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異世界就労プログラム2


「リーシャ、喜べ! 働けるぞ!」

「働きたくない!」


 即座に切り捨てたリーシャ。


 達也はその切り返しにずっこける。


「なんでだよ?」

「わたしは分かってしまったのだ。魔女であるわたしを生かす職場などない……わたしは働くような人間ではないのだ。もっと崇高な……」

「どうでも良いから準備しろ」


 何かと言えば働かない理由を並べたて逃げようとするリーシャ。


 達也が厳しくひっぱたくしかない。


 ひどい物言いにはなるが、これくらいしないとリーシャは動かない。


「働けるのは本当なのだろうな? 魔女であるわたしに相応しいところか?」

「それは適正を判断してからになると思う」

「魔女である時点全ての適正があるはずなのだ」

「ほらほら、粗大ゴミから資源ゴミになるんだろ? ここを離れたくないんだろ? だったら、やるしかないだろ?」


 現実をちらつかせると、リーシャは渋々と立ち上がった。


「まったく、しょうがないのだ」

 


 リーシャは達也の指示で庁舎の四階の待合室に待機していた。


 異世界就労プログラムを使えば、魔女リーシャの適正を判断して、職場を紹介してくれると言う。


 待合室に男が入ってきて、軽く挨拶してきた。


「では、リーシャさん……聞き取りを始めたいと思いますが、準備はよろしいか?」


 男は手に何らかの資料を携えている。


 それにリーシャの情報を書くのだろう。


「うむ、速く始めてくれ」

「では、始めたいと思います」


 達也が書いたゴクチョウのコピーも手元に置いているようだった。


「以前は、魔女をしていたということでよろしいですか?」

「今も魔女なのだ」


 男はリーシャの黒衣のローブを上から下まで流し見た。


「そのようですね。魔女のときはどんなことを?」

「新しい魔法の探求や薬草の調合などか……わたしは純学よりだからな」


 二月の湖のエスタの集団は新しい魔法の探求がメインだった。


 民衆に比較的近い魔女だと、魔法の効率化や応用の分野に手を伸ばしている者もいる。


「大学のようなところは卒業されましたか?」

「だいがく? 知らないが日曜学校などの学舎は卒業しているぞ。魔女だったときは、魔女の集団に属してた」

「その集団はどのようなことを?」

「わたしと同じことをしていたのだ。エスタ様という師を中心とした学徒のようなものか」

「まるで大学じゃないですか!」


 終始凡庸としていた男が突然声を張り上げる。


「そ、そうなのか?」


 大学みたいだと何か自分の役に立つのだろうか。


「ちなみに、希代最強の魔女と呼ばれていたぞ」

「それは主席みたいなものですか?」

「しゅせき?」

「つまり……最も優秀だとか?」

「そ、そう言っても間違いはないだろうな」


 希代最強の魔女が魔法が使えないなんて言えない。


「まぁ、もう少ししたらエスタ様の元を離れようとは思っていたのだが」

「それは卒業ですか? エスタさんからもう学ぶものはないと?」

「ま、まぁそうなのだ」


 本当はエスタに叱られるのが嫌になっただけだった。


「失礼ですが、ご年齢は?」

「十七さいだ」


 意気揚々とペンを走らせていく男。


「技能に関してですが、パソコンでワード、エクセル、パワーポイントなどを使いこなせますか?」

「ぱ、ぱそこん?」


 聞いたことのない言葉だった。


 この世界にはまだまだ知らないことが多い。


「パソコンを知らないんですか?」

「な、何を言うのだ!」


 知らない。


「ですよね。で、それらのソフトは使えますか?」

「任せるのだ」


 使ったことはないが、魔女である自分なら容易に使いこなせるだろう。


「素晴らしいですね! じゃあエクセルでマクロを組んだりも?」

「それも任せるのだ」

「本当に素晴らしい力をお持ちですね!」


 まぁ、何とかなるだろう。


「あなたほど優秀な人は見たことないですよ!」


 男が褒めるものだから、リーシャも自然と頬が緩む。


「そうだろう、そうだろう。わたしは魔女だからな。たいていのことは何でもできる」

「アジリスタの方は言葉は話せても文字は書けなかったり、読めない方が多いですが大丈夫ですか?」

「普通はそうだろうな」

「じゃああなたは勿論違うんですね!?」


 もの凄い剣幕にリーシャは気圧される。


 リーシャは文字が未だに満足に読めないし書けない。


 リーシャが答えに窮していると、


「失礼でしたね、リーシャさんにこんなことを聞くのは」

「う、うむ」


 何か非常に自分が誤解されていっているような気がするが……。


 リーシャの中の最後の良心が必死で声を上げている。


「じ、実はな……」

「何ですか天才のリーシャさん」

「そう、わたしは天才なのだ!」


 良心は圧殺された。


 まぁ大丈夫だろう。自分に出来ないことなど存在しないのだから。


――――――――――――――――――――――――


 達也はリーシャの住居で一人リーシャの帰りを待っていた。


 本当なら達也も同席するべきだったが、リーシャを甘やかしすぎても問題だ。

 

 自立を支援するのだから、全て自分がやっていても意味がない。


 しかし、リーシャのことが心配だった。


 リーシャの適正もそうだがリーシャの振る舞いもだった。


 異世界から捨てられただけあって……性格や態度も……なかなかにすごい。


 魔法が使えない魔女。


 粗大ゴミ不燃。


 リーシャに果たして適正があるのだろうか。


「タツヤ! 大成功だったぞ! わたしは天才らしい!」

「え、そうなのか?」


 リーシャの勉強している姿を知らないからリーシャの頭の良さがわからない。


「どこの部分で天才なんだ?」

「……全部?」


 自分でも良くわからないらしい。


「とりあえず、これなら絶対見つかるって言われたのだ」


 どんなもんだとドヤ顔だった。


 リーシャが自信を持っているときは大抵怪しいものだ。


 達也の携帯に連絡が入った。


 リーシャは携帯電話を持っていないから連絡先が達也の携帯になっていたようだった。


 電話の主は異世界就労プログラムの部署からだった。


「はい、はい……そうですか」


 一言一言聞いていくうちに、心が高揚していくのがわかる。


「わかりました。ありがとうございます」


 静かに通話を切ってから、リーシャに向かい直る。


 そして、達也の顔に笑顔が広がる。


「すごいぞリーシャ! リーシャの働き先が見つかったぞ!」

「まぁ、ちょっと本気を出せばこんなものなのだ。それで、どこなのだ? 天才の魔女に相応しい働く場所は?」

「それがな……民間の研究機関だ。そこの職員……つまり、お前は科学者になる」

「わたしがカガク者か。まぁ当然の結果だろう」


 魔法が使えない魔女が研究所で働く? 


 しかも科学者だって? 魔女が科学者になる? 


 魔法使いと最も遠い分野の職だと思うのだが。


 しかし、適正があると判断されたのだから、リーシャにはその力があるのだろう。


 リーシャ曰く、天才と言われたとのことだから、よっぽど能力があったのだろう。


 それにしても、達也が知らない能力がリーシャにこんなにも秘められているとは。


 素直に達也はリーシャに感心した。


「リーシャ……お前は粗大ゴミ不燃なんかで燻ってる人間じゃなかったな。未熟ながら俺も頑張って支援するから、絶対に資源ゴミになろうな」


 達也が熱い言葉を握手と共に渡すと、歯切れが悪そうにリーシャが手を握る。


「どうした? まさか……何か悪いことでもしたのか?」


 咄嗟の嗅覚で詰問する。


「何もするわけないのだ」

「そうだよな。さすがに面接で嘘をつくわけないしな。それぐらいの良心は残ってると俺も思うし。悪かったよ、疑って」


 リーシャの額から汗がだらだらと垂れ始める。


「どうした?」

「い、いやぁ……今日は暑いのだ。本当に、夏真っ盛りは困る」

「今は五月だが」

「…………実はわたしは汗っかきなのだ」

「ちょっと前に汗全然掻かないって言ってたろ」

「………………実は昨日から汗っかきになったのだ」

「そ、そうか」


 どうも不審な点を感じるが、大丈夫だろうか。


 しかし疑ってばかりでは可哀相だ。


「疑って悪かったよ……どうも今までのリーシャ見てたらな……。でも、リーシャが頑張ったからこそ、科学者になれるんだよな。そんなリーシャを疑うなんて頑張りを疑うようなものだからな……」


 バツの悪そうな表情になると、汗がまるで滝のようにリーシャの顔を伝っている。


「大丈夫か?」

「ほ、本当に汗っかきは困るのだ」


 リーシャの汗はその後も止まらなかった。


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