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07:才能あるってさ

 私は時々考える。


 例えば現代日本においてほとんど体験することのないものに才能があった場合、どうなるんだろう? と。


 銃で撃つこと、とか。

 人を殺す才能、とか。

 象に乗ること、猛獣を操れること、ワニと会話ができる……とか。


 体験したことがないから開花してないだけで、実際はそういう才能が眠っているのかもしれない。


「クイン様!!! そこまで!!」



 そしてどうやら……

 私もそういう『現代日本ではなかなか体験しない物事』に対して才能があったみたいだ。



「お見事でした!! まさかクイン様に剣術の才能がお有りとは!!」


 私がついさっきまで剣先を向けていた相手ーーー

 剣術の教師であるロバート先生が、ニコニコ顔で拍手をしながらそういってくれる。

 私も釣られてにっこりと笑った。


 私の才能。

 それはどうやら剣術。


 この世界には神様から受け継いだ魔法があったりするので、正直剣術なんてものはお飾りにすぎない。

 魔法ではなく生身で戦うなんてほとんどないわけだ。

 あったとしても女性を巡っての決闘の時とか、己の名誉を守るための時とか、デモンストレーションとしての剣術大会とかいう催しものとか。


 それでも剣なんてものは現代日本では持つ機会もほとんどなくて。

 腕当てや脚当てを付けて戦うなんてまずありえない。


 だからこの才能に気づけただけでゲームの世界にやって来てよかったなぁ……

 なんて思うわけですよ。


「クイン様は思い切りの良さが勝負強さに繋がっておりますね! もう少し慎重さも身に付けることができればもっと良くなるはずです!」

「ありがとう! これから気を付けます!」


 ロバート先生は「えらい!」というと、また拍手をしてくれた。

 褒め上手だ〜〜〜褒めて伸びるタイプなのでありがたい。


 無理いってこの屋敷内まで教えに来てもらっているというのに、ロバート先生はいつも褒めてくれるので最高である。

 この世界では普通、女性は剣術なんてしないので教えてくれるだけでも感謝感激なのに。


 剣術を習いたいといっているのが女の子。

 しかも侯爵家、悪名高きニキアスの血筋。

 尚且つ、さらにさらに複雑な出自を持つ上に、『神付き』のお話相手であるクイン・ニキアス。


 誰が教えてくれるっていうんだ? って感じだったのだけど、結果良い先生が来てくれてよかった。

 ロバート先生は元王国騎士で腕も良いし。最高。



 ちなみに『神付き』というのは貴族の中でも神様の姿、いわゆるケモノの姿で生まれた貴族のことをいうらしい。

 黒い大蛇である、うちのおにいさまみたいなね。


 『神様の成り代わり』とか『神の子』、『愛されている子』とか呼ばれることもあるけど、神付きが一番多いかな?

 悪い意味で使われることもあったりするけど。



「クイン様、そろそろお話の……」

「りょーかい。ロバート先生! それじゃあまた来週。今日はありがとうございました」

「自主練習をやりすぎないようにお過ごしください」


 メイドさんに呼ばれ、ロバート先生にそう挨拶を交わす。


 いやーーー結構毎日寂しかったから、ロバート先生と話せるのも嬉しいな。

 おにいさまは未だに話してくれなかったりするし。


 剣術を習い始めてはや1ヶ月。

 つまりこのゲームの中で記憶を取り戻して約1ヶ月。

 おにいさまとは一向に会話できておらず、代わりに「クイン様はおかしくなった」っていうウワサが広がっている。


 まーーーーね!


 いきなり髪の毛をバッサリ切って!

 (しかも長い髪は女の命っていう世界で)


 ドレスではなく少年みたいな格好をし出して!

 (今や専用のズボンを作ってもらってるんだよね)


 剣術と乗馬を習い始めて!

 (馬には乗れるけどガッツリと習う人も女の子ではあんまりいないらしい)


 そしてだれかれ構わず「可愛いね」とかいい始めたんだから! そりゃあ! 正気を疑われるってもんですよ!


 気にしないけど。

 それで殺されるわけでもないし。



「ってことでおにいさま! 今日もクインが来ましたよー! 聞いて? 今日はロバート先生と試合形式で練習したんだよね。ハンデはかなり付けてもらったんだけど〜」



 小屋の中に入るなり私は話し始めた、いつものように。

 ちらり、と視界の端で赤が揺れる。


 赤? 何で? おにいさまの身体は真っ黒で赤なんてありはしない。

 おにいさまが舌でも出してんのか?


 そんな風に能天気なことを考えていた私の目がしっかりととらえたのは床に広がる赤い染み。

 ヌメヌメとしたおにいさまの巨大な身体から真っ赤な血が流れていた。


「おにいさま!? ちょ、え、なに!?」

『クイン……………………』


 慌てて側に駆け寄る私の脳内におにいさまの苦しそうな声がする。

 スカイブルーの美しい眼が揺れていた。


「今すぐ誰か来て!! おにいさまが!!!」


 そう叫ぶと小屋の外に待機している執事が扉を開き、中を覗くとすぐに駆け出して行った。


「大丈夫だよ、おにいさま……私がついてる! 私がいるからね!! ほら、私を見て!」


 土管のような巨大な身体。

 真っ黒な身体に近づくと初めてそこに尖った石のようなものが突き刺さっていることに気づいた、なんかに引っ掛けたのか?


 傷口を縛ろうと思ったって大きすぎる身体に巻けるような布はない。

 仕方なく私はおにいさまの顔の近くにいき、眉間のところにぎゅうっと抱きついた。

 そしてスカイブルーの瞳に自分を映す。


「おにいさま!! 目をつぶるな、私を見て!! 私だけを見てて!! すぐに誰か来てくれるから!!」


 まるで鏡みたいだった、その大きなヘビの瞳は。

 ゆったりと巨大な身体が動く、私の周りを取り囲んで締め付けようとする。

 赤い血が私の服を汚す…………


「キーリー!!!!」


 スカイブルーの瞳が閉じようとする度に私は義兄(あに)の名を呼んだ。

 黒い巨大なヘビにゆったりと締め付けられながら、何度も何度も何度も………………


『クイン……………………』

「キーリー!!!!」



★★★


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