17:義兄の気持ち①
Side キーリー・B・ニキアス
キーリーは産まれた時から見放されていた。
真っ黒いヘビの姿で産まれたキーリーはヒトとはあまりに違いすぎていた。
母は驚いて、驚いて驚いてーーー
そして「これは私の子どもではない」といって、そこからもう二度とキーリーを見なかった。
大きな黒いヘビとなったキーリーは暗い部屋に閉じ込められた。
それでもちょうどよかった。
外の世界にいる人間と自分は全然違ったから。
使用人はキーリーの姿を見て怯えていた、隠そうとしていたってよくわかる。
でも何をいっているのかはわからなかった。
時々顔を見せに来る父親とは言葉を交わすことはできたし、自分も「そう」だったから怯えてはいなかったけれど………………
顔を忘れそうになるくらい時々しか来なかった。
太陽の光はあまりにも眩しくて。
黒いウロコをひどく輝かせてイヤだった。
外から聴こえる笑い声もイヤだった。全部イヤだった。だから使用人にいって全ての窓を塞がせた。
会いに来ない父親もイヤだった。
自分を見捨てた母親のこともイヤだった。
でもそれを訴える言語を、キーリーは知らなかった。
「さぁクイン。こっちだ」
ある日、父は女の子を連れて来た。
真っ黒な髪をして前髪が長くて、うつむきがちな女の子。
ガリガリに痩せていて妙に身長が高く、顔を隠すように大きなメガネをかけていた。
「こ、ここは…………?」
「いっただろう? 君の『お兄様』だよ」
「お、おにいさま………………」
その子の声がわかったから親戚だとキーリーにはすぐにわかった、そんな子がいるなんて今まで知らなかったけれど。
自分と同じくらいの親戚は遠縁にいた、でもその子の声は聞いたことがなかった。
父に連れられて部屋に入って来た女の子はーーー
「ひぃ……!! あああああ!!!」
腰が抜けるほどに驚くと泣きながら助けを求めた。
叫びながら父親にすがりつき、それが無理だとわかるとドアに爪を立てて出て行こうとする。
父はその子の助けを無視した、叫び声も。
きっとその子は我が家に必要な子だから。
「キーリー。この子はクイン。私の妹の子どもだよ、君にとっては従兄弟かな…………これからこの家で暮らすから、毎日会話してくれる。妹だと思っていい」
その「妹」は泣きながらキーリーを見た。
黒い髪の隙間から覗いていたのは自分とそっくりのスカイブルーと、そしてグレーの瞳。
細長い瞳孔、ヘビみたいな。
それは間違いなくニキアス家の証だった。
それでもその「妹」は他の人間と同じ。
キーリーに怯えて、震えて、恐れて、嫌悪して。
まともに会話できるなんて思わなかった。
★ ★ ★
「やぁおにいさま。初めまして、じゃないね。でもまぁ、私の気持ち的には初めましてだからいわせて。初めまして」
そして「彼女」はやって来た。
確かに見た目は「妹」と変わらない。
スカイブルーにグレーの瞳、真っ黒な髪。
ガリガリの細い身体に高い身長………………
でも全然違う。
長かった髪は短くなって、あれだけ分厚いメガネは消え去って、そしてーーーー
自信に満ち溢れてた。
にっこりと笑ってキーリーのことを見返していた。
その自分とそっくりの、ヘビのような細長い瞳孔で。
『クイン…………髪…………』
もしかしていじめられた?
ニキアス家の人間だから? だから髪を?
いろんな心配がグルグルする。
けれどクインはにこ、と笑って「似合うでしょ」なんていってのけた。「触っていいよ」とも。
キーリーはそこで初めてヒトに触れた。
自分と全然違うヒトの髪に。
自分とは全然違う肌に。
自分とは全然違う存在に。
そこから、「彼女」は毎日キーリーのもとにやって来た。
「おにいさま聞いて? 剣を習い始めたんだけど才能があるみたいなんだよね、私」
「おにいさまはコーヒー派? 紅茶派? 私はコーヒーが飲めないんだよね、カフェオレなら飲めるんだけど」
彼女は絶対にキーリーから離れなかった。
キーリーがどれだけ冷たい態度を取っても。話さなくても。無視したとしても。そしていってくれるのだ。
「おにいさまは本当に綺麗だね」
『………………キレイじゃない。真っ黒』
「綺麗だよ。夜だって真っ黒だけど静かで綺麗でしょ? おにいさまは綺麗だし、ステキだよ」
ただ残念ながら…………
キーリーは「彼女」を可愛いと思ってなかった。
会話をしてくれることは嬉しかったし、毎日来てくれることに情がわいていたけれど。
何なら髪が長くて自信がなくてぐりぐりのメガネをかけている時の「妹」の方が好きだった。
だって「妹」もまた、自分と同じように見放されていたから。
★★★
続きは午後に。
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