〜 夢 桜 〜
桜が舞い散る、4月の春。
私は「潮風高校」に転校した。
ー 全てはここで始まった。 ー
父の仕事の関係で、私は転勤族だった。高校3年生にも関わらず、余儀なく引越しをした。
実は潮風は私が生まれた街である。幼稚園以来、戻ってきた感じだ。
海が近く、塩っけのある爽風が私をすり抜けていく。
この風、この街が私は大好きだ。
そして今日、潮風高校3年K組に転校した。
「夢見桜子です、よろしくお願いします。」
私は小さな声で自己紹介をした。
私はあまり積極的ではなく、内気な性格だ。
「桜、久しぶりだな。」
隣の席から聞こえた優しい声は、紛れもなく
「水野くん…!」
「よっ、元気だったか?」
水野俊一くん。私の幼なじみであり、初恋相手だった人。
いつも明るく、とても優しい。やはり高校でもクラスメイトから人気らしい。
まるで私と性格が正反対。そんな彼に憧れを抱いたことはない、と言ったら嘘になる。
「水野くん、まだこの街にいたんだね」
「おう!俺は親父の後を継いで、立派な漁師になるからな。」
水野くんは偉いな。自分の道をしっかり昔から歩いている。
私には夢もまだないのに。
そんな私は、実は虐待育ちで。
母は精神異常で依存、虐待してくる一方、父は仕事しかせず非常識で人間性に欠けている。
正反対な両親は、毎日喧嘩をしては私をそれぞれ裏で頼り、この17年間振り回されてきてばかりだ。
「あんたもなんとか言いなさいよ!お母さんばっかり言ってないで」
「お前もなんか言えよ!母さんの味方ばかりしてないで」
明らかに夫婦の問題なのに、私に全てを振ってくるこの様。
歳の離れた妹のために、私は己を犠牲にして両親に付き合ってきた。
母の味方をしては、裏で父側に立つ。右往左往の日々。
気が狂った両親は、人を殺す勢いで喧嘩を始めるので、唯一正常な私が毎日徹夜で看取るしかなかった。
それなのに母は、私を殴り、引きずり、風呂に突き落としてびしょびしょのまま追い出した。
明らかに教育のない、この家庭。
己を保ち、生きることさえ苦に感じていた。
そんな私を地獄から救い出してくれたのは、水野くんだった。
「どうした?元気ないな、桜。」
「ううん、大丈夫よ、ありがとう」
いつも私を気にかけてくれるのは、昔から貴方だけだった。
ー 巡る日常、君と一緒に。 ー
学校に通い始めて一週間。
新しい高校に期待を寄せていたが、それは仇となって帰ってきた。
「ほら夢見?こいよ」
どの学校に行ってもそうだった。
私の周りには、常に私を嘲笑う女子が周りを囲んでいた。
「一生夢でも見てろ、バーカ。目障りなんだよ、死ね」
私は学校にいてもいじめられ、家でもいじめられる。
真っ青な出来立てのアザに、重なってアザができるんだ。
「うっ…」
この痛みには慣れていた。
ああ、なんで生きているんだろう、この世界に。
私を必要としている人間なんて、一人もいないのに。
『死にたい。』
それが私の本音であり一途な思い。
明日、私が世界から消え、記憶、存在とともに消滅してほしい。
「おめえらやめろ!…桜、ボコボコだな、大丈夫か?」
「水野…く…ん」
突然、大きな声が聞こえた。そして私を抱き上げた。
私は足で蹴られ腫れた目で、精一杯彼の姿をみた。
「あら、靴が汚れたわ、今日も拭かないといけませんわね」
そう言って私のハンカチを真っ黒に汚す。
これが毎日のルーティン。
担任には指摘されるものの、なかなか言い出せない。
「夢見、お前そんなに汚れててどうした?」
女子の鋭い目線が突き刺さる。
「…先生。校庭で転びました、大丈夫です。」
「夢見は本当にドジだな、大丈夫か?」
クラスからどっと笑い声が上がる。本当は虐められているのに。
そんな中で、私は何度も水野くんに助けられた。
私は彼に想いを寄せ、想いを告げると、私たちは付き合い始めた。
学校終わりに防波堤に座り、地平線を眺めながら二人きりで話すのが毎日の楽しみだった。
海香る風が、吹き付けてはまた帰っていく。この街の海の香りが、昔から好きだった。
この時間、場所がとてもお気に入りだ。
恋は加速し、ある日突然、キスをしたこともあった。
初めて触れた好きな人の味は、海にも勝る特別な物だった。
「桜、これからもずっと一緒にいような」
「うん…!」
暖かい手と、大きな背中が大好きだった。
そんなあなたとの日常が、私の嫌な物全てを吹き返してくれていた、はずだった。
ー 変わる日常、突然の春。 ー
彼との幸せが増える一方、苦しみも増えていた。
そう、いじめと虐待が加速し、身も心も限界だった。
最近では父親から性的虐待も受けるようになった。
水野くん ー 彼との日常は、とても失いたくなかった。
だけどそれでも私は、自分を失いたかった。
愛にも勝る、苦痛に耐えられなかった。
それに第一に、水野くんに私は相応しくない。
まるで家出少女とどこかの国の後継者が付き合うように。
そして人間不信な私は、彼を完璧には信じれなかった。
ここまで好きでいてくれる人を信じれないなんて、最低な女でしかない。
私はその夜、夢を見た。
夢の中で、明日死ねば、世界から私の記憶を消してあげよう、と。
黒い手が私の肩にそっと触れた。
これしかない。辛かった地獄から解放される。
私は夢見る少女でいいんだ、これで全てが終わるなら。
次の日の朝、学校に行くと早く家を出て、いつもの防波堤に立った。
風が吹いてはスカートがひらひらとなびく。
照りつける太陽が、少しうざく感じた。
鈍色が首に刺さる直前、思い出すのは水野くんただ一人。
自己中でごめんね。
いつもは私が後に着くけど、今日は先に行ってるね。
今までありがとう。
「ごめんね、さようなら」
サクッ、ボチャン…
青く透き通った海の青が、赤と混じりマーブル模様を描いた。
海に沈んだ彼女は、何を思ったのだろう。
ー「えー、ニュースです。今日、全国268箇所で桜の満開が確認されました。」
8月21日、真夏の海で、一人少女は世界から姿を消した。
彼女が死んだその日、異常現象が起きたのだった。
「なんでこんな真夏に桜なんか咲いてんだ?水野」
校門の下で3人男子が話していた。
「いや知らないが…どうしてか胸が痛むんだよ…」
「お?どした?大丈夫か?」
「その…何か大切な人を忘れてしまったような…」
「…お前漫画の読みすぎか?あはは」
「そ、そうだよな、あはは!行こうぜ、授業」
ー『ありがとう、水野くん。待ってるね』
「…今何か聞こえた?」
彼の耳元で、誰かに囁かれた気がした。
振り返っても、桜の気がそこにあるだけだった。
「おーい、置いてくぞ水野〜」
「お、おう今行くっつーの!」
『…なんか、ごめんな…』
そう誰かに囁いて彼はまた、勢いよく自転車を漕ぎ出した。
その直後、突風とともにひとひらの桜が、風に舞って空高く飛び、散っていった。
ー ある少女は見た夢を信じ、桜のように儚く散ったのだった。
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閲覧、ありがとうございました!
初投稿です。
突然思いつき、書きました。
現在英語科に通っていて、日本語を忘れないために小説投稿始めました。
本当はシリーズ化を考えていましたが、少し難しく読み切りにしました。
よかったらコメント等お待ちしております。