10:変わっちまったよ
このままだと義兄がヒトの言語を忘れてしまう、とお医者様にいわれてから早1ヶ月。
「おにいさまーーー来たよ」
『おチビちゃん、来たんだぁ♡』
うちの義兄は変わっちまったよ……
『遅かったじゃん、何してたの? 何でもっと早く来てくれねーの? おにーちゃま寂しかったんだけどぉ?』
遠慮することなく私の身体にヌメヌメとした身体を巻き付かせ、おにいさまは私の顔に顔を擦り付ける。
ウロコ感というか。
爬虫類の肌特有の冷たさというか。
それを感じていると、真っ黒い大蛇であるおにいさまは私の顔を舌で舐めた。
最初こそ「もしかして捕食……?」と疑ったけど、親愛っぽいので気にしないことにする。
おにいさまはスカイブルーの瞳を上機嫌そうに輝かせていた。
『変な顔〜かわいい鼻〜〜〜本当にオレのベイビーちゃんはかわいいねぇ』
言葉というものはヒトを表す……
ヒトの言語を忘れそうになっていたおにいさまは私が勝手にバブバブといっていたくらいの言語能力だった、つまり赤ちゃんと同じ。
そこからふたりでたくさん会話したり、本読んだり、一緒の時間をたくさん設け……おにいさまは言葉を覚えた。
そしてわかったのはーーー
おにいさまはこういう性格だった、ってこと。
つまり変わっちまったのではなく、今までは自分の性格を表す言葉がわからなかっただけで!
こういう性格だったってこと! 私のせいじゃない。
確かに生前、タイムラインで見かけたおにいさまのイラストやマンガはこんな感じのキャラクターではなかった気がしないでもないっていうか、絶対にこんな感じのキャラクターじゃなかったけど。
でもでも私は実際にスパカラをやったことがあるわけじゃないし?
つまりなんというか知らないし?
もしかしたらこんな感じのキャラクターだったのかもしれないし? そうだよね。うん。そうだよ。
「ところでおにいさま。今ちょうど汗とかかきたくない?」
とりあえずそうやって自分を納得させた私は、おにいさまに提案してみる。
『もしかして誘ってんの?』
「うん。一緒に散歩どうかなって」
『いいよ』
シッポを使って器用に私の髪を撫でていたおにいさまが笑った。
普通のヘビって当然だけど笑ったりとかしないので、おにいさまが笑うとレアな姿を見れた気がして個人的にはちょっと嬉しい。
おにいさまは笑った顔も素敵だし。
顔の半分以上が口になるというか。
ニタァって感じで笑うので、真っ黒な顔から突然真っ赤な口が覗く様がカッコいい。
メアリーは最初、おにいさまの笑顔を見て悲鳴あげてぶっ倒れちゃったけど。
『あ、でもさぁやっぱりぃ……やめよっかな?』
「ん? 何で?」
最近は天気が良い時はおにいさまと中庭を散歩できるようになった。
言語を忘れかけるくらいに会話がなかったとは思えない進歩……!
温室の中の小屋に長年引きこもっていたおにいさま。
そんなおにいさまが中庭で散歩するだけでも物珍しいと見えて、使用人達が出てくるのは恥ずかしかったりするんだけどね。
『ベイビーがおにいちゃまと手を繋いでくれるっていうなら考えるけど』
「もちろんおにいさまをエスコートするつもりだけど……手は、無理じゃない? 手がないから」
『手じゃなきゃヤなんだけど。じゃあ行かなーーーい』
そういうと、おにいさまはぷいっと顔を背ける。
本当におにいさまは変わっちまったよ……
そんなことをするタイプじゃなかったもん。
結果、私はおにいさまに身体を巻き付かれながら中庭を散歩することになった。
というか、身体にしがみつかれながらというか。
取り込まれかけながらというか……
『ベイビーちゃん、楽しい? 楽しいねぇ? おにいちゃまとお散歩できて嬉しいでしょお♡』
「うん、楽しいよ。口に取り込まれて散歩しないだけマシだね」
その時はさすがにメアリーが警察に通報しかけてた。
★★★
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