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研究所査察


 みつりに叩かれた頭を押さえながら、達也は担当官として色々質問する。


 達也とレイラの間にはみつりがしっかりと挟まっている。


「何か最近困ったことはないですか?」


 担当官として良くある質問だった。


 異世界から来たごみっ娘が不自由しないように取りはからうのも担当官の仕事だった。


「困ったことですか……」


 可愛らしくレイラは小首を傾げた。


 何もないなら良いのだが。


「先輩のえっちな行為ですか、そうですか」


 みつりはまだ根に持っているようだった。


「あ、そうです。最近、どうも見られている気がするんです」

「見られている?」

「どうも最近、色々なところで視線を感じることが多くて……」


 それ、俺じゃね?


「ははは、まさか……そんなわけないですよ」


 みつりがマジックハンドで腰をぐいぐいと突く。


 みつりも思い至ったようだ。


「わかりました。解決しておきます」

「え、出来るんですか、達也さんっ! どうやるんですかっ!?」

「えっと、俺が頑張れば何とかなりますよ」


 言葉を濁した意味をレイラは理解できないようだった。


 これからはレイラの喫茶店などに行くのも控えた方が良い。


 完全にストーカーになっているようだった。


 二人でレイラのマンションを出た後、みつりが言葉を達也に渡した。


「先輩……手紙、担当官の机に置きました」


 まるで無機質な響き。


 しかし、どこか無機質を装った恥ずかしさが言葉には秘められていた。


「手紙……なんのことだ?」


 言葉が届くより前にみつりは足早に達也の前から去って行った。


 達也は疑問を抱えたまま庁舎の担当官の居室に向かった。


 普段から滞在しないが達也やみつりの机も存在する。


 達也の机の上には担当官の資料が並んでいた。


 達也の前の人間の物だから触ってすらいない。


 イスにも腰を下ろしたことすらない。


「手紙……ないぞ」


 みつりが机に置いたという手紙は存在しなかった。


 みつりに連絡を入れるも、そんなはずは……と呆然とした答えが返ってくるだけだった。


 一体、手紙はどこに消えたのだろうか。



 達也はリーシャが帰宅した頃合いを見計らってマンションの一室に向かった。


 リーシャは万年床にぐったりと横たわり、半田ごてを握っている。


 リーシャの支出のほとんどがこの電子工作に当てられている。


「今日はどうだった?」

「……最高だったのだ」


 声のトーンが数段落ちている。


 最近は研究所から帰ってくるといつも気落ちしている。


「あぁ……働くって大変なのだ」

「でも上手くやってるんだからいいじゃないか」

「そりゃもう!」


 何故か飛び起きて達也に向き直る。


 不自然な挙動が多いリーシャ。


「そうそう、何日か後に、俺が査察することになったから」


 リーシャが半田ごてを落とす。


 落としすぎてリーシャの万年床には穴が開きまくっている。


「一体誰を……?」

「リーシャだよ」

「絶対に来ちゃだめなのだ!」

「……どうして? それにゴクチョウの材料には必要なんだよ。周りの人の意見とか、実際に俺が見た評価をしないと。別に上手くやってるならいいだろ?」


 リーシャは白目になって万年床に倒れ込んだ。


「終わりなのだ……終わりなのだ……誤魔化すしかないのだ……誤魔化すしか」


 恐ろしげなことを呟きながら、リーシャは潰れるように眠った。


 査察に入る前に、働きたがらないリーシャの朝を見送ってから学校に行くという日々が続いた。


 世話が焼けるが就労してから毎日通っているという頑張りは評価される。


 そして、査察の日がやって来た。


 リーシャを母親のように朝送り届けてから、学校終わりの午後に研究所に向かった。


 達也が来訪している目的はリーシャの査察だったが、カンタイが偽りの身分として研究所そのものを査察している政府官職の秘書の職をあてがってくれた。


 高校生の秘書もどうかとは思うが、リーシャを査察する口実が必要だった。


 秘書として付きそう男性は別の部署に行き、達也は自由行動を始める。


 まずリーシャの研究所での評価を調べる。


 リーシャの所属する基礎化学の部署での評判はなかなかのものだった。


 曰く、初日から研究所を憂う姿勢を見せ、皆の模範となった。


 曰く、初日で世紀の大発見をした。


「一体誰の話をしてんだ? これ、ほんとかよ……」


 ここまで来るとにわかには信じがたいことだったが、リーシャが就労プログラムの人間にも評価されていることは知っている。


 魔女には科学者としての才能があったのだろう。


 社会に有用であると分別されるだけの材料があれば、リーシャは強制退去させられずに済む。


 研究所の独特の空気に肩身を狭めながら、リーシャの専用の居室に向かった。


 扉に入ると、リーシャは横柄な態度でくるりとイスを回した。


「良く来たのだ。天才科学者のもとへ」

「リーシャってそんなキャラだったっけ……?」


 何か自分を大きく見せようという虚飾の意思を感じる。


「なんか、そんな態度だと何かを隠そうとしている気が……」

「そんなことはない!」


 何故か慌てて否定するリーシャ。


「そうか? まぁ、周りの研究者からの話だと良い評判だったよ。模範になっていて、大発見をしたとかで」


 魔女の汗が止まらなかった。


「じゃあ……えっとまず研究所で何をしてるのか教えてくれよ」


 達也は査察用マニュアルのテンプレ質問から始めることにした。


「研究なのだ」

「何の研究だ? テーマとかはないのか?」

「あぁ……茫洋とした海に漂う船の上から一匹の魚を釣るような研究なのだ」

「煙に巻こうとしてないか?」

「そんなことはない……ただタツヤには難しすぎる。今の表現こそが最も正しい研究テーマを表している」


 確かに素人の達也が聞いても理解できないかもしれない。


「じゃあ次に業務内容を教えてくれ」

「茫洋とした海で――」

「それはもう良い。やってることを正しく教えて欲しい」


 リーシャは達也を連れて白い箱の前までやって来る。


「色々とパソコンを使うのだ。パソコンはすごいのだ。色々と便利な計算をしてくれる」


 リーシャは愛機のようにそれを撫でる。


「この機械を使って実験結果を表示したり計算する。もう使い方も熟知している」


 またもやさらりと優しくそれを撫でる。


「そうか良くわかったよ。ところでリーシャが熟知しているって言ってるパソコン……それ、電子レンジだぞ?」


 リーシャはさっきから電子レンジを撫でていた。


「俺が知らないだけで、電子レンジには計算機能がついていたのか?」


 リーシャは困惑した表情だった。


 慌てて電子レンジから手をどける。


「あぁ……そうだった。こっちは電子レンジなのだ。これがわたしが良く使ってるパソコンだった」

「それ、冷蔵庫だぞ」


 凍り付いたように動きが止まった。


 リーシャ……まさか。いや、あるわけない。


 リーシャは魔女で天才で科学者で……嘘であるわけがない。


「今日は目がおかしかったのだ……あぁかゆいなぁ」


 達也自身も動揺していた。


 リーシャがどうしてこんなこともわからない? まさか。


「……じゃあ、次は研究している様子を見せてくれないか?」

「任せろ。それは得意分野なのだ」


 リーシャは適当に薬品棚にあった二つの溶液を取り出し、一つのビーカーに入れる。


 泡立ち始める溶液。達也は立ち昇り始める変な臭いに鼻を抑える。


「なにか、きつい臭いがしないか?」

「心配ない。これが正しい反応なのだ」


 突如、部屋に真っ赤な照明が灯った。


 『塩素警報発令! 塩素警報発令!』。


 警報が鳴り止まぬ中、達也はリーシャと見合った。


「これが正しい反応なのだ」


 目が泳いでいた。


 リーシャは言い切ってから黙々と溶液をつぎ足していく。


 一人の女性研究員が部屋の扉を勢い良く開けて入ろうとする。


「リーシャさん! 何してるんですかあぁ!」


 リーシャは女性が入る前に扉を閉めた。


 そして鍵をする。


「……あの人は?」

「あの人はわたしの実験の成功を祝福しに来てくれた人だ」


 リーシャはしたり顔をしながら達也に実験の続きを見せてくれる。


 リーシャが次々と溶液を足していくと泡がふくれ出す。


 瞬間、ビーカーが低音を立てて爆発四散。あたりに溶液などが飛び散った。


 達也が周囲を見回していると、リーシャと再び目があった。


「これが正しい反応なのだ」

「嘘だろ絶対!」


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