11:ヘビは決意した
季節は確実に夏に向かって動いている。
おにいさまと散歩をしながら、私はそう思った。
私に身体を巻き付かせながらシュルシュルと這い動くおにいさまはスカイブルーの瞳を細めていた。
いやぁそれにしても自然光の中で見るおにいさまは本当に神秘的だな。
夜みたいに真っ黒な巨大な身体。
夏へと向かい始めた太陽の光がウロコに当たって、キラキラと輝いていた。
ヒトとは全然違う細長い姿とスカイブルーの瞳。
ヘビ特有の瞳孔の細さ…………
「そういえばおにいさまって、そろそろ結婚相手を探すんだよね」
『は?』
日差しの強さにまいりそうになっているおにいさまと木陰に入る。神様のような感じだとはいえ、体温調整が苦手なヘビの姿をしているせいかおにいさまは暑さと寒さに弱い。
怯えた顔をしたメイドがやって来て水を持ってきてくれたので、私は有り難くそれを飲みながらさらりと尋ねてみる。
それを聞いた途端、おにいさまは鋭い目を大きく見開いた。
私としては当然の話題のつもりだったんだけど。
『オレ、結婚するの? は? イヤ。イヤなんだけど』
「え? でも……そういうもの、って聞いたけど」
『は? 無理』
この世界において貴族や王族は神の血を引く。
その魔力が強ければ強いほど、神の姿に似て生まれる……おにいさまみたいにね。
でも神の姿っていうのは不便だ。
いうならばケモノの姿なんだから。
おにいさまみたいな巨大なヘビや、狼、他にもたくさん。
だから貴族や王族は血の繋がりのある人と言葉を交わし、ヒトの言語を覚えて……
そして手っ取り早く「結婚」という名の契約を交わすのだ。
一度でも結婚の契約をすればヒトの姿を得ることができるので、そりゃあもうとっとと結婚をする貴族も多い。
貴族や王族にとって、契約としての「結婚」はそこまで重要でも何でもないわけだ。
と、いうわけで。
社交界とって「結婚」っていうのは一種のステータスだ。
神に近い姿の貴族と言葉を交わせるだけの知性。
結婚相手に選ばれるだけの魅力。
その2つを兼ねそろえている、ってわけだから。
だから貴族の娘は社交界で誰と、どれだけたくさん結婚したかを自慢し合う。
契約としての結婚はどれだけしても「真の結婚」とはならない、って決まってるけれど、その契約結婚相手から「真の結婚」相手を選ぶっていう何となくのマナーというか、ルールがあるから貴族達はこぞって契約を交わす。
まぁ神の姿とか家柄によって人気とか云々とかあるけどね。
例えばでっかいヘビの姿をしてるニキアス家なんて、マジで人気がないらしいし。
中には契約とはいえ結婚は好きな人としかしたくない、と頑なに契約結婚をしない家柄もあるとか。
あ、そういえば攻略対象のひとりにもそういう人がいるっていう噂があったような気がする、ゲームをやったことがないから誰だかは知らないけど。
クイン・ニキアスはヘビの姿の兄が生理的に無理すぎて徹底して拒絶してたし……蛇って苦手な人が多いかもね。
人気なのはウサギの姿の神付きらしい。
可愛いもんなーーー?
万が一にでもヘビの家柄と結婚する可能性がある、なんて貴族の娘さんにとっては辛い、と。
だからニキアス家は高い地位の割には人気がない。
でもね?
「おにいさまはイケメンだから、きっとすぐに結婚相手が決まると思うんだよね。どんな人だろう? 私も今から楽しみだな。仲良くなりたいんだよね」
正確には従兄弟とはいえ立場的には兄妹だし?
同い年だけど。
兄以外に話し相手がいないのも寂しいし、兄が契約とはいえ結婚するとなれば貴族の方々を家に招くことになるから話し相手も増えるだろうし?
人気はないけど。
『ていうかさ、わかるじゃん? オレが結婚できるわけないっしょ? ニキアス家だぞ。ヘビだし。人気ねぇよ。オレは一生、おチビちゃんとこの家で楽しく過ごすんだよ』
「でもおにいさまは言語を覚えたから、メアリーがそろそろって。パパに進言するって執事と相談してたよ」
おにいさまと主人公ちゃんが出会ったとき、ヘビ……
だった気がする、からおにいさまは結婚していない……ような、気がする。
でもそれっておにいさまと「クイン」がコミニュケーション不足で、おにいさまがヒトの言語を覚えてなかったからかもしれないな……
と、私は思ってた。
ある程度言語能力が発達しないと結婚相手と会話できないからね。
だからこうやって私とおにいさまが仲良くなったってことは、いつか契約結婚するって思ってた。
悪いことじゃないしね。
ゲームの内容としては変わっちゃうかもだけど……
巨大な黒いヘビと会うよりは、ヒトの姿と会う方がヒロインちゃんも良きだろうからいい、よね? 多分。
『おチビちゃんも…………する、わけ?』
目を細めながらおにいさまが尋ねる。
私は首を傾げた。
『結婚』
「まぁ貴族だからね。選んでくれる人がいればだけど」
家柄的には引く手数多だろうし。
ヘビの血筋とはいえ、魔力が強い子を産みたいっていうのはこの世界にとっての常識。そして貴族が求めることだし。
『………………本気でいってんの?』
いつもならレアだなぁと思うおにいさまの笑い顔が。
どういうわけだがその時は、私はちょっと怖いと思った。
★★★
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