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04:黒い大蛇の義兄

 『おにいさま』がいるという部屋に入る前、身体がとてつもなく恐怖を感じてた。

 頭の中で、おさげにぐりぐりメガネの私が嫌だ嫌だと首を振って断固として拒否をしてた。


「おにいさまってどんな人?」


 メイドは誰も答えない。

 青ざめて冷や汗を流してる。


 嫌だ嫌だ、会いたくない、絶対にイヤ!


 記憶を思い出す前の私が拒絶する。

 私の部屋があった屋敷から外に出て、花が咲き乱れる中庭を突っ切った先にある温室。


 その中に、その小屋があった。

 窓には板が貼られ、壁には植物がつたう古ぼけた古屋。元は温室で育てている花の種とか、お世話をするための機械とかそういうのが置いてあるところだったのかもしれない。



そんな古ぼけた小屋の。

頑丈な扉の向こう側に

『おにいさま』はいた。



 黒い大蛇は私を見る、美しい水色の瞳で。


 メアリーはいった、目の色がそっくりだと。

 まぁ確かにね、私の眼の色も水色だから。片方だけなんだけど。私の場合、左眼が目の前の大蛇と同じキレイな水色で右眼は灰色。



『髪………………』


 しかしこんなでっかいヘビは初めて見た。

 ドラ●もんの世界の土管くらいはあるんじゃない?

 そりゃあこれは普通の女の子は怖がるし嫌がるよなぁ。


 トグロを巻く真っ黒な大蛇を眺めていると、頭をもたげたヘビがぽつりと呟いた。

 言葉を発してる、っていうよりは頭の中に響いてくるって感じだ。


「かみ?」

『切った…………』

「ああ、そう。切った」


 似合うでしょ、という前に大蛇の細い瞳孔がもっと細くなる。


『いじめ、られた………………』


 大蛇の声が震えてる。

 私の周りがじっとりと湿る。なんだ?


『クイン、いじめられ………………』

「え? 違うよ。私が自分で切った。似合うでしょ?」


 なんかおにいさまとやらが怒っている気配を感じつつ、私はマイペースにそう答える。

 すると、すん、と湿っていた気配が消えた。


『自分で………………』

「そうだよ」


 私は短くなった自分の髪に指を通し、くるくると回しながら引っ張る。

 セルフカットとはいえ、我ながら上出来。

 何せ天使くんに呆れられるくらい色んな乙女ゲームにいって、髪を切ったりなんだりしてきたんだからね。


「後ろも自分で切ったんだよ。上手いでしょ? おにいさまのそのキレイな目から見てどう?」


 目の前のおにいさまは困惑しているようだった。


 まぁいきなり義妹が髪の毛切って来たらビビるか。

 しかも髪の毛長いことが女性らしいっていう世界で。いやヘビの世界ではどうなのかわかんないけど。


 ちらり、とおにいさまがこちらを見た気配がする。

 その細い瞳孔で私を見てるのかな。

 あ、ちなみに私も眼の色と同じく、瞳孔も義兄に似てヘビっぽい。これはたしかにメイドさんから「目は似てる」といわれるわけだ。


「よかったら触ってみる?」


 おにいさまはあからさまに戸惑った。

 いってから私も「あ」と思った、だってヘビには手がないんだから。


 けれどおにいさまの身体が動いたのが見えた。

 トグロを解き、長い身体を動かしてゆっくりと私の周りを取り囲む。


 あ! これ! 見たことあるぞ!

 獲物を捕獲しようとしている動きなのでは……?

 え? もしかして食べられる?


 テカテカと輝いているヘビの身体がゆっくりと私に絡みつく。


 ごめん、天使くん。

 長生きしてっていわれたのに、私、今度は巨大なヘビに食べられます。

 次はもう乙女ゲームの世界に転生するのはやめよ? テト●スとかの世界にしよ? 長い棒に生まれ変わらせて。


 死を覚悟している私の視界にそっとシッポが入ってきた。

 恐る恐る、といった感じでシッポはゆっくりと毛先に触れる。

 そしてすぐに引っ込んだ。


「え? そんだけ?」


 思わず声が出たと同時に、私はガッとシッポを掴む。

 ビク!!! とおにいさまが身を硬らせる。


「もっと触っていいよ。冷たくて気持ちいい身体だね」


 息をするかのように褒めるのも、褒めながらウィンクしちゃうのも、もはや私のクセ。

 おにいさまは困惑しているようだった。

 それでもゆっくりと私の髪に触れ、そっと囁く。


『キレイ、な髪…………だったのに』

「じゃあ私の代わりにおにいさまが髪の毛伸ばしてよ。見てみたいな、おにいさまの髪が長いところ」


 いや、髪ないけどね?

 ヘビだからね?


 おにいさまは私の手から抜け出し、シュルシュルと音を立てながら身体をまた巻いていく。

 小屋に入った時と同じような姿になると、おにいさまは水色の眼が輝く顔を長い身体の隙間に挟み込んだ。


『帰っていい……………………』


 そっぽを向いてしまったおにいさまの姿はまるで、小屋の中にそこだけ夜があるみたいだった。

 塞いだ板の隙間から太陽の光が差し込んで、おにいさまのヌメヌメとした身体に当たって反射していた。


「おにいさまの身体って夜空みたいだね、キレイ。じゃあまたね」


 おにいさまは何も応えてくれなかった、今まで話していたってことがウソみたいに。





★  ★  ★



「たまにああやって人間とお話ししないとヒトの言葉を忘れちゃうんですよ」


 夜。

 すっかり片付いた私の部屋で、私の乗馬服を片付けながらメアリーがぼやいてた。


「貴族の血筋ってのも厄介ですね。神様の血を引いてらっしゃるから……」


 ふっかふかのベッドに潜っていた私は、それを聞いた瞬間「ああああ!」と声を上げて起き上がる。

 神様の血! 貴族! ああ! そっか!!


「スパークリング・カラーってアレか!!」


 神様の血を引くケモノ達の一妻多夫制になる乙女ゲームだ!!


「おにいさまってキーリー・B・ニキアスか!!! ヘビの神様の血を引く貴族!!!!」


 え、今さら?

 そんな顔でメアリーが私をみていたのはいうまでもない。



★★★


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