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08:お話の時間①

「傷は大したことないですね」


 さらりとお医者様はいった。

 そう、実にさらりと。


「散歩か何かをして石が刺さったのでしょう」


 あ、あれだけ騒いでたのに!?

 石が刺さっただけ!? 血も結構出てたよ!?


「おにいさま……意識を失いかけてたからひどい怪我なのかと…………」

「キーリー様は血が苦手なんですよ」


 メアリーがコソッといってくれる。

 なーーーんだ、そうだったのか!

 安心して私は息を吐き出した。


 ん? でも待てよ?

 医者の言葉を思い出すと眉を寄せた。

 傷「は」? 他に何かある?


「あのーーー……何か他に懸念事項でも?」


 定期的に傷を消毒するように、とメアリーに指示していたお医者様に尋ねたみた。

 すると彼は「ああ」と困った声を出す。


「言語発達が良くないですねぇ」

「言語発達?」


 何それ?


「キーリー様はクイン様と同じ10歳ですよね。この年齢でここまで喋れない『神付き』も珍しい……まるで赤ちゃんですね」

「バブバブおにいさま……」

「お話の時間はしっかりと設けておりますか?」


 私は素直に頷いた。

 一方的に私だけが話しているとはいえ、おにいさまのお話の時間は毎日つくってる。

 そのおかげでおにいさまの怪我もこうしてすぐに発見できたわけだし……


「会話はしておりますか?」

「会話……は、してないですね」


 お医者様はそれを聞くと納得したようだった。逆に私はビックリしてしまう。

 だって今までメアリーや使用人達からは、ヒトの言葉を聞かせてるだけでいいって聞いてたから。


 会話しなくちゃダメなの?

 え、じゃあ……おにいさまがバブバブおにいさまなのは私のせいってこと?


「キーリー様に会話をする気はありそうですか?」

「いや、どうでしょう。私が話していても反応はないですけど」


 反応といえば私が部屋に入るとチラッと見るくらいだ。

 あとは視線すら向けてくれない。


 元アイドルとして視線すら向けてくれないのは結構キツイものがあったりする。

 私からのファンサを欲しがっていたファンの子の気持ちが今になってわかるとは……


 なんて私が思っていると、お医者様は「ふ」と鼻で笑った。

 いやーーーーな笑い方だ。

 私は思わず眉を寄せる。



「ま、キーリー様も男性ですからね」



 どういうこと?

 お医者様は笑いながら続けた。



「女の子らしい方とお話をしたい年頃でしょう」



 は?

 つまりなに、それ。

 どういうこと?


 お医者様は私がが思いっきり顔をしかめていることに気付いたようだった。慌てた様子で咳払いをし、どもりながら話を変える。


「こ、このままヒト語を忘れてしまっては大変です。は、早く結婚した方が良いと思われますが…………こればっかりは縁もありますしね」

「ニキアス家だから結婚のお相手がいないと?」

「しゃ、社交界でヘビは人気がさほど…………」


 それ以上お医者様が何かをいう前に、私は勢いよく立ち上がった。

 ビク、と身をすくめるお医者様ににっこりと笑いかけ、私は恭しく玄関のドアに向かって手を差し伸べる。

 いつも私に執事がしてくれるように、しっかりとお辞儀までして。


「お帰りはあちらですよ、お医者様」


 私は笑ったつもりだったけど、その笑顔も声もよっぽど冷めきっていたらしい。

 お医者様は顔色を変え、逃げるようにホールから出て行った。


 超絶失礼だ、来てもらって悪いけど。

 私は髪をかきあげ、小さく息を吐き出した。


「まぁお医者様がいいたくなる気持ちもわかりますわ」

「クイン様はまともじゃない」


 玄関ホールの隅で、ヒソヒソとメイド達が囁き合う声がした。


「可愛らしい女の子ならキーリー様との会話も弾むでしょう……」

「あんな格好じゃなくて……」


 聞こえていないと思っているのか、それとも聞かせようと思っているのか……

 メイド達はさらに囁き合う。


 私はメイドの方を向き、わざとニコッと笑っておいた。

 メイド達はバツが悪そうな顔をして口を閉ざし、乱れている椅子やテーブルを片付け出した。


「メアリー、おにいさまとは会える?」

「ええ。お部屋におられます。すぐに誰か一緒に……」

「いい。私ひとりで行くから」


 お医者様を迎えていた玄関ホールをとっとと横切り屋敷の外に出ると中庭、そして温室に向かう。

 普段ならディナーを楽しんでいる時間だ、外は薄暗い。

 それでも私は気にすることなく温室に入り、慌てている庭師に笑いかけるとおにいさまがいる小屋に入った。


 いつもは執事がノックをし、うかがってから入るおにいさまの部屋。

 突然の私の訪問におにいさまは驚いたようで、トグロを巻いた身体の隙間に突っ込んでいた頭を持ち上げた。


 スカイブルーの瞳が揺れる。

 細い瞳孔もその瞳の色も私とそっくりで、でも私はヒトでおにいさまはヘビ。



「やっぱりおにいさまも、女の子らしい方がいい? 髪が長くて、ドレスを着て、社交界で自分の結婚歴を誇るような」



 そのスカイブルーの瞳に映る私は真反対だ。



★★★


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