13:丸呑みはやめて
「つ、つまり本当に………………キーリー様だと?」
「だからさぁ何度もそういってんじゃん。そーーーんなに信用ならねぇの? お前達のご主人様だけどぉ?」
テーブルに長い足をあげたまま、おにいさま……キーリーはニタァと笑った。
執事が持って来てくれたピーナッツを鋭い歯で齧り、スカイブルーの瞳を細める。
「テーブルに足をあげるのはお行儀が悪いよ、キーリー」
「だ〜〜〜ってぇ足が長いんだもぉん、おにいちゃまはぁ」
私がサクッと告げると、キーリーはテーブルの上の足をこれ見よがしに組み直した。
大きな身体を折り曲げて私の瞳を覗き込んだキーリーは、からかうように白い歯を見せて笑う。
「おチビちゃんはおチビちゃんだもんね。んふふふ。可愛いもんね、小さくて。あーーーひとくちだけ齧りたい。齧りたいなぁ」
「齧る?」
え、かじる?
かじるってなに?
「キーリー様!! 今は話に集中してください!!」
聞き返そうと思ったのに執事が声を荒げた。
この話って何かっていうと…………
「本当にあなたがキーリー・B・ニキアス様でお間違いがないということですね!?」
私の隣にいる「キーリー」が。
本当にあのヘビの「キーリー」って話だ。
当然なのだけど、私含めて使用人達は今まで巨大な真っ黒なヘビの姿のキーリーしか知らない。
それがある朝突然、巨大な蛇が消えて。
自分がキーリーだっていう見知らぬ少年がやって来たらねぇ。
本当に? ってざわつくのも頷ける。いってもここは公爵様のお屋敷……不審人物が入り込むことは許されない。
「そうだよぉ? 何度もいってんじゃん? おチビちゃんはわかってるもんねぇ?」
「この瞳はおにいさまの瞳だなって私も思うよ。なかなか真似できるものじゃないからね、この瞳孔」
真っ黒な髪とスカイブルーの瞳。
鋭く細長いヘビにそっくりな瞳孔。
「それに私と顔が似てると思わない?」
「確かにお顔はよく似ておりますね…………従兄弟ですし」
「今はぁ、ふーーーふ♡」
ニタァとキーリーが笑うと執事やメイドは「は!?」と声をあげた。
驚いたのは私も同じ。
ふーーーふって………………夫婦?
「なぜヒトの姿になっているのかと思ってましたが…………クイン様と契約結婚したということですか!?」
「え? 私とキーリーって結婚してたの?」
「従兄弟とは結婚可能だからねぇ」
「ただの契約ですから真の結婚というわけではありませんが…………ニキアス家の人間同士で結婚、なんて…………侯爵様がお許しになるとは思えませんし…………」
執事やメイド、私やキーリーがそれぞれつぶやく。
驚いたり、尋ねたり、納得したり、独り言だったり。
執事やメイドがニキアス家同士の結婚を、契約とはいえ良く思っていないってのは周知の事実。
貴族や王族は神の血を引いてるからこそ、近親同士で結婚していることが多い。
魔力や高貴な血の流出を防ぐためにね。
特にニキアス家は人気がない。
巨大なヘビだからね。
まぁそれでもある程度はどうにかなっていたんだろうけど、頼み込んで結婚してもらうとかはプライドの高さから許せないみたいで昔っから親族、時には兄妹同士で何代にもわたって結婚していたりする。
それが、ニキアス家にまつわる「悪いウワサ」。
悪名高きニキアス家。
親族間で結婚が多いせいで妙に変人が多かったり、一族特有の特殊な病気があったり、私のようにオッドアイが生まれたりして…………今はできるだけ近親では結婚しないようにしよう、という感じになってる。
私とキーリーは従兄弟。
キーリーの父親と私の母親が実の兄妹。
キーリーの母親はニキアス家の親戚だったらしいし、そもそも祖父母も親戚同士だったらしいから…………
私たちって間違いなく、ただの従兄弟よりは兄妹っていう方が近いくらいの血の濃さ。
顔が似ているのも頷ける。
執事やメイドが結婚と聞いて驚いたのもね。
「それで私たちっていつ結婚してた?」
「おチビちゃんの耳とオレの耳を見て〜? 同じピアス〜〜〜これが結婚の証明」
「じゃあ昨日の夜ってことか」
なんでわざわざあんな夜に来たのかと思ってたけど。
「それじゃなくて! 契約結婚にはたくさんの手順があるんですよ!? まずお互いがお互いを好ましく思っていないと…………」
「は? なーーーにいってんの?」
キーリーは笑った、ニタァと。
「おチビちゃんはオレのことが大好きに決まってんじゃん」
そういいながらキーリーは私の頬を舐めた。
おっと…………これは……!
もしや今度こそ食べられる? ヘビの姿での食べられるとはまたちょっと違う意味で。
★★★
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