとは別にわたしでも資源ゴミは余裕だと思った。なんとなく目指そうかなって」


 先の見通しのなさというか楽観的な部分はなかなか変わるものではないらしい。


「……まぁいいや。真人間になるためにも、資源ゴミになる必要があるんだから」

「そうだそうだ! 久しぶりにやる気が出てきたぞ! 何年ぶりだろう!」


 一体今まで何をして生きてきたのか。


 リーシャのやる気に満ちあふれた真摯な瞳が達也を捉える。


 こんな眼差しは電子工作で半田付けをしているときしか見たことがない。


 達也は力強く頷き返した。


 自然と二人は歩み寄り、手を差し出し合った。


 そして強く握り合う。


 やる気に満ちあふれた視線が重なった。


「タツヤ……くさいな」

「リーシャもまず風呂に入れ」


 じっとりと汗がこびり付いている手を達也は離した。


――――――――――――――――――――――――


 翌日の放課後、二人は今後の方針を決めるためにリーシャの自室に集まった。


「現状をまとめるとだな……リーシャは研究者にはなったが、一週間後にはやめてる。社会に有用性があると評価されるには不十分だ。むしろ継続性がないと思われて不利になってる。つまり、欠点を帳消しにするだけの結果が必要になる」

「働くこと以上、か」

「以前見た評価の前例集によれば、社会的な問題の解決は評価が高い。働くことはある意味誰でもできるけど、社会問題の解決はなかなか難しいからだと思う」

「じゃあそれにしよう」

「しれっと言うが、難しいぞ」

「わたしは魔女だから大丈夫だ」

「相変わらず根拠のない自信だな……」


 しかし、社会問題の解決しか手がないのも事実だった。


 警察も動きにくい異世界関係の問題を解決出来れば、尚良いと思える。


 そして結果を出して評価されれば、リーシャはこの世界に留まることができ、自分を更正するチャンスを得る。


「じゃあ……ゴミ人間襲撃事件しかないか」


 達也も担当官として仕事をするうちに噂などを耳にしている。


 近頃この街を賑わせているゴミ人間に関する事件だった。


 アジリスタから捨てられたゴミ人間が既に二人襲われている。


 襲われると言っても暴行は受けておらず、身の周りの品も取られてはいない。


 気付けば倒れて気を失っているという内容だった。


 犯人の容貌や目的は一切不明。


「そんな事件があるのか……放っておくのも危なそうな事件だな」

「そうなんだよ。だから評価関係なしに解決したい事件でもある」


 ひとまず詳しい三枝に連絡を取ることにした。


「あーあの事件ね。最近、ゴミ回収車が襲われたり、物が盗まれたりと色々あるなかで最もヘビーな事件よね。被害者は全員ゴミ人間だけど、怪我は全くしてない。経歴に共通点もない。被害者同士も面識はなし。お手上げね。無差別にしか思えない」


 達也たちは警察のように専門の知識を持っていない。


 犯人を捕まえ解決するのは非常に困難なことだった。


 何をどうしていいか全くわからない。


 しかしゴミ人間関係の事柄全般を何とかするのも管理担当官の仕事だった。


 本当に何でも屋だなと思う。


「リーシャとそれを解決しようと思ってるんですけど、どうしたらいいんでしょうか……」

「うーん、そうねー。私も専門じゃないからわからないけど、とりあえず被害者に聞き込みとかなのかな。担当官としてゴミ人間の現状を確認するのも大事だし」

「じゃあ最近それに巻き込まれた人を教えてくれませんか?」

「えっとね……最近だと……あったあった。アデルさんって方ね」


 アデルはみつりが担当している人だった。


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