20:避暑地でできるかな?
「思っていた以上に涼しいね」
避暑地ってすごい。
風も涼しいし、気温も低いし過ごしやすい。
「あーーーーもう寒い。無理だね。これはおにいちゃま死んじゃうなーーー? おチビちゃんを抱きしめなきゃ無理だなーーー?」
「結構近くに屋敷もあるんだね」
「まーーーね。おチビちゃん、ちゃんと食べてる? 軽すぎない?」
歩き出した私を義兄は軽々と持ち上げた。
抱っこされたまま移動しつつ…………
私は周りを見渡す。
つい3日前まで住んでいた屋敷の周りには草原しかなかったけれど、ここは他の屋敷も見える。
といっても門から玄関ホールまで結構あるし、決して狭い屋敷ではないんだけれど。
ただただ単純に人気の地域なんだろう、避暑地として。
これは涼しさに期待ができる!
私はぐ、と拳を作った。
「これだけ周りに屋敷があると、たしかに交流も多そうだね」
「おえ」
キーリーがわざとらしく眉を寄せ、赤い舌を出す。
本当にヒトと会話するのがイヤらしい。まぁキーリーは屋敷でも使用人とまともに会話しないもんね。
サメみたいな歯だなぁ。
なんて思いながらぼんやりとしていると、キーリーがそのサメみたいな歯で私の鼻に噛みつこうとしてくる。
丸呑みしていたヘビの姿ではなく、ヒトになってキーリーはこの尖った歯が生えた。
そこから執拗に私を噛もうとしてくるのは本当になんで? 絶対に噛み心地良くないよ? それに鼻はちょっとやめてほしい。顔はアイドルにとって商売道具なので。
「貴族って会ったことがないから会ってみたいけどな」
キーリーの口を押さえつけながら私はつぶやく。
なんかネコになった気分。
顔を擦り付けようとする飼い主をネコってこんな風に止めるよね、よく見かける。
「おチビちゃん、寝ぼけてんの? ほら、そのおっきなお目めをこっち向けてみな? なーーーにが見える?」
「私を食べようとするヘビ顔のイケメンかな。今日もうちのおにいさまは格好いいね」
「やだぁ、おにいちゃま口説かれちゃってる♡ その格好いい最強のイケメンって未来の侯爵様だよ? 貴族なんだよなーーーー?」
ほらほら貴族に会いたかったんだろ〜。
とかいいながら私のほっぺたをツンツンしてくる義兄を多少スルーしつつ、私はキーリーの腕から逃れる。
少し歩きたい、といって玄関ホール近くで馬車から下ろしてもらっていたのだ。
キーリーに抱っこされるばかりじゃなくて、少しくらい歩かないとね。
すぐ目の前に執事が待っていてくれてるのが見えるからほとんど自分の足では歩いてないってことになっちゃうけど…………
まぁいいじゃない。
ようやく腕があるってことで、やたらと私を抱っこしたがる義兄の優しさに私は全力で甘える主義なのだから。
「クイン、おてて繋ご。知らない土地で迷子になったら泣いちゃうもんなぁ〜〜〜? ひひひ」
「誰が泣くの? キーリー?」
「は? なにいってんの? 当然じゃん」
「なら繋がないとね」
泣くんかい。
つっこみたくなったけれど、キーリーときたらさも当然みたいな顔でいうので笑ってしまう。
お子ちゃまみたいに…………
というか、身長が高いからめちゃくちゃ大人っぽく見えるけど、実年齢は子どもの私達は手を繋いで玄関ホールに向かい…………
「げ」
キーリーが声を上げると、動きを止めた。
首を傾げていると、大柄な執事よりもさらに大きい男性がゆっくりと姿を見せたのだったーーー身長、190くらいあるんじゃないだろうか。
「やぁキーリー」
彼は笑った、不気味に。
真っ黒な髪をオールバックにしてしっかりと撫で付け、ダークブルーの瞳は鋭い。
細長い瞳孔はそっくりだった、私やキーリーに。
「………………叔父様」
キーリーは思いっきり顔を歪めてつぶやく。
陰鬱そうな男性だった、笑顔を浮かべているけど。
その笑顔が余計に不気味さをひきたてる。
彼はキーリーの呼びかけに多分微笑んだんだと思うけど………
その謎の笑顔で応えたってことなのか、特にそれ以上は何もいわずに私の方に首を向けた。
「はじめまして、クイン。僕はスプロ・ニキアス。君の母親の兄の奥さんの弟。つまり君の叔父」
「スプロ…………叔父様。はじめまして」
軽く頭を下げたけど叔父様は何の反応もしなかった。
当然のように彼は続ける。
「義兄さんから頼まれた。避暑地にいる間、僕が君達の交流を広げてあげよう」
「はーーーー? ムリっしょ」
淡々と話し続ける叔父の言葉を、キーリーがざっくりと否定したのだった。
「だって叔父様って人の目を見て会話できねぇーーじゃん」
ほんとまさしくその通り。
だって叔父様はさっきから空を見ながら話し続けたり笑ったりするんだもん、神様に向かって話してるのかな? さすがに不気味である。
「そもそも恋人もいたことねぇじゃん。ムリっしょ。オレはクインと結婚してるけど」
「絶対呪う絶対呪う絶対呪う絶対呪う絶対呪う」
キーリーが続けた言葉に無になった叔父様はぶつぶつと呪いの言葉を吐いていたのだった。
もちろんこれも空を見ながら。
もう本当に………………
変人揃いのニキアス家って感じの人だな。
★★★
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