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12:デスボは子守唄に向いてる?

『ベイビー…………おチビちゃ〜〜〜ん……ふふふ』


 私を呼ぶ声が聞こえたのは、そう、真夜中だった。


 カーテンの向こう側に、ヒトとは異なる形をした影が動いてる。

 こわ、と思ったので私はまた目を閉じた。

 夢ってことにしておこう。


『おチビちゃん、おにいちゃまだよ…………開けてえ』


 真夜中に窓の向こう側から開けてっていう声……


 いや怖すぎる。

 私が天使くんに転生させてもらったゲームって、ホラーゲームだったっけ?


『開けてえ、開けて。開けてって』

「眠い。おにいさまに会いたいのはやまやまだけど……肌のゴールデンタイムがあるからね。明日にして、おにいさま」


 アイドルですからね、私。肌は大事。

 それだけいってまた眠ろうとする私に不穏な音が聞こえた。


 ごん。ごん。ごん。


 見るとおにいさまの影が窓ガラスにぶつかってる。

 ああ、これ………………窓割る気だ。


『開けろよ、おい。チビちゃん。オレのベイビー。割るぞ、マジで』

「わかった、わかったってば」


 閉じそうになる目を擦りながら私はベッドから降りた。

 窓を割られちゃたまらない。


 カーテンを開けると、窓の向こう側にはおにいさまがいる。

 月の光を背中に浴びているせいでおにいさまの表情は見えないーーー……


 真っ暗だ。

 でもスカイブルーの瞳だけが、ギラギラって輝いてた。


「おにいさま、どうしたの?」


 窓を開けるとおにいさまは私の頬に顔を擦り付けた。

 ウロコが冷たくてヌメヌメしてる。

 長い舌で頬を舐められる、いつもみたいに。


『会いにきた、おチビちゃん』

「窓から? ロミオとジュリエットみたいだね」


 おにいさまの大きな顔に手を回してハグしながら、私は少し笑った。

 夜中におにいさまがこうして会いに来るのなんて初めてだ。怖い夢でも見たのかな?


「何かあった?」


 眉間に額をくっつけ、おにいさまの頬を撫でる。

 おにいさまがグリグリと顔を近づけてくるので私は後ろに反り返りそうになった、激しいな。


『渡したいものがあるんだよね』

「ん? なに?」


 おにいさまはそういうと手を広げるように告げる。

 いわれた通りに手を広げていると、おにいさまはシッポを動かしてその上に何かを置いた。


「ピアス?」


 月夜に照らされて光るアクセサリー。

 夜目に慣れてきた視界に映るそれは、丸い石のようなものが付いているピアスに見えた。


『そ。おチビちゃん、付けて?』

「ひとつしかないけど、どっちの耳でもいいの?」

『いいよ〜』


 おにいさまは笑ったようだった、多分いつものようにニタァと。

 顔を半分に割るかのようなあの笑い方で。

 逆光のせいで表情なんて分からなかったけど。


 私は右耳のピアスを外し、代わりにおにいさまから貰ったそれを付ける。


「これでいい? 似合うかな?」

『おチビちゃんは何でも似合うよ? オレの可愛い可愛いベイビーちゃん♡』


 そういいながらおにいさまはまた私に頬擦りする。


「ありがと。それで? 他に用事は?」

『ないよ? ねんねしな、悪い子ちゃん』

「おにいさまに起こされたんだけど?」


 何だったんだ?

 おにいさまは私の身体にいつものように巨大な身体を巻き付かせ、背中を押しながらベッドに連れて行く。

 シッポや口を使って器用に私をシーツの中に潜らせると、おにいさまはスカイブルーの瞳を細めてた。


『キーリー』

「ん?」

『おにいちゃまじゃなくて、キーリー。今夜からそう呼んでいーーーよーーー? 悪い子ちゃん』


 呼んでいーよ、っていうか呼ばれたいんだろうな。

 そう判断した私はにこ、と笑って「キーリー」と義兄の名を呼んだ。


 おにいさまは……キーリーはまたニタァと笑うと私の頬を舌で舐める。

 硬い口を押し付け、何度も頬にキスをした。


『子守唄うたってあげようね、おチビちゃん』

「ありがと。キーリーの素敵な歌声で眠りにつけるなんて最高だね。楽園にいる夢を見れそう」

『ヴォオオオオオアアアアア』

「まさかのデスボ。地獄にいる夢が見れそうだね、どっちにしろあの世だから間違いではないよね」


 何故か上機嫌に頭を縦に揺らす義兄を見つつ……

 眠かった私はそんな地獄のような状況でも眠りにつくことができたのだった。


 真っ暗な部屋、真っ暗な義兄の姿……

 闇夜に溶けて行くヘビの形…………

 その中で唯一、溶けずに残るスカイブルーの瞳。


 ギラギラ、ギリギリ、グルグル。


 細長い瞳孔がもっと細長くなって私を見てる。

 ニタァと笑う義兄。真っ赤な口。


「オレの可愛いおチビちゃん…………」


 頭の中じゃなくて、声が聞こえた気がした。




★  ★  ★




「クイン様!!!!!」


 翌朝、青ざめた顔のメアリーに起こされた。

 いつもならすぐに服を着替えさせられるっていうのに、メアリーは私にガウンだけ羽織らせると急かしながら追い立てる。


 なにごと?

 屋敷中がひっくり返したように騒がしい。


「何の騒ぎ?」

「いいから早く!! 居間(パーラー)へ行きますよ!!」


 朝ごはんの前に着替えなくていいの?


 けれど私の疑問は、だだっ広いテーブルに座るその人のせいで尋ねる前に消えることになった。


 いつもは私だけが座るそこに、別の誰かがいる。

 真っ黒な長い髪をして、真っ黒な服を着ている少年……………………



「………………だれ?」



 椅子から立ち上がり、少年はゆっくりと振り返った。


 スカイブルーの瞳。

 そして左耳に付けられたピアス。


 彼は細長い動向をもっと細くして、笑った。

 ニタァ、と。

 真っ赤な口の中には尖った白い歯が覗いてた。



「オレの可愛い可愛いおチビちゃん…………♡」



 目を細めて少年は笑う。

 楽しく楽しくて仕方ないって感じで。



「…………キーリー?」



 それは間違いなくおにいさま、だった。

 少年はやっぱりニタァと笑った。



★★★


少しでも面白いと思ってくだされば

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