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09:お話の時間②

 私は主人公(ヒロイン)に向いてない。


 髪が短くて、剣術を習ってて、社交界にはまだ出たことがない。

 今だってほら、剣術の練習終わりにおにいさまとお話の時間だったからパンツスタイルだ。


 剣の稽古や馬に乗っているからケガだってするし。

 クイン・ニキアスは身長も高くて痩せ型だから女性らしさ、からはほど遠い。


 ううん、私がそうなんだ。

 クインのせいじゃなくて、悪いのは私。



 今まで私は何度も、何度も何度も。

 ヒロインには向いていないって、悪役令嬢にもなれないって、誰からも愛されないって、ゲームから追放された。



「でも私は………………」


 天使くんが嘆いてた。

 どうしてちゃんとできないんですか、って。


 王子と婚約破棄されて父は主人公(わたし)を殺した。

 女性としては見れない、と王子様は悪役令嬢の手を取った。世界は何度も滅んだ。

 私が女の子らしかったら滅ばなかった?



「ドレスよりズボンの方が好き。長い髪より短い髪が楽だし、馬とか剣も好き。可愛い格好もしたいけど、カッコいい格好もしたい。イケメンも好きだけど、可愛い女の子も好き。私は欲張りなのかな」



 こんな私はダメなのかな。


 現代日本で私は人気者だった、個性的だって。

 でも個性的ってことは普通とは違うってことでしょう。


 昔からそう。

 私はまるで白い羊の中に1匹だけいる黒い羊。


 私にとっては普通のことなのに、みんなは私を特別だっていう。変わった子だね、特別だね、カッコいいね、王子様みたいだね、って。

 でもそんな私を私は嫌いじゃなかったよ。



 けれどダメなのかもしれないね。

 髪の毛を伸ばして、毎日ドレスを着て、時が来れば社交界に出て…………この世界で望まれているのは「ただの女の子」なのかもしれない。



 だって私は主人公(ヒロイン)じゃない。



 ヒロインをきちんと助けてあげなきゃ。

 攻略対象であるキーリー・B・ニキアスを、きちんと…………


 きちんと会話ができるようにして。

 きちんとヒトらしくして。

 そうしないとヒロインと彼は出会えない?


 でも私が今の私ならダメなのかもしれない。

 このままでは彼はヒトの言葉を忘れてしまって、神と成ってヒトには戻れなくなる。

 バッドエンドだね。また私が世界を崩壊させる?


 もうイヤだ。

 また天使くんに嘆かれるのも。

 世界を崩壊させるのも。何もかも。



「…………だから、おにいさまは私と話してくれないの? 私がドレスを着て、可愛い女の子ならおにいさまは私と会話してくれる?」



 おにいさまが驚いたように大きく目を見開いた。


 トグロを巻いていた身体を解き、おにいさまはゆっくりと動き始める。

 床をヌメヌメとした身体が滑る独特な音がした。


 部屋中をその巨大な身体で取り囲んで、シューシューと音を立てながら赤い舌を動かす。

 恐る恐るというか、困っているような。

 とりあえず部屋を囲んで見たけど、さてここからどうやって私に近づこうか悩んでいるみたいだ。


「おにいさま」


 いつの間にか泣いていたらしい私は涙を拭い、大きく両腕を広げた。

 おいで、というように。


 頭をもたげ、天井近くまでやっていたおにいさま。

 もう外は真っ暗だから部屋の中も真っ暗だし、おにいさまの身体も真っ黒だから目だけが光ってて異様に怖い。もしかして食べようとしてる? 狙ってる? と疑いたくなるくらい。


 でもおにいさまは戸惑いながらも、ゆっくりと頭を私の腕の中に寄せてくれた。

 私の身体の幅くらいある眉間に額を押し付け、私はおにいさまの頭を抱きしめる。


『クイン……………………いじめられた』

「いじめられてない」

『ないてる……………………』


 なんで泣いてるんだろう、私。

 悲しいんだろうか、苦しいんだろうか、しんどいんだろうか。


 少し考えてから私は答えた。



「寂しい」



 冷たくて硬くて、ヌルッとした感触が身体に当たる。

 おにいさまが身体を動かして私の周りをぐるっと締め付けたらしい、本当にこれ他人から見たら捕食寸前だろうなぁ。


『さびしい……………………』

「うん、寂しい。おにいさまともっとお話ししたいし、それに…………ひとりでご飯はヤダ」


 だだっ広いテーブルでひとりなのもイヤだ。

 ひとりで話してるだけなのもイヤだ。

 誰とも話せないのもイヤだ。


 おにいさまは困っているようだった。

 明確な言葉は発しないけれど、何かをいおうとしているのがわかる。


 ちなみに私は足から首くらいまでぐるっと、おにいさまの身体で締め付けられていた。

 多分これ、おにいさまにとってはハグのつもりかもしれないけどヘビ恐怖症の人なら死んでると思う。


『…………………………そば、にいる』

「ほんと?」

『いち、いつ…………いつし………………』


 私はおにいさまの頭を離し、一歩下がった。

 スカイブルーの瞳に私が映ってる。


「いつも一緒?」


 おにいさまが何度か頭を上下に揺らす。

 大蛇の瞳の中の私がパァッと笑った。


「じゃあ今日は一緒にご飯を食べようよ、ここで。いい?」


 おにいさまはまた頷いた。

 そうして私達義理の兄妹は、その夜、初めて一緒にご飯を食べたのでした。




 ちなみに現在は大蛇であるおにいさまの食事は牛とか豚の丸呑みというか、まぁとにかくスーパーベリーグロテスクだったので。

 残念ながら、私は2度とおにいさまと一緒に食事をするのはやめておこうと誓ったのだった。


 ヘビだもんね!



★★★


少しでも面白いと思ってくださったら

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