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後輩、ラブレターを書く


 リーシャはかつてない窮地に立たされていた。


 桐ヶ谷に実験の結果があると見栄を張ったせいで、これから定期報告会で発表をしないといけない。


 しかし、その結果や資料は手元にも頭の中にもない。


 万事窮すだった。


 桐ヶ谷が入室してくる。


「それでは行きましょうか」

「待って欲しいのだ……実はお腹が痛くて」

「……それ、前のも含めて十回目です。もう一時間以上も開始が遅れてるんですよ」


 腹痛による時間延長作戦は失敗だった。


「あれ……パワポはどうするんですか」

「ま、まぁ見ているのだ」


 何も出来ていないなんて言えるわけない。


 リーシャは桐ヶ谷に連れられて会議室に向かった。


 前日会議を行った面々だった。


 前の発表者が去ると、リーシャが演説台の前に行かされる。


 周りの面々からの視線にはどことなく羨望の色があった。


「お、リーシャさん、もう結果が出てるのか。さすが天才だな」


 口々に似たような言葉が研究員から飛び出す。


 周りには発表資料がなくてどこか不思議に思っている人もいるようだった。


「えーリーシャなのだ……」


 視線が集中する。


 聴衆が集中して一言も聞き逃さないようにしているようだった。


 自分は一体何を言えばいいのか。


 実験の結果なんてない。


 ここに来てリーシャは事態のやばさを悟る。


 心のなかの良心が再び叫びを上げる。


 言え。言うのだ。実はまだ何もしてませんと。


 そうすることで傷が軽くて済む。


 今日は準備をしてませんと言うのだ。正直に言え。


「実はすごい発見をしたのだ」


 やってしまったのだぁ。


 聴衆がざわめく。


「ちょっとまだ考え切れてない。だから、今日発表はできないのだ。歴史を覆す発見だ。もう少し自分なりに考えてから、発表しようと思う」


 聴衆のざわめきが収まらないまま、リーシャは演説台を去った


 。一体、自分の口はどうしてしまったのか。


 結果が出ていると言うだけではなく、新しい大発見をしたと言うとは。


 止まらない嘘が膨らみ、際限ない増殖を続けている。


 自分はこの性格のせいでアジリスタから捨てられたのか。


 粗大ゴミ不燃なのか。


 もう魔女は止まることはできなかった。


――――――――――――――――――――


 白峰みつりは自宅のベッドに倒れ込んだ。


 柔らかい枕に顔を押しつけ唸る。


「う~せんぱいぃ……」


 白峰みつりは達也のことが好きだった。


 ふと客観的に達也のどこが好きなのかと考えると、自分でも疑問が浮かぶ。


 別に格好良くはないし、スポーツも出来なさそうだし、先輩なのに頼りがいは特別ないし、むしろ情けないし、変に見栄を張るし、後くさい。


 女友達から最近、へんな臭いついてない?とまで言われた。


 確かに達也に近づきすぎると臭いが移る。


 くさくてどうしようもない人。


 でも、とみつりは自分で否定する。


 普段は全くないが、ときおり、ほんの時々に見せる誰かを身を挺して守る姿。


 みつりはコンビニで助けられたときから達也のことが好きになったのだと思う。


 だが最近になり、達也の身の周りに女の子が増え、みつりは焦っていた。


 達也はくさいから誰も女の子が寄ってこない。


 達也のことを知らない。


 達也の時々、ほんの一瞬の流れ星よりも一瞬の頼れる姿を知らない。


 自分が一番近くにいることができると安心していた。


「リーシャさん……レイラさんどんな人なのかな」


 リーシャのことは話でしか聞かない。


 でもレイラは――


「先輩が通ってる店の女の子……可愛いし美人……おっぱいも大きいし……それに比べて」


 自分の胸元に手をやった。あまり膨らみを感じられない。


「これじゃ、むりだよぉ……」


 自分の貧相な身体に泣きたくなった。


 女性としての魅力で全て負けている気がする。


 それなのに自分ときたら、達也と話すと恥ずかしくなり、いつも冷たいことばかり言ってしまう。


「もうっ……みつりのばかばかっ……」


 何度心で決めても自分の心は素直さより恥ずかしさが勝ってしまう。


「先輩……みつりのこと嫌いかな……いっつも不機嫌そうだし」


 もう嫌われているかもしれない。


 だけど、その嘘偽りのない純真な気持ちを伝えたいと思った。


 そっか、とみつりは名案を思いつく。


 ラブレターを書こう。


 先輩の姿を見るから、変に厳しいことを言っちゃうんだ。


 だったら、ラブレターを書いて先輩に受け取ってもらおう。


「良い考えっ!」


 みつりはがばりと起き上がり、イスに腰掛ける。


 可愛らしい絵柄が描かれた便せんにボールペンの先を置いた。


 『先輩、す』というところまで文字を書いただけで心の条件反射で『先輩、すっぱい臭いがします』と逃げてしまいそうになる。


 その衝動を何とか抑え、みつりは心の素直な感情を優しく便せんに綴った。


 これを担当官の先輩の机の上に置いて、読んでもらうのだ。


 みつりはその晩恥ずかしさと緊張がない交ぜになり、上手く眠れなかった。


――――――――――――――――――――――――


「ここが、レイラさんの家か……」


 達也はリーシャのマンションの一室を訪れていた。


「別にやましい気持ちがあったわけじゃない……ただ、そう、担当官としてゴクチョウを埋める必要があったからだ」


 達也は誰に聞かせるつもりかわからない言い訳をした。


 レイラの担当官になってから二日が過ぎていた。


 リーシャの研究所での生活をどう評価するか悩んでいたときに、田中に相談するとどうやら査察制度があることがわかった。


 達也が実際に政府の関係者として赴き、リーシャの生活を見ることができると言う。


 リーシャのゴクチョウを書くことが本格化する前に、何の問題もないレイラのゴクチョウを済ませておこうと考えていた。


 インターホンを鳴らすとレイラが笑顔で飛び出してくる。


「達也さんっ! どうかしたんですか?」

「す、少しゴクチョウを埋めに来ただけです」


 部屋に案内されると見事に整理整頓されている。


 お茶を用意してくれるそうで、達也は一人部屋に座り落ち着きなくあたりを見回した。


 リーシャの部屋を見慣れているせいか、レイラの部屋は掃除も行き届いてるように見えた。


 一体どうしてこんな人がアジリスタから捨てられたのだろうか。


 レイラの前歴は不明になっている。


 つまり、レイラが話したがらないということだ。


 アジリスタの世界のことはナイーブな問題も含んでいるため詳しくは聞かない。


「お、お茶を用意しましたっ!」


 ぷるぷるとお盆の上のお茶二つを振るわせながらレイラは立っていた。


「ど、どうしたんですか? 緊張して」

「は、初めてのお客さんですっ! 丁重にもてなさないと!」


 変なところで肩肘を張る傾向にあるようだった。


 目を離した隙に、レイラはまたしても何もないところで転ぶ。


 そのまま、お茶が達也の股間にぶっかかる。


「ご、ごめんさないごめんさないっ」


 あたふたと慌ててレイラは台ふきで達也の股間を拭こうとする。


 空回りして行動するレイラを何とか押さえ、達也は自分で拭いた。


 担当官が来てもいないということはゴクチョウはやはりというべきかあまり埋まっていなかった。


 暮らしぶりの項目で聞くことがあったので、達也は質問をする。


「えー支出で空白のところがあるんですが、何か今月で買いましたか?」

「え、あ、はいっ……」

「じゃあ何を買ったか見せてもらえますか?」


 ゴミ人間のなかには虚偽の報告をする者もいるらしい。


 実際に買った物や領収書を調べる方法がとられるがレイラがそんなことをするとは思っていなかった。 


 単なる確認だった。


「ははいっわかり、ました……」


 レイラは身をよじり恥ずかしさに頬を染める。


 そして自分が着ていたワンピースを脱ぎ始め、下着だけの姿になった。


 その過程をただぼんやりと眺めていた。


「これが、買ったものです」


 レイラの温もりが残ったブラ。


 達也は手に伝わる感触にただ困惑する。


 レイラは右腕で両方の胸を隠してはいるものの、その大きさ故に隠しきれず何とも艶めかしい形となって歪んでいる。


 見事な乳房の柔らかさで押せばまるで包み込むように沈むのだろう。


 近くで眺めると、レイラはとてもきめ細やかな肌をしていて、女なら誰しも望むであろうプロポーションを見事に体現していた。


 下着しか身に纏わない完全な裸体を前に達也は生唾を飲み込んだ。


 羞恥、戸惑い、そして恥ずかしさ。


 様々な感情がレイラの表情で混ざり合っていた。


「その下着が、破れてしまって、その追加で買って……」

「いや、その別に脱がなくても良かったんです!」


 慌てて目を反らそうと背後を向くと、レイラの部屋の玄関が開いた。


「先輩、監視に来ました。まさか、いきなりやるとはみつりも思ってませんが――」


 脱いだ靴をぽとりと落とすみつり。


 驚愕で染まった表情で固まる。


「違うんだ! これは!」

「説明してください、状況を」

「これはその……暮らしぶり項目を埋めようと」

「わかりました。担当官とごみっ娘の上下関係を利用してえっちなことをしようとしたんですね」


 みつりは聞く耳を持たなかった。


 みつりが理解するまで達也はぽこぽこと何度もマジックハンドで叩かれた。


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