25:誘拐されてます④
「アタシ、いったっけ? 神付きってこと」
「飛べるってことはいってないわよね」
貴方のオタクが近くにいたので知ってますよ。
なんていえるわけもなく、私はこの言葉で誤魔化した。
「ニキアス家なので」
なんて便利な言葉なのか、ニキアス家。
侯爵様だもの、こちとら。
ルネ様は不審がっていたけれど、私がニキアス家の本家に住んでるとわかると何となく納得してくれた。
神付き同士、侯爵家同士、接点は多いらしい。
お互いに有名な家柄だしね。
「神付きが生まれたら隠してはおけないものね」
「大きいから?」
「ニキアス家ほど巨大じゃないわよ」
やっぱりキーリーのあの大きさは規定外なのか…………
ヘビというよりはもう、竜とかの域だものな。
「でもここで神様の姿にはなれないわ」
ルネ様が悩ましげにつぶやく。
キーリーは結構ノリと勢いでヘビの姿に戻っているけど、やっぱり神様の姿というだけあって規定とかあるのかな。
あの義兄は食事に嫌いな食べ物が出て、それを食べたくない時くらいでもあっさりとケモノに戻るからね…………あれはさすがにダメだと思う。
「私の力じゃアンタを一緒に運べないもの。それにアタシ………………」
ルネ様はそこで一度、息を飲んだ。
何か思い悩むように眉を寄せ、すぐに歪な笑みを作る。
「アンタだけ置いていくわけにはいかないわ…………非力でごめんね。男の子なのに恥ずかしい」
想像よりもずっと優しい理由だった。
キーリーが好き嫌いで神様の姿に戻るとか霞んでしまうね、優しさすごい。
「アタシ、本当にダメね…………こういう口調も恥ずかしいでしょ? 見た目だけでも男らしくなろうって、アンタに服をあげたけど…………見た目だけ男らしくなったってね、全然ダメね」
しょんぼりとしたルネ様は、途切れ途切れに告げた。
さっきは元気だったのにまた涙が浮かんでる。
ルネ様が私にくれた服はどれも可愛かった。
フリルがたくさんついてて、ヒラヒラで、綺麗で大人っぽくて可愛くて美しい。
「アタシを産んだ時、母が亡くなったの。母の命の代わりにアタシが産まれたのに…………アタシは全然、父の期待に応えられないわ。産まれた時から失望させてばっかり」
ルネ様の頬につう、と涙が伝う。
「このままじゃダメね……ダメだ、アタシ………………僕……」
「やっぱり」命は儚いって思った、とゲームの中のルネ様は自由に生きようと決めたって聞いた。
目の前のルネ様は今まさに、「やっぱり」命は儚いから父の期待に応えられるようになろうとしてる。
アイデンティティの消失とかそんなのはいま、どーーーだっていい。
私のせいで未来が変わるとか、そんなことはいい。
でも伝えたいことは、ある。
「多分、ルネ様のお母様はルネ様が楽しく笑って生きてくれた方が嬉しいと思うよ」
きっぱりと私はいう。
私だって別に自分では男装しているつもりは全くないのに、顔がちょっと男顔だったからそれに似合うように髪の毛を短くしたり、身長が少し平均より高くて、クールな服装が好みだから好きなようにしていたら「男になりたいのか」とか「女らしくない」とか散々いわれてきた。
だから髪の毛を伸ばして巻いてみたり、ふわふわひらひらの服を着てみたりとか色々したこともあったけど……
母はいった、好きな格好をしていいんだよって。
「そんなことで失望なんてしないよ。期待に応える必要なんてない。別の人だもん。好きに生きていいんだよ。どんな格好でも、言葉遣いでもルネ様は素敵だし、絶対にみんな好きだよ」
母にいわれた言葉だ。
思春期にこれをいわれた私はひどく感動し、そこからもう「似合う」と「好き」を徹底的に追い求め、結果として男装アイドルになった。
いろいろいわれていたけれど、いいじゃない。
「自分と、自分のことを好きな人を大事にしなきゃ。自分のことを嫌いな人に気にかけてる時間なんて無駄じゃない?」
どーーーせそういう人は私が何をしたって私のことを嫌いなんだから。
それなら私のことを好きっていってくれる人を大事にした方が建設的。たまにクヨクヨしちゃうけど。
ルネ様は驚いたように目を丸くしてーーー
そして目を細めて笑った。
「アンタ最高ね」
よかった、ルネ様だ。
私もニコッと笑った。
その時、動いていた馬車が止まる。
「目的地かしら」
「また袋を被せられちゃうかもね」
この馬車は窓が完全に塞がれてるから場所とかはわからないし、依然として私たちの目玉が危機ってことは変わらない。
だけど私は余裕でもあった。
「ルネ様は手が縛られていても神様の姿になることはできるの?」
「できるけど…………さっきもいったけど、アンタを抱えては飛べないわよ。それに、アタシは……」
「私のことは放っておいていいよ」
「は!?」
ルネ様、声が大きいよ。
「移動するときに私が隙を作るから、その間にルネ様は逃げて」
「待って。アタシは神様の姿には…………」
「大丈夫だから」
だって私、もしここで死んだとしても天使くんに呆れられるだけだもん。
でもルネ様はそうはいかない…………死んだら終わりだ。そんなことはダメ。
「逃げてね、無事に」
絶対に私が守ってみせる。
ルネ様が口を開いたとき、馬車が止まって扉が開いた。
★★★
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