人生進級テスト(演劇用の脚本です・40分程度・男4:女3・公演実績あり)
速水進
高田止
塩野鈴
悪魔
お母さん
リダ
父親
幕が開くと照明はついていなく真っ暗。
そして突然真ん中にスポットライトがあたる。そこには不敵な笑みを浮かべる男が立っている
怪しい雰囲気の男が観客に向けて語りだす。
悪魔 「どうも、みなさん。私は悪魔です。皆さんならご存知のことかと思いますが、この世界にはあるルールがあります。それは人生進級テストと呼ばれるシステムです」
悪魔 「人生進級テストとは、全人類に一度訪れる試練のことです。試練を担当するのは我々悪魔です。内容は担当する悪魔次第。簡単なのか難しいのかは悪魔のさじ加減。そして、いつ訪れるのかはひとそれぞれ。生まれてばかりかもしれないし、お年を召した時かもしれない。もちろん、合格すれば生き続けることができ、不合格なら死ぬことになります」右にゆっくりと歩きながら語り、最後には端で止まる。ライトもその後を追うように照らす。
次は真ん中の位置に戻りながら語る。最後には最初の一で立ち止まる。ライトも先ほどと同様悪魔だけ照らし続ける。
悪魔 「この試練を作ったのは神様です。我々悪魔も神様から生まれました。神様は、強くなり生物の頂点にたった人間を気に入っておりません。神様がいうには「強きものは弱きものにその強さを示さなければならない」とのこと。なので、人間の強さを示すということで、人生進級テストを動員しました」
少し息をつき、再び話し始める。
悪魔 「そして私はある男の担当につくことになりました。はたして、この男は試練をクリアして生きることができるのか。そしてこの試練は、私にとっての試練でもあったのかもしれません」
セリフ言った後すぐに悪魔が指を「パチン」とならし、スポットライトが消える。
全体の照明がつくとそこはリビングになっている。
ソファー テーブル、椅子など家具が置いてある。どれも二人用。キッチンはなくてよい
上手が奥の部屋に通じている。
下手が玄関に通じる廊下になっている。
椅子かソファーに進が座っていて、悪魔が近くに立っている。
進 「あなたがいるってことは、僕にも人生進級テストが来たんですね」悪魔をまじまじと見ている。
悪魔 「そういうこと。おめでとう」小さく拍手をする。
進 「まだ合格してないですから、めでたくないですよ。せっかくの土曜日なのに」
悪魔 「まあまあそんな固くならずに。肩の力抜きなよ」肩を浮かしながら。
進 「だって死ぬかもしれないんですよね?肩の力抜いている場合じゃないですよ。逆に気合いいれないと」肩を軽く動かす動作をする。
悪魔 「君も固いタイプだね」
進 「君も?」
悪魔 「いや、前の受験者もそうだっただけだよ」何かを隠すように。
進 「僕以外にも担当したことがあるんですね」
悪魔 「当たり前じゃないか。私は君のために生まれてきたわけじゃない。何人もの担当者になってきたし、君のテストが終われば次の人間の担当者になる。私は見た目以上に長生きしているんだよ」
進 「そうなんですね。人生進級テストのことは一般常識なので知っているんですが、悪魔についてはあまり知らなくて…」申し訳なさそうに
悪魔 「まあ、私たちはただの作り物だからね。知らなくてもいいさ」
進 「・・・で、肝心のテストの内容を教えてもらえませんか?」
悪魔 「おーそうだったそうだった。じゃあ伝えるよ。速水進の人生進級テストの内容は…」
悪魔が言いかけたところで、上手から母親登場。このとき母親は仕事に行く恰好になっていること。
母親 「進、おはよ…。(入ってくると進に挨拶をしようとするが、悪魔を確認して態度を変える)あなたは?(悪魔に向かって)」
悪魔 「おはようございます」笑顔で答える。
進 「こちら悪魔さん。僕の試練の担当者だって」立ち上がり、母親に悪魔を紹介する。
母親 「悪魔…。(悪魔にむかって)じゃあ、進にも試練が?」
悪魔 「そういうことです。ちょうどよかった、今からテスト内容を発表するところだったんです。実はお母様にも聞いていただきたかったんですよ」
母親 「私も?」不安げに
進 「受けるのは僕で母さんは関係ないですよね?」
悪魔 「まあまあいいから聞いてくださいよ。では、発表しますよ。速水進が受ける人生進級テストの内容は…」
少し間が開く。二人は悪魔に注目している。
悪魔 「二日以内に父親に会うこと」
それを聞いた二人は、お互いに顔を見合わせて困惑する。
進 「父さんに会う?」
悪魔 「そう」
母親 「あなた何をいってるんですか?」
進 「知ってるかもしれませんが、僕の両親は離婚していて今は母と二人暮らしです。もう十何年も顔を合わせてません」
悪魔 「だからじゃないか。いつもあっていないからこそ、この内容なんだよ。つまり、この土日の間に父親を探して合えばいいのさ。簡単だろ?」挑発するように
母親 「こんな試練おかしいわよ。あなた、この子の父親のこと知っているの?」
悪魔 「もちろん。試練を組むにあたって進君のことを調べましたから。あ、そうそう。お母様のほうから父親についてのヒントは、一切禁止ということでお願いします。これはこの試練のルールの一つです」
母親 「調べたの・・・。じゃあ私は何もすることはできないのね」案外すぐに納得する。
進 「え、ちょっと待ってください」何かに気付いた様子で
悪魔 「どうした?」
進 「母さんのヒントなしって、つまり母さんは何か知っているってことですよね?(母に)母さんも離婚したきり会ってなくて、今どこにいるかはわからないって言ってなかった?」
母親 「・・・それは。ごめんなさい」
進 「やっぱり何か隠してたんだね。どうして」落ち込んだ様子は見せるが、決して怒ってはいない。
母親 「それは…」思わず言いかける
悪魔 「はいはいそこまで。それ以上言うとルール違反で息子さんが死んじゃいますよ?君もあんまり聞かないことだね」
進と母親は少し黙ってしまう。
進 「もう聞かないよ。別に怒ってるわけじゃないんだ。何か理由があるんだろうし」
母親 「わかってくれてありがとう」
悪魔 「いい親子ですね~」
母親 「進。(真剣な顔つきで)母さんは何もしてあげれないけれど、頑張って生きてね」
進 「うん。父さんに会えって言われて正直複雑な気持ちだけど、生きるために精一杯頑張るよ」
母親 「じゃあ、母さんもう行くから」玄関に向かおうとする。
進 「もういくの?今日ぐらい仕事休めばいいのに。確か明日も用事あるって言ってなかった?もし、僕が不合格なら全然会えないんだよ?」寂しそうに
母親 「実は前から、あなたにテストが来たら私はいつも通り過ごそうって決めていたの。…明後日も次の日もずっと、あなたに会えると信じているからよ」
進 「母さん…。ありがとう。それと、いってらしゃい」
母親 「ええ。行ってきます」少しほほ笑みながら歩きながら、下手から退場。このとき律儀に悪魔に軽く頭を下げる。
悪魔 「いいお母さんだね」
進 「はい。僕をここまで女手一人で育ててくれましたからね。土曜日でも働くことが多くて、今は僕がやってる家事も昔は全部ひとりでやっててくれたんです。感謝しかありません」
悪魔 「じゃあ、ちゃんと合格して生きなきゃね」
進 「殺そうとしているあなたには言われたくありません」
悪魔 「人聞きの悪いこと言うなよ。私はただ試練を与えてるだけさ」
進 「まあ、いいですけど。でも、母さんのヒントなしでどうやって探せば…」深刻そうに
悪魔 「ヒントはなしだけど、スケットなら呼んでもいいよ?」
進 「スケット?」
悪魔 「友達とか頼れる人ぐらい、周りにいるでしょ?その人たちに手伝ってもらうのはOKだよ」
進 「本当ですか?」一気に表情が明るくなる。
悪魔 「人徳もその人の力だからね」ニコッと笑う。
ここで照明が落ち暗転。
と同時に舞台に止と鈴が入る。止と悪魔はイスかソファーに座っており、鈴と進は立っている。
照明がつく。
進 「じゃあ、一応紹介しますね。(止に手を向けながら)こっちが高田止で、(次に鈴に手を向けながら)こっちが塩野鈴です。どっちも高校が同じなんです。いわゆる幼馴染ってやつです」
止 「どうも。進の悪魔はこんなやつなのか」悪魔をじっと見る。
鈴 「進にも悪魔が来ちゃうなんて…」
悪魔 「どうもよろしく。止くんと鈴さんでいいのかな?あ、(進に向かって)君も進くんでいいかい?」
3人それぞれ反応するが、どれも答えはイエス。
悪魔 「確か止くんは人生進級テストを合格したんだよね?」
止 「そうだよ。いや~きつかったな」
鈴 「フルマラソンを3時間で完走、だったわよね?」
止 「そうそう。(悪魔に)しかも一年間トレーニングしてだぜ?」
悪魔 「それはきつそうだね」
進 「僕もつき合わされました。おかげで体力はつきましたけど」
止 「つき合わせたって、言い方ひでえな。一緒に頑張ったじゃん」
進 「まあね」ほほ笑む
鈴 「でも、進にも試練がきたってことは来てないのは私だけか…」
進 「そうだね。でも止は合格したけど、僕はまだわからないよ?」
鈴 「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでよ」軽く進の肩をたたく
進 「もう、痛いよ鈴」
鈴 「あ、ごめんつい…。でも、私心配なのよ。確か明日までにお父さんを見つけないといけないんでしょ?もしかしたら、あと2日しか一緒にいられないかもしれないってことでしょ…」
止 「お前こそ、進が死んだ時のことなんか考えるなよな~。あと、俺の時そんなに心配してたっけ?」嫌味っぽく。
鈴 「う、うるさいわよ。無事合格したんだからいいでしょ」
止 「ふ~ん。まあいいけど」
悪魔少し笑って「君たちのことは少し調べさせてもらったけど、予想以上に仲がいいね」
進 「まあ、もうずっと一緒ですからね」
止 「腐れ縁ってやつさ」
悪魔「まあ、仲がいいのはいいけど、テストの事忘れないように」
進 「あ」思い出した様子で
止 「そうだ。俺の時は1年間あったけど、進のは2日間しかないんだった」
鈴 「はやくお父さん探しましょう!」
進 「そうだね、そのために来てもらったわけだし」
止 「でもよ~、手伝うっていったって俺らが居場所知ってるわけじゃないしな」
鈴 「ねえ進、お父さんの写真とかないの?進が小さいころには一緒に住んでいたんでしょ?」
進 「あ、それなら1枚だけあるよ。もうその時のことは覚えていないけど、二人で出かけた時の写真があるよ。小さな僕も写ってるけど大丈夫?」
鈴 「じゃあ、探しやすくなるわね。小さな進、むしろみたいわ」
進 「わかった。じゃあ、僕の部屋から持ってくるからちょっと待ってて」
写真を探しに進は上手から退場する。
止 「はぁ、とりあえず手掛かりはゼロじゃないってことだな」
鈴 「そうね…」
止 「どうした?まーだ心配してんのか?」
鈴 「当たり前じゃない(強めに)。だって私にとって進は…」
悪魔 「好きな人?」
鈴 「そう、好きな人…って、え?」
悪魔 「違うのかい?」首をかしげる
鈴 「そ、それは…」
止 「悪魔さん鋭いね~。こいつ、進に恋してんだよ」茶化すように
鈴 「ちょっと止!聞こえたらどうするのよ」
止 「聞こえねえよ。それにあいつ鈍感だし。(悪魔に)こいつら昔からこんな感じなんだよ」
悪魔 「やっぱりそうなんだ。うまくいくといいね」不敵な笑みを浮かべる
鈴 「余計なお世話よ」
そのあとに奥から進の「あったよ」という声が聞こえる。そして写真を持った進が上手から登場する。
止はにやつき、鈴は落ち着きがない。悪魔は何事もなかったように立っている。
進 「どうかした?」
鈴 「ううん、何でもないわ」誤魔化す
止 「で、あったのか?写真」
進 「あ、うん。あったよ」止に写真を差し出す。
止写真を見ながら「これがお前の親父さんね~」
鈴 「私にも見せて」止と一緒に写真を見る
悪魔は見ようとせず、興味もしめさないようにしている。
鈴写真をながら「あんまり似てないね」
止 「まあ、そんなもんだろ」
進 「これをコピーして、手分けして探すしかないよね」
鈴 「ほかに手掛かりがないんじゃね」
止 「こりゃ、骨が折れるぞ~」腕を伸ばす。
鈴 「文句言わないでやるの」
進 「ごめんな。二人とも」
止 「いいよ、友達だろ?」鈴もうなずく。
進 「ありがとう。じゃあ、探しに行こう。(悪魔に)あなたはどうするんですか?」
悪魔 「私は君の傍にいないといけない掟だからね。君についていくよ。でも、後から行くから先に探しに行きな」
進 「そうですか。わかりました」
3人は悪魔を残して下手から退場する。
3人がいなくなったことを確認する悪魔。リビングを見渡す。
悪魔 「いるんだろ?でてきなよ。もう、私以外いない」
少し間が開き、下手から派手な格好をした女性が現れる。
リダ 「久しぶりねえ。元気にしていた?」
悪魔 「ぼちぼちだね(けだるけそうに)。リダ、どうしたんだい?試練中に会いに来るなんて」
リダ 「ちょっと、あなたのことが気になってね~」
悪魔 「気になる?何が気になるんだい?」
リダ 「隠しったって無駄よ。この人生進級テストに違和感を感じたのよ」
悪魔 「気のせいじゃないかい?それにそもそも、何故担当者じゃない君が私のテストについて詳しいのさ」淡々と
リダ 「あら、あなたなら調べて知ってると思っていたけど。理由は「高田止」よ」
悪魔 「そういうこと。高田止のテスト担当者は、君だったんだね。悪魔 リダ」驚いた様子はない。すでに知っていたかのように
リダ 「ご名答。私が担当した止のその後がどうなったか知らべてみたら、その友人の速水進があなたの担当だってことを知ったのよ」
悪魔 「で、違和感とはいったい何のことなのさ」
リダ 「もしかしてだけどあなた、このテストに私情を挟んでないわよね?」
悪魔は黙り込んだ。
リダ 「やっぱりね」ニコッと笑う
悪魔 「そんなんじゃないよ」
リダ悪魔の発言を無視して「あなたも知ってると思うけど、悪魔は人生進級テストのために生まれた存在。テスト内容などは私たちに任されているけど、私たちは人間に試練を与えるだけの存在。受験者の味方でもなければ敵でもない。完璧に任務を遂行するために、悪魔はテストに私情を挟んではならないの」
悪魔 「もちろん理解してる」動じずに
リダ 「ならいいけど。あまり無茶すると、神様に怒られるわよ。もしかしたらそれ以上かも」
悪魔 「ご忠告ありがとう。もういいかい?」
リダ 「ええ、それを伝えたかっただけだからね。止によろしく」
リダは悪魔に手を振りながら、下手から退場する。
悪魔 「(下を向いている)それ以上か…。(前をパッと見て)覚悟の上さ」
ここで照明が落ち暗転。
照明がつくと、進、止、鈴、悪魔がリビングにいる。人間三人は疲れている様子。止がお構いなしにソファーに座り、悪魔は椅子に座っている。進と鈴は立っている。
止ぐったりと椅子に座りながら「あー、もう日曜日だぜ。全然見つからないじゃん」
進 「やっぱり手当たり次第じゃ無理があったみたい」
鈴 「新しい手掛かりすら見つからなかったわね」
悪魔時計を見ながら「もう二日目の昼だよ。休んでる場合じゃないと思うけど」
止 「あのなあ、あんたも傍で見てたろ?ずっと歩き回って探してたんだ。少しぐらい休んでもいいだろ」
鈴 「でも、悪魔の言う通り時間がないわ」焦っている
進 「そういえば二日間っていってましたけど、正確には今日の何時までなんですか?」悪魔に質問する
悪魔 「伝え忘れていたね。正確なタイムリミットは今日の24時までさ。あと12時間ぐらいだね」
進 「あと十二時間…」
止 「あと半日で見つかるか~?これ」半ばあきらめている様子。
鈴 「見つけるのよ!(泣きそうになりながら)見つけないと、進が、進が・・・」その場に座り込む。
進 「鈴…。(鈴の傍にいき背中をさする)ごめん、心配かけて」
鈴 「…私こそごめんなさい。取り乱して」
進 「鈴がそんなに僕の事心配してくれてるとは思わなかったよ」
鈴 「心配するわよ。幼馴染なんだから」
進 「…ありがとう」
進は鈴を優しく立ち上がらせ、ソファーに座らせる。
悪魔 「それで、次はどうするんだい?」
止 「ヒント!ヒント頂戴」立ち上がり悪魔に向かって手を合わせる。
悪魔 「それはできない。止くん、君は合格したんだろ?何かアドバイスを上げればいいじゃないか」
鈴 「そうよ。何かないの?」先ほどよりは元気よく。
止 「いや~人によってテストの内容は違うんだぜ?俺のは走りだけど、進のは人探しだ。期間も違うし、アドバイスできることなんてないと思うぜ?」
鈴 「はぁ、ほんと使えない」
止 「おいおい、俺だって一生懸命探してるんだ。(むきになって)それに社会的には鈴より俺のほうが使える人間ってことになってるんだ。テストに合格した人間はそれだけで優遇される。ほら、これ」止はポケットからバッチのようなものを取り出す。
進 「それ、合格者に与えられるバッチだよね。持ち歩いてたんだ」
止 「ああ。これがあれば合格した証明になるし、合格者だけが閲覧できる資料やネットのサイトも見れるようになる。あれ、これ前にも一回説明したっけ?」
鈴 「ええ、合格した時にね。おめでとう」嫌味っぽく。
止 「やっぱり俺に冷たいな、鈴は」
進 「話を戻すけど、他に父さんに関するヒントを探さないと。何か父さん関連で大事なことがある気がするんだ」
止 「全く父親の記憶はないんだよな?」
進 「うん。あの写真がなければ顔だってわからない」
二人は真剣な顔になり、「うーん」と頭を悩ませる。
少し間が開き、鈴が話す。
鈴 「そういえば、進のお父さんって人生進級テストを受けたのかしら?」
二人は一斉に顔を上げて鈴を向く。
鈴戸惑った様子で「な、なによ?」
進 「そうだよ!父さんはテストを受けてるかもしれないんだ。確か~父さんの今の年齢は45歳だから、テストを受けてる可能性は半々ぐらいかな」
鈴 「テストを受けてるかってそんなに重要?」
止 「お前が言い出したんだろ」止も何かに気付いている様子。
鈴 「それはふと気になっただけで」
進 「止、確か合格者にだけ見ることができる受験者の名簿ってあったよね?」
止 「ああ。ネットからパスワードを入力して見れる名簿がある」
二人の表情と声が明るくなっていく。止はスマートフォンを取り出し、素早くタッチしていく。
鈴 「だからなんなのよ?説明してよ?」
止調べながら「まだわかんないのかよ。もし親父さんがテストを受けてたら名簿に載ってるってことだ。居場所まではわからなくても、何かしらのヒントはえれるかもしれないんだよ!」
鈴 「あ、そっか」
進 「鈴!すごいよ。これで父さんが見つかるかも」珍しくテンションが高くなる。その勢いで鈴に近づき、鈴の手を両手で握りしめる。
鈴 「え、進⁉」うれしいながらも驚く。
進 「ありがとう」
鈴 「う、うん。でも、まだ見つかったわけじゃないし…」
進 「ああ、ごめん(手を放す)」
止 「よし!名簿開いたぞ。えーと、親父さんの苗字って速水でいいのか?」
止の声を聴くと、二人は一斉に止を向く。悪魔はずっと暗い表情を浮かべており、喋る気配もない。
進 「いや、速水は母さんの苗字なんだよ。確か、筒井。筒井彰浩。僕が父さんについて知ってる、唯一の情報なんだ」
止 「わかった。筒井、筒井」声に出しながらスマートフォンをスライドさせる。
少し間が開く。
止 「あった。(険しい表情で)え、これって…」
進 「どうした?止」
止 「お前の親父さん…」
止が言いかけ暗転。
照明がつく。
時刻は夕方。場所は墓地。下手の近くに「筒井」と彫られたお墓が設置してある。辺りは殺風景が好ましい。
そのお墓の目の前で、進がしゃがんで拝んでいた。その後ろに友人二人が立っている。さらに離れたとこに、悪魔が立っている。
進 「まさか亡くなってたなんて」ゆっくり立ち上がる。
鈴 「進・・・」
止 「(悪魔にあんたこのこと知ってたんだよな)
悪魔 「ええ、知ってました。速水進の父親、筒井彰浩は人生進級テストに帆合格になって死にました」
進 「僕らは死人を探してたわけか。そりゃ、手当たり次第じゃ見つからないわけだ」
鈴 「悲しく、ないの?」恐る恐る聞く。
進 「正直、そういう感情はわかないな」どこか寂しそう
止 「何年もあってなかったわけだし、そんなもんなのか」
悪魔 「それにしても、ここにたどり着くのが随分と早かったね」
進 「このお墓は父の両親、つまり僕の祖父と祖母のお墓です。父が亡くなっていたと聞いて思い出したんです。子供の頃お墓参りに連れてこられたこの場所を」
悪魔 「なるほど。近所でよかったね」
進 「はい」
ここで上手からゆっくりと母親が登場。手には花束を持っている。
進母の姿に気付くと「母さん?」
母親 「進、それに二人も。ここにたどり着いたのね…」
止と鈴は軽く頭を下げる。
進 「今日用事があるって言ってなかったっけ?」
母親 「ええ。今日は彼の命日なの」お墓を見ながら。
進 「そうだったんだ。母さんは知ってたんだね。父さんが亡くなってること」
母親は悪魔の顔を見る。
悪魔 「もう話していいですよ」
母親 「わかったわ。(進に)あなたの父親はテストに不合格になって、亡くなったの」母親はお墓に近づき、花束を置く
進 「なんで黙っていたの?亡くなったって言ってくれればよかったのに」
母親 「嘘をついていてごめんんさい。でも、父親がテストに不合格したということは、後々あなたの壁になると思ったの」
進 「どういうこと?」
母親 「この世界は人生進級テストに合格した者を優遇している。裏を返せば、富豪カウになった人間は、人の恥として扱われる」
進 「でも、そんなの大昔の風潮でしょ?」
止 「いや、俺は合格して分かったけど、合格者は優遇されてる。大学も合格者推薦で簡単に決めれるらしい。不合格者が恥さらしってのは、昔に比べたらほとんどないみたいだけど、わずかにはあるみたいだぜ」
母親 「そう、特に思春期の子供にとっては、大事なことなんじゃないかって思ったのよ。止くんや鈴ちゃんたち子供を信用してないわけじゃの。でも、進がいじめの対象になってからじゃ遅いと思って…」
進 「だから離婚したってことにしたんだ。今じゃ珍しくないもんね」
母親 「全部、あなたのためだったの」うつむく
進 「心配しないで。昨日も言ったでしょ、怒ってないって。母さんが僕のことを思って動いてくれてるのは昔から知ってる。聞いたのは単純に理由が知りたかっただけだよ」明るい口調で
母親顔を上げ「優しい子ね、あなたは。父親そっくり」
進 「そういえば父さんってどんな人だったの?。あ、あと父さんはどんなテストを受けたの?」
母親 「どんな人だったかは話せるけど、実は試練については私も詳しく知らないの」
止 「え、お母さんも知らないんですか?テストが来れば誰だって身近な人に話すと思ってたのに」
鈴 「止は悪魔が来たって騒いでたもんね」
進 「どうして知らないの?離婚する前は一緒に暮らしてたって言ってたよね?」
母親 「ええ。だけどある日、夜が遅くて連絡もつかなかった時があったの。そして、あの人を探しているときに警察から電話が来たのよ。亡くなっているって」
進 「じゃあ、母さんにも伝えずに一人でテストを受けてたってこと?死ぬ時も連絡しないで」
母親 「そういうことになるわね…」
鈴 「せっかくお墓までたどり着いたのに、なんだかもやもやするわね」
止 「そのことなんだけどさ」
進 「どうした?」
母親 「止くん、何か知ってるの?」
止 「(母親)にいや俺は何も知らないんですけど、知ってそうなやつには心当たりがあります」
鈴 「なんで止に心当たりがあるのよ」
止 「いや、進の父親がテストを受けたってことは、担当した悪魔がいたってことだよな。そいつなら知ってるんじゃないかって」
進 「確かにそうなるけど、でもその悪魔がどこにいるかわからんじゃ…」何かに気付く
止 「俺の担当だった悪魔に聞いたんですけど、悪魔は受験者のことを調べるらしいんですよ。テストの内容を考えるために。そして、人を調べるってことはその人にかかわっている人も調べることになるって。つまり、家族や友人のことも」
鈴 「つまり何が言いたいのよ」
止 「つまりそいつが言うには、一から人のことを調べるのは骨が折れるらしい。だったら、調べてる中で詳しく知ることになる家族を担当すれば、一から調べなくてよくなる。実は俺の親父の担当悪魔は俺と同じ「リダ」って悪魔だった」
進 「それが一般的に悪魔のなかである風習なら、僕の父さんと僕の担当悪魔は同じ可能性が高いってことだね」言いながら悪魔のほうを向く。
鈴 「まさか、この悪魔が?」
母親 「私がテストを受けた時の悪魔は、この悪魔じゃなかった。だけど、私の妹を担当した悪魔と一緒だった。確か妹の娘の担当者もおなじ悪魔だったらしいわ」
止 「おふくろさんについた悪魔が、おふくろさんの家系の担当になっていたとしたら、ますます親父さんの悪魔が進についている可能性が高い」
進 「でも、証拠がないんじゃ」
止 「俺さ、名簿見た時に、不合格したこと以外にもう一つ情報を見たんだよ。それは親父さんを担当した悪魔の名前だ」鋭いまなざしで悪魔を見る
悪魔 「凄い推理力だね。合格した人間だけのことはある」
止「書いてあった名前は「ルシファー」。そう言えば、名乗ってなかったよな?あんた」
全員が悪魔のほうを注目する。
悪魔 「正解さ。すべて止くんの言った通りだ。私の名前はルシファー。そして筒井彰浩の人生進級テスト担当者だ」
進 「あなたが父さんの担当者だったんですね」少し動揺している。
母親 「この悪魔が、あの人を…」
鈴 「止の推理が当たったなんて」
止 「なめんなよ。俺を」鈴に向かって誇らしげな顔をする。
悪魔 「でも、このことは話すつもりだったんだ」
止 「え、そうなの?隠してたわけじゃないんだ」
鈴 「やっぱり使えないわね」
止 「うっ」
悪魔 「だけどいざとなるというタイミングがわからなくてね。(止に)礼を言うよ」
止 「お、おう」
悪魔 「進くん、そしてお母さま。私はあなたたち二人に伝えなければならないことがります」
進 「僕の父親の死についてですか?」
悪魔 「そう。筒井彰浩が受けた人生進級テストの内容についてだ」
照明が消える。
中央部にだけうっすらと光がつく。そこには何もなく、一人の男が立っていた。
そこにゆっくりと悪魔「ルシファー」が歩いてくる。そして光の中に入る。
悲しめのBGMが流れる。
悪魔 「どうも。筒井彰浩さんですね?」怪しげに話しかける。
父親 「ああ。そうだが?あんたは?」
悪魔 「私は悪魔です」一礼をする。
父親 「そうか。ついに私にも来たのか」
悪魔 「はい、話が早くて助かります」
父親 「で?肝心の内容は?」淡々と話を進める。
悪魔 「では、発表させていただきます。筒井彰浩が受ける人生進級テストの内容は、(不敵に笑い)今日の24時までにあなたの家族を殺すことです」
父親動きが一瞬固まる。「家族を?妻と息子のことか」
悪魔 「はい。あなたのご両親は事故で亡くられている。兄弟もいらっしゃいませんので、そのお二人が家族ということになりますね」
父親 「妻と息子を私の手で殺せということか。テストの内容を殺しにしていいのか?」冷静に
悪魔 「何をいうんですか。あなたは生命を奪いそれを食し生きている。死というものは生きていくうえで欠かせないのです。狩りがテスト内容の場合もありますし」
父親 「なるほど…」
悪魔 「理解していただけましたか?二日間あるのでゆっくりと考えてください」
父親 「二日間?そんなにいらない。もう答えはできてる」
悪魔 「(驚きながら)それはそれは。他の方は悩みに悩まれるのに。まあ、最後には同じ答えを出しますが。あなたはどちらにするんですか?」
父親 「決まってるだろ。私が死ぬ」
悪魔 「・・・。いま、なんと?」
父親 「私が死ぬといったんだ。聞こえなかったか?」
悪魔 「いえ、聞こえましたが。わかってるんですか?本当に死ぬんですよ?」
父親 「くどい」
悪魔 「(焦った様子で」なぜ?なぜ、自分に命よりも他人を優先できるんですか?)」
父親 「悲しい奴だな。愛も理解できないのか」
悪魔 「愛?」
父親 「ああ。私は両親を失い、家族は妻と息子だけだ。妻は私を愛してくれて、息子も元気に育っている。そんな二人を殺すぐらいなら、文字通り死んだほうがマシだ」
悪魔 「愛・・・。なんなんですかそれは…」
父親 「話は以上か?じゃあ私は行くぞ」
悪魔 「ど、どこに行くんですか?」
父親 「人目のないところに行くさ」
悪魔 「家族には会わないんですか?」
父親 「ああ。妻に会って話したらきっと「私を殺して」というに違いない。妻にも息子にも辛い思いはさせたくない。だから私は黙って死ぬ。父親として夫のまま死にたいんだ」
悪魔 「・・・。本当に死ぬ気なんですね?」
父親 「ああ。あんたも妻と子供には言うなよ」
悪魔 「わかりました。私があなたの死に際を見届けます」
父親は退場。
光はそのままで真ん中に悪魔が立つ。
悪魔 「彼は私に話した通り、誰にも言わずに不合格になり死んでいった。一度決めたテスト内容は絶対。決めた悪魔でさえ止められない。当時の私にとってテストなどどうだってよかった。ただの暇つぶし。だから簡単に終わるあの内容にした。しかし、その試練が過ちだということに彼のおかげで気付くことができた。ただ、遅すぎたのだ」
光がすべて消える。そのあとに全体の照明がつく。みな、さっきの持ち場で墓場にいる。
悪魔 「これが真実です」
話を聞き終えた一同は茫然と立っている。
進 「そんなことが…」
母親 「だから私にも言わなかったのね……」
悪魔 「彼は家族を愛していた。しかし、あなたたちにテスト内容を知らせなかったために、彼の愛情はあなたたちに伝わらなかった。それどころか家族を捨てた男として扱われてしまっていたのだ。私は本当のことを伝えたかった」
進 「なんでこんなまどろっこしい事を?すぐに言えばよかったのに」
止 「悪魔はテスト以外で人間にかかわっちゃいけない。だからテストを利用したんだろ」
悪魔 「その通り。そしてこの場を借りて謝りたかった。許されないことをしたのはわかってる。だけど、謝りたかったんだ」進と母親に向かって深く頭を下げる。
鈴 「謝って許されることじゃないでしょ!あなた、進の父親を殺したも同然じゃない」誰よりも怒る
止 「おいおい、落ち着けって」
鈴 「でも…私、許せないわ」
止 「でもこれは、進たちの問題だろ。俺らが首を突っ込む問題じゃない」
鈴 「…じゃあ、進は許せるの?」
進 「うん。僕は許そうと思う」
母親 「進…」
悪魔 「私を、私を許すのか?」悪魔が進の言葉に一番動揺している。
進 「はい。母さんはわからないけど僕は許します。…正直、怒ろうと持っても父さんのことは知りませんからね。(何か気づいたように)そう、僕は父さんのことを何も知らなかった。明るい人なのか大人しい人なのか、僕を愛していたのかも…。だけど、あなたの話を聞いただけで父さんがどんな人なのかわかった。だから僕は許します。もし、あなたがもっと悪い悪魔だったら一生父のことを知れなかったんです。教えてくれて、ありがとうございます」軽く悪魔に頭を下げる
悪魔 進に話を受け止め「私はずっと心に穴が開いたような感じだったんだ。他のテストを担当しても、ずっと君の父親のことを考えてしまった。君に真実を伝えれば、君は当然怒ると思っていた。でも許すどころか私に感謝してくれた。私の罪が消えたとは思わないが、少し救われた気がする。本当にありがとう」再び、進に頭を下げた。
鈴 「本当に許してよかったの?」
進 「うん」
止 「まあ、進らしいだろ」
母親 「進が許すなら、私も許すわ(笑顔で)。(悪魔に)あの人が私たちのことを愛していたことを知れてよかったわ」
悪魔 「お母様も…」
母親は悪魔に向かってニコッと笑う。みな、肩の力を抜く。
少し間が空き、止が何かに気付く。
止 「あ、でも思ったんだけど、父親にあってなくないか?」
進、鈴、母親が「あ」とはっとした顔をする。
鈴 「そうじゃない!進のお父さんはなくなっていたわけなんだから…」お墓をちらっと見る。
進 「そうだった。すっかり忘れていたよ」
母親 「進は、進は(不合格になるの?」少し焦った様子で
悪魔 「君たちは悪魔を信じて幽霊は信じないのかい?父親はすぐそばにいるよ」
一斉にお墓を見て、一同明るい表情をする。
悪魔 「…以上をもって、速水進の人生進級テストの合格を認める!」
悪魔は高らかに宣言する。
一同、各々喜びの声を上げる。
進 「父さん。合格したよ」お墓を見つめながら
止 「はぁ、一見落着だぜ」
鈴 「よかった。本当によかった」
母親 「鈴ちゃんも止くんも手伝ってくれてありがとうね」
止 「いえいえ」照れながら
鈴 「進は私たちにとっても大切な人ですから」
母親 「いい友達を持ったわね」
進 「うん。二人ともありがとう。でも、(母に)友達だけじゃなくていい両親も持ったよ」素直に笑う。
母親 「嬉しいこと言ってくれるわね(笑顔)。じゃあ、母さんは先に家に帰るわね」
止 「え、帰っちゃうんですか?せっかく合格したんだから、お祝いのパーティーでもすればいいのに」
母親 「止くん、気づかいありがとう。でも、進には明日もこの先もずっと会える。私にとってはそれで充分よ。(進に)家で待ってるわよ」
進 「うん。また後で」
お互い手を振り、上手から母親退場。
母親が退場すると、悪魔はポケットからあるものを取り出し、進に差し出す。
悪魔 「はい。合格した証だ」止も持っているバッチを進に渡す。
進 「ありがとうございます(受け取る)。でも、これをもらうってことはあなたとはお別れってことですよね」
悪魔 「そうだよ。私の仕事は終わりだ。名残惜しんでくれるのかい?」
進 「短かったし、正直あまり好きなタイプではありませんでした。でも、今思えば最初から協力的だったような気がします。改めて母、友人の大切さ、何より父さんの愛を教えてくれた。あなたはいいひと、いやいい悪魔でした。…そう思っている今は少し別れが寂しいです」
悪魔 「いい悪魔になれたのだとしたら、君の父親のおかげだね。また近々会うかもね」
進 「もうテストはこりごりです」
止 「俺も少し寂しいぜ。俺の担当だったリダってやつはいけ好かない奴でよぉ。なんか人間離れしてるっていうか、とにかく一年間一緒にいて落ち着かなくてさ。あんたのほうが人間味あって、楽しかったよ」
悪魔 「リダが聞いたら怒るんじゃないかな」
止 「え、もしかして知り合い?」キョトンとした顔をする。
それに対しては笑うだけで悪魔は答えない。
鈴 「さっきは強く言い過ぎたわ。進に父親のことを教えてくれてありがとう。合格もさせてくれたし」
悪魔 「いえ、鈴さんが怒るのは当然だと思うよ。だけど、合格に関しては私は何もしてない」
鈴 「え、そうなの…。てっきりあなたが全部仕組んだのかと」
悪魔 「思い返してごらん。父親にたどり着けたのは進くんの実力と、素晴らしい友人を持っていた人徳のおかげだと思うよ」
鈴 「…じゃあ、私も少しは役に立てたのね」
悪魔 「そういうこと」
間が開き、再び悪魔が三人に向かって話す。
悪魔 「じゃあ、お別れだ。君たちに会えて本当によかった。さよなら」軽く頭を下げる。
止 「じゃあな」
鈴 「じゃあね」
進 「さよなら」
三人が別れを告げると、悪魔は上手から退場。
ここで暗転。
そして間が開き再び照明がつく。場所は墓地のままで三人は同じ立ち位置にいる。そして悪魔は鈴の近くにいる。
悪魔 「やあ」
突然現れたかのように挨拶をする。
それを聞き、悪魔の姿を確認した三人は各々驚く。止は声を上げ驚き、鈴と進は困惑している。
進 「どうしているんですか?」
止 「帰ったんじゃねえのかよ」
鈴 「またテストをしに来たの?」
悪魔 「そう。テストを行いに来ました」
進 「僕は合格したはずじゃ」手に持ったバッチを見つめる。
鈴 「そうよ。テストを行う必要はないじゃない」
止 「あんた、まさか…」
悪魔 「君は見かけによらず頭が切れるね、止くん。そう、私は速水進のテストを行いに来たんじゃない。君さ(鈴を指さす)。塩野鈴」
鈴 「わ、私?」
進 「た、確かに鈴はまだテストを行ってませんけど」
悪魔 「だから、行っただろ。また会うかもね、って」
進 「言いましたけど、まさか本当とは。しかもこんなに早く」
止 「まあ、この先そこは良いだろ。問題はテスト内容だろ」
鈴 「そ、そうね。(悪魔に)私のテストはどんなものなのよ?」
悪魔 「・・・塩野鈴が受ける人生進級テストの内容は・・・」
少し間をあける。三人は悪魔に注目する。
悪魔 「この場で速水進に愛を告げること」
鈴 「え…」
進 「な、なにを言ってるんですか?」
止止はすぐに理解したようで「はは、やっぱりあんた好きだわ」
悪魔 「さあ、鈴さん」真っすぐ鈴を見つめる。
鈴 「でも…」うつむく
進 「何言ってるんですか。こんなテスト、できるわけ…」珍しく取り乱している進の口を、止が抑え話せないようにする。
進は何かモゴモゴと喋っている。
止 「いい機会なんじゃねえの、鈴。今回のテストで、進を失いたくなって心から思ったんだろ?…いい加減、思い伝えろよ」
鈴 「・・・わかった。私いうわ」
悪魔がニコッと笑う。それと同時に、止は進の口から手を放す。進は戸惑っている様子。
鈴 「進、ずっと前から思っていた気持ちがあるの。あなたはいつも落ち着いていて私よりずっと大人。だから、何を考えているのかわからない時もある。でも、あなたはいつも優しい。今回のテストを見てて改めて、そうおもったの。私、進のことが好き」
進 驚きながら「鈴…。僕は今回のテスト実は凄く不安だったんだ。でも、二人が来てくれたおかげで、なんだか安心したんだよ。二人とずっと一緒にいたいと思った。でも、鈴への気持ちは止とは少し違うっていうか。これが何なのか僕にはわからなかったけど、今わかった」
進は鈴のほうをじっと見て、にっこり笑い「僕も鈴が好きだ」
鈴 驚きながらも「…進!」と進に駆け寄り、手を握る。三人が笑顔を見せる。
悪魔 「以上をもって、塩野鈴の人生進級テストの合格を認める!」指を鳴らす。
暗転し、幕が閉じる。終わり