02:私ってどんな人?
「私の名前はクイン・ニキアス。今は10歳……」
鏡に映ったおさげ髪の女の子はそう告げる。
「あ、私、10歳なんだ!」
そっかそっか。
自分でいった言葉に自分で納得した。
天使くんに転生させてもらうと記憶を取り戻すまでにちょっとだけ時間がかかるんだよね。
最初の方は生まれた瞬間に記憶を取り戻してたんだけど……
私があまりにヒロインに向いてないって気付いてからは、できる限り「私」の記憶を封じ込めようとしてるっぽい。思い出すのにどんどん時間かかってる。
「長生きさせようと必死だな……」
まぁそりゃそっか。
納得した私はくるりと辺りを見渡した。
ここは部屋……私の部屋なのかな? よく見ようとしても長い前髪が邪魔すぎる!
「ていうか、このメガネも伊達じゃん。邪魔すぎる」
窓から差し込む太陽光が届かないレベルの分厚〜〜〜いメガネ。
視界を遮る長い前髪。
メガネをポイ、とベッドの上に放り投げ、前髪をかきあげる。
改めて部屋を見渡すと驚いた。豪華な造りの部屋の中には本、本、本!
でっかい本棚にはぎっちりと本が詰まり、それでも足りないのか勉強机らしきものの上にも本の山。
その量に圧倒される。
私も本を読むのは好きだけど、この人凄いなぁ。いや私だけど。
「そーーーーいえばクイン・ニキアスって……ガリ勉キャラだったっけなぁ」
記憶の中の『クイン・ニキアス』を何とか掘り起こす。
お助けキャラだからゲームをダウンロードしてすぐ、説明をするために出て来てたのは覚えてる……主要キャラとか全然何も覚えてないけど。何ならイベントのひとつもクリアしてないけど。
そうだ、クイン・ニキアスは……
ヒロインのお友達で……なんかこう、引き立て役っていうか……異常なほどに卑屈で謙虚だったような……?
「うーーーーん、わからん……」
ひとまず椅子に座ろうと思ったら、椅子の上にも本が積み重なっていた。
仕方ないので私はベッドに腰をかける。うわ! ふわふわ! じゃなくて。
いま思い出さないといけないことは「私」について。
クイン・ニキアスってどんな人だっけ?
少し考えたけどあまり思い出せない。思い出すほど記憶がない、って方が正しいか!
それなら別の方法で自分を知ればいいだけ。
私は鏡に自分を写す。
「見た目は見たらわかるね。真っ黒な髪に、おさげに、メガネ」
着ているワンピース型のドレスは木綿? 絹? 生成り?
よくわかんないけど、とにかくシンプルイズベスト! って感じのお洋服。
部屋の感じやドレスの生地とかどう見ても貴族かお金持ちなのに、アクセサリーも何も付けていない。強いていうならメガネと本がアクセサリー。
私はベッドから立ち上がり、クローゼットを開ける。
女性のクローゼットを開けるなんて失礼かもしれない。
でも私なんだからいいよね。
大量に持っているドレスは全部同じようなものだった。
黒か生成りか、あっても小花柄のシンプルなやつ。
ここ数ヶ月で急に身長が伸びたのか、どれもちょっとだけ丈が短い気がする。
「もっと似合う服があるような気がするけどなぁ」
私は鏡の中の「自分」を見ながら呟く。
これが自分とはわかっているけど、まだ実感がない。
そのせいか客観的に自分を見れる気がする。
「例えばダークな赤色とか。黒い髪だから良く似合うと思うけどね」
あれ? ていうか良く見ると……
私ってもしかして色白だし、目や顔も……
『やだ!!!!!!!!』
しみじみと自分の顔を見つめようとした時、頭の中でぱっと声がした気がした。
なるほど。どうやら「私」は自分の見た目にひどいコンプレックスがあったようだ。
この世界の女の子の平均身長はよくわからないけど、10歳にしてスラっとしているのは間違いない。
もしかしたら何かいわれたのかな?
身長が高いこととか? あと……この目とか?
魂は私でも育ちとか環境とか色々あるもんなぁ。
「でも残念。私は自分の魅力を隠さないタイプだから」
鏡の中の自分にウィンクして。
私は勉強机の引き出しを開けるとハサミを取り出した。
さて、じゃあ!
大改造でもしちゃいましょうか!
★ ★ ★
「クイン様、そろそろ……きゃあああああ!」
数十分後。
私の部屋にやってきたメイドが腰を抜かしながら悲鳴をあげた。
「ど、どうしたんだ!?」
「ク、クイン様が……!!!」
悲鳴を聞いて飛び込んできたメイドと執事が見たものはーーーー……
「どう? 私、カッコよくない?」
ながーーーーい前髪とおさげをバッサリと切ってショートカットになった私だった。
イメチェン大成功!
青い顔をして呆然としたままのメイドと執事に、私はアイドルさながらのウィンクを決めたのだった。
★★★
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