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魔女、嘘がばれる


 嫌な予感が心の奥底でむくむくと膨れあがるのを達也は感じていた。


 査察のメモを取っていると、リーシャがメモを覗き込む。


「どう書いているのだ?」

「そりゃ、周りの人の意見や評価だよ……世紀の大発見をしたとかな」


 その言葉を受け止めるとリーシャの顔が強ばる。


 そして何かに締め付けられるように表情が固まった。


 のど元から何かが迫り上がってきたように、口をゆっくりと開いた。


「実はな……タツヤ……驚かないで聞いて欲しい」


 神妙な言葉を繰り出すリーシャ。


 達也はメモを書く手を止めた。


「どうしたんだ、急に。俺はもう並大抵のことじゃ驚かないぞ」

「実は面接で嘘を付きまくってここで働いている」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 怯えたようにリーシャは身体をまるめた。


 まるで叱責を恐れるようだった。


 嫌な予感が的中していた。


 一瞬の爆発的な驚きの後、妙に腑に落ちる感覚があった。


「どうだ、驚いただろ?」

「自慢するな」


 ぽこりと頭を軽く叩いてからリーシャに色々と問いただす。


「じゃあ……研究者としてきちんとやっているのも?」

「嘘なのだ」

「……世紀の発見をしたのも?」

「嘘なのだ」

「……じゃあ、天才なのも?」

「それは本当なのだ」


 面接で自分を偽り、研究者としての才能があるように演じたのだろう。これで主幹研究員として招かれていながらも実験の方法や内容を理解していないのも頷ける。リーシャの風貌をゆったりと眺める。上から下まで黒一色。長いローブが床まで尾を引いている。魔法が使えない魔女。粗大ゴミ不燃。アジリスタから捨てられた人間。達也は再び頭を抱える。

「タツヤ、これからどうしよう」

「俺が聞きたい……」

 二人して頭を抱えることになった。


 達也は査察が終わった後、リーシャをどうすればいいか思い悩んだ。


 査察の後日に田中から連絡があり、異世界就労プログラムは組織の歪みの影響を受けている可能性があるとの話を聞かされた。


 カンタイ設立当初、ゴミ人間を就労させるためのシステムがあの部署だったが、ゴミ人間の惨状からほとんど利用されることはなかった。


 しかし、組織の人間は部署を取り壊させるわけにはいかない。


 結果、部署としての業績を出すために利用者のゴミ人間に不適当な職場を提供する歪みが生じたらしい。


 より社会的な地位の高い職を斡旋できれば、それだけで業績として認められるからだった。


 リーシャも巻き込まれたと言えば聞こえはいいが、実際は本人も嘘を付いている。


 組織だけの責任ではないだろう。


 達也に真実を暴露したときから、リーシャはしきりに電子工作に没頭していた。


 食費を削ってまでの行為には達也も呆れを通り越すほどだった。


 部屋の服は脱ぎ散らかされ、コンビニの弁当のカスが散乱している。


 その中でも電子工作の機械だけは丁寧に並べられている。


 研究所の人間に実はゴミ人間であるということを魔女は伝えたらしい。


 捨てられたというナイーブな問題も含まれていたために、研究所側は魔女に対して厳しい扱いはしなかった。


 まだ社会的にどのように扱って良いのかわからないのだろう。


 判断は保留になっていた。


 毎朝行きたくないと連呼していたリーシャを宥め、研究所に向かわせてはいた。


 しかし、あるときから何も文句を言わなくなった。


 達也は不思議に思い、学校に行かずにリーシャの後を付けることにした。


 リーシャは研究所方面には行かずに、街中の市民公園のブランコに腰を下ろしていた。


 背後から近寄り、がっしりと肩を掴む。


 ぎょっとした表情を浮かべ、逃げようとしたが達也は取り押さえる。


「これはその……休憩していたのだ」

「もう午前十時だぞ。研究所にはいる時間だろ?」


 リーシャは押し黙ってしまった。


「エア出社してたのか」

「もう研究所はやめてきたのだ」

「……本当に?」

「本当なのだ。みんなに事実を言ってちゃんと謝ってきたのだ。でも、そのまま居づらくてやめてきた」

「じゃあこの三日ぐらいはずっと研究所に行ってるふりを?」


 こくりと頷くリーシャ。


「タツヤには言いづらかったのだ。なんとなく」

「でもいつかは絶対に気付かれるだろ? 黙ってても」


 リーシャは再び黙ってしまった。まるで悪い事を隠そうとする子どものようだった。


「何か研究所で自分でもできることはなかったのか?」

「……薬品を混ぜるのは上手いとは言われたのだ」


 薬品を混ぜるのに上手い下手があるのだろうか……。


「お世辞かもしれないな……」

「そうなのだ。だから自分にはできることがないと思って、やめたのだ」

「でも、どうするんだよ……このままじゃあ……」

「見たくない! 現実を見たくないのだ! 悪かったのだぁぁ!」


 リーシャは事実を仄めかす達也の前から逃げ去ってしまった。



 学校が終わった後に達也はカンタイの庁舎に赴いた。


 偶然担当官の居室の前で三枝と会う。


「リーシャさん……色々とやらかしたそうじゃない」


 茶化すように言う三枝。


「笑えないですよ……なかなか。社会に有用な人材に育てるといっても今のままだともう無理です。このままだと粗大ゴミ不燃のままですよ。自分の手には……余るぐらいです」


 一体どうすればいいのかと悩んでいると、唐突に笑顔を隠して三枝は言った。


「じゃあ担当する人を変えてみる? 自立を促せないようなら、まだまだ再分別が必要なゴミ人間を担当してきちんと分別してあげることも必要じゃないかしら」


 全く予期していなかった提案。


 見えないところからボールを投げられて、達也はそれをキャッチし損ねた。


 つまり……リーシャを見捨てるってことなのか?


「ま、それも考えておいてね」


 それだけ言い置いて三枝は立ち去った。アジリスタから捨てられた人間をホールに返すという案には三枝は反対している。


 育てることができない人間に見切りをつけろと言っているのだろうか。


 確かに達也はもうリーシャをどうしていいかわからない。


 見捨てることも検討しろと言うことなのか。


 達也の心に三枝の言葉は棘のように残った。


 自分はリーシャのことがもうわからない。


 リーシャに対する想いが靄のように広がっている。


 魔法が使えない魔女。粗大ゴミ不燃。


 達也がリーシャを育てるのは不可能だったのだろうか。


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