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苦い思い出


 遠藤達也は何の気なしに上空を眺めた。


 いつもは澄んでいる青空にぽっかりと黒い穴が開いている。


 あ、間に合わないと思ったときには上空から大量のゴミが街に降り注いでいた。


 まただ、また降ってきやがった!


 異世界アジリスタからゴミ捨て場として認定された街。


 定期的に降ってくるゴミ。


 生ゴミのぬめり気に嫌気がさしながらも、達也は何とかゴミの山から這い出る。


「くっそ、今日も浴びてしまった……何で俺ばっかり……」


 行政の環境安全対策部門にゴミの回収に来てもらおうと携帯を取り出したときだった。


 ゴミの山が僅かに蠢く。異世界のゴミをかき分けてやると、一人の少女がゴミの山に埋もれていた。


 黒衣のローブを身にまとい、右手には木製の杖を持っている。


 少女は目をうっすらと開けると、辺りを見回した。


「ここは……どこなのだ?」

「ここはゴミ捨て場だよ……キミは捨てられたんだ」


 この高見市では異世界からのゴミが降ってくる。


 そのゴミに混じって異世界で使えない、役に立たない人間も捨てられてくる。通称――ゴミ人間。


「わたしはリーシャ・リーファルオン……魔女なのだ」


 これが、ゴミ人間である魔女リーシャと管理担当官達也の最初の出会いだった。


 その一週間後、粗大ゴミ不燃認定を受けた魔女が資源ゴミを目指すことに、達也は協力することになる。


――――――――――――――――――――――――――

 

 遠藤達也にとって人生の転機は中三の冬だった。


「遠藤くん……放課後ちょっといいかな? 遠藤くんに伝えたいことがあって」

「お、おれ?」


 学年で一番可愛いとされる戸川の唐突なお誘い。


 人目を気にするように小声で伝える姿が小動物っぽくて非常に可愛い。


 達也は周囲を窺うが誰もいなかった。


「別の人と間違えてない? 本当におれ?」


 こくりと戸川はうなずいた。


 自分が戸川に呼び止められ、話があると誘われている。


 その事実に一瞬脳の処理が遅れてしまった。


「あ、うん! 全然大丈夫だから!」


 その後二人は放課後の下駄箱で待ち合わせることになった。


 戸川が去った後も達也は呆然とその場に立ち尽くした。


「戸川が……俺を……」


 自分の口元が自然と上がり、笑っているのに気付いた。


 戸川が俺を……ついに来たか、俺の時代が。


 自分でも冴えないと思っている達也ですら、少しばかり調子に乗ってしまうほどだった。


 放課後になる間、達也は浮かれまくっていた。先生に注意されること三度。

 授業の内容も全く頭に入ってこなかった。


 戸川が俺に何の用だろう。いや、わかってるはずだろ。


 放課後に呼び出されるシチュエーションなんてあれしかない。


 期待が顔に表れていたらしい。


「おまえ、顔気持ち悪いぞ」

「な、なんでもないって」

「そうか。いつものことだったな」


 達也の極上の笑顔。


「お前どうしたんだよ……」


 友人の軽い罵倒に対しても笑みで答えるほど達也の心はそのときは寛大だった。


 歪みきった顔を休み時間ごとに整えて、達也は放課後に臨んだ。


 いつも一緒に帰る友達を何とか引きはがしてから先に帰し、達也は下駄箱で戸川を待った。


 何気ない風を装い、下駄箱周りを回ること三回目。


 もう実は来ないのではないかという不安が脳裏によぎった。


 そもそも学年で一番可愛い女の子と学年一大した特徴もない男は釣り合わない。


 これはあれか? 良くある罰ゲームで、呼び出された俺をあざ笑うってやつか?


 周囲にはあざ笑うような人影は見当たらなかった。


 もう下駄箱を一回りしたら帰ろうと思った瞬間だった。


 戸川が達也の目の前に現れた。


「待った……?」

「全然。いま来たところだ」


 声が上ずってしまった。


 心躍る様を何とか隠そうと達也は平静を装う。


「で、話って?」


 顔のにやけを抑え、達也はまるで話の内容がわかっていないかのように訊ねた。


 戸川の小動物然とした小さな瞳がちろちろとこちらに向く。


 そして周囲を気にしてから小さな唇が開いた。


「ずっと言わなきゃって思ってたの」


 先を促すように達也はあぁと言った。


 この状況を放課後までの間に何度もシミュレーションしてきた。


 繰り出されるであろう言葉に対してどんな言葉を返すか。


「それじゃあ、言うよ……」


 少しばかりの決意が滲んだ瞳に達也の心臓が高鳴った。


 じらさないでくれ。言うことはわかってる。


 速くその言葉を聞きたい。返事をしたい。


 戸川の唇がゆっくりと動いた。


「遠藤くんくさいよ」

「俺も戸川のこと結構好きだよ」

「ん?」

「え……?」


 達也は即座に返事をしたつもりだった。


 違う。


 何かがおかしい。


 かみ合っていない。


「戸川、『くさいよ』と『好きだよ』間違えてない?」

「ううん。遠藤くんくさいよで合ってるよ?」

「で、でもよく似てる言葉だよ? 『くさいよ』と『すきだよ』。ほら、最後が一致してる」

「一文字しか合ってないよね? しかも語尾」


 自分でもおかしなことを口走っていた。


 一体どういうことなのだ。


「最近ね、その遠藤くんの体臭が……ひどいってクラスの女の子の間で少し話題になっててね」


 戸川は伝えづらそうに一言一言を選んでいった。


「気付いた人がなかなか言い出せなくて、話し合った結果、わたしがその……伝えることにしたの。みんなに気付かれる前に言った方がいいと思って」


 体臭……? くさい? 俺が? うそだろ? 


 戸川のは告白じゃなかった……?


「じゃあ一応伝えたよ。自分では気づきにくいことだからね……ごめん。それと告白してくれてありがと。でも遠藤くんのこと全然好きじゃないや」


 結構好きだよ。だけど、本当に好きまで言ってないから断ろうと思っていた。


 なのに、達也から告白したことになっている。そして振られた。


 なんて勘違いをしてしまったんだ……。だがあのシチュエーションで間違えるなという方が。


「違うんだ! 待ってくれ!」

「ごめんね。好きじゃないから」

 もう一度振られた。戸川は去り際にもう一言放った。

「それと、お風呂ちゃんと入った方がいいよ?」


―――――――――――――――――――――


「俺は毎日しず○ちゃんと同じくらい風呂に入ってるんだよ!!」


 達也は自然と言葉を発し、立ち上がっていた。


 我に返り、周囲を見回す。


 先ほどの戸川との会話は夢のなかの話だった。


 今は授業中。


 教師の黒板に書く手が止まり、冷ややかな視線が達也に突き刺さる。


 クラスメイトの忍び笑いが教室に漂う。


「先生は遠藤のお風呂事情なんて聞いていません」


 先生の一言でクラスが爆笑の渦に包まれる。


 なに言ってるんだ俺は……。


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